№2016-126 第3号 2016 年 11 月 14 日 トランプ大統領誕生による経済・金融市場への影響 特別勘定運用部 2016 年 11 月 9 日(現時時間 8 日)米国大統領選挙が行なわれ、大方の事前予想に反し共和党候補のドナルド・トラン プ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏に勝利しました。 多くの米国メディアがクリントン氏優位と報じたにも関わらず、トランプ氏勝利となった要因の1つには、選挙戦終盤にか けて再燃したクリントン候補の私用メール問題が浮動票層の投票行動に影響したとの見方があります。しかし、根本的な 原因として、社会格差の拡大、加速するグローバリゼーションの負の側面に不満を抱く米国国民が、既存政治を強く否定 し、大きな変化を訴えるトランプ氏に現状の打開を期待して票を投じたことが今回の選挙結果に繋がったと考えられます。 本レポートでは、世界的に保護主義思想が強まるなか、トランプ氏の大統領就任が今後の米国及びわが国に及ぼす影 響や金融市場への波及効果について当社特別勘定運用部の見方をご説明いたします。 1. トランプ氏の政策について 小さな政府を標榜する共和党は歳出の削減・自由貿易主義を支持しています。トランプ氏の掲げた公約は概ね共和党 の政策プラットフォームに沿ってはいるものの、特に財政及び外交・通商政策では、インフラ投資の拡大や自由貿易協定 の脱退・再交渉等、共和党の方針と異なる政策も打ち出しています。(図表 1)。 (図表 1) トランプ氏の選挙公約と共和党党綱領 ドナルド・トランプ氏の公約 共和党党綱領 税制 法人税引下げ(35%⇒15%) 所得税の簡素化(7区分から3区分に変更) 米国本国投資法の改正 法人税率引下げ インフラ投資 インフラ投資の拡大 歳出削減 医療制度 オバマケア廃止し、代替措置の検討 ドッド・フランク法の廃止 オバマ政権による環境規制の撤廃 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)反対 NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉 中国・メキシコからの輸入品に高関税を賦課 日本・韓国などに米軍駐留経費の負担を要求 メキシコ国境に壁を建設 不法移民の追放 移民・難民審査の厳格化 オバマケア廃止 規制緩和 財政政策 規制緩和 外交・通商政策 貿易 安全保障 移民政策 自由貿易 移民・難民審査の厳格化 (出所)各種資料より当社作成。政策の方向性が相反する部分は網掛けで表示。 【財政政策】 トランプ氏は個人・法人共に大幅な減税とインフラ投資増額による財政拡張を主張しています。個人や企業に対する減 税は、消費や投資を促し経済を浮揚させる効果が見込まれます。インフラ投資の拡大も、主に建設業などにおける雇用 創出や中期的な生産性向上を通じて、GDP を押し上げる効果が期待されます。一方、CRFB1の試算によると、トランプ氏 の経済政策は、特に減税による歳入減を主因に今後 10 年間の累計で 5.3 兆ドル(約 550 兆円)もの追加的負担を強いら れることになり、財政赤字が大幅に拡大する見通しです(図表 2)。 1 Committee for Responsible Federal Budget(責任ある連邦財政のための委員会):米国の財政再建を主張する超党派の民間団体。 1 (図表 2)トランプ氏の経済政策に要する財政コスト (兆ドル) 2 コスト減少 1 1.2 0 歳出減 -1 -0.7 利払い増加 -2 -3 -5.3 -5.8 -4 -5 -6 減税 -7 コスト増大 歳入 歳出 利払い 合計 (出所)CRFB(Committee for Responsible Federal Budget) トランプ氏は財政拡張の財源として、米国本国投資法2等の国際法人税制改革によって米国企業の海外留保利益の国 内還流を掲げていますが、政策の実行可能性は不透明な状況です。また、米国の大統領は法案の提出権を持たないた め、上下両院の過半数を共和党が握ったと言えども、政党方針と異なるトランプ氏の公約を額面通りに発議する可能性は 低く、ある程度現実的な方針に転換する公算が高いでしょう。 【規制緩和】 トランプ氏は、概ね規制緩和に前向きな姿勢を示しており、特に金融市場では金融・エネルギーセクターに関する規制 緩和が注目されています(図表 3)。 (図表 3)トランプ氏の規制緩和に対する方向性 関連セクター 政策の方向性 金融 ・「資本の上乗せ」や「自己勘定を用いた高リスク取引」等を規 制するドッド・フランク法の撤廃もしくは緩和 エネルギー ・温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」からの離脱 ・化石燃料の採掘拡大 ・米国・カナダ間を通る「キーストンXLパイプライン」の敷設支持 ・火力発電所に対する環境規制「Clean Power Plan」の廃止 (出所)各種資料より当社作成 金融機関の複雑なデリバティブ商品や、自己勘定を用いた高リスク取引を背景とした金融システム不安が 2008 年のリ ーマン・ショックを悪化させたとの反省から、オバマ政権は金融機関に厳しい規制を課しました。しかし、トランプ氏は過度 な金融規制が米国国内金融機関の収益力を削ぎ、雇用を破壊していると主張しており、オバマ政権が成立させた金融規 制改革法(ドッド・フランク法)等は撤廃もしくは緩和される見通しです。 また、トランプ氏は米国のエネルギー事情にも強い関心を示しており、米国のエネルギー供給力を高めるため、エネル 2 Homeland Investment Act(米国本国投資法):2004 年に成立した減税法。米国多国籍企業の海外での利益や配当金等を米国国内に送金 する際の税率を軽減。 2 ギーセクターの重荷となっている各種環境規制の撤廃、国際的な環境保全取組から離脱すると見られており、こうしたトラ ンプ氏の規制緩和によって、米国国内の関連企業での収益向上、雇用増加が期待されます。 【外交・通商政策】 立法権と異なり、米国大統領は貿易協定からの脱退、一部の輸入品への関税の引き上げは議会の承認を得る必要が なく、貿易の保護主義的な動きは加速すると見られます。トランプ氏の公約は貿易障壁拡大により企業の国内生産回帰を 促すものの、輸入物価の高騰によるインフレ率の押し上げや、米国を起点とした世界的な貿易停滞を引き起こすことも考 えられます。 米国の保護主義への傾倒は、長期的にはドル安・円高リスクにも繋がり、わが国経済にも直接的な影響を及ぼします。 加えて、トランプ氏は公約の中で、就任初日に実行する措置の一つに TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの脱退 を発表するとしています。TPP 発効の条件は米国の批准が必須となっていることから、米国の離脱で TPP の発効が絶望 的となっており、関税障壁の撤廃等でわが国の産業が得られたであろうプラス効果の喪失が懸念されます(図表 4)。 (図表 4)TPP 加盟国の GDP 比率(2014 年)と発効条件 0.93% 1.10% 1.18% 4.56% 5.13% 0.71% 0.71% 0.68% 0.07% 米国 日本 カナダ オーストラリア メキシコ マレーシア シンガポール チリ ニュージーランド ペルー ベトナム ブルネイ 6.38% 16.46% 62.08% TPP発効の条件 ①加盟12カ国全てが国内法の手続きを完了した旨を 書面により寄託者に通知した60日後 ②2年以内に完了しない場合、域内GDPの合計の 85%以上かつ6カ国以上で手続きが完了 (出所)日本経済新聞、みずほ総合研究所 【移民政策】 米国の底堅い経済成長は移民による低コストの労働力が下支えとなってきましたが、トランプ氏の不法移民に 対する取締りの強化・入国の厳格化は、国内の労働力需給のタイト化を招き、更なる賃金上昇圧力に繋がると推 察されます。 一方、イスラム教徒の入国禁止やメキシコ国境への壁の建設等の極端な移民政策の実現は困難と見られていま す。議会の承認を必要としない大統領令によっても、宗教による受け入れ可否の判断は合衆国憲法による信教の 自由に抵触するため、司法によって無効になる可能性が高いと見る識者は多いです。また、トランプ氏が主張す る米南部国境への壁の建設も、近年メキシコからの不法入国者数は過去最低水準にまで激減しており、(米・メ キシコいずれの国が負担するにしても)多大なコストを支払ってまで壁を建設する経済的合理性は低いと言えま す(図表 5) 。但し、トランプ氏がこうした非現実的とも言える過激な主張を単純に繰り返す可能性も低く、今後 の現実的な政策調整が注目されます。 3 (図表 5)メキシコからの不法入国による検挙者数の推移 (出所) アメリカ合衆国税関・国境警備局 2. トランプ氏勝利後の金融市場の見通しと運用方針 トランプ氏勝利後、金融市場は事前予想とは異なり“リスクオン”の展開となっています。これはトランプ氏が 徐々に現実的穏便な発言に転じてきたことに加え、減税、インフラ投資、規制緩和といった景気回復に向けた非常に 強いコミットメントを発信している点を市場が評価しているからです。“米国版アベノミクス”のスタートとの 声もあります。 但し、共和党主流派は、そもそも財政拡張には慎重スタンスであり、伝統的に自由貿易も尊重する立場です。 共和党議会と言えども、新大統領と根本理念に乖離が生じている中、今後は政策実行の実現性に疑念が生じる可 能性があります。また、景気回復・インフレ期待等を主因に足下米長期金利が急騰しています。現状は債券から 株式へのシフトとなっていますが、米財政赤字の拡大を受けた国債の格下げや国債増発による需給の緩み等を背 景にいわゆる“悪い長期金利”が起こる可能性もあります。そうした場合、欧日など他の先進国金利への影響も あるでしょう。加えて、中長期的にはグローバル保護主義の強まりが、国際関係の悪化、地政学リスクの上昇、 世界的な貿易の停滞などを引き起こす可能性も否めません。 株式市場への買戻しの動きは、自国経済優先政権の誕生を一旦歓迎する形のご祝儀相場と言えます。一方で、新興 国経済、周辺国への悪影響など世界的な景気へのインパクトは未知数であり、中長期的には今までに増して相場の変動 率が高まったと判断しています。こうした中、当面は米国株式は強含む展開を想定していますが、その他の株式市場には 注意が必要と考えています。中期的には、トランプ新大統領の財政拡張・規制緩和政策等が本当に評価できる内容とな るかが相場見通しのポイントとなるでしょう。個別資産の運用については、市場の波乱は銘柄選択の好機と言えます。ミス プライスされた個別銘柄の選択を注意深く行っていきます。 以上 ※次ページの「特別勘定特約に関する重要なお知らせ」についてよくお読み下さい。 ※本資料は、情報提供を目的とする資料であり、保険募集を目的とするものではありません。 4 特別勘定特約に関する重要なお知らせ ※本お知らせは保険業法第300条の2に準用される金融商品取引法第37条に基づき、特別勘定特約に関して表示すべき広告等規制に関し て記載するものです。 【手数料について】 ・特別勘定特約に関する手数料(付加保険料)は、当社が引受けるご契約者の年金資産(責任準備金)のうち特別勘定部分 の経過責任準備金を各口ランクごとの金額に分け(円貨建株式口は1型・2型を通算)、それぞれに所定の手数料の率を 乗じて得た金額の合計額を毎年ご負担いただきます。 ・以下の手数料率表については、経過責任準備金ランクの上限および下限のみ記載しております。 ■手数料率表 ●確定給付企業年金保険 ●厚生年金基金保険(Ⅱ) 外貨建 外貨建 外貨建 円貨建 外貨建 円貨建 円貨建 公社債 外貨建 株式口 株式口 短期 第2 債券 株式口 公社債 総合口 公社債 株式口 口為替 株式口 ハ ゚ ッシフ ゙ 新興国 資金口 総合口 総合口 ハ ゚ ッシフ ゙ 口 口 1・2型 型 ヘッジ型 型 型 手数料上限 (1,000万円以下の部分) 0.600% 0.600% 0.590% 0.450% 0.700% 0.400% 0.750% 0.750% 0.800% 0.500% 0.800% 0.050% 手数料下限 0.220% 0.210% 0.155% 0.230% 0.110% 0.230% 0.230% 0.240% 0.210% 0.240% 0.050% (500億円超 の部分) ●厚生年金基金保険 0.220% 外貨建 外貨建 外貨建 円貨建 外貨建 円貨建 円貨建 公社債 外貨建 株式口 株式口 短期 株式口 第2 債券 公社債 公社債 株式口 総合口 口為替 株式口 ハ ゚ ッシフ ゙ 新興国 資金口 ハ ゚ ッシフ ゙ 総合口 総合口 口 口 1・2型 型 型 ヘッジ型 型 手数料上限 (10億円以下の部分) 0.440% 0.440% 0.430% 0.330% 0.520% 0.400% 0.550% 0.550% 0.600% 0.500% 0.600% 0.050% 手数料下限 (500億円超 の部分) 0.220% 0.220% 0.210% 0.155% 0.230% 0.110% 0.230% 0.230% 0.240% 0.210% 0.240% 0.050% ※手数料=各口の(経過責任準備金の各ランクに当たる金額×所定手数料率)の合計 ※消費税は別途申し受けます。 ※上記のほか、資産運用の過程で売買の際に発生する売買委託手数料や、売買委託手数料に関する消費税に相当する金額、先物取 引・オプション取引等に要する諸費用を運用費用の一部として間接的にご負担いただきます。なお、売買委託先、売買金額等によって 手数料率が変動する等の理由から、これらの計算方法は表示しておりません。 ※運用効率の観点等から投資信託による運用を行う場合、投資信託に係る信託報酬を運用費用の一部として間接的にご負担いただき ます。なお、信託報酬については投資信託の運用会社や投資対象資産によって手数料率が異なる等の理由から、計算方法を表示し ておりません。ただし、第2総合口および債券総合口における私募投資信託の手数料については、「ご契約のしおり」をご覧願います。 ※上記の手数料には、一般勘定(主契約)の付加保険料、制度管理等に係る各種業務委託費、年金数理人費は含まれておりません。 【特別勘定特約 第2総合口の投資対象について】 第2総合口では、リスク分散を高度に行うために新興国国債、新興国株式、REIT(不動産投資信託証券)を投資対象とする ため私募投資信託を用いて運用を行います。投資対象の詳細については、「ご契約のしおり」および別途資料にてご案内 申しあげます。 【特別勘定特約 債券総合口の投資対象について】 債券総合口では、リスク分散を高度に行うために先進国国債(日本含む)、新興国国債、グローバル社債を投資対象とする ため私募投資信託を用いて運用を行います。投資対象の詳細については、「ご契約のしおり」および別途資料にてご案内 申しあげます。 【損失発生リスクとその発生理由】 ・特別勘定特約は、一般勘定(主契約)の責任準備金(保険料積立金)の一部を特別勘定で運用し、この運用実績を直接、 責任準備金(保険料積立金)に反映させる仕組みの商品です。 ・特別勘定は、国内外の公社債、株式等を運用対象とするため、「株価の下落」「金利の上昇による債券価格の下落」「円高 による外貨建資産価値の下落」等といった投資対象資産の価格下落リスクは責任準備金(保険料積立金)の下落要因と なります。資産運用の結果は、その損失も含めてご契約者に帰属します。 ・経済情勢や運用成果のいかんにより高い収益を期待できる反面、元本(特別勘定に投入された保険料の合計額)の保証 はなく、運用実績が元本を下回ることがあり、損失を生じる可能性があります。 【ご留意事項】 ・特別勘定における資産運用の成果がご契約者の期待どおりでなかった場合でも、当社または第三者がご契約者に何らか の補償、補填をすることはありません。 ・特別勘定での運用にあたっては、ご契約者が特別勘定の特徴を十分理解した上で、ご契約者の判断と責任において行わ なければなりません。 第一生命保険株式会社 東京都千代田区有楽町1-13-1 電話 03(3216)1211(大代表) 5
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