高 大 接続改革を追う - Kei-Net

高 大 接続改革を追う
▶▶▶ 第9回
今年3月末日に高大接続システム改革会議が「最終報告」を公表した後、文部科学省では、4月末
に検討・準備グループを設置し、平成 29 年度初頭の2つのテストの「実施方針」の策定・公表に向
けて、
「最終報告」で出された検討課題について具体的な検討を進めてきた。しかし、高大接続システ
ム改革会議とは異なり、会議が公開されていないため、検討状況がわかりにくい状態にあったが、8
月 31 日に文部科学省から「高大接続改革の進捗状況について」(注)が公表された。今回はその内容を
中心にご紹介する。
高等学校基礎学力テスト
当面、紙による実施を基本
平成 28 年度の「試行調査」を皮切りに
実施方法の検討に必要な実証的データを収集
注目されるのは、実施方法等の検討に必要な事項につ
いて実証的データを収集・分析するとしている点である。
高等学校基礎学力テストのフィージビリティ等に関する
実証的な検証作業として、既に平成 28 年度に「高校生
の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事
業」が開始され、実践研究校として 10 道府県 12 校が指
まず、高等学校基礎学力テストについてまとめておこ
定されている。平成 29 年度も引き続き「研究開発事業」
う。名称については、目的を鑑み「テスト」ではなく、
「診
として継続される予定である<図1>。
断」
「検定」
「検査」等を基本に新たな名称を検討する予
平成 29 年1〜2月頃には、実践研究校の1、2年生
定である。CBT、IRT の活用は、現時点では安定的・継
を対象に約 5,000 人規模の
「試行調査」
が実施される。
「試
続的な活用ができると判断できず、当面は紙による実施
行調査」では、国語、数学、英語の3教科(英語は4技能、
(PBT)が基本とされた。
「話す」は別日程で実施)について、50 分程度、2段階
具体的な実施については、民間事業者等の知見・ノウ
のレベルから選択できる形式で、それぞれ記述式を各教
ハウを最大限活用することが望ましいとし、①大学入試
科最低1問以上実施する。実施方法としては、
① CBT(オ
センターを改組した新センターで直接実施、②新センタ
ンライン方式)
、② CBT(外部媒体方式)
、③ CBT およ
ーの統括・関与の下に、民間事業者等が問題を作成し実
び PBT(紙ベース)併用の3つから、実践研究校が自校
施、の両案についてこの秋以降、検討する予定だ。
の ICT 環境に応じて選んで実施できる。
<図1>高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための研究開発事業(平成 29 年度)
(文部科学省資料より抜粋)
本文では、
「高等学校基礎学力テスト(仮称)」「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の(仮称)を省略して表記している。
(注)参考資料も公表されている。詳細は文部科学省ホームページをご覧ください。
50 Kawaijuku Guideline 2016.11
高大接続改革を追う
この「本体調査」のほか、
「生徒/学校へのアンケー
トの実施時期等に関する論点整理〜とくに国語系記述式
ト調査」
「共通技能としての読解力調査」の3つの調査を
試験の取扱いについて〜」が発表された。そこでは、国立
一体的に実施する。生徒へのアンケートとしては、学校
大学全体としては平成 32 年度段階で一般入試を一元化す
内外での学習状況・生活習慣等のアンケート調査、学校
ることは困難である。また、分離分割方式実施のためには、
へのアンケートとしては、生徒の状況、授業・補習等の
前期日程試験の願書受付期間を2月以降に後ろ倒しするこ
指導状況、PDCA サイクルの具体的な取り組み状況等に
とは困難で、少なくとも平成 32 年度段階では、大学入学
関して調査する予定だ。
希望者学力評価テストは、現行の1月中旬か、それ以前と
「共通技能としての読解力調査」については、国立情
せざるを得ないとの考えが示されている。なお、この論点
報学研究所(NII)と連携し、
「本体調査」の正答状況と
整理は、記述式と多肢選択式を別日程で行う考え方につ
読解力調査の正答状況を比較検証し、試験問題の指示や
いては、受験生にも大学にも過大な負担であり困難だとし
意図を正確に理解できているかなどを分析し、その後の
て、同日実施を前提にしている。
指導の工夫・充実に役立てるとされている。
国大協から示された案は3つであり、要約すると次の
そのほか「CBT 体験サイト(仮称)
」の開設・運用も
とおりである。
行い、3つの調査や体験サイト等から得られたデータや
①現行より前倒しで早期(例えば 12 月中旬)に実施
分析結果を踏まえ、平成 29 年度初頭に策定予定の「実
十分な採点期間(40 日程度)は確保できるが、前倒
施方針」や、平成 29 年度以降の「プレテスト」の実施
しによる高校教育への負の影響があり、高校関係者
方法や問題内容等に反映する予定である。
の理解を得るのは相当困難。
②現行日程(1月中旬)に実施
大学入学希望者学力評価テスト
どうなる⁉ 記述式
国大協が論点整理を公表し
実施時期について提案
2月初めの前期日程試験願書受付締切に各大学に成
績提供するなら採点期間は2週間。その場合は出題
が極めて少数の短文記述式設問になり、記述式導入
の意味自体に疑義が生じる。もし、記述式試験を他
と切り離して採点期間を延長し、成績提供を前期日
程の個別試験実施直前の2月下旬まで遅らせること
「高大接続改革の進捗状況について」
(以下、
「進捗状
とすれば採点期間も確保できるし、相当程度の問題
況」
)では、これまでの検討状況として、記述式問題の導
内容の充実が可能。採点結果は個別試験の選抜の際
入、英語の多技能を評価する問題、マークシート式問題
に各大学で利用される。
の改善、結果の表示、複数回実施・CBT の導入、プレテ
③大学が記述式試験の採点を行う場合
ストの6つが挙がっている。
大学入試センター(以下、センター)は採点基準等
記述式問題導入の意義として、①文章の解釈だけでな
を示すにとどめ、各大学が出願後に当該大学(学部)
く文章による表現のプロセスを評価できること、②共通
の受験生について採点する。時間的余裕は生まれる
テストに記述式問題を導入して、より多くの受験者に課
が、各大学(学部)の責任・物理的負担が増大する
すことにより、入学者選抜で考えを形成し表現する能力
とともに、既に個別試験で記述式、論述式を実施し
をより的確に評価することで高校での能動的な学習を促
ている大学(学部)が採用しない可能性がある。
進すること、③記述式問題で評価する能力に関する高校・
「進捗状況」では、これを受けて、実施時期を含む全
大学間での共通理解を深めるとともに個別大学の問題作
体の制度設計として、3つの案を示している。
成や採点の負担を軽減することなどが挙げられている。
「進捗状況」では国語・数学の記述式問題で評価すべき
【案1】1月に実施し、センターが採点する案
【案2】12 月に実施し、センターが採点する案
能力や作問の構造についての素案も示されている。
①記述式とマークシート式を同一日程で実施する案
採点の方法・体制については、答案の読み取り、文字
②マークシート式は従来通り1月に実施し、記述式を
認識によるデータ化、クラスタリング(キーワードや文
章構造による分類)の案も示されているが、今後さらに
検討が深められる予定だ。
別日程で実施する案
【案3】1月に実施し、センターがデータを処理し、それ
を踏まえて各大学が採点する案
ところで、記述式については、8月 19 日に国立大学協
この3案をもとに、今後、大学・高校等の関係団体の
会(以下、国大協)から「大学入学希望者学力評価テス
意見を踏まえて検討される予定である。
Kawaijuku Guideline 2016.11 51
<図2>「大学入学希望者学力評価テスト」の英語4技能評価の実施形態について(たたき台)
●「簿記・会計」
、
「情報関係基礎」
英語4技能は
将来的には資格・検定試験のみに⁉
●「世界史 A」と「世界史 B」
、
「日本史 A」と「日本
史 B」
、
「地理 A」と「地理 B」
、
「倫理」
「政治・経済」
と「倫理、政治・経済」
グローバル化が急速に進展する中、外国語によるコミ
結果の表示については、マークシート式問題では、よ
ュニケーション能力(特にスピーキングとライティング
りきめ細かい評価情報として、各大学に各科目の領域ご
能力)の向上が課題である。そして、英語4技能につい
と、問ごとの解答状況などを提供する。記述式問題につ
ては、その評価を着実に推進するため、2案が示された
いては、その特性を踏まえて、段階別表示の具体的内容、
<図2>。将来的には資格・検定試験のみで英語4技能
項目等が検討される。
の評価をめざす【案1】
。しかし、当面はセンターにおい
複数回実施・CBT の導入については、
「フィージビリ
て英語の試験(リーディング、リスニング)を実施し、
ティ検証事業」において、導入に向けた検証を実施し、
国が認定した資格・検定試験の2技能(スピーキング、
この成果を踏まえて、平成 36 年度以降の複数回実施の
ライティング)の結果と共通テストの結果を組み合わせ、
実現可能性が検討される。
評価することも併せて実施する【案2】
。なお、資格・検
定試験は、高校の学習指導要領との整合性、大学入学者
選抜試験としての妥当性、受検料負担の抑制などの一定
の基準を満たすものを国(センター)が認定する方向だ。
フィージビリティ検証事業は
今年 11 月から開始
大学入学希望者学力評価テストではマークシート式問
高等学校基礎学力テストでは既に、今年度から「高校生
題の改善も重要な課題となっている。センターでは、思
の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事
考力・判断力を一層重視した作問への改善を図る予定だ。
業」が開始されているが、大学入学希望者学力評価テスト
モデル問題(国語、数学、物理、世界史)を作成し、
「フ
でも、記述式の作問・採点を含むテストの信頼性・妥当性、
ィージビリティ検証事業」
(詳細は後述)を通じて、検証・
試験問題の難易度や運営上の課題、民間の活用の検証等
改善を図っていく。
を行うための試行テスト(プレテスト)を行うため、平成
また、
「最終報告」では具体的な記述がなかった「出
29 年度の概算要求にその費用が盛り込まれた。<図3>
題科目数の簡素化」については、例えば次のような出題
<図4>はその詳細である。
「最終報告」では「プレテスト」
科目の取扱いについて、今後、関係方面と調整すると記
のみが示されていたが、
「フィージビリティ検証事業」
「事
載されている。
前プレテスト」
「確認プレテスト」が追加された。
「フィー
●「数学Ⅰ」と「数学Ⅰ・数学 A」
、
「数学Ⅱ」と「数
学Ⅱ・数学 B」
52 Kawaijuku Guideline 2016.11
ジビリティ検証事業」は、今年 11 月に第1回目が行われ
る予定で、大学1年生 500 人を対象に、国語、数学、理
高大接続改革を追う
科(物理)
、地歴(世界史)等が実施される予定だ。500
ために、合わせて 21 の大学等が参加する「大学入学者
人規模の小規模なものを合計3回行い、次は平成 29 年 11
選抜改革推進委託事業」の選定機関も公表された。例え
月に5万人規模(高3・大学1年生対象)の「事前プレテ
ば、
「人文社会分野(地理歴史科・公民科)
」では、早稲
スト」
、
平成 30 年 12 月に 10 万人規模の「プレテスト」
(高
田大学が代表大学となり、東京大学、一橋大学、同志社
3対象)と続く。平成 30 年度のプレテストでは、人数は
大学、関西学院大学が参加して、学習指導要領改訂によ
10 万人と現在の大学入試センター試験に比べれば約5分
る、地理歴史科・公民科改革(地理総合、歴史総合、公
の1ではあるが、実施体制・採点体制等も「大学入学希望
共など)を踏まえて、思考力・判断力・表現力等を問う
者学力評価テスト」と同様の形式で実施される予定だ。
新たな入試問題例や作成手法等を開発するとともに、試
最後に、
「進捗状況」では共通テストだけでなく、各大
行試験が実施される予定だ。これらの結果は高校・大学
学の入学者選抜においても多面的・総合的評価を進める
関係者にも広く公開される予定である。
<図3>「大学入学希望者学力評価テスト」 プレテストの実施
<図4>大学入学希望者学力評価テストの導入スケジュール 導入までの検証等
28 年度
29 年度
30 年度
31 年度
(図2〜4は文部科学省資料)
Kawaijuku Guideline 2016.11 53