自由論題 2 「東アジア・東南アジアの歴史」 報告 3 園弘子(宮崎大学) 「日本統治時代の台湾における商業・会計教育」 Commercial and Accounting Education in Taiwan under the Rule of Japan 教育は為政者の政治的意図や時代環境の影響を受ける。また教育を受けた者はその時代 環境に影響を与える。 「教育」と「時代環境」は相互作用の関係にある。そのことを前提に、 本研究は日本統治時代の台湾の「商業教育」と「産業振興」との関係性を明らかにするこ とを目指している。まず台湾統治時代の商業・会計の教科書および教育雑誌を主たる資料 とし、当時の台湾政府および日本政府が目指した商業教育の目標と内容を明らかにする。 次いで、当地の商業教育を受けた人々が産業振興にどのように関わっていったかを整理。 更に、実業教育の中でも農業、工業に遅れて整備される傾向にある商業・会計教育が、教育 として注力されるタイミングとはどういう要件が揃った段階なのか、殖産興業政策の視点 を踏まえつつ商業教育の位置づけを考察する。 植民地教育は通常、技術教育が基礎とされる。しかし、当初二十五年間の台湾は内地か ら技術人材の供給を受け、教育は国語伝習所(後に公学校)等での初等普通教育、中等教育 は農業,電信及び鉄道技術教育のみ、高等教育は教員養成だけであった。1919 年になって、 台湾生まれの日本人の増加や台湾の資本主義化進展に伴い、高等教育機関たる商業専門学 校等(本島人向け),高等商業学校等(内地人向け) が設置された。しかし注目したいのは、上 述の商業専門学校等,高等商業学校等で行われた教育だけが商業教育ではないということで ある。 実質的商業教育は公学校から行われている。そこには商業科科目があり、教科書の第一 巻冒頭には「小賈・商標・商號・帳簿・資本・卸賈・問屋等本島に於ける商業上必要にして卑近 なる事項を授け…(筆者中略)…具體体に説明するため、一商人が一の小賈店を開きてより、 終に外国貿易に従事するに至りしことを假定し、その発展の徑路に隨ひて順次説明」とあ る。初等教育に取り入れられた商業教育の内容を精査することで、政府が国民に何を修得 させ、その先に何を期待していたのかを明らかにできると考える。
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