異常ネルンスト効果を利用した新規環境発電技術 のための材料探索 Keyword : 熱電発電、異常ネルンスト効果、強磁性体 研究の背景 熱電発電技術は熱エネルギーを直接的に電気エネルギー変換する環境負荷の小さい発電 技術として期待される。従来のゼーベック効果を利用した熱電発電技術に比べ、磁性体にお いて発現する異常ネルンスト効果を利用することにより、より簡便な構造で発電モデュールを 構成できるために、フレキシブルな環境発電応用が容易など様々な利点が期待される。 研究の狙い 異常ネルンスト効果(ANE)を熱電発電技術として応用するための大きな課題は、熱電能の低 さである。しかし従来までの研究において異常ネルンスト効果が系統的に調べられた例はFe などの一般的な強磁性材料に関するものがほとんどであり、未開拓の材料系が数多く残され ている。本研究の目的は、様々な組成・構造を有する強磁性体のANEを系統的に評価し、 ANEの起源を解明するとともに、応用に求められる巨大なANEを実現することである。 最先端研究トピックス 異常ネルンスト効果はある方向に磁化(M)した強磁性体に、熱流∇Tを加えた際にMと∇Tの双方と直交する方向(外 積方向)に電界Eが生じる現象である。電界と熱流が同軸方向に生じる従来のゼーベック効果と比較すると、熱流とな る面に磁性線を面内方向に結合させる極めて簡便な構造で電圧増幅が可能であり(左図)、大面積の熱源に対する応 用が極めて容易である。また熱流に対し電界が直交する特徴を活かすことにより、ゼーベック効果では困難だった複 雑な構造を持つ3次元的な熱源に対する応用も可能になる。例えば、右図に示すようなパイプ状の熱源に対し、磁性 線を螺旋状に巻き付け、磁化方向をパイプの長手方向に揃えれば異常ネルンスト電界は常にパイプの接線方向に表 れるため、容易に大きな電圧出力を得ることができる。これらを実現するためには、大きな異常ネルンスト効果を示す 強磁性材料の開発が必須となる。 •”Anomalous Nernst Effect in L10-FePt/MnGa Thermopiles for New Thermoelectric Applications” Sakuraba et al., Appl. Phys. Express 6, 033003 (2012). 文献 • 異常ネルンスト効果を利用した熱電発電, Y. Sakuraba et al., vol. 29 2014 パリティ • Y. Sakuraba, Scripta Materialia 111, 29-32 (2016) まとめ 実用化の目標 試算の結果、実用上求められるネルンスト係数は少なくと も10-20uV/Kと見積もられる。 これまでの研究より異常ネルンスト効果が大きな材料開発 の指針を得ることができた。 太陽熱、地熱、電気製品の排熱、体熱など微量な熱エネル ギーを利用した新しい環境熱電発電技術への応用IoT時 代に微小消費電力センサー等の独立電源として期待。 安価で埋蔵量の大きな磁性材料において、巨大な異常ネ ルンストを実現することが実用化に向けた最大の課題とな る。 磁性材料グループ 桜庭 裕弥 E-mail: SAKURABA.Yuya●nims.go.jp URL: http://www.nims.go.jp/mmu/ —173 —
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