発話情報を用いたグループ学習時の貢献度推定手法に関する研究 A Study on Estimation Method of Personal Contribution Level in Collaborative Learning by Using Speech Information 情報システム構築学講座 0312012037 大信田侑里 指導教員:高木正則 山田敬三 佐々木淳 1. はじめに 近年,教育現場において,e ラーニング教材を予 習にし,応用課題を教室で対話的に学ぶ反転授業が 注目を集めている[1][2].本学部で開講されている 数学のリメディアル科目でも,e ラーニング教材を 活用した反転授業が行われている[3].この科目で は,e ラーニング教材に加え発展的な演習問題を活 用したグループ学習を行っている.また,平成 24 年に中央教育審議会から発表された「質的転換答申」 では,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた 教授・学習法(アクティブ・ラーニング)への転換 が必要であると指摘されており[4],グループ学習 を行う機会は今後ますます増加すると考えられる. しかし,教師が多数のグループの状態を把握する のは限界があり,各グループでどのような話し合い が行われ,誰がどの程度貢献したかを把握すること ができない.そこで,グループ学習における各学生 の貢献度の可視化を目的とし,音声の言語情報を活 用した貢献度推定手法を提案する. 本研究では,実際の授業で記録したグループ学習 時の音声データから本提案手法により推定した貢献 度(客観推定)と,グループ学習の様子を撮影した 映像を教員が閲覧して評価した貢献度(主観評価) を比較し,本手法で推定された貢献度の妥当性を検 証する.また,各学習者の発話を全て書き起こして 音声認識精度を分析し,音声認識精度が提案手法の 客観推定精度に与える影響について考察する. 2. 関連研究 グループ学習時の学習者の学習態度を可視化する 研究として,学習者の注視対象,発話区間,ノート 記述動作などの非言語情報に基づいて協調的態度と 学習理解態度を可視化する手法が研究されている [5].この手法により,協調的態度と学習理解態度 をある程度正しく推定することができる.また,協 調学習に参加している学習者の発言データをもとに, 教師や学習者自身がコミュニケーション活動を評価 する方法が提案されている[6].この手法では,電 子掲示板の議論内容と個々の学習者との関係を,コ レスポンデンス分析を用いて可視化している.しか し,いずれの研究もグループ学習の成果物に対する 貢献度を把握することを対象としていない. 本研究では,グループ学習への貢献度の指標を調 整・指導・協力の 3 つに分類し,各学生の発話情報 を用いてグループ学習時の貢献度を推定する点に新 規性がある. 3. グループ学習における貢献度推定手法 3.1 貢献度推定の手順 本研究では,多機能携帯端末(スマートフォン) でグループ学習時の学習者の発話を記録し,サーバ へ送信した音声データに基づいて各学生の貢献度を 数値化する.グループ学習における各学生の貢献度 推定の手順を図 1 に示す.本手法ではまず,収録し た各学生の音声データを音声認識し,音声データを テキストデータに変換する.その後,変換されたテ キストデータを形態素解析し,3 つの貢献度ごとに 用意された 4 つの特性語辞書(調整・指導・協力・ 非協力)を用いて特性語を抽出する.そして,抽出 された特性語の発話数から貢献度を推定する. 音声認識 形態素解析 特性語辞書 言語抽出 特性語の発話数から 貢献度を客観推定 グループ学習 図 1:グループ学習の貢献度客観推定方法の概要 貢 度 表1:貢献度と偏差値の対応表 偏差値 偏差値 偏差値 偏差値 >50 >60 40 以下 >40 2 3 4 献 1 3.2 ① ② ③ 3.3 貢献度の計算方法 各学習者に対して 3 つの貢献度ごとに抽出され た特性語の数(協力に関しては「協力に関す る特性語の数-非協力に関する特性語の数」) を分析する. 3 つの貢献度ごとに抽出された特性語の数に基 づいて,グループごとに偏差値を算出する. 偏差値=(学習者の特性語の数-グループの 特性語の数の平均値)÷グループの特性語の数 の標準偏差×10+50 算出された偏差値から貢献度 1~4 の値を決定 する.表 1 に偏差値と 4 段階の貢献度との対応 表を示す. 期待される効果 本研究により,教員はグループ学習時の各学生の 貢献度を把握できるようになり,グループ学習の結 果(成果物)だけではなく,グループ学習の過程も 含めた評価ができるようになる.また,貢献度の低 い学生に対する指導やグループ再編成時の参考デー タとしても活用できる.さらに,各学生の貢献度か ら各グループの学習状況を推測でき,グループ学習 を活性化するための様々な支援ができるようになる. 4. 実験 提案手法により推定された貢献度の妥当性を検証 するために,本学部 1 年生を対象として開講されて いる数学のリメディアル科目「情報基礎数学 A」で 実験を実施した. 4.1 実験対象の科目概要 「情報基礎数学 A」では,e ラーニング教材を活 用した予習を必須とし,授業中は教員から出題され た発展的な演習問題 5 問をグループメンバーと協力 して解くグループ学習を行っている[3].グループ は事前に実施されたテストから学力が同等になるよ うに編成し,4 人グループを 16 組作成した. 4.2 実験概要 本実験は全 15 回の授業のうち 5 回の授業で実施 し,毎回異なるグループを無作為に 2 組選定して音 声を記録した.各回のグループ学習は約 35 分間行 われ,グループ学習を始める前に,対象グループの 学生全員に多機能携帯端末と近接マイクをそれぞれ 配布し,各学生別々に発話を録音した.また,実験 後にグループ学習全体の会話や状況を把握できるよ うに,グループ学習の様子をビデオカメラで撮影し た.図 2 にグループ学習時の学生と機材の配置図を 示す.机の中央にはグループメンバー全体の音声を 映像と共に記録できるマイクを設置した. 4.3 分析結果と考察 (1)近接マイクで記録された音声の認識精度 音声認識ソフトウェアを活用し,近接マイクで記 録された音声データをテキスト化した結果から,音 声認識の精度を分析した.分析の準備として,各学 生の発話データを元に発話した内容をすべて人手で 文字へ書き起こし,正解データを作った.また,以 下の算出式から認識精度を求めた. 認識精度=(正解文の文字数-挿入誤り-削除誤り -置換誤り)÷全体の文字数×100 分析の結果,認識精度の平均は 30%ほどであった. (2)主観評価値と客観推定値の相関 客観推定値は人手で書き起こした発話情報を用いた 場合と音声データから音声認識ソフトウェアを用い てテキスト化された発話情報を用いた場合で値を算 出した.また,グループ学習の様子を撮影した映像 を授業担当教員が視聴して各学生の貢献度を主観評 価した.2 つの客観推定値と主観評価値の相関係数 の分析結果を表 2 に示す.書き起こした発話情報と 音声認識によりテキスト化された発話情報で,教員 による主観評価の値との相関係数はほぼ同等となり, 音声認識の精度に関係なく主観評価に相関のある客 観推定値を算出できることがわかった. 図 2:グループ学習時の配置図 表 2:主観評価値と客観推定値の相関 書き起こし推定 音声認識推定 偏差値 4 段階 偏差値 4 段階 0.74 0.69 0.77 0.71 調整 0.86 0.82 0.84 0.79 指導 0.58 0.52 0.73 0.71 協力 0.71 0.67 0.75 0.71 3 特性総合 5. まとめ・今後の課題 本研究では,発話情報を用いたグループ学習時の 貢献度推定手法を提案した.また,人手で書き起こ した発話情報と音声認識ソフトウェアでテキスト化 した発話情報を活用して,本手法による客観推定値 と授業担当教員による主観推定値を比較した.この 結果,音声認識の精度が低い場合でも客観推定値と 主観推定値にかなり強い相関があることが確認され, 特性語等の分類を適正に行えばグループ学習時の貢 献度を推定できる事が示された.今後は特性語に重 み付けをするなど,より精度の高い手法を検討する. 参考文献 [1] The Flipped Classroom: Turning the Traditional Classroom on its Head, http://www.knewton.com/flipped-classroom/ 2013.3 [2] 山内 祐平:講義が宿題になる――「反転授業」 http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120518/1 049903/ 2012.5 [3] 高木正則:数学リメディアル教育あにおける反 転授業の実践と評価,情報処理学会研究報告, Vol.2015-CE-131,No.14,pp.1-6,2015.10 [4] 中央教育審議会,新たな未来を築くための大学 教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に 考える力を育成する大学へ~(答申 ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chu kyo0/toushin/1325047.htm 2012.8 [5] 林佑樹,小川裕史,中野有紀子:“協調学習に おける非言語情報に基づく学習態度の可視化”,情 報処理学会論文誌,Vol.55,No.1,pp.189-198, 2014.1 [6] 望月俊男,藤谷哲,一色裕里,中原淳,山内裕 平,久松慎一,加藤浩:電子会議室の発話内容分析 による協調学習の評価方法の提案,日本教育工学会 論文誌,Vol.28,No.1,pp.15-27,2004.6
© Copyright 2024 ExpyDoc