(財)土木研究センターの活動 ~土木技術のさらなる発展をめざして~

土木技術資料 50-1(2008)
土研センター
(財)土木研究センターの活動
~土木技術のさらなる発展をめざして~
1.はじめに
また、最近の土木技術に係わる、新たで、高度
財団法人土木研究センター(以下「土研セン
かつ複雑な課題に対処するために、①河川海岸、
タ ー 」 と 記す 。) は 、土木 に 関 す る調 査 、 試験 お
②道路橋の免震構造,③地盤の各分野について高
よび研究の促進に努め、その成果の普及並びに国
度な技術と行政的判断能力を兼ね備えた専門家と
際技術協力の推進を図り、国土建設事業の発展向
学識経験者からなる常設委員会を設置しています。
上 に 寄 与 す る こ と を 目 的 と し て 、 1979年 に 設 立
2.1 企画・審査部
されました。
企 画 ・審 査 部で は 、 国総研 、 独 法 土研 を は じめ 、
以降、土木材料、地盤・施工、河川・海岸、道路、
大学、民間企業と連携して、社会のニーズに即し
耐震・耐風、橋梁・防食、環境・防災分野に高度な
た 道 路 橋 の免 震 構 造、 舗装 技 術 等 の共 同 研 究 ・開
知識と経験を有する熟練研究者を配し、国土技術
発研究を実施し、その成果を発表して技術の普及
政 策 総 合 研究 所 ( 以下 「国 総 研 」 と記 す 。) や独
に努めています。
立行政法人土木研究所(以下「独法土研」と記
写真-1は地震に強い道路橋設計講習会です。
す。)、大学、民間企業との共同研究を実施するな
ど、河川・湖沼の水質浄化技術をはじめ様々な実
用的な技術開発を行っています。
また、受託調査・研究により国や地方自治体、
民間企業の抱える技術的諸問題の課題解決を行な
うとともに、国総研、独法土研の研究成果を速報
する本誌「土木技術資料」の発刊、両研究所の研
究施設・実験機器の保守及び研究環境の整備を
行っています。
写真-1
2.組織と事業
道路橋設計講習会
また、コンクリート等の土木材料についての調
土 研セ ンタ ーの 組織 は、 図 - 1に 示 すよ うに 秋
査・試験・研究を実施しています。この他、民間
葉原の本部と、つくばの技術研究所に分かれ、総
が開発した技術の建設事業への適正かつ円滑な導
務部、企画・審査部、河川・海岸研究部、道路研
入を図るための審査証明や海外からの研修生受入
究部、地盤・施工研究部、材料・構造研究部、環
支援、海外の技術動向調査など、幅広く国際技術
境保全部、出版編集部で構成されている。
協力を行っています。
土木研究センター
2.2 河川・海岸研究部
本部
総務部
河川・海岸研究部では、数値解析や水理模型実
企画・審査部
験など適切な手法により、河川構造物・海岸・湖
河川・海岸研究部
浜保全施設など河川・海岸に関する計画・設計、
技術研究所
妥当性確認、照査、合意形成の支援、ならびに護
道路研究部
地盤・施工研究部
材料・構造研究部
環境保全部
図-1
なぎさ総合研究室
岸ブロック・消波ブロック・河岸浸食防止シート
など、河川・海岸構造物の水理性能評価を実施し
ております。
出版編集部
ま た 、 最 新 の 技 術 を 提 供 す る た め 、「 護 岸 ブ
土木研究センター組織
ロ ッ ク 水 理特 性 値 試験 法フ ォ ロ ー アッ プ 研 究 」、
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土木技術資料 50-1(2008)
土研センター
海岸侵食に対応した「高炉スラグを用いた養浜に
究・開発・評価に携わっております。これまで、
関する研究」を開始しています。
すべり、騒音、わだちなどの路面の問題や交通事
写 真 - 2は 水 理 模 型 実 験 の 事 例 , 写 真 - 3は 粗
故の多発箇所の課題解決、新しい交通安全施設の
粒材を用いた茨城県鹿嶋海岸の養浜対策の効果を
開発・性能評価を行ない、道路安全と環境の保全
示しております。
に貢献してきました。また、近年では、景観に配
慮した道づくり(シーニックバイウェイ)などで
企画立案、業務支援などにも実績を挙げておりま
す。技術開発としては、湿潤時でもすべり摩擦係
数が確保できる安全性の高いグレーチング路面、
騒音対策、凍結防止対策、ヒートアイランド抑制
対策に優れた多孔質弾性舗装、下水を供用しなが
ら既設管を切削・排土し、本管を更新するパイプ
リ ニ ュー アル 工法 の開 発を 行 いま した 。写 真- 4
写真-2
は 路 面の すべ り抵 抗の 実験 状 況で 、写 真- 5は 代
水理模型実験
表的防護柵の衝突実験の状況です。
養浜前 2002.9
養浜後 2006.11
写真-4
写真-3
路面のすべり測定調査状況
鹿嶋海岸の養浜 対策
特に、なぎさ総合研究室では、海浜・湖浜・砂
洲の変形を高精度に予測する数値モデルの研究開
発を継続すると同時に、豊橋技術科学大学を中心
と す る 5機 関 によ る「 先端 技 術を 用い た動 的土 砂
(a)
管理と沿岸防災」の共同研究を開始しました。
大型車(木製防護柵)
写真- 5
(b)
小型車(鋼製防護柵)
防護柵の性能評価実験
2.3道路研究部
道路研究部では、道路の路面特性調査(すべり
2.4地盤・施工研究部
特 性 、 騒 音特 性 等 )、交通 安 全 対 策、 道 路 付属 施
地盤・施工研究部では、主に地盤に関わる土木
設 性 能 実験 ( 防護 柵、 標識 、 各 種交 通 安全 施設 )、
材料や施工法、特に、斜面の防災や、軟弱地盤の
冬期道路対策、道路・舗装構造、道路騒音等の道
安定・沈下対策、地盤汚染対策の分野での調査・
路の安全性の向上と道路に関わる環境の保全・向
試験・研究を実施しております。
上を図るために、道路全般に係わる幅広い調査研
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軟弱地盤対策では、有明海沿岸の高規格道路を
土木技術資料 50-1(2008)
土研センター
経済的に建設するため、模型実験や現地実験で検
す。
証しながら、低改良率地盤改良+浅層地盤改良工
法など、新技術、新工法を取り入れた性能規定型
の地域の状況に適合した設計・施工技術基準の策
定を行いました。また、基準を事業に具体的に反
映させるためコンストラクション・マネージャと
して設計・施工の技術支援を行っています。写真
-6は高さ8mの気泡混合軽量土の試験盛土です。
写真-8
2.5
ジオテキスタイル補強盛土
材料・構造研究部
材料・構造研究部は、橋梁を始めとする道路構
造物の計画・設計・施工・維持管理、ならびに河
川・港湾等を含む土木構造物に用いる構造材料・
防食材料に関する調査・試験・研究を実施してい
ます。
橋梁の計画・設計・施工の分野では、インテグ
ラル橋梁の内外実態調査、鋼構造物溶接品質管理
写真-6
高さ8mの気泡混合軽量試験盛土
手法の提案等を行っています。また、橋梁維持管
また、独法土研の研究成果をもとに、公共建設
理の分野では、鋼橋の合理的な塗替え塗装として
事業において重金属等で汚染された土壌に遭遇し
局部補修塗装に関する提案、既設橋梁の耐震性能
た 場 合 の 対応 技 術 とし て、「 建 設 工 事に 遭 遇 する
評価と補強設計、塗膜劣化診断システムの開発な
地盤汚染対応マニュアル(暫定版)」等を取りまと
どを行っています。
めるとともに、実際の汚染遭遇現場に対して除去
や封込めなど、対策の技術的な支援を行っていま
す。
百
写 真 - 7は 大 型 袋 に よ るダ イ オ キ シ ン 汚 染 土の
封込め実験の状況です。
腐食補修箇所
施工前の状況
写真-9
ブラストによる素地調整後
鋼橋の局部補修塗装工法
写 真 - 9は 、 ブラ スト 工法 及 び重 防食 補修 塗装 に
写真-7
より、橋梁の腐食箇所に対策を施した事例であり、
大型袋によるダイオキシン汚染土封込め実験
この他、ジオ テ キ ス タ イ ル 補強土工法をはじ
橋梁の弱点を集中して補修することで、コストを
め、軟弱地盤対策、のり面保全技術などに関して
抑えながら寿命を伸ばすことができます。橋梁以
性能規定化の流れに応じた、より合理的な設計・
外では、道路遮音壁に関する衝撃試験、耐火試験、
施工基準を作成しています。
先端改良型ユニットの音響試験を実施しています。
写 真- 8は ジオ テキ スタ イ ル補 強盛 土の 写真 で
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一方、土木材料の分野では、無塗装耐候性鋼材
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土研センター
や高強度繊維補強モルタル等、新しい鋼材やセメ
を実施し、土木技術の普及促進を図っています。
ン ト 材 料 の ほ か 、 炭 素 繊 維 、 FRP、 チ タ ン 箔 等 、
また、昨年度から国総研、独法土研の研究開発
高分子材料や非鉄金属の土木構造物への適用に関
した新技術や土研センターが関わった技術の地域
す る 調 査 研 究 を 行 っ て い ま す 。 写 真 - 10 は 、
の建設企業への普及促進を図り、地域建設産業の
FRP歩 道 橋 の 設 計 技 術 に 関 す る 官 民 共 同 研 究 に
活性化を技術面から支援するコンソーシアム事業
お い て 製 作 さ れ た 模 型 橋 梁 で す 。 FRPの 材 料 単
(REC:地域環境コンソーシアム)を各地域と連携
価が比較的高価であるため、特に厳しい腐食環境
して立ち上げています。
や軽量性を活かせる用途への適用が期待されます。
(4)
環境保全
土研センターでは、国総研及び独法土研の研究
開 発 活 動 が 円 滑 に 行 え る よ う 、 昭 和 54年 か ら 実
験施設全般の点検整備業務を実施してきています。
両研究所は、多種多様で複雑な試験機や実験設
備を有しており、その保守・点検・整備にはハイ
レベルな技術が必要でありますが、これまで蓄積
したノウハウを活かし、また種々の資格を取得し
ている技術者により対応してきております。
また、電気設備関係では制御盤等の設計、製作、
写真-10
修 理 を 得意 と し、「 サーボ ア ン プ盤 」、「薬 品 漏洩
FRP歩道橋の模型橋梁
無線警報システム」等の製作実績があります。
このほか橋梁や河川構造物の材料や製品、技
術に関して各種の性能評価試験を実施しています。
3.その他の事業
土研センターでは、上記の調査・研究・開発活
動のほか、次のような事業を実施しております。
(1)
審査証明・性能試験
建 設 技 術 審 査 証 明 は 、民間 に お い て 研 究 ・開発
された新技術の建設事業への適正かつ円滑な導入
写真-11
を図ることを目的に、学識経験者等により「技術
審査」し、その結果を客観的に「証明」する制度
です。土研センターでは、土木系材料・製品・技術
を対象 に、これまで 150を越え る技術につい て審
査証明を行い、現場への技術普及に大きな実績を
の精度測定(検定)や草刈りした雑草等の簡易堆
肥化などの環境整備も実施しています。
国際技術協力
「土木工学国際研究交流助成金制度」を設け、若
手研究者を対象に助成のほか、国際研究交流や海
外の土木技術動向調査を実施しています。
(3)
これらの他、全国各地で使用されている流速計
4.まとめ
あげています。
(2)
実験廃水処理施設プラント棟攪拌機
点検運転
少子高齢化の進行、自然災害の増加、地球規模
での自然環境の変化など多くの課題を抱える中、
次世代のために美しく安全で活力ある国土を創造
し、継承していくことは、今日、わが国の最重要
技術普及
本誌「土木技術資料」等の出版をはじめ、国総研、
独法土研で発行された研究報告書等のコピーサー
ビスのほか、土研センターが行った開発研究を各
種技術マニュアルとして発行や技術講習会の開催
課題であります。このため、土研センターでは、
河川、道路、材料・施工、耐風・耐震など広い分
野の技術開発とその普及に、産・学・民・官の頭
脳の結集に努め、取り組んでおります。
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