米国大統領選挙結果はクレジット市場にとって の好材料

米国大統領選挙結果はクレジット市場にとって
の好材料
2016年11月9日
トランプ政権の誕生で大きく影響を受けそうなセクターを検証する
ドナルド・トランプ候補が次期大統領に選ばれ、その政策と、政権の主要閣僚が今後数カ月間で
明らかになります。政策の方向性を市場がどう評価するか次第で、リスク資産のボラティリティが
高まる局面があるだろうとインベスコ・フィックスト・インカム(IFI)では予想しています(これに関し
ては、IFIのInvestment Insights──「トランプ氏勝利後の市場を占うには何が重要か?」をご
参照ください)。しかし、米国のクレジット市場とそのファンダメンタルズ全般にとっては、トランプ政
権の運営スタンスは中長期的に有利に働くものとなるだろうと見ています。
トニー・ウォン
インベスコ・フィックスト・インカム
(IFI)
ヘッド・オブ・グローバル・クレ
ジット・リサーチ
我々の見方では、企業活動に対するトランプ氏の政策の枠組みは以下のような特徴を伴ったも
のとなりそうです。
• 連邦取引委員会(FTC)や連邦通信委員会(FCC)、その他の金融当局などが行う規制には非
積極的なスタンス
• 司法省(反トラスト局)のM&Aに対するアプローチはより柔軟に
• 免税期間の設定や税率引き下げにより、米国企業が海外で保有するキャッシュを米国へ還流
させ、自社株買いや増配、設備投資に振り向ける可能性
こうした政策は、ビジネスの自由度を増して企業の競争力を高める可能性があると同時に、海外
と米国内とに分断された企業のバランスシートの縮小(海外でキャッシュを貯め込みながら、米国
内での投資や株主還元の原資調達のために社債を発行することの減少)につながることから、米
国のクレジット市場全般にとっての支援材料と言えます。以降では、我々が考えるトランプ政権の
政策からとりわけ大きな影響を受けると予想されるセクターについて、詳述します。
ヘルスケア
製薬会社に対する薬価引き下げの圧力は残存すると思われますが、ヒラリー・クリントン政権下
で予想された、より厳しい改革の下でのシナリオに比べれば、革新的な治療法を開発する専門
医薬品メーカーを中心に良好な道のりが見込めます。また、「オバマ・ケア」として知られる医療
保険制度改革がより持続可能な内容に改定され、価格の調整が可能となる保険会社にとって
も徐々にプラスに作用すると考えられます。一方で、ヘルスケア政策の変更は、メディケイドの
適用拡大やオバマ・ケアにより新たに保険対象となった患者の増加から恩恵を受けていた救急
病院にはマイナス要因となるでしょう。
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金融
規制緩和の可能性と成長志向型のマクロ経済政策の組み合わせは、貸出や保険需要の増加を
促すだけでなく、長期ゾーン主導の金利上昇も見込まれることから、銀行や保険会社のビジネス
モデルにプラスに作用すると考えられます。ただし、2008年の金融危機後の金融規制を定めた
ドッド・フランク法が改廃されるようだと、現在は非常に高い米国銀行セクターのクレジットの質は
やがて低下が進むことになるでしょう。
通信サービス、メディア、テクノロジー(TMT)
FCCの規制に非積極的な政権のアプローチは、メディア業界での配信会社とコンテンツ制作会
社との垂直統合推進の増加に道を開くことになるでしょう。通信セクターでも、大規模な合従連
衡の動きを予想します。個々の企業の結末はそれぞれに異なるでしょうが、企業の合従連衡は
中期的には業界全般的なファンダメンタルズの支援材料であり、技術の進歩や消費者の志向の
変化を背景に業界動向が急速かつ不明瞭にシフトする中、市場の前向きな反応につながると
我々は考えています。
金属・鉱業
関税や貿易協定に対するトランプ氏の保護主義者的スタンスを踏まえると、金属・鉱業セクター、
とりわけ米国内での事業に注力する金属・鉱業会社が、同政権の下で好調に推移すると期待さ
れます。
エネルギー
より緩やかな規制環境、特に、シェール層などの水圧破砕や石炭生産に関連した規制の緩和は、
エネルギー業界にも恩恵を与えるでしょう。石油生産活動の活発化により、油田のサービス業者
にも恩恵が及ぶでしょう。石油生産の増加は原油価格の下落を引き起こし、(伝統的なコモディ
ティ価格の下押し材料である)米ドル高と上述の金利上昇も原油価格の抑制につながるでしょう。
我々はパイプライン運営会社を選好しています。同業態は、輸送量をベースとした契約形態によ
り原油価格の動向に業績が左右されにくいうえ、新政権の政策からは環境面の規制の後退と増
設認可の増加という恩恵が見込まれます。
資本財
資本財セクター、とりわけ売上高の多くを米国外で上げている企業は、世界貿易にマイナスのイ
ンパクトを与え得るトランプ氏の政策シフトからマイナスの影響を受けやすいと言えます。それ故
に、我々は同セクターでは米国内のインフラ企業を選好しています。ただし、トランプ、クリントン
の両候補が選挙前にインフラ重視の公約を掲げていたことを踏まえると、インフラ企業に対する
前向きな見方の一部は既に価格に織り込まれていると考えられます。一方で、防衛関連は、政
府支出の増加が見込めるという点で、新政権の政策が支援材料となりうる分野と見ています。
消費関連
米国の経済活動の約7割を占める消費については、トランプ氏の大統領選勝利を受けた様々な
不透明感の高まりが短期的に消費を抑制する可能性があります。今回の選挙で顕著となった米
国国民の分断は、選挙を終えても、約半数の有権者が新政権に対する信頼を抱けない状態に
あることを意味し、今後、年間小売額の3分の1に相当する年末のホリデー・シーズンを迎えるだ
けに、深刻な事態となるリスクも想定されます。ただし、そうは言っても長い目で見れば、トランプ
政権下で見込まれる個人所得税減税が可処分所得の増加を通じて最終的には消費者の恩恵
につながるはずです。我々は、国内を中心とし、米国外での売り上げに依存しない企業を選好し
ています。一方で、ホテルや航空、客船会社のように、旅行に焦点を当てた多国籍企業は短期
的に厳しい局面を迎えそうだと見ています。
以上は、確かに新政権への移行初期段階での粗々の見通しであるとともに、当面は市場の乱高
下の方が問題となる可能性が見込まれます。一方で、新政権の政策体系が明らかになるにつれ、
綿密なリサーチと慎重な個別銘柄選択に重きを置いたアクティブ投資が真価を発揮することにな
るだろうとIFIでは考えています。
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