3 分の 1 近い企業が給与体系を見直し

2016/11/2
松本・長野・飯田支店
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特別企画:最低賃金改定に関する長野県内企業の意識調査
3 分の 1 近い企業が給与体系を見直し
採用時の最も低い時給と最低賃金の乖離率は 16.2%
はじめに
10 月1日から 20 日にかけて、全国で最低賃金が改定された。長野県においても、10 月1日を
効力発生日として最低賃金(時給)が 746 円から 770 円に改訂されている。今回の改訂は、政府
の「ニッポン一億総活躍プラン」や「経済財政運営と改革の基本方針 2016」
(骨太の方針)
、
「日本
再興戦略 2016」などを踏まえ、最低賃金が時給で決まるようになった 2002 年度以降で最高額の引
き上げとなり、すべての都道府県で 700 円を上回った。そのため、収入増加による消費活性化な
どが期待される一方で、人件費上昇による企業収益の悪化も懸念されている。
帝国データバンクでは今回、最低賃金の引き上げに関する企業の見解について調査を実施した。
本調査は TDB 景気動向調査9月調査とともに行っている。調査期間は9月 15 日~30 日。調査対象
は全国2万 3710 社、長野県 497 社で、有効回答企業数は全国1万 292 社(回答率 43.4%)
、長野
県 234 社(同 47.1%)
。
なお、最低賃金制度とは、国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金以上の賃金を労
働者に支払わなければならないとされる制度。改訂後の最低賃金は全国で 25 円、地域別では都道
府県ごとに 21 円~25 円引き上げられ、時給 714 円~932 円となる(産業別最低賃金は別途定めら
れる)
。
調査結果(要旨)
■給与体系を見直した企業は 32.5%
今回の最低賃金改定を受け、自社の給与体系を「見直した(検討している)
」と回答し
た企業は 32.5%だった。
「見直していない(検討していない)
」は 50.4%、
「分からない」
は 17.1%。
「見直した」の構成比は、企業規模が大きくなるほど高くなる機構がある。
■最低賃金と採用時の最も低い平均時給の乖離率は 16.2%
従業員を実際に採用するときの最も低い時給は平均 895 円。
新たな最低賃金 770 円を 125
円上回り、両者の乖離率は 16.2%となった。
■業績へ「影響はない」が 57.3%、
「マイナスの影響がある」は 23.1%
最低賃金の引き上げが及ぼす業績への影響について、
「影響はない」が 57.3%と半数を
超えた。一方、
「マイナスの影響がある」は 23.1%と、4社に1社近くは懸念を抱いてい
る。
■消費回復への効果、半数を超える企業で懐疑的
今後の消費回復への効果が
「ある」
とした企業が 8.5%だったのに対し、
「ない」
は 52.6%
と半数を超えた。
「分からない」も 38.9%に達したが、多くの企業が懐疑的に考えている。
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特別企画:最低賃金改定に関する長野県内企業の意識調査
1.給与体系を「見直した」は 32.5%、
「見直していない」は 50.4%
最低賃金の改定を受け、自社の給与体系の見直しを行ったか、あるいは見直しを検討している
かを尋ねたところ、
「見直した(検討している)
」企業は 32.5%(76 社)となった。
「見直してい
ない(検討していない)
」は 50.4%(118 社)と半数を超えたものの、3分の1近い企業が「見直
した」
、あるいは「検討している」と回答しており、最低賃金が比較可能な 2002 年度以降で最大
の上げ幅となった影響が表れる結果となった。
「見直した(検討している)
」と回答した企業の構成比を規模別にみると、
「大企業」の 37.8%、
「中小企業」の 31.5%、
「(中小企業のうち)小規模企業」の 24.5%と、規模が大きいほど高く
なる傾向がある。従業員規模別でも、
「301 人以上」の区分では 40.0%だったのに対し、
「5人以
下」は 25.9%にとどまっている。また、主要業界別では「製造」の 35.7%、
「サービス」の 33.3%、
「建設」の 28.0%、
「卸売」の 25.5%が「見直した(検
討している)
」と回答した。
企業からは、「もともと自社の賃金は最低賃金を考慮
して決めているわけではない」
「賃金だけ上げても、多く
の問題は解決しない」
「現実問題として、最低賃金に近い
金額では人が集まらない」
「最低賃金の引き上げにより、
能力のある従業員、経験を積んだ従業員の昇給を抑制せ
ざるを得なくなる」などといった様々な声が寄せられて
いる。
なお、全国の調査結果は「見直した(検討している)
」
が 35.0%、「見直していない(検討していない)」が
49.1%、
「分からない」が 15.9%。
「見直した(検討して
いる)
」と回答した企業の構成比は、長野県が全国を 2.5
ポイント下回り、47 都道府県別では低い方から 13 番目
に位置している。
給与体系の見直しについて、正社員、非正社員(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など)の雇用形
態は問わず、回答を求めた
2.従業員採用時の最も低い時給は平均 895 円
実際に従業員を採用するときの最も低い時給はどの程度なのだろうか。県全体の平均は 895 円
となり、改訂後の長野県の最低賃金 770 円を 125 円上回っている。最低賃金と採用時最低時給の
乖離率は 16.2%となった。
最低賃金と採用時最低時給は都道府県ごとにバラツキがある。両者の差が最大だったのは「東
京都」で 165 円。以下、
「島根県」
(162 円)
、
「沖縄県」
(161 円)などと続き、西日本を中心に差
が大きくなる傾向がみられる。東日本では、原発事故からの復旧が続く「福島県」が乖離率 21.5%
と高水準。なお、
「長野県」は最低賃金が高い方から 17 番目、採用時最低時給は同 18 番目、また
乖離率は低い方から 18 番目だった(以上次頁の表参照)
。
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従業員を採用するときの最も低い時給として、次の条件で回答を求めた。(1)正社員、非正社員(パートタ
イマー、アルバイト、臨時、嘱託など)の雇用形態は問わない、
(2)日給、週給、月給などの場合、時給に
換算する
3.引き上げ額、
「妥当」と考える企業が 44.9%
今回の最低賃金の引き上げ額を、企業側はどうとらえ
ているのだろうか。労働者やその家族が最低限度の生活
を維持していくうえで妥当と思うか尋ねたところ、「妥
当」は 44.9%(105 社)に達した。また、
「低い」
(14.1%、
33 社)が「高い」
(11.5%、27 社)を上回り、
「分からな
い」は 29.5%(69 社)だった。人件費増加要因となる改
訂には、
「中小零細企業は経営を維持できなくなる」との
声も聞かれるが、概ね受け入れられている様子が窺える。
なお、
「低い」と回答したのは「大企業」の 27.0%、
「中
小企業」の 11.7%、
「高い」と回答したのは「大企業」
の 2.7%、
「中小企業」の 13.2%と規模間格差が生じてい
る。
全国の調査結果は、「妥当」が 40.5%、「低い」が
18.1%、
「高い」が 11.6%、
「分からない」が 29.9%。
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4.自社業績に「マイナスの影響」とする企業は 23.1%
最低賃金の引き上げで、自社の業績に「影響はない」と
する企業が 57.3%(134 社)と半数を超えた。前段で、引
き上げ額を「妥当」と考える企業が最も多かったこととも
連動した結果だとみられる。一方、「マイナスの影響があ
る」
(23.1%、54 社)が「プラスの影響がある」
(0.4%、1
社)を大きく上回り、
「分からない」は 19.2%(45 社)
。規
模別では、
「大企業」の 16.2%、
「中小企業」の 24.4%が「マ
イナスの影響がある」と回答。企業からは「生産性の向上
が急務になる」との指摘もあり、人件費の増加が業績へ及
ぼす影響を懸念する企業は一定程度存在している。
全国の調査結果は、
「影響はない」が 57.9%、
「マイナス
の影響がある」
が 21.7%、
「プラスの影響がある」
が 1.7%、
「分からない」が 18.7%。
5.消費回復への効果が「ある」は 8.5%、
「ない」は 52.6%
労働者の収入増加による消費活性化が期待されている最低賃金の引き上げ。各社は今後の消費
回復への効果をどうみているのだろうか。
「ある」と考えて
いる企業は 8.5%(20 社)にとどまり、
「ない」は 52.6%(123
社)に達した。
「分からない」は 38.9%(91 社)
。企業の中
には、
「最低賃金が 1000 円を超える水準にならなければ、
効果が出てこないのではないか」との声がある一方で、
「最
低賃金が 1000 円を超えると、業績へ悪影響が及ぶ」との指
摘もあった。また、正規・非正規雇用や配偶者控除などと
いった諸問題の解決に本格的に取り組まなければ、最低賃
金を多少引き上げても効果は薄いとの意見も複数寄せられ
ている。
全国の調査結果は、効果が「ない」が 53.7%、
「ある」が
10.2%、
「分からない」が 36.2%。
まとめ
2016 年度の最低賃金改定は、10 月1日から中旬にかけて全国で実施された。長野県も 10 月1
日に改訂され、最低賃金(時間額)は 746 円から 770 円へと 24 円引き上げられた。全国・長野県
とも、引き上げ額は比較可能な 2002 年度以降で最も大きなものとなり、このところ弱含みが続く
消費が改善する基盤となることも期待されている。
今回の調査では、最低賃金の改訂を受け、給与体系の見直しを行った企業が 32.5%と3分の1
近くに達していることが判明。また、引き上げ額を「妥当」と考える企業が 44.9%、自社の業績
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に「影響はない」が 57.3%と、比較的冷静に受け止めているようにみえる。昨今、表面化してい
る人手不足問題と絡み、企業の間にも賃金上昇が必要だとする見方が拡大。一方、採用時の賃金
を引き上げることで、給与体系全体のバランス維持が難しくなるといった悩みを抱える企業もあ
る。
他方、今後の消費回復への効果としては、
「ある」とする企業が 8.5%にとどまった。多くの企
業が懐疑的にみており、労働者の収入が多少上がったところで好転するとは考えられないほど現
状認識が厳しいことを物語っている。労働時間の規制や同一労働・同一賃金、配偶者控除の行方
に対する関心も上昇。
「賃金を含め労働政策を誤ると、かえって雇用機会を減少させることになり
かねない」との声も聞こえてくる。また、自社業績に「影響はない」が半数を超えたとはいえ、
「マ
イナスの影響がある」が 23.1%と4分の1近くに及んでいることも事実。コスト負担の増加を懸
念する企業に向けた対策も必要となっている。
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