雨水貯留浸透技術の現状と 今後の展開

講演ダイジェスト
第343回 技術サロン
雨水貯留浸透技術の現状と
今後の展開
公益社団法人雨水貯留浸透技術協会 技術第二部長
屋井 裕幸
第334回技術サロンでは,雨水貯留浸透技術協会の
ていくかが課題となっています。例えば新河岸川流域
屋井裕幸技術第二部長に,雨水貯留浸透技術の現状と
では「浸透能力マップ」を作り,浸透対策に適した地
今後の展開についてご講演をいただきました。
域,不適な地域が一目でわかるようになっています。
河川では多く作られていますが,下水道ではあまり作
雨水貯留浸透の歴史
られていません。流域間での浸透効果を高めるものな
ので,下水道でも作る必要があると思います。
市街化が進行するにつれて,都市型水害が増大,昭
貯留浸透施設は,今ではコンクリート製よりもプラ
和40年代から流出抑制の必要性が強調されてきまし
スチック製の割合が多くなってきています。その一方
た。
昭和50年代には河川沿いの宅地開発が活発になり,
でプラスチックは強度に弱いため,陥没事故が起きて
総合治水対策特定河川事業が始まり,平成に入ると,
いるのも事実です。平成22年12月には下水道機構,当
9年には河川と下水道とが連携した総合的な都市雨水
協会およびメーカー8社と共同研究により「プラス
対策計画の推進により,協力体制が築かれてきました。
チック製雨水地下貯留浸透施設技術マニュアル」を作
貯留浸透施設も最初は流出抑制を目的としていまし
成しています。
たが,今では都市の水の流れを緩やかにし,流域全体
様々なところで雨水貯留浸透が行われていますが,
で水循環の再生に大きく寄与するものとなっていま
遅れているのが道路,既存建築物,緑との連携(グ
す。26年から水循環基本法や雨水の利用の推進に関す
リーンインフラ)です。そのなかでも取り組みやすい
る法律が施行されたことから,今後貯留技術がより一
のは公共物である道路ですが,道路管理者の理解が得
層促進する可能性があります。
られにくいため,なかなか導入が進んでいません。今
では,既存の集水ますを浸透化に改造する手法も開発
健全な水循環系の構築
され,低コストで施工も早く工事への影響も少なくで
きます。事例を増やし,理解を得やすくする工夫が必
要になってくるでしょう。
今回の下水道法改正では,法律で初めて民間施設の
再開発に合わせて,地方公共団体が条例をつくり浸水
都市における水循環再生のイメージ
雨水貯留浸透の役割:都市化によって早まった水の流れをゆっくりさせること
※貯留浸透施設は、水循環の再生に大きな役割を担っている
対策区域を指定できるようになり,非常に画期的なこ
とと思います。平成17年に市川市で「あまみず条例」
を制定し,雨水浸透施設の設置が飛躍的に伸びまし
た。やはり条例による義務付けは効果があるといえる
雨水貯留浸透の現状と課題
でしょう。
雨水貯留浸透施設は,都市の水循環系を保全・再生
日本は面積が狭いため,空間を見つけて多くの貯留
させるには非常に有効な手段です。浸透適地に積極的
浸透施設を布設する必要がありますが,ハード整備だ
に導入していくべきだと考えています。
けでは限界があるため,いかにソフト設備を普及させ
14 —— 下水道機構情報
Vol.10 No.22