120 腎瘻造設後の右腎尿よりヘマトイジン結晶がみられた1症例 ◎築田 礼 1)、角野 忠昭 1)、岡田 真弓 1)、松井 里穂 1)、石山 進 1) 金沢市立病院 中央診療部 臨床検査室 1) 【はじめに】ヘマトイジンとは,閉塞した腔 なかったこと,特異的な結晶形態であったこ 内での大量出血後の赤血球崩壊により,ヘモ とからヘマトイジン結晶と判断できた.ビリ グロビンが分解し生成される物質である.そ ルビン結晶の出現は肝・胆道系の疾患を意味 の結晶は黄褐色から赤褐色を呈し,菱形,針 しており,ヘマトイジン結晶を誤ってビリル 状,或いは顆粒状を示す.これまで髄液,尿, ビン結晶と報告すると臨床的意義が全く異な 関節液などで検出され,その意義について報 ってしまうため注意が必要である. 告されている.特に尿では,膀胱腫瘍や前立 本例は,右腎瘻交換による外科的侵襲と敗血 腺切除などの外科的処置での大量出血例が報 症・血小板減少による出血傾向のため尿路系 告されているが,報告数はまだ少ない.今回 大量出血を来し,ヘマトイジン結晶が形成さ 我々は,腎瘻造設後の右腎尿よりヘマトイジ れたと考えられる.一般的にヘマトイジン結 ン結晶を認めた症例を経験したので報告する. 晶の出現は陳旧性の出血があったことを意味 【症 例】70 歳台女性.2014 年 2 月下腹部痛 しており,今回のようにビリルビン結晶との を主訴に当院泌尿器科を受診.同年 3 月尿路 鑑別ができれば,その出血時期や部位を推測 上皮癌と診断され,経尿道的膀胱生検が施行 することが可能となる.ヘマトイジン結晶の された.病理検査・画像検査より Stage Ⅳと 出現は臨床的意義が低いとされているが,出 診断され,化学療法施行.腫瘍は一旦縮小す 現した際の尿所見や臨床所見,その他の検査 るも増大し,腫瘍からの膀胱内出血を繰り返 データとともに総合的に判断することで,有 し,2015 年 2 月に腫瘍による尿管閉塞のため 用な診断補助データとなる場合がある.その 水腎症が出現.腎不全・貧血が進行し,3 月に 臨床的意義を理解し,適切に判断し,報告す 腎瘻造設.その後,敗血症,血小板低下も来 る意義があると考える. し、腎不全も進行し 5 月に死亡.死亡 1 週間 表1)右腎尿検査所見 前の右腎尿で菱形,針状のヘマトイジン結晶 尿一般 結果 が認められた. 色調 赤色 【尿検査所見】表1 混濁 2+ 【考 察】ヘマトイジン結晶はその出現部位 蛋白 2+ によって臨床的意義が異なるとされている. 潜血 3+ ビリルビン 2+ 亜硝酸塩 - 白血球 2+ 髄液での出現は,過去の頭蓋内出血を意味し, 関節液では関節の外的損傷を意味する.尿中 の出現は陳旧性の大量出血を示唆し,尿路系 外科的処置に起因することが多い.類似して いるビリルビン結晶との鑑別が重要であり, 本例では尿中ビリルビンが「2+」であったが, 生化学データでは肝・胆道系酵素の上昇は見 られなかったこと,尿沈査背景が黄褐色では 尿沈渣 赤血球 ≧100 白血球 30-49 連絡先:076-245-2600(内線 255)
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