米シェール決算―赤字幅縮小・新規投資を増額修正企業も、 生産増加に

米シェール決算―赤字幅縮小・新規投資を増額修正企業も、
生産増加には原油価格の一段高が必要
米国シェール企業の第 3 四半期決算が出揃った。原油生産量が日量で 5
万バレル近くある 20 社(*レポート巻末参照)の動向を分析した結果、コ
スト削減と新規投資抑制によって、当期損失額は 32 億 6,000 万ドルまで
縮小、4 社が黒字転換した。原油価格が 40 ドル台/バレルの半ばで安定し
た(7~9 月期の WTI 期近平均価格は 44.94/バレル)ことも背景にある。
2015 年第 4 四半期の 341 億ドルの空前の損失計上から赤字幅は 10 分の 1
にまで縮小したことになる(グラフ 1)。
第 3 四半期の生産量が第 2 四半期(4~6 月期)に比較して増勢に転じ
ている企業も 7 社あることや、2017 年の生産計画に対するヘッジオペレ
ーションが順調に進んだこともあって企業マインドは好転している。QEP
リソ-シーズ、コンチネンタル・リソーシーズ、デボン・エナジーなどは
2016 年の新規投資額を上方修正するなど、守りの姿勢から強気な経営に
転じている。一方で、バランスシートの改善の手を緩めない堅実な企業も
多く、経営戦略の二極化が鮮明になってきた。ただ、10 月下旬から 50 ド
ル台/バレルを維持できずに急落した原油価格の影響は大きいとみられ、
予想よりも新規投資額が抑制される可能性も高く、生産量の減少に歯止め
がかかったのかを判断するのは早計とみられる。
グラフ1 シェール20社の四半期損失とWTI価格推移
20社合計損失(1000 USD)左軸
0
WTI四半期平均価格(USD/BBLS)右軸
-5,000,000
70.00
-10,000,000
60.00
-15,000,000
50.00
-20,000,000
-25,000,000
40.00
-30,000,000
30.00
-35,000,000
-40,000,000
20.00
14/4Q
15/1Q
15/2Q
15/3Q
15/4Q
16/1Q
16/2Q
16/3Q
各社の決算報告書を基にリム総研が作成
1
米シェール企業の原油生産量は 20 社合計で日量 210 万バレルまで減少
し(前年対比 10.7%減)ているが、前期比でみると 2.45%の減少に留ま
っている。しかし、生産量を維持しているのは、削減技術の進歩による 1
油井からの生産量の急増、優良鉱区への投資の集中、DUC(Dorilled but
uncompleted)油井からの生産によってその多くはもたらされている。
グラフ2 シェール20社 原油生産量
20社生産量合計(左軸)
前期比増減%(右軸)
2,500,000
2.0%
1.0%
USD/BBLS
2,400,000
0.0%
2,300,000
-1.0%
2,200,000
-2.0%
-3.0%
2,100,000
-4.0%
2,000,000
-5.0%
1,900,000
-6.0%
15/1Q
15/2Q
15/3Q
15/4Q
16/2Q
16/1Q
16/3Q
各社の決算報告書を基にリム総研が作成
当期損益が黒字転換したデボン・エナジー(当期利益は 9 億 9,300 万ド
ル)やパイオニア・ナチュラル・リソーシーズ(同 2,200 万ドル)なども前
期比での原油生産量は減少している。デボン・エナジーは既存の油井全体
からの生産落ち込みを、高い収益性のある特定の油井(STACK PLAY の生
産量は前年同期比 38%増加)からの生産増によってカバーしているのが
実情だ。また、両社はヘッジ比率が高かったことも功を奏している(表1)
。
しかし、これまでの決算発表で開示されたヘッジ価格は 2017 年で 49.64
ドル/バレルと 2016 年のヘッジ価格の 54.94 ドル/バレルより低下してい
る。さらに、地下から原油を汲み出す費用である LOE(Lease operating
expenses)の削減が足元では続いているが、この先もこのペースで続くか
は予断を許さない(グラフ 3)。
表 1 原油ヘッジ比率(ヘッジ数量/生産量)
会社名
パイオニア・ナチュラル・リソーシーズ
生産量
2016 年
BPD
比率
134,240
83.43%
2017 年
USD/BBL
$65.41
比率
94.62%
USD/BBL
$49.15
2
WPX エナジー
38,900
78.16%
$60.13
88.83%
$51.45
ホワイティング・ペトロリアム
84,348
67.70%
$53.75
49.30%
$46.24
QEP リソーシーズ
54,621
67.66%
$51.21
58.69%
$50.88
デボン・エナジー
108,000
67.27%
$44.27
76.9%
$48.31
エンカナ
79,200
82.70%
$55.11
51.13%
$49.45
SM エナジー
47,200
72.08%
$56.92
46.87%
$45.73
EOG リソーシーズ
275,700
25.39%
$45.00
25.39%
$45.00
チェサピークエナジー
86,956
75.90%
$46.84
54.73%
$49.68
デンベリー・リソーシーズ(SWAP のみ)
59,297
69.99%
$41.60
38.58%
$41.78
EP エナジー
44,967
94.27%
$80.77
77.99%
$62.34
マラソン・オイル
122,000
46.72%
$48.71
12.29%
$49.33
レンジ・リソーシーズ
8,814
98.00%
$69.49
64.30%
$57.04
マーフィーオイル
45,029
55.52%
$50.67
39.97%
$50.60
シマレックス・エナジー
44,532
38.17%
$42.79
24.14%
$42.81
カリーソ・オイルアンドガス
23,942
57.43%
$57.11
34.46%
$51.30
ラレド・ペトロリアム
24,489
86.57%
$67.13
80.33%
$55.82
PDCエナジー
25,433
58.34%
$68.88
48.13%
$46.33
キャボット・オイル・アンド・ガス
10,233
39.90%
$38.00
0.40%
$50.00
66.59%
$54.94
50.89%
$49.64
平均
グラフ3 LOEの削減ペース
12.00
パイオニア・ナチュラル・リソーシーズ
ホワイティング・ペトロリアム
デボン・エナジー
ニューフィールド・エクスプロレーション(米国)
WPX エナジー
11.00
1バレル当たり
10.00
9.00
8.00
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
15/1Q
15/2Q
15/3Q
15/4Q
16/1Q
16/2Q
16/3Q
各社の決算報告書を基にリム総研が作成
3
やはり、DUC からの生産や新規投資が増加するかが今後の米シェール企業
の収益回復の鍵を握りそうだ。20 社合計の新規投資額は、60 億 3,700 万
ドルと低水準で、前期比 1.7%の小幅減少に留まった(グラフ 4)。生産開
始からまもなく生産量が減少してしまうシェール油井は、常に新規投資を
怠れないのがシェール企業の宿命でもある。このため、原油価格の下げ止
まりで、ようやく企業経営者の投資意欲が回復するかが注目される。
百万USD
グラフ4 20社新規投資の合計額
20,000
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
新規投資額の減少
は底打ちするか?
15/1Q
15/2Q
15/3Q
15/4Q
16/1Q
16/2Q
16/3Q
各社の決算報告書を基にリム総研が作成
ただ、実際に投資額が回復に向かうかは不透明だ。コンチネンタル・リソ
ーシーズが第 2 四半期決算報告で DUC の存在を示し、WTI 価格が 45 ドル/
バレル(天然ガスが 2.50 ドル/Mcf)以上ならば投資資金の回収が可能、1
油井あたりを仕上げるのに 300~350 万ドルの費用が必要と記載していた
が、第 3 四半期決算報告ではそのコストをそれぞれ 50 ドル/バレル
(3.00/Mcf)、350 万ドルに引き上げている。このことは、多くのシェール
企業が在庫として保有している DUC からの生産を急げば、これまで圧縮し
てきた水圧破砕などを実行する業者の手配にかかるコストが上がり、投資
回収に必要なコストが増加する可能性を示唆しているのかもしれない。
第 2~3 四半期の新規投資額である約 60 億ドルで生産量は微減に留まっ
ていることや、生産技術のさらなる進歩を合わせ考えると、投資額の増加
は生産増に直結していく可能性が高い(グラフ 5)と考えられる。しかし、
4
20社の生産量推移(BPD)
グラフ5 投資は低水準で生産量は?
2015年1Q~2016年3Q
2,600,000
15年3Q
2,400,000
15年2Q
16 年 1Q
15年1Q
2,200,000
15年4Q
16年2Q
16年3Q
2,000,000
0
5,000
10,000
15,000
20,000
シェール企業20社の資本投資額(百万USD)
各社の決算報告書を基にリム総研が作成
第 4 四半期に入ってから原油価格は急落し、10 月 1 日~11 月 4 日の WTI
期近価格の平均は 49.18 ドル/バレルとなっているが、これは 2017 年のヘ
ッジ価格である 49.64 ドル/バレルを下回っている。このヘッジ価格が企
業利潤を含んだ生産コストと考えれば、最近の原油価格の下落はシェール
企業経営者の投資マインドに冷や水をかけたのは想像に難くない。原油価
格の一段の上昇、50~60 ドル/バレルへのレンジ切り上げがやはり必要に
なると考えられる。
*シェール企業 20 社
アナダルコ・ペトロリアム、EOG リソーシーズ(米国のみ)
オクシデンタル・ペトロリアム(米国のみ)
、マラソン・オイル
コンチネンタル・リソーシーズ、アパッチ・コーポレーション(北米のみ)
ヘス・コーポレーション(米国のみ)
、デボン・エナジー
パイオニア・ナチュラル・リソーシーズ、ノーブルエナジー(米国のみ)
ホワイティング・ペトロリアム、チェサピークエナジー
エンカナ(米加の合計)
、デンベリー・リソーシーズ
ニューフィールド・エクスプロレーション、EP エナジー
マーフィー・オイル(米国のみ)、QEP リソーシーズ
SM エナジー、シマレックス・エナジー
2016 年 11 月 10 日
5