巻頭言 - 財務省

巻頭言
大義に依って王道を歩む
財務副大臣
大塚 拓
全ての政策には財政上の裏付けが必要である。即ち、財務省が職責として対象としているもの
は、国家の在り様そのものであるといえよう。
しかしながら、個別の政策の当否を判断することはまことに難しい。財政事情は全て金銭の単位
に置き換えて表現されるが、その表裏をなす政策が対象としているのは、金銭尺度で測ることが困
難な事象であることが多いからだ。また、一つ一つの政策は世の中の効用の分配に変化をもたらす
ことがほとんどだ。これは、世の中の課題を解決しようとする際に、すべての人の効用を同時に高
める解を見出すことは困難だということを意味する。従って、世の中の課題を解決するためには、
政策によってパイを増やし、その増分によって不満を持つ人々との間での調整を図るほかない。最
初から全方位外交を試みれば、必ず自縄自縛に陥り身動きが取れなくなるのである。結果、パイを
増やすこともできず、全体最適は確保できない。
しからば、全体最適を目指す中で、ある政策によって一時的にせよ不利益を被る人々が存在する
ときに、どのようにこの状態を打開し、よりよい世の中を実現していけばいいのだろうか。
私は、大義に依って王道を歩むほかないと考える。この道を進むには、大変なエネルギーとスタ
ミナが要求され、艱難がつきまとう。故に、道を阻む壁の高さに怯み目標を矮小化したり、私益と
の一致を求めて政策を歪曲したりしてしまう誘惑が常に存在する。しかし、その誘惑に敗北し容易
なる道を選択すれば、大義という、障壁を突破する最大の力は消滅してしまう。覚悟を決めて大義
に奉ずる胆力が必要である。
しかしながら、何が真の大義であるかを見極めることがまた困難な作業である。「大義」は、
個々人によって異なる可能性がある。一人一人の生きてきた人生や、知識の幅には差異がある。ま
た、同じ個人であっても、その時々の職責や家庭の事情などによって世の中の見える風景は異なっ
てくる。従って、いかなる個人も自己特有のバイアスから逃れることはできない。政治・行政に携
わる者は、己の持つ固有のバイアスが、多くの人々の人生に多大なる影響を及ぼすという事実に対
し、常に畏れを抱かなければならない。それは他者の意見に耳を傾け、世の中の現実に目を見開い
て向き合うという姿勢にほかならない。同時に、己の信ずる「大義」が普遍的な真理と可能な限り
一致をするよう、常に自己の成長を追い求めなければならない。国家も、その裏付けである国家財
政も、真理を踏み外してはうまくいかない。国家の道筋に影響を及ぼす政策担当者は、直接の担当
分野を超えて広く世の中を俯瞰し、常に未知を既知とする努力を積み重ね、内省し、真理に肉薄し
た深い洞察を得ることができなければ、公衆への奉仕者として期待に応えることはできないのであ
る。そう考えると、森羅万象を相手にするがごとき財務省の仕事とは、深淵で終わりのない修行の
道のようでもある。しかし、真理の淵を覗き、大義に奉じてこの国をよりよい道に導くことができ
たなら、その評価は、必ずや歴史の中で示されるだろう。その日が来ることを信じて、黙々と歩ん
でいく姿は、気高く、美しい。
財務省広報誌ファイナンスはこちらからご覧いただけます。
1
ファイナンス 2016.11