新・福岡県立美術館基本構想検討委員会中間報告(概要) [PDFファイル

新・福岡県立美術館基本構想検討委員会
中間報告(概要)
福岡県立美術館は、昭和 39 年に図書館と美術館の併置施設として設立された福岡県文化会館をそのま
まに昭和 60 年に単独の美術館として改装した施設です。現在使用されている都道府県立の美術館建築
としては最も古いものの一つになります。
文化会館開館から40年以上経た県立美術館について検討した将来構想検討委員会報告(平成20年)を踏まえた上で、
近年の新たな美術や美術館をめぐる状況の変化を考慮し、新しい県立美術館の整備に向けた基本的な方向性を検討する
ため、平成27年に新・福岡県立美術館基本構想検討委員会が設置された。
福岡県立美術館は、文化会館時代以来、県民の文化芸術活動の拠点となり、地域の活性化へも寄与するともに、福
岡県の文化芸術の財産の継承・発展の役割を担ってきたが、現在、施設等の課題や美術・美術館をめぐる状況の変
化のため、県民の要請に応えることが難しくなっている。
福岡県立美術館が果たしている基本的な役割
● 福岡県の貴重な美術や文化の遺産を守り伝え、紹介する
福岡県ゆかりの美術作品等を収集・保存・研究し、展覧会や講演会、普及活動等により紹介。
● 福岡県美術展覧会(県展)など、県民の創作活動等を推進・支援する
県展の開催や県民が自身の作品を発表する県民ギャラリーの運営、ワークショップ等の開催。
● 県民が展覧会を鑑賞し、美術作品にふれる機会を提供する
独自の視点に立った自主企画展や国内外の優れた作品を紹介する展覧会の開催。
● 学校教育との連携等、福岡県全体の広域的な美術振興に寄与する
学校教育との連携や支援、移動美術館展の開催や県内ミュージアムネットワークの構築。
上記に加えて、これからの福岡県立美術館に求められる新たな役割
● 大規模化する展覧会等にも対応し、県民が求める多様な展覧会の鑑賞の場を提供する
高水準の設備を備えた広い展示室等で、古美術から現代美術まで多彩な作品を観賞する機会を提供。
● 多様化するアートに関わる活動に、県民が参加する場と機会を提供する
アートプロジェクトの参加者や美術館サポーター(ボランティアなど)がアートを介して、様々な人々とつながり、
コミュニケーションをとることで、新たな価値観の創造に参画できる活動の場と機会を提供。
● 多様化する美術の表現形態に対応し、先鋭的な作品を発表する場を提供する
メディアアートや大型のインスタレーション作品等に対応し、実験的な展示や作品に取り組み発表する場を提供。
● あらゆる人がアートを通した学びと体験に取り組める場と機会を提供する
あらゆる人が楽しめるように多種多様なワークショップやレクチャー等を開催し、親子で気軽に利用でき、アー
トに親しみ、アートを通じて様々なことを学べる場等も提供。
● あらゆる人が気軽に訪れ、憩える美術館空間を創出する
親しみやすく開放的なデザイン性を備えるとともに、ユニバーサルデザイン等に対応。
● 地方創生の起爆剤として地域の活性化に寄与する
文化芸術を地域資源として戦略的に活用し、地域コミュニティや地域経済の活性化に寄与。
現・福岡県立美術館の現状と課題
ハードにおいて
■ 施設の老朽化(将来に渡る安全性の確保への危惧、空調設備・照明設備等の機能の低下)
■ 施設の狭隘性(大規模な展覧会等の開催が不可能、長期的な収蔵機能の確保への危惧)
■ 施設の基本構造による機能の限界(天井高等が美術館仕様ではない、アメニティ機能が低い)
ソフトにおいて
○ 人的資源の不足
○ 予算等に起因する事業内容の硬直化
これからの美術館に求められるこれらの役割を果たすためには、現在の施設の老朽化や構造上の制
約等が大きな阻害要因となる。そのため、福岡県立美術館将来構想検討委員会報告(平成20年)
においても提言されたように、新しい福岡県立美術館を建設し、整備する必要がある。
新・福岡県立美術館の目指すもの
新・福岡県立美術館においては、福岡県立美術館が果たしている役割と新・福岡県立美術館に求められる役割
を踏まえつつ、施設(ハード)と活動(ソフト)の両面から新たなあり方を再構築することが必要となる。
福岡県立美術館将来構想検討委員会報告(平成20年)では、新・福岡県立美術館の理念として、
「美術をめぐ
る『つながり』を創出すること」
、つまり、
「美術館としての根幹的な役割を果たしながら、美術を幅広い分野や
領域へと拡張し、県内各地へと活動範囲を広げていく」ことが提言された。
この提言を基に、近年の状況を踏まえてさらに発展させ、社会において「アートとコミュニケーションの力をい
かし ひと・まち・文化をリフレッシュする」という役割を果たすことを新・福岡県立美術館のコンセプトとす
る。そして、このコンセプトを実現するための3つの使命を提言する。
新・福岡県立美術館のコンセプトと
コンセプトを実現するための
3つの使命
ひと
を元気づけ、
生を充実させる
アートを身近な存在とし、あら
ゆるひとがそれぞれに美術館
を能動的に利用し、楽しみ、生
を豊かにできる場とする。
新・福岡県立美術館のコンセプト
アートとコミュニケーションの力をいかし
ひと・まち・文化をリフレッシュする
美術作品や表現活動を前にしたとき、作品と人、人と人の間には対話や会話、
ときには意外性をもった新鮮な出会いや発見が生まれ、様々な言葉や思いが
交わされる。アートが誘発するコミュニケーションの力で、人やまちや文化に新
しい息吹をもたらし、世界に新たな彩りと潤いを与える。
まち
ひと
に活気を与え、
文化
を耕し、
生き生きとした社会を育む
未来をともにつくる
アートを通して地域の魅力を
高めるとともに、社会のさまざ
まなコミュニケーションに関
わることで各地のコミュニテ
ィの活性化に寄与する。
豊かな文化や美術の遺産を守
り、活用するとともに、新たな
美術表現の創造を支援するこ
とで、社会の多様性を確保し、
人の世界観を拡大する。
を元気づけ、生を充実させる
アートを身近な存在とし、あらゆるひとがそれぞれに美術館を能動的に利用し、
楽しみ、生を豊かにできる場とする
〇誰もが気軽に集い、憩える場、各々の活動が展開できる場と 〇学校教育と連携し、幼いころから美術に親しめる環境を整え
しての美術館空間を創り出す。それに向けた施設・設備の整
る。
備、サービスの提供、コミッション・ワークの導入に取り組む。 〇県民の創作活動を支援し、アトリエ等の創作の場や県民ギャ
〇美術館活動への参加の機会の充実と能動的な活動の促進
ラリー等の発表の場の拡大、県展の充実を図る。
を目指し、誰もがそれぞれに楽しめる多種多様な展覧会やワ
など
ークショップ、アウトリーチ活動等に取り組む。
まち
に活気を与え、生き生きとした社会を育む
アートを通して地域の魅力を高めるとともに、社会のさまざまなコミュニケー
ションに関わることで各地のコミュニティの活性化に寄与する
〇地域の活性化に寄与するランドマークとなる建築に取り組
会等を、建築等とあわせて観光資源としても活用し、ビジタ
む。
ー産業の活動とも連携する。
〇県内ミュージアムのネットワーク作りや県内各地のアートプロ 〇美術館周辺の文化施設や団体等とも連携した事業を展開す
ジェクト・アート系NPOとの連携等に取り組み、地域の活性
ることで相乗効果を生み出し、街の賑わい作りに寄与する。
化に寄与する。
〇県内の伝統的産業、クリエイティブ産業とも連携する。
〇魅力的な展覧会や福岡県・九州の特性に焦点をあてた展覧
など
文化
を耕し、未来をともにつくる
豊かな文化や美術の遺産を守り、活用するとともに、新たな美術表現の創造を
支援することで、社会の多様性を確保し、人の世界観を拡大する
〇県内及び国内外の優れた美術表現や先端的な美術動向を
とも協力し、総合的・横断的な調査研究に取り組み、成果を
紹介する。
発表する。
〇福岡県や九州の美術の流れを多面的にとらえることを軸とし 〇九州・福岡の若手作家の挑戦と発表、発信の場を目指す。
つつ、近現代工芸や次世代の美術等も含めた国内外の優れ 〇アーカイブ整備やMLA連携も視野にいれ美術図書室を拡
た作品や資料を基金による購入等で計画的に収集する。
充する。
〇近代工芸や福岡県ゆかりの作家の作品を中心に、外部機関
など
新・福岡県立美術館のプレゼンスの確立のために
① 近代工芸やプロダクトデザイン等に関する活動・設備、恒常的な展示
福岡県立美術館のコレクションの特徴の一つである近代工芸の分野を中心に、
プロダクトデザインや現代の工芸
も視野にいれた活動に取り組む。県内の地場産業との連携やフリースペースにおけるユニークな恒常展示、手に
取ったり座ったりできる「使う楽しさ」をいかしたコーナーの整備、カフェやショップとの連携等を行い、福岡
や九州の工芸や伝統的工芸品、プロダクトデザイン等を身近に楽しむことのできる場をつくる。
② アートの力をいかした福岡県内の各地域との連携と各地域間の交流活動への寄与
県内各地域の美術館やアート系NPO等のハブとして、各地域に根ざした文化芸術活動や団体と連携したり、
各地域間の交流を深化させる活動に取り組み、移動美術館展や県内ミュージアムのネットワーク作りも新たな
形で発展的に展開する。また、福岡のアートに関わる様々な活動の情報を世界に向けて発信する。
③ 周辺施設との連携による相乗効果の創出
周辺の文化施設や公園等と連携した取り組みを行う。単館では不可能な規模や内容をもった大型の展覧会やイベ
ントを展開する。また、観光やMICEなど、国内外からのビジターに対する観光資源としての観点からも福岡
の魅力を高めるため、複数の施設の連携によって高い相乗効果や波及効果をもたらすことを目指す。
④ 「ひと」の居場所となる空間づくり
コミッション・ワークも取り入れた、親しみやすいデザインによるエントランス空間を整備し、誰もが気軽に立
ち寄り、アートに親しみ、憩える場とする。エントランスは多目的ホール機能も備え、パフォーマンスや演奏会、
レクチャー等の様々な文化的イベントを開催できるように整備する。また、親子で楽しめ、アートを通じた学び
と創造の場となるキッズスペースや、様々な美術に関する活動に取り組めるワーキングスペース等を整備し、多
様な人々が自由に、能動的に美術に関わることのできる場を提供する。
施設整備の基本方針
○「展示」
、
「収蔵・保存」
、
「調査・研究」
、
「教育普及」等美術館としての基本的機能を確保する。
○様々なタイプの展示や活動に対応可能な設備を備える。情報インフラも整備する。
○美術に関わる様々な諸活動を行える諸室・設備の整備、美術館総体への開放的な空間デザインの導入、ユ
ニバーサルデザインへ配慮した施設作りに取り組む。その際は、管理・運営面も配慮する。
○周囲の環境との調和を保つとともに新たな景観を生み出し地域を活性化する建築を目指す。
○ビジュアル・アイデンティティを構築し、施設・調度も含めて美術館をトータルにデザインしていく。
○機能性や省エネルギー性に配慮する。
○耐震性、免震性や防犯性をはじめとした安全性について留意するとともに、大規模災害時において公共施
設として人々の安全確保のために機能できるよう配慮する。
○IPM(総合的有害生物管理)等の保存科学領域の近年の動向を踏まえ計画を行う。
主な施設・設備の例
○エントランスホール
「ひと」や「まち」に開かれ、様々なプログラムが開催されるとともに親しみやすい居場所となる空間とする。
○交流と協働の場および創作と体験の場
あらゆる人が美術に親しみ、美術館を能動的に活用できる機会と環境を提供する交流と協働の場および創作と体験の場。ワーキン
グスペースやキッズスペース、アトリエ等を備える。
○展示室
常設展示室、企画展示室、県民ギャラリーを分割し、それぞれの展示の性質や利用者にあわせた設備とし、空調管理や照明管理の
機能を整備する。要望の高い分野に関しては専用の展示室について検討する。
○収蔵庫とバックヤード
作品に適切な温湿度等の空調管理の設備を備え、長く将来にわたって収蔵が可能な広さをもつ収蔵庫や前室等を整備する。また、
そのほかバックヤードに関しても十分な広さを確保することとする。
○工芸やプロダクトデザインを身近に楽しむスペース
福岡県立美術館のコレクションの特徴の一つである工芸を中心に、福岡の特色ある伝統的工芸品やプロダクトデザイン等を楽しむ
ことができるスペースを整備。体感的な展示を目指し、ショップやカフェとの連携等も検討する。
○レストラン、カフェ
誰もが気軽に集い、憩える場あるいは交流や活動ができる場としてレストラン、カフェ等を整備する。
○美術図書室
調査研究の基盤となるよう整備するとともに、人々が気軽に利用できる利便性も備えさせる。
施設規模ほか
○施設規模は、近年建設された都道府県立美術館や政令指定都市、特別区を有する都道府県の都道府県立美
術館等を参考とする。現福岡県立美術館の課題を踏まえ、大型の作品も展示できる面積と天井高、福岡県
美術展覧会(県展)や全国規模の公募展や特別展が十分に開催可能な面積の展示室等を整備する。
○立地については、交通至便で人が集まりやすいこと、他の文化施設等との連携による相乗効果を生み出す
こと、内外の人々に対する福岡の魅力の倍増が期待できること、これらを満たす場所への建設が望ましい。
運営等
○学芸部門や運営部門をはじめ、今後必要とされる新たな領域も視野に入れて、新・福岡県立美術館の使命
や事業活動、時代のニーズに対応した組織の整備および相応しい専門性・職能を備えた人員の配置に取り
組む。また、多様化する美術館の活動内容を考慮し、部分的に外部組織との協働や委託等も検討する。
○福岡県直営、指定管理者による運営、PFI、地方独立行政法人による運営等、美術館の運営形態につい
て、県の文化政策や新・福岡県立美術館の使命・事業活動を継続的かつ発展的に展開する上で最も適した
ものを今後検討する。