新川崎・創造のもり内 大学施設駐車場下に 雨水貯留施設を設置

新川崎・創造のもり内
大学施設駐車場下に
雨水貯留施設を設置
川崎市・K2タウンキャンパス
昨今は短期的集中豪雨が多く発生し,都市から浸水
その一方で,開発による浸水被害を懸念する声が周
を守る必要性が更に高まっています。その中で,川崎
辺住民から聞こえていたことから,まち全体で雨水流
市では,慶應義塾大学の先導的研究施設「K2(ケイ
出抑制に取り組むこととしました。雨水の流出抑制は
スクエア)タウンキャンパス」内に雨水貯留施設を設
貯留施設を集約させる方法がありますが,新川崎地区
置。また,慶應義塾大学を含む新川崎地区では,民
は地形的に南北に長く分区も跨っていて集水系統が複
間・公共の建築物の敷地内や道路,公園などさまざま
数に分かれているため,集水する管きょ費用が多くか
な箇所に流出抑制施設が設置され,内水被害を防ぐ取
かることから,事業者ごとに流出抑制を行うことにし
り組みがすすめられています。改正下水道法では,官
ました。
民連携による浸水対策の推進が求められています。都
新川崎地区は産学官連携による新産業の創出を目指
市への雨水流出抑制の期待が高まるなかで,その取り
す先端技術の集積拠点としてA~Fの6地区に分けら
組みを伺いました。
れています。
研究開発拠点「新川崎・創造のもり」のあるD地区
新川崎地区整備事業
(8.1ha)は川崎市が土地を所有しており,単位洪水調
整 容 量600m3/ha, 単 位 許 容 放 流 量0.068(m3/s/ha)
平成16年5月に特定都市河川浸水被害対策法が施行
が義務付けられ,地区内の慶應義塾大学の先導的研究
され,川崎市域の一部を有する鶴見川流域が,平成17
施設「K2(ケイスクエア)タウンキャンパス」内で
年4月に特定都市河川流域に指定され,新たなまちづ
も流出抑制対策を行っています。
くりが進められていた新川崎地区も対象となりまし
た。特定都市河川浸水被害対策法では,事業区域の面
積が1,000m2以上の開発など土地利用の変更により従
雨水貯留施設設置の経緯
来に対し雨水の浸透が阻害される場合,流出抑制施設
「K2(ケイスクエア)タウンキャンパス」裏に設け
の設置が義務付けられています。
た駐車場内には,平成12年のキャンパス開設時に設置
今回取材させていただいた川崎市の新川崎地区(約
した素掘り状の簡易な雨水流出抑制施設がありました
33.2ha)はかつて東洋一の規模を誇った「新鶴見操車
が,その部分は地区計画に基づく道路整備を行うこと
場」の跡地で構成される地区です。昭和59年2月に操
により使用できなくなりましたが,公共下水道への接
業を廃止してから平成17年1月に「新川崎地区地区計
続管路がそのまま使用できるため,雨水貯留施設は
画(再開発等促進区)」を定め,新たな拠点形成をス
「K2(ケイスクエア)タウンキャンパス」裏に設けた
タートさせました。
駐車場内に設置することが決まりました。ただし,こ
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K2(ケイスクエア)タウンキャンパス内 雨水貯留施設の概要図
の駐車場では施工当時,学内の駐車場としての利用は
もちろん,電気自動車「エリーカ」の見学者用走行実
験場も兼ねており,施工をスピーディに行う必要があ
りました。
また,設置するのに課題となるのが,維持管理とク
リープ現象です。一度設置してしまうと,空けること
が困難なため,貯留槽の清掃とプラスチック製品が長
期間荷重を受け続けることで撓むことが懸念されてい
ました。課題解決に適正とされるプラスチック製雨水
貯留施設「クロスウェーブ」を採用しました。
雨水貯留施設設置場所(左が植栽帯)
雨水の流れ
建物裏にある駐車場(約3000m2)に,貯留槽を3
ブロックに分けて設置しました。駐車場という場所
柄, 車 を 長 時 間 駐 車 す る と 荷 重 が か か り, 製 品 が
T-25(車両総重量25tに相当する荷重)をカバーして
いても,クリープ発生の原因になるため,極力植樹帯
の下に入れるようにしました。
貯留槽にはしっかり雨水を溜めるように,泥だめ桝
とオリフィス桝を設けました。雨水はまず泥だめ桝へ
オリフィス桝構造図
行き,ごみを取り除いてから,オリフィス桝に行きま
リフィス穴貯留槽下に設置したU字溝を伝って貯留槽
す。オリフィス桝で許容放流量分はオリフィスから放
に下から貯められる仕組みです。そのため,清掃困難
流桝に行きますが,大雨の際はオリフィス桝から,オ
な貯留槽内部を閉塞させるリスクはかなり低いと考え
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クロスウェーブ(写真提供:積水テクノ成型株式会社)
オリフィス桝下部にごみがたまっているが上部の
放流桝接続部はきれいな状態を保っている
め,オリフィス桝に土砂等がたまっていましたが,貯
留槽部の閉塞はないようで,また7年間で敷地内で浸
水被害はなく,周辺の道路表面に雨水がかなり流れる
ような大雨でも駐車場は浸水しないため,「貯留槽が
機能しているといえるのではないか((財)川崎市ま
ちづくり公社)」ということでした。
また,クリープも発生しておらず,課題の達成には
至っているといえます。
まち全体の取り組みへ
新川崎地区ではそのほかにも流出抑制として,道路
貯留槽接続桝を見るとごみのないきれいな状態だった
側溝に雨水貯留機能を設けたり,歩道は浸透性ブロッ
クを入れるなど,まち全体で様々な取り組みがされて
られます。なお,貯められた水は,オリフィスを通し
います。ゲリラ豪雨が多く発生する中で,少ない面積
て少しずつ放流されます。通常,貯留槽はポンプアッ
でも土地を活用して少しずつ対策ができるのではない
プされますが,ポンプアップせずにその仕組みを維持
でしょうか。
することができます。
最後になりましたが,取材の際にご協力いただきま
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放 流 桝 は, 貯 留 槽 ① - 1( 約23m ) と ②( 約
3
150m )につけられ,①-1と①-2は連結管で接続
した川崎市まちづくり局並びに(財)川崎市まちづく
り公社の皆様に誌面を借りて御礼申し上げます。
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しています。①-2(約404m )は,①-1のバック
アップとして機能します。全部で約580m3貯留できる
よう計画されています。
また,駐車場などの舗装はすべて透水性舗装を採用
するほか,浸透性緑地を設け,植栽ブロックの淵を10
㎝ほど高くして雨水を貯め浸み込ませることで,その
場に降った雨水にも対応できるようにしています。
経年変化
平成19年に施工し7年が経過して二つの課題が解決
したのか確認したところ,一度も清掃されていないた
道路側溝の桝にはオリフィスが設けられ
その後公共下水道へ流れる
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