省スペース化を追求した水質保全へ

省スペース化を追求した水質保全へ
~高速ろ過システム~
(
「SPIRIT21」雨天時高速下水処理システム応用技術)
大阪市・千島下水処理場
千島下水処理場
「SPIRIT21」において日本ガイシ㈱(現 メタウォー
導入が進む高速ろ過システム
ター㈱)は雨天時高速下水処理システム(簡易処理の
高度化)を開発しました。既存の沈殿池や滞水池に設
雨天時に汚水の一部が未処理のまま公共用水域へ放
置が可能で凝集剤を使用せずに高いろ過性能を発揮す
流される合流式下水道の問題に対処するため,これま
る技術として大きな注目を集めており,全国32カ所
で多くの技術が開発されてきましたが,近年,気候変
で採用されています(平成27年12月末時点)。
動等の影響から全国的に降雨状況が局地化・激甚化し
一方,大阪市建設局では同システムを応用し,晴雨
ており,より効率的な対策の実施が求められていま
兼用運転に対応した高速ろ過システムを同社と開発し
す。
ました。
こうした中,平成14 ~ 16年度に合流式下水道の
今回のユーザーレポートでは,平成21年から同局
改善を目的に行われた下水道技術開発プロジェクト
の千島下水処理場に導入され,国内唯一の晴雨兼用運
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ろ過・洗浄の仕組み
を使い,その水頭差による自然下向流で短時間に洗浄
を行います。
導入の経緯と大阪市の水質保全対策
大阪市では市域の約96%で合流式下水道を採用して
います。そのため,下水道の役割の一つである「良好
な水環境の創造」に向けた取組みの一環として,平成
35年度を目標に合流改善対策を着実に実施していると
ころです。
特殊ろ材
合流改善対策には貯留や連続処理などさまざまな手
法がありますが,同市では高度な市街化の影響から施
転を行う同システムの稼働状況や今後について同局下
設の改築に際して周辺用地を確保することが難しく,
水道河川部の方々にお聞きしました。
雨水滞水池や貯留池といった施設建設が行いにくいと
高速ろ過システムとは
いう特性があることから,既存の施設を活用した合流
改善対策に軸足を置いています。一例としては,雨天
時下水の連続処理(3W処理法:雨天時下水活性汚泥
高速ろ過システムは,処理場では必要に応じて晴天
処理法)や最初沈殿池を改造した凝集剤添加型傾斜板
時の未処理下水も処理対象とすることが可能なほか,
沈殿池を導入しています。
ポンプ場では雨天時の未処理下水の簡易処理にも適用
一方で,傾斜板沈殿池を設置するためには,スペー
できる技術です。システムの原理は風車型の専用浮上
スの確保が必要です。
ろ材を担体に用いた上向流ろ過であり,システムは複
そのため,最初沈殿池の面積を省面積化できる技術
数のろ過池,洗浄排水槽,洗浄排水分離槽から構成さ
を導入し,既存の最初沈殿池を有効活用して雨天時下
れています。
水に対応することを目的に,SPIRIT21で開発が行わ
ろ過工程は揚水ポンプで送水された原水が上向流
れた「雨天時高速下水処理システム(簡易処理の高度
ろ過された後,ろ過水が越流・放流される仕組みで,
化)」を応用し,最初沈殿池における晴雨兼用の代替
質,量的な変動が大きい雨天時流入水への対応が可能
えシステムとして,平成15年1月から同市共同研究制
です。
度を活用し千島下水処理場で研究に着手,21年から供
また,ろ材の洗浄には,ろ過池上部に貯めたろ過水
用開始しています。
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設に与える影響を最小限にしています。
また,千島下水処理場には最初沈殿池が12池ありま
すが,システムの導入で晴天時に流入する全量を4池
で処理することが可能となり,単純に処理面積を3分
の1に縮小できることは,今後の利活用を含めて有益
な特徴と言えるでしょう。
現在の稼働状況
同部担当者は,「今年で供用開始から7年目になり
逆洗の様子
ますが,これまで大きなトラブルもなく順調な運転を
行っています。ろ材の流出や補充も行っていないほ
施設の特徴
か,システムを止めての大規模なメンテナンスについ
ても行っていないという状況です。そのため,今後,
このシステムでは上向流式でろ過を行いますが,ろ
経年変化に伴った何らかの設備的トラブルの発生も予
材の下部には流失防止のスクリーンを設置していませ
想されますが,今後も引き続き観察を続けていきたい
ん。そのため,し渣等がスクリーンに絡まないことか
と思っています。」と話しています。
らメンテナンスの必要がなく,連続の自動洗浄のみで
雨天時も含めた運転が可能となっています。洗浄時に
今後の課題と方向性
ろ過水が一時的に下向流となりますが,ろ材の比重を
調整しているため原理的に流出はほとんどありません。
同システムにおけるろ材の洗浄は,晴天時,雨天時
また,ろ過速度の幅広い変化に対する追従性が優れ
ともに水位差でろ過損失水頭を感知する洗浄となりま
ていることも特徴の一つです。同処理場では,雨天
すが,同市では25年度から晴天時のみタイマー洗浄に
時の最大ろ過速度は1200m/日,晴天時のろ過速度は
切り替える実験を進めており,消費電力の削減効果を
340m/日で設定しています。これは雨天時に増加す
検証しています。そのため市では本格的な晴天時のタ
る流入量に最大限対処するために設定しているもの
イマー洗浄の適用を視野に調整を進めており,こうし
で,雨天時に流入量が増加しない処理場では,晴天時
た試行錯誤の積み重ねが今後,重要となってきます。
の除去率を重視したろ過速度の設定も行うことが可能
課題としては,こうした省エネ性の追求を含めたさ
です。
らなるコスト縮減に向けて,システムにどう改良を加
同市では,中浜下水処理場にて国土交通省下水道革
えていくかという点が上げられます。加えて,同シス
新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)で「超高
テムはし渣の回収率が高いため,後段の処理に与える
効率固液分離技術を用いたエネルギーマネジメントシ
影響を総合的に考慮していくことが求められます。
ステム」の実証が行われました。このうち超高効率固
一方で,同システムは従来,前処理として機械スク
液分離として同システムを導入していますが,中浜の
リーンが必要であった担体法や膜分離活性汚泥法など
実証施設においては晴天時のろ過速度250m/日に設
の高度処理技術に適応可能であり,また,水処理ス
定し,SSで約70%,BODで約47%という高い除去率
ペースの省面積化が可能なため,今後の改築更新や新
を確認しています。
規の水処理建設時において,対応の幅を広けることが
夾雑物の除去率が高いことも同システムの大きなポ
可能な選択肢の一つになることは間違いないでしょ
イントで,21年度の下水道機構の評価時で,2mm以
う。
上の夾雑物除去率は約100%だったほか,23 ~ 24年
最後になりましたが,取材の際にご協力いただきま
に行った上記検証でも1mm以上の夾雑物除去率が約
した大阪市建設局の皆さまに誌面をお借りして御礼申
100%だったことが確認されており,後段の水処理施
し上げます。
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