細菌学実習テキスト 2016 年度(平成 28 年度) 山口大学大学院医学系研究科 ゲノム・機能分子解析学講座 (旧医学部微生物学講座) 細菌学実習 1/35 は じ め に 新しい病原菌の発見、多剤耐性菌による感染症の蔓延、結核など古い感染症の再興など、現代社会は再び 感染症の脅威に曝されている。感染症の重要性が注目されている所以である。また、病原生物の実習に先立 ち、病原性微生物取り扱いの教育訓練とライセンス認定試験を実施致します。これは、実習参加 者の安全・衛生により配慮すること、実習で扱う病原生物による環境への影響を最小限にするこ とを目的としています。このライセンスを取得出来ない学生は2回目以降の実習に参加出来ませ ん。 【実習の目的】 医学部における微生物学実習の目的の第一は、感染症の原因となる病原微生物に関する知識を修得するとと もに、感染防止に対する的確な配慮を行いうるよう取り扱いの基礎技術を修得することである。諸君は将来医 師として、病原微生物を排出している患者に接する機会が必ずある。事前に感染症であるかどうかもわからな い患者にどのように接して、どのように診断して治療を行うのか。感染や汚染の防止に、本実習で病原微生物 に接した経験が必ず役立つ筈である。 実習では、初めに非病原菌や弱毒病原菌を取り扱う。これらを用いて基本操作(無菌技術,基本染色,培養 法など)を十分習得したのち病原細菌を取り扱う。感染症の診断は一刻を争うことがある。将来ベッドサイド で、自ら染色と検鏡を行えるように手技を習得してほしい。一般的な細菌や真菌については、供覧に試料を用 意するので十分観察してほしい。ヒトの身体や環境の常在菌を知ることも重要である。本実習では大きなテー マとして自分たちの常在菌の同定を行うので、実際の生体から試料を観察することを通して人間と微生物との つながりについてよく考察してほしい。 本実習の第二の目的は、実験を通してしっかりとした観察力を身につけ、観察した現象を数学的に統計的に 解析する思考や現象の原理を考える習慣を身につけることである。例えば、細菌の選択培地や鑑別培地は、そ れぞれの性質に応じて巧みに考案されている。色の変化など注意深く観察し、それぞれの現象の原理を考えな がら実習してほしい。十分に予習して実習に望むことを期待するが、たとえ実習後になったとしてもテキスト には随所に設問が用意してあるので、教科書や参考書で十分学習し考察してほしい。 この実習書は実習の目的単位ごとの構成としている。これにより、実習の作業中に実習の内容を把握するこ とは容易であると考えている。しかし、逆に実習各日に必須な作業を忘れてしまう可能性があり、注意が必要 である。また、レポートも実習内容ごとに合計4種類提出してもらうので、くれぐれも提出忘れのないように 注意すること。 【注意事項】 実習中は以下のことに特に注意してほしい。 1.実習は便宜上グループで行うが、染色など操作は各自行うこと。単純な流れ作業を行わないこと。 2.実習時の感染事故を防ぐため,以下の点に特に留意する。 1)十分予習をし、扱う細菌の危険度について知っておく。 2)各週の最初に実習講義を行う。その時の注意事項を厳守すること。 3.共通作業台や供覧台で行う実習では、班毎の時間が指定される。 4.実習内容ごとに実習書にはない指示がある時には、注意してそれに従う。 本実習は多くのテーマを取り扱うので、集中して行わないと何をやっているかわからなくなる。また、注意 力が散漫になると感染の危険性がある。本実習の隠されたテーマは諸君の集中力を養うことである。成功を祈 る。 平成 28 年 10 月 細菌学実習 2/35 も く じ レポート課題 実習日 ページ はじめに 2 もくじ 3 その他 Ⅰ.日程表 4 Ⅱ.班分け 5 Ⅲ.実験室見取り図 6 Ⅳ.実習評価とレポートについて 7 準備・片づけ Ⅰ.教育訓練1 (各班) 観察と鑑別 R 1 R 2 10 月 20 日 8 Ⅱ.滅菌と消毒(教育訓練2) 20 日 9 Ⅲ.細菌の培地 20 日 10 Ⅳ.ライセンス認定試験(実技・口頭試問) 20 日 11 20-26 日 12 Ⅱ.真菌(供覧) 25, 26, 28 日 15 グラム陰性菌 Ⅰ.典型的な細菌(供覧) 25, 26, 28 日 18 25-28 日 19 27 日 21 微生物の観察 Ⅰ.細菌の培養と染色 Ⅱ.腸内常在菌 付録 細菌学実習 R 3 グラム陽性菌 Ⅰ.典型的な細菌 R 4 薬剤感受性試験 27 - 28 日 22 1.実習に用いる培地 23 2.細菌の代謝 25 3.健康成人の消化管各部位の菌叢 26 4.抗生剤 27 5.実習に用いる細菌の特徴 28 6.薬剤感受性 30 7.レポートのひな形 31 3/35 I 日 程 表 (10月20日の時間割) あいさつ 全体説明、準備説明 細菌学実習 長谷川 長谷川 4/35 Ⅱ.班分け表 細菌学実習 5/35 Ⅲ 実 習 室 の 配 置 各班実験台 1~25 丸印のテーブルに顕微鏡を設置する 細菌学実習 6/35 Ⅳ.実習の採点方法とレポートについて (実習評価) 病原性細菌パートの実習評価はすべての実習に出席しすべてのレポートを提出した 学 生 を 対 象 に 行 う 。 実習評価の内容は、出席点、レポート評価点、態度点である。 (レポート作成) (1)レポートは実習の評価の上で重要なものである。レポート提出は各実習内容ごとに設定した締め切りま でに提出する。それぞれのレ ポ ー ト の 内 容 量 は A 4 版 用 紙 5 枚 程 度 (結果のスケッチや表などは別紙にま とめてもよい)とするが、それ以上でも構わない。内容は各レポートごとに「目的・方法・結果・考察」の順 に要領よくまとめる。 (2)レポートは基本的に日本語で記述してください。 (3)他の学生とレポート作成に当たって議論することは大いに歓迎します。しかし、その議論の末に1つ の結果に至ったとしても、他のレポートと文章が全く一致したり高度に類似することはあり得ないと考えて います。ゆえに、他の学生のレポートと著しく類似しているケースには、その全員のレポートを不公 正なレポートと見なし基本的に実習評価を行いません。また、昨年度までの内容が変わっていますので、 過去の学生のレポートを参考することは否定しませんが、十分注意してください。明らかに過去のレポー トのコピーであると考えられたケースも、やはり実習評価を行いません。 (4)一般的な記述要領 【目的】実習書をコピー&ペーストしてはならない。実習書にある「目的」は考察にすべき内容が多分に含 まれている。自分の言葉で実習の意義を簡潔に記述する。 【方法】実習書をコピー&ペーストしてはならない。実習書の記述を簡潔にまとめて書く。また、各自の実 験によってその方法は異なるはずであり、それを記載すること。例えば予期せぬ結果が得られた場合や予定 外の(間違った)実験を行った場合、その結果を考察する上で方法の記載は重要である。用いた菌名や培地 名、その培地の組成なども簡潔にまとめる。 【結果】実験の結果を記述する。形態学的観察についてはスケッチを示し、同時にそれを言葉で表現するこ とも重要である。一般に「結果」には教科書の内容や自分の考え・感想などは記載しない。例年、統計的な 記述に乏しいことので、たくさんある対象物を観察した時や3回以上同じような実験をした時などは、観察 と同時に、統計的なデータも得られるはずであることに注意してほしい。 【考察】以上の結果を踏まえて分かったことや考えられることを記述する。既に「結果」で記述した内容を 「考察」で繰り返して書かないこと。レポートを採点する上で「考察」は最も重要なポイントである。本実 習では教科書の記載と実際の観察を比較する。実験方法の原理を記述することは非常に望ましい。 【観察・考察のポイント】実習をより深く理解するために実習書に観察・考察のポイントが書かれている。そ れぞれは必須な設問であることが多いので、それぞれに簡潔しかし十分に答えるように心がけてほしい。 【文献の引用】レポート中に他者の意見や知識を記述する場合は、必ず引用をつけてください。引用記述は、 その記述者の名前や所属が明示された「責任ある情報」である必要があります。インターネット上に散在する 情報はこの「責任」が不十分であることが多く、引用には不適切な場合がありますので注意してください。一 般的に引用物としては教科書や辞書などの著作物が適しています。 (5)レポート提出期限(予定)と担当者 提出期限(予定) R1 微生物の観察 11 月 4 日(金) 13:00 R2 グラム陰性菌 11 月 4 日(金) 13:00 R3 グラム陽性菌 11 月 4 日(金) 13:00 R4 薬剤感受性試験 11 月 4 日(金) 13:00 細菌学実習 7/35 担当者 浅岡 長谷川 長谷川 荻野 Ⅰ.教育訓練について 今年度も病原生物学実習を開始するにあたり、1回目の実習時間に病原性微生物取 り扱いの教育訓練とライセンス認定試験を実施します。これは、実習参加者の安全・衛生 により配慮すること、実習で扱う病原生物の環境への影響を最小限にすることを目的とし ています。このライセンスを取得出来ない学生は2回目以降の実習に参加出来ません。 1. 実習時の注意 (1)感染防止のために(Preventing infection) a.爪を短くする。長い髪はたばねること。 b.実習時は名札のついた専用の白衣を着用し、手拭きタオルを持参する。 c.指示によりマスクをつける。 f.実験台は常に整頓し、実験の記録は安全な場所で行うこと。 j.実験台は使用前後に、0.1%オスバンを用いて雑巾掛けする。 k.実習室を退出するときは、手洗い用消毒液(ヒビスクラブ)で手を消毒する。 h.病原菌の入ったシャーレやスライドグラスは滅菌後廃棄する。 i.細菌液をこぼした時は 0.1%オスバンで消毒し、指導者の指示を仰ぐ。 l.白衣は、微生物学実習、寄生体学実習専用とし、実習中は外に持ち出さない(実験台の下に)。 実習終了時に持ち帰り約 10 倍希釈のハイター液で一晩消毒した後、洗濯をする。 (2)汚染防止のために(Preventing contamination) a.被検材料に雑菌を混入させないため、無菌操作に習熟する。 b.窓を閉めて通気がないようにする。 (3)安全・衛生のために a.カバン等の荷物は準備室に置く。貴重品の盗難に注意すること。 b.バーナーは一時的に使用しないときは消す、また必ず元栓を切る。 実習中はガス管から取り外さないこと。ガスバーナーで髪を燃やさないように注意する。 c.固化していない寒天は相当熱いので、取り扱いには注意すること。 d.スライドグラス入りタッパーウエアは、引火しないようバーナーから離して蓋をとること。 もし引火したときは濡れ雑巾をかぶせ空気を遮断すること。 2.実習の準備 (1)班分けと当番 テーブルの列ごとに担当の教官(ページ5)が指導者として配置される。各実習日の終了時に、植菌など忘 れていないか調べ、指導者の点検を受ける。 (2)実習器具の配布 a.各班(青篭入り) ガラス鉛筆、マジックペン、グラム染色用染色液(3)、ティッシュ、(以上各1ヶ) 染色トレイ、ピンセット、白金耳、白金線、白金耳台、ガスバーナー、ガーゼ(以上各2ヶ) 染色用ガラス棒と固定用厚紙(4ヶ)アルミ製洗濯バサミ(6ヶ) b.2班共通(各机) ライター、スライドグラス(脱脂のため純エタノールに漬けてある)、雑巾、洗面器、実習器具を 点検後、バーナーを正しく装着する。 (3)顕微鏡(Microscope) 顕微鏡・対物レンズは各班に2台ずつ配布される。割り当ての顕微鏡番号と格納場所、使用場所 を確認する。対物レンズは準備台にある。使用後、オイルを拭きとって元に戻す。 3.実習設備と機器 (1)恒温室(培養室)(Incubation room) (2)恒温槽(Incubation bath) (3)乾熱滅菌器(Dry-heat sterilizer) (4)高圧滅菌器(Stream autoclave) 細菌学実習 培養に使用するため、37 ゚ C に設定。 作業台に設置し、寒天培地の保温、反応などに使用。 滅菌室に設置、金属やガラス器具の滅菌に使用。 滅菌室に設置、培地および廃棄物の滅菌に使用。 8/35 Ⅱ . 滅 菌 と 消 毒 (Sterilization and Disinfection) ( 教 育 訓 練 2 ) 1.消毒(Disinfection) (1)毎回実習時に各机で洗面器に 0.1%オスバン液 2 リットルを調整する。これを用いて、菌液をこぼした ときは雑巾で絞りかける。また、実習の前後に雑巾で実験台の消毒を行う。 (2)手洗い場にヒビスクラブを準備し、手指の消毒法を実習・実践する。 (3)小さな傷口がある場合はあらかじめバンドエイドで覆っておく。大きな傷がある場合にゴム手袋 を着用するなどして、菌が傷口に触れないようにする。 2.滅菌(Sterilization) (1)培地の調製 細菌培養のための培地の調製にはオートクレーブを使用する。 (2)汚染器具などの廃棄 使用済みのスライドグラスは準備台または供覧台に配置した滅菌缶に入れ、オートクレーブ滅菌後廃棄する。 使用済み培地も滅菌後廃棄する。 (3)火炎滅菌 細菌試料を取り扱う時には白金耳と白金線を火炎滅菌する。 無菌操作-1.白金耳の持ち方と火炎滅菌 無菌操作-2. 試験管の持ち方 植菌や染色の目的で細菌材料を採取するには白 金線や白金耳を用いる。材料を無菌的に取り扱うた め、材料の採取前および採取後に十分火炎滅菌する。 酸化炎と還元炎を使い分ける。白金線や白金耳を冷 ます時は寒天培地に穿刺する。 (振ってはいけない) 細菌学実習 9/35 Ⅲ . 細 菌 の 培 地 (Culture media) 目的:細菌培養には、液体培地と、寒天を添加した固形培地が用いられる。目的に応じて培地の形状、組成を 選択する。ここでは基本的な培地である普通寒天平板培地の作製法を理解・習得する。なお、実習で用いる培 地の説明は巻末の付録に記載してあるので参照すること。 方法: (教官による事前の準備)500ml の三角フラスコに市販の粉末普通寒天培地 10.5 g をとり、蒸留水 300 ml を加えて混和し、オートクレーブにて15分間加温し滅菌する。穏やかに混ぜて寒天を均一し、65˚C で保 温する。 (各班、各自)供覧台で、各班 500ml の三角フラスコ1つを受け取り、穏やかに混和後(泡立ててはい けない)、約25ml ずつプラスティック製のシャーレに流し込む。シャーレ中央にゆっくり注ぐと培地 がシャーレの底を覆っていくが、底面全体が培地で覆われるくらいで約20—25ml となる。培地やガ スバーナーで火傷をしないよう注意すること。各自シャーレ2枚に培地を注ぎ、終了。次回の実習で使 用します。 斜面寒天培地(Slant) (教官があらかじめ準備しておく) 方法:供覧台で、各班 500ml の三角フラ スコに市販の普通寒天培地 10.5 g をと り、蒸留水 300 ml を加えて混和し、オー トクレーブにて5分間加温して寒天を溶 かし、均一の液とする。図5のように、メ タルキャップ付試験管に約 9ml ずつ分注す る。分量を記した試験管があるのでその高 さまで培地を入れればよい。班毎に紐で束 ね、篭に入れ、当番がまとめて高圧滅菌す る。寒天培地に使用したフラスコ、濾斗な どは寒天が固まらないうちに水で薄めて 流す)高圧滅菌後、準備台の上でガラス管 の上に斜めにおき、斜面培地とする。(合 計200本) 廃棄物の滅菌処理 ・実習で使用したスライドグラスは供覧台のスチール缶に回収 ・廃棄する使用済みプレートはオートクレーブ用かごに回収。 ・廃棄する培地の入った試験管はオートクレーブ用かごに回収。 ・斜面培地などの滅菌処理 ・個人の糞便は、持ち帰るか、可燃ゴミ。 ・白衣は実習終了後に持ち帰り、漂白後に洗濯する。 ・染色液、トレーなどの実験器具は最終日に回収方法を連絡します。 細菌学実習 10/35 Ⅳ.病原性微生物取り扱いの教育訓練とライセンス認定試験 【目的】感染症が疑われる症例の場合、その患者から得られた試料(糞便、尿、膿、喀痰など) を直接検鏡することは、迅速に患者の状態を把握するための有効な手段である。しかし、そ の試料の調製や取り扱いが不適切な場合、本人をはじめとして関係者への新たな感染の原因 となり得る。病原性微生物が含まれている試料の適切な取り扱い方の習得を目的として、レ ポート課題 R1(微生物の観察)のグラム染色の試料調製部分を用いて教育訓練を実施する。 また、病原性微生物試料の適切な取り扱いの習熟を持って、本病原性微生物学実習を履修す るに必要なライセンスを認定する。 【方法】 材料:Staphylococcus aureus、Escherichia coli 試料取り扱いの準備: (各自で教官が来る前に準備しておく) (1)染色用トレイにガラス棒(2本一組)のスライド グラス台を準備する。ピンセット(大)を用いてス ライドグラスを1枚とり、乾いたガーゼでよくこす る。スライドグラスに脂肪が残ると試料が均一に広 がらない。 S S+E E (2)温めたスライドグラスの上にガラス鉛筆で直径約 15mm の輪を3つ書く。 (3)スライドグラスの3つの輪の中に微量の水道水を置く。 試料取り扱い: (実際の菌体の取り扱いは、教官の前でのみ行う。各自が菌体を使用せず 火炎滅菌などの十分な練習をしておくこと。) (4)火炎滅菌した白金耳を用いて、斜面培地に増殖している S. aureus を少 量取り、左の輪の水滴と混ぜ塗り広げる。その一部を中央の輪にも混ぜる。 このとき、斜面培地の材料の無菌的な取り扱いを心がける。(実習書9ペ ージの無菌操作の項参照) (5)白金耳はただちに火炎滅菌する (6)E. coli も同様にして右の輪に塗り広げる。その一部を中央の輪にも混ぜ る。 (7)スライドグラス上の菌液を乾燥させる。 (8)スライドグラスをガスバーナーの外炎を2−3度通過させることにより菌を熱固定する。 以上を教官の目前で行うライセンス認定に必要な習熟すべき手技とする。教官から十分習熟している と評価されるまで練習する。 ライセンスが認定された学生は レポート課題 R1(微生物の観察)のグラム染色を進める。 細菌学実習 11/35 レ ポ ー ト 課 題 R 1 基 本 的 な 細 菌 の 取 り 扱 い と 観 察 I 細 菌 の 観 察 1.細菌の染色(グラム染色)と観察(10月20日) 実習では Gram の原法でなく市販のグラム染色液を用いる。 染色用試料の調製は、ライセンス認定の際に作製した試料を使用する。 適切な染色ができるまで、スライドを再調整し染色・観察を試みる。 【目的】 本実習の基本的手技である無菌操作と細菌の染色法、グラム染色法(Gram stain)を習得する。 【方法】 材料: Staphylococcus aureus, Escherichia coli 斜面培地 各 1 本/班 染色液 A、脱色液、染色液 B a) 染色 (1)熱固定した標本にグラム染色A液を載せ、1分間染色する。 熱いままで染色すると色素が析出し、グラム陽性球菌と紛らわしい。 (2)染色液をバットに捨て、塗抹面を下にして水洗し、水を出来るだけ振り切る。 (3)脱色液をスライドグラス全体にかけて軽く揺すり、A液を溶出させる。 (4)A液がある程度溶出したところで直ちに水洗し脱色を停止し、水を振り切る。 脱色が行きすぎるとグラム陽性菌が赤色になる。不十分だと陰性菌が紫色になる。 脱色の停止時期を会得することがグラム染色の最も重要なコツである。 (5)グラム染色B液をのせ、1分間対比染色する。 (6)軽く水洗後水を切り、ちり紙で軽く押さえて水分を除き、自然乾燥する。 グラム染色する際は、常に一枚のグラス上に大腸菌とブドウ球菌を染色することで、染色のコントロールとす ること。 b) 鏡検 (1)細菌標本の検鏡には油浸系100倍(黒線入り)の対物レンズを使用。対物レンズは準備台 の顕微鏡番号に該当するものを使用する。また、顕微鏡用オイルも準備台にある(班番号)。 (2)顕微鏡はコンデンサー(ステージの下にあるレンズ)を一番上にする。 (3)標本の上に油を少量置き(小さい1滴程度)、横から見ながら対物レンズの先端を静かに油の 中に入れ標本面に接触させる。 (4)接眼レンズで上から覗きながら、まず粗動ネジで対物レンズを標本面から離しながら大体の焦 点を合わせる。 (5)ランプの光度と絞りで明るさを調節する。(明るくしすぎない!) (6)観察したものを記録に残す(スケッチ)。 (7)使用済みのスライドグラスは、廃棄缶に入れる。 c) 顕微鏡の片付け (1)使用後、ランプの光度を0にして電源を切る。 (2)対物レンズを顕微鏡本体から外し、準備台にあるキムワイプで油を丁寧にかつ優しく 拭き取り、ケースに正しく納める。(上下を逆にしない、きちんとねじ止めをする。) (3)顕微鏡本体、とくに標本台の汚れを拭き取り、収納庫に戻す。 細菌学実習 12/35 2.分離培養(Colony isolation)(10月25日) 【目的】 細菌検査においては二種類以上の細菌が混在していると同定試験ができない。また、細菌学実 験では細菌集団を取り扱うので、使用する材料が均一集団(純粋 pure)であることが必要である。目的とする 菌以外の雑菌(contaminants)が混入しているとその実験は無意味になる。細菌の純化(purification)は大切な基 本操作である。細菌を純化するには、寒天平板培地を用いて分離培養(colony isolation)を行い、孤立集落の中か ら その菌の特徴を示す集落を選び、釣菌(fishing)して純培養(pure culture)する。 【方法】 (教官の指導・説明後に行うように。) 材料: Staphylococcus aureus, Escherichia coli 寒天平板 1 枚/人 (練習用 1 枚/班) (1)菌体の確認 初日に行ったのと同様、2種類の被検菌(S. aureus と E. coli)のグラム染色を行う。 (2)培地の準備 初日に各班で作製した寒天平板1枚に、菌の増殖、水滴がないことを確認する。 平板裏側の端の一画(1x3cm)にマジックインキで班と出席番号(名前)、菌名、日付を記入。 (3)分離培養 白金耳で被検菌1種類をとり、以下の4ステップに従って、平板表面に塗抹する。 注:分離培養の目的は材料中の細菌をバラバラにして孤立コロニーを作ることである。 寒天培地に傷を付けぬよう注意し(白金耳を培地面と出来るだけ平行に動かせば傷がつかない)、適当な速さ で白金耳を動かす。空中雑菌を拾わないよう平板は垂直にもつ。 ステップ1)白金耳で釣菌した菌体を平板の隅の方に、1cmx3cmの範囲に塗り広げる。 ステップ2)白金耳を火炎滅菌する。十分に白金耳を冷やす。 ステップ3)(ステップ1)の菌体を塗り広げたところから、白金耳で2回程度、菌体を引き出す。 ステップ4)(ステップ3)の白金耳で引き出した菌の一部を、まだ菌体を広げていない範囲に塗り広げる。 (ステップ1)で塗り広げたところに触れないようにする。 (ステップ3)とも接触は1回だけにするように。 細菌学実習 13/35 (4)平板を観察する。(10月26日) a.分離培養の結果何個の孤立集落が得られたか。(20 個くらいまでは数えて下さい。) b.孤立集落の特徴を次の項目について調べる。 1) 集落(コロニー)の大きさ 2) 隆起の程度(高さ) 3) 表面の光沢 4) 色調 5) 透明度 6) 構造(顆粒、しわなど) 7) 辺縁の形状(R: rough または S: smooth) 8) 硬度、粘度、乾湿性など (コロニーを白金線などで触れたときの様子) c.孤立集落から釣菌し,グラム染色を行う。 以後グラム染色をするときは、対照として左右に S.aureus と E.coli をおく。 2.純培養(Pure culture) (10月26−27日) 【方法】 (教官の指導・説明後に行うように。) (1)普通寒天斜面培地に菌名などを記入する。 (2)分離培養の孤立集落より、S. aureus と E. coli を、 白金線または白金耳を用いてそれぞれ斜面培地に接種 (inoculate)し、37 ゚ C の培養室で一夜純培養を行う。 (3)斜面培地における S. aureus, E. coli の発育性状を 観察する。各培地の菌をグラム染色する。 注意:斜面培地に発育した細菌は、以後対照菌として 使用するので各班で S. aureus, E. coli をそれぞれ1本ず つ残しておくこと。 細菌学実習 14/35 II 真 菌 の 観 察 1.供覧台の5種類の真菌の観察 実習2、3、5日目に展示してあるので、各自が時間のあるときに観察せよ。 a) 糸状菌 (filamentous fungi) 【目的】 真菌の分類は現在は形態を中心としている。したがってその基本構造である胞子と菌糸の形態、と くに胞子のそれが中心となって分類体系が形成されている。真菌のうち菌糸(hyphae)が増殖して菌糸体 (mycelium)を形成するものを糸状菌(filamentous fungi)という。本実習では,皮膚真菌症の原因となる Trichophyton, Microsporum のほか,Aspergillus, Penicillium を観察する. 【方法】 スライドカルチャー法で培養した糸状菌の標本を観察する。 供覧 A : Aspergillus fumigatus(図1) 培地中に伸びた菌糸の一部は分化し,足 細胞(foot cell)となり,これより垂直に分 生子柄(conidiophore)が伸びる。分生子柄 の先端は膨化しフラスコ型の頂嚢 (vesicle)を形成する。その上半分に梗子 (sterigma)が着生し,それから分生子 (conidia)が連続的に形成される。 供覧 B : Penicillium spp.(図2) Aspergillus fumigatus と形態は非常によ く似ているが、図のごとく分生子柄の先 端に頂嚢をつくらず,直接分岐して梗子 が,いわゆる箒状体を(ペニシラス: penicillus)を形成する点が異なる。特に この点に注意して観察せよ。 以下の2つの真菌はいずれも皮膚真菌症 の原因となるもので一括して皮膚糸状菌 (dermatohytes)と呼ばれる。特に、各菌 で列挙している項目について図を参考に して観察せよ。 供覧 C : Trichophyton mentagrophytes (図 3) 大分生子(macroconidia):比較的少数。 もしくは、これを欠く。棍棒状,外膜は 薄く平滑,多室性. 小分生子(microconidia):多数,主とし て球形,単純性およびブドウ状. その他:ラセン器官は豊富.厚膜胞子, 結節器官 供覧 D : Microsporum gypseum(図4は Microsporum canis) 大分生子:多数.ずんぐりした紡錘形、外膜粗造,4~6個の房室 に分かれる.しばしば先端に糸状突起あり特徴的.小分生子:菌糸 壁に側生,棍棒状.その他:厚膜胞子,ラケット状菌糸,櫛状菌糸, 結節状器官,まれにラセン器官 細菌学実習 15/35 b) 酵母・酵母様真菌 【目的】真性菌糸を作らない真菌には、酵母(yeast)および酵母様真菌(yeast-like fungi)がある。酵母のう ちヒトに病原性をしめすものは Cryptococcus neoformans であり、肺クリプトコッカッス症やクリプトコッカス 髄膜炎をおこす。酵母様真菌のカンジダ属は常在真菌で、そのうち Candida albicans がしばしば菌交代症の原 因となる。これらの菌についてその特徴を理解する。 【方法】 酵母・酵母様真菌の特殊標本 対物レンズ 40 倍、乾燥系で観察する。 供覧 E : Candida albicans 厚膜胞子(図10) corn meal agar で slide culture 法により培養後 lactophenol-cottonblue で染 色した標本 観察の要点: Candida albicans は、生体内では 2~3μm×4~6μm の卵円形でグラム 陽性の分芽酵母細胞と仮性菌糸(pseudohyphae)とからなる。Sabouraud dextrose agar 室温培養ではクリーム状集落を形成し特有の臭いがする。 corn meal agar では分芽胞子(blastospore)、仮性菌糸(pseudophyphae)の ほかに菌糸末端に厚膜胞子(chlamydospore)の形成をみる。仮性菌糸には 分芽(budding)した細胞の集団が付着する。Candida 属で発芽管があ れば、C.albicans と推定される。さらに sucrose utilization test で陽性で あれば C. albicans とする。 ちなにみ、ビールやパンの発酵でおなじみのパン酵母 Saccharomyces cerevisiae は出芽酵母と呼ばれ、仮根を形成せず、母細胞から娘細胞が 出芽する(図11参照)。 細菌学実習 16/35 「レポート課題 R1」のレポート作成のポイント(巻末にひな形を用意しています) 1)細菌染色の原理を整理する。 1.グラム染色によって染め分けられる原因となる細菌の構造の違い。 2.グラム染色によって染め分けられる細菌群が存在する意味。 2)「コンタミ」しないようにする注意点の整理。 3)大腸菌、ブドウ球菌の性状を簡単にまとめる。 4)真菌の種類とその性状、細菌の違いについてまとめる。 5)実習時間の制約上断腸の思いで割愛している典型的な細菌(群)や用語について、その細菌学的性状をそ れぞれ200字程度にまとめる。 1.結核菌 2.ビブリオ属菌(コレラ、腸炎ビブリオ) 3.細胞内寄生菌(レジオネラ、リケッチア) 4.スピロヘータ 5.マイコプラズマ 6.ヘモフィリス 7.ナイセイリア 8.枯草菌 9.クラミジア 10.ヘリコバクターピロリ 細菌学実習 17/35 レ ポ ー ト 課 題 R 2 グ ラ ム 陰 性 菌 ( 腸 内 細 菌 科 と 緑 膿 菌 ) 1 0 月 2 5 日 Ⅰ.腸内細菌科細菌の性状 1.腸内細菌科細菌の分離培養と確認培養 腸内細菌科は真正細菌の分類項目(界門綱目科属種)の1つであり、学術的に定義される。一方「腸内細菌」 は動物の腸内に棲息する細菌の総称で学術的には定義されていない。大腸菌などはヒトや動物の腸内に生息す る「腸内細菌」であり、腸内細菌科細菌に分類される。一般的に、腸内細菌科細菌は通性嫌気性のグラム陰性 桿菌で、ブドウ糖の発酵により酸とガスを産生する。腸内細菌科細菌は下痢症の原因となるほか、尿路感染症 など日常的に見られる感染症や新生児髄膜炎、敗血症などの重篤な疾患の原因菌となりうる。ペスト菌のよう に消化管ではなくリンパ節や肺に感染する菌、クラブシエラ菌のように呼吸器疾患の原因菌も含まれている。 同定は主として生化学的性状に基づいて行われる。本実習では分離培地での培養性状を観察し、また確認培地 を用いた生化学的検査法を学習する。 目的:腸内細菌科細菌の生化学的判別方法を学習する。 被検菌: Escherichia coli, Salmonella typhimurium, Citrobacter freundii, Klebsiella pneumoniae Proteus mirabilis, Enterobacter cloacae, 観察のポイント:6種類の腸内細菌を MacConkey 培地と BTB 乳糖加寒天培地に培養し、その写真を提示して ある。その性状を観察せよ。 上記の細菌が TSI 培地,SIM 培地に培養し、その写真を提示してある。培養結果を観察せよ。 付録7にある表や図を参考にして各菌の培養性状、判定方法を学習する。 2.赤痢菌と大腸菌 O157:H7 の培養 赤痢菌はプラスミド支配の侵入能により腸管上皮細胞に侵入・増殖する。乳糖非分解、非運動性である。大 腸菌 O157:H7 は EHEC(enterohemorrhagic E.coli)の一種で、ファージ支配の志賀毒素(Vero 毒素)を産生し、出 血性大腸炎(HU,hemorrhagic colitis)を起こす。溶血性尿毒症症候群(HUS, hemolytic uremic syndrome)を併発する ことがある。sorbitol 分解 (-)、β-glucuronidase (-)で他の大腸菌と区別される。 実習では MacConkey 寒天培地とソルビトール添加 MacConkey 培地に培養した以下の細菌の写真を提示して あるので、その性状を観察する。 目的:病原性、非病原性の大腸菌の区別の仕方を学習する。 被検菌:Shigella flexneri, Eschcerichia coli(nonpathogenic), Enterohemorragic E. coli 観察のポイント:MacConkey 寒天培地とソルビトール添加 MacConkey 培地に培養した各細菌を写真で観察 する。 3.発酵と呼吸 大気中で増殖できるのは好気性菌と通性嫌気性菌 である。OF 試験により、エネルギー獲得系が呼吸型 (緑膿菌)か発酵型(霊菌)かを知ることができる。 また、大気中で発育できる細菌の多くは過酸化水素を 分解する catalase を持つ。また好気性菌は電子伝達系 として cytochrome c を持ちオキシダーゼ反応陽性であ る。腸内細菌科の電子伝達系は cytochrome c を持たず 陰性を示す。ここでは緑膿菌と霊菌を観察するととも に、細菌のエネルギー代謝について学ぶ。 目的:緑膿菌、霊菌の性状について学習する。 被検菌: Pseudomonas aeruginosa、 Serratia marcescens Hugh-Leifson 培地による OF 試験 実習では Hugh-Leifson 培地(付録1)に被検菌2つと大腸菌を培養した写真を提示してあるので、その性状を 観察する。OF 試験は図に従ってブドウ糖発酵型、酸化型、非発酵型を判定する。 観察のポイント: OF 試験で培地の色調が変化することの意味合いとその理由を考察する。 細菌学実習 18/35 II 腸管常在菌 目的:健康な人の皮膚や、目、口腔、鼻腔、消化管、腟などの粘膜には、各種細菌および真菌の集団が常在し、 常在菌叢(normal flora)を形成している。常在菌の多くは宿主と共生関係にあり通常は非病原性であるが、時 に日和見感染 Opportunistic infection の起炎菌となる。また細菌検査の際に混入する雑菌(contaminants)にも なりうる。そこで本実習では、各自の糞便中にどの様な微生物がどれぐらい存在しているかを確認し、糞便中 から単一の腸内細菌を分離しその同定を試みる。 1日目(10 月 20 日) 糞便採取用のカップ(5 ml のエッペンドルフチューブ)を各自持ち帰ること。 2日目(10 月 25 日) 材料: 新鮮糞便(各自持参) BTB 乳糖加寒天培地 (1)直接検鏡 検体 S E スライドグラスに水を1滴のせ,これに白金線で各自の糞便を少量混ぜて塗抹する。 E 熱固定後グラム染色を行い検鏡する。 注意:腸管内には偏性嫌気性菌が多く常在するが、BTB 乳糖寒天培地で好気培養では 発育しない。直接検鏡では発育しない細菌も観察することができる。(付録3) (2)分離培養 各自の糞便を白金耳で少量とり、BTB 乳糖寒天培地1枚に画線し、 37 ゚ C で 24 時間、好気培養する。 3日目(10 月 26 日) (3)培養性状の観察 平板上の孤立集落の特徴を次の各項目について調べる 1) 集落(コロニー)の大きさ 2) 隆起の程度(高さ) 3) 表面の光沢 4) 色調 5) 透明度 6) 構造(顆粒、しわなど) 7) 辺縁の形状(RまたはS) 8) 硬度、粘度、乾湿性など (コロニーを白金線などで触れたときの様子) (4)グラム染色、catalase, cytochrome c oxidase 試験 3つ以上のコロニー(なるべく性状の異なるもの)について行う。 a. 孤立集落をシャーレの底からマジックインキで印をつけ、白金線を用いて釣菌し、グラム染色、検鏡。 b. 同一集落の細菌について、catalase、cyt. c oxidase 試験を行い腸内細菌の可能性がある細菌を選ぶ。 Catalase 試験のネガティブコントロールは何も付けていない白金線で、ポジティブコントロールはその白金線 でかき取った大腸菌を使用する。cyt. c oxidase 試験ではネガティブコントロールに大腸菌を、ポジティブコン トロールには Pseudomonas aeruginosa を用いる。 *+,-./0 1234567879:;<=>?@ CDEF-GHIJKL-./0 1/0M9NOPQRST79!"UVWXYZ[\]^_@ %&'$AB'$$$()' !"#$%&'$$$$()' 注意:糞便を BTB 培地で培養すると、通性嫌気性菌の集落の中に偏性嫌気性菌が隠れて発育していることが 多い。釣菌の際、辺縁部から採取すると偏性嫌気性菌を採取する危険性は少ない。集落の中央深部から採取し た場合と比較してみよ。 細菌学実習 19/35 3日目(10 月 26 日) (5)糞便由来菌の純培養 各自の腸内細菌科と考えられる細菌集落を BTB 乳糖加寒天培地に純培養する。 (平板は各班2枚与えられるので、裏側からマジックインキで適当に4から6区画に区切りし使用しなさい。) 4日目(10 月 27 日) (6)糞便由来菌の純培養の観察 培養で得られた集落についてグラム染色、catalase 試験、cyt c oxidase 試験を行う。 4日目(10 月 27 日) (7)確認培養 各自の糞便由来菌の純培養菌について、TSI、SIM、OF 培地に接種し、24 時間培養す る。 接種の方法:TSI 半高層培地 SIM 高層培地、OF 高層培地 ・・・ ・・・ 斜面に塗抹し、高層部に穿刺 穿刺培養 TSI SIM OF 5日目(10 月 28 日) (8)確認試験 TSI と SIM 培地での培養、OF 試験の結果から菌種を推定する。 SIM 培地でのインドールテスト(コバック法)を行う。 腸内細菌科のそれぞれの菌種の結果表を参考にせよ。 コバック試薬:(5g p-dimethylaminobenzaldehyde, 75ml アミルアルコール, 25ml 濃 HCl) ペプトン中に含まれるトリプトファンがトリプトファナーゼによって分解され、インドールとピルビン酸を 産生する。インドールは酸性下でパラジメチルアミノベンツアルデヒドと反応して赤色を呈する。陽性なら アルコール層が真紅になり、陰性なら黄色または褐色にとどまる。SIM 培地を用いることもできる。 (9)成績のまとめ 以上の検査成績を順序よくレポートにまとめる。 細菌学実習 20/35 レポート課題 R3 グラム陽性菌 (10月27日) 【球菌】 グラム染色で陽性球菌と判断された菌を同定していくには、最初の鑑別すべき性状としてカタラー ゼ酵素を保有しているかの性状確認が重要である。Streptococcus 属はカタラーゼテスト陰性であるのに対し, Staphylococcus 属は陽性である。Streptococcus 属には、各種化膿症、猩紅熱、リュウマチ熱などの原因となる 化膿連鎖球菌( Streptococcus pyogenes )や、肺炎の原因となる肺炎球菌(S. pneumoniae)など重要な病原菌 ある。一方、口腔粘膜には各種の緑色連鎖球菌が常在菌として多数存在する。これらの菌は,血液寒天平板で 特有の溶血環を示すので,同定の手がかりとなる。 また,簡便な同定法として,化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)にはバシトラシン感受性が,肺炎球菌(S. pneumoniae)にはオプトヒン感受性が用いられる。 Staphylococcus 属のうち,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は,化膿症の原因菌として重要である。ま た、抗生剤に抵抗性をもち院内感染菌として重要な MRSA も黄色ブドウ球菌である。本菌は,coagulase 産生, DNase 産生,gelatin 液化,mannitol 分解などの点で他のブドウ球菌と鑑別される。 Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes、Streptococcus pneumoniae、Enterococcus faecalis (1)上記4菌種のグラム染色標本を顕微鏡で観察 (2)血液寒天培地に発育したコロニーの観察及びコロニー周辺の溶血環を観察 (3)血液寒天培地に接種した3菌株のオプトヒン、バシトラシンによる発育抑制の観察 以上の性状を各自のノートに記入していく。 グラム陽性球菌の簡易同定手順 グラム陽性球菌 カタラーゼ試験 陽性 陰性 OF 試験 血液寒天培地 F O α溶血 γ溶血 β溶血 Staphylococcus Micrococcus オプトヒン バシトラシン 感受性 抵抗性 抵抗性 感受性 コアグラーゼ 陽性 陰性 S. pneumoniae B 群連鎖球菌 A 群連鎖球菌 Enterococcus etc (S. pyogenes) S. aureus その他のブドウ球菌 . 【桿菌】 グラム染色で陽性桿菌と判断された菌を同定していくには、最初の鑑別すべき性状として芽胞形成 の有無を顕微鏡で観察を行なうことが重要である。芽胞は難染色性で、単染色ではその部分が抜けて見える。 菌種により、その形態(正円形 round、楕円形 oval など)、菌体内の位置(中央性 central、遍在性 subterminal、 端在性 terminal)が異なるので補助鑑別に用いられる。以上の点に留意して芽胞を観察する。また、グラム陽 性桿菌のグループには発育に酸素を嫌う偏性嫌気性菌が多く含まれる。嫌気性有芽胞菌のうち病原菌として重 要なものに、破傷風菌(Clostridium tetani), ガス壊疽菌(C. perfringens), ボツリヌス菌(C. botulinum)ディ フィシル菌(Clostridium difficile) がある。 嫌気性菌には強烈な刺激臭を発するものがあり、鑑別に使われる場合もある。 Bacillus 属菌は好気性有芽胞菌であり炭疽菌(B. anthracis)やセレウス菌(B. cereus)などの病原菌種を含む。また、 枯草菌(B. subtilis)は空中雑菌で、しばしば汚染菌として検出される。 Clostridium difficile、Clostridium tetani (1)上記2菌種のグラム染色標本ならびに芽胞を顕微鏡で観察 以上の性状を各自のノートに記入していく。 細菌学実習 21/35 レポート課題 R4 薬剤耐性菌と薬剤感受性試験 (11月12日) I 薬剤感受性試験 目的:臨床で分離される細菌には、緑膿菌や霊菌のように染色体性の遺伝子支配の耐性を示すもの(自然耐性) もあるが、Rプラスミドによる耐性菌も多い。特にブドウ球菌や腸内細菌にその例が多い。従って細菌感染症 の治療に際しては、まず薬剤感受性試験を行い使用できる抗生剤を決めることが必要である。 材料 濃度ディスク法による薬剤感受性試験 被検菌: Pseudomonas aeruginosa, Escherichia coli Staphylococcus aureus, MRSA 10 月 27 日 (1) 上記 4 種類の細菌の培養液の濁度を McFarland No.0.5(*)(1.5 x 10^8)なるよう生理食塩水で調整する。 (McFarland No.0.5 に調整した菌液を配布する) (2) 滅菌綿棒を菌液に浸し、試験管の管壁に軽く圧して余分な菌液をのぞいた後、ミューラ ヒントン寒天培地に3方向から塗布する。(綿棒に菌液をつけるのは最初に行った1回だ けでよい) (3)ピンセットを軽く火炎滅菌して、ディスクを寒天培地に密着するように軽く押さえて置く。 (ディスクを置いたら15分以内に培養室に入れ、35〜37℃で16〜18時間培養する。 10 月 28 日 (4)物差しで阻止円の直径を測定し、表2に従い感受性を判定する。 MPIPC: オキサシリン EM: エリスロマイシン CP:クロラムフェニコール GM: ゲンタマイシン TC: テトラサイクリン CEX: セファレキシン 薬剤配置図 感受性試験判定表(参考値) 薬剤 分類 オキサシリン ゲンタマイシン エリスロマイシン テトラサイクリン クロラムフェニコール セファレキシン ペニシリン系 アミノグリコシド系 マクロライド系 テトラサイクリン系 クロラムフェニコール系 セフェム系 記号 MPIPC GM EM TC CP CEX 含有量 mg (力価) 1 10 15 30 30 30 阻止円直径の判定区分(mm) 耐性 中間 感受性 ≦10 11~12 ≧13 ≦12 13~14 ≧15 ≦13 14~22 ≧23 ≦14 15~18 ≧19 ≦12 13~17 ≧18 ≦14 15〜17 ≧18 II. 細菌の観察 目的:院内感染症・日和見感染症の原因菌の性状を知る。ラクタム剤の作用機序について考察する。 (1)E. coli のβ-ラクタム剤阻止帯辺縁部とディスクから離れた遠隔部の細菌を白金線で少量とり、グラム 染色して subinhibitory dose の抗生物質存在下で発育した細菌の形態を観察する(菌体の形、大きさ、染色性、 溶菌の有無など)。抗生剤の作用機序にもとづき、その結果を考察する。 R4レポート課題 ① 薬剤感受性試験後の寒天培地(全体)をスケッチする。 ② 各薬剤に対する被検菌の感受性試験結果をまとめる。 ③ 阻止円の形状から各薬剤の作用機序について考察する。 ④ 阻止円周縁部の菌体を顕微鏡観察し、スケッチする。 ⑤ ④の細菌形態変化について考察する。 細菌学実習 22/35 付 録 1 実 習 に 用 い る 培 地 常用培地とその作り方 もっともよく用いられていて、しかもそのほかの培地を作るにあたっての基礎培地となる ものにつぎのような培地がある。 普通ブイヨン nutrient broth bouillon (液体培地) 〔作り方〕肉エキス 10 g、ペプトン 10 g、塩化ナトリウム 3 g を精製水 1,000 ml に加え、十分加温溶解したうえ、濾紙で 不溶成分を濾別する。pH を 7.2-7.4 に調整、必要量づつ試験管またはコルベンに分注、121℃で 15-20 分高圧蒸気滅菌する。 また肉水 1,000ml にペプトン 10g、塩化ナトリウム 5g を溶解して作ることもできる。前者を肉エキスブイヨン、後者を肉 水ブイヨンとよびわける。 肉水 beef infusion の作り方: 脂肪や筋膜をできるだけ取り去った 250-500g のウシ肉(ウマ肉でもよい)を細かくきざみ、 1.5-2.0 l のコルベンに入れ、水 1 l を加えて 1 夜氷室に放置する。翌日 1、2 時間、加湿滲出、冷えてから濾過し、濾液に 水を補充して全量を l l とする。この培地ではペプトンが主として窒素源と炭素源、肉水または肉エキスが主として炭素源、 無機塩源および発育素源となり、栄養要求のあまり厳しくない多くの菌種を発育させることができる。 〔使用目的〕一般細菌の培養と保存、各種の特殊培地、固体培地、半流動培地の基礎培地として用いる。 普通寒天 nutrient agar (乾燥培地) 〔作り方〕上述の要領でブイヨンを作ってから、精製寒天末を 15 g (1.5%)の割に加えて十分加温溶解したあと、pH を 7.2-7.4 に調整し、ガーゼか目の粗い濾紙で濾過する。試験管かコルベンに分注し、121℃で 15-20 分高圧蒸気滅菌。乾燥培地も 利用できる。以後、培地の作製方法はとくに特別な培地を除き、加温溶解し、121℃で 15-20 分高圧蒸気滅菌する。 〔使用目的〕一般細菌の分離と保存用のほかに、各種特殊培地の基礎培地として用いる。 〔実際の簡単な作り方〕500ml の三角フラスコに市販の普通寒天培地 (ブイヨンの粉末と寒天を含む)10.5 g をとり、蒸留 水 300 ml を加えて混和し、高圧滅菌(121 ゚ C, 15 min)する。これを 60℃の incubator で保温しておく。無菌箱中に、滅菌プラ スチックシャーレ 15 枚、消毒用アルコール綿、普通寒天培地を準備する。殺菌灯を消灯し、手指消毒を行ったのち、滅菌 プラスチックシャーレの蓋をとり、フラスコを持って約 20 ml(4-5 mm の高さ)ずつ分注する。殺菌灯を点灯し、寒天が固 まるまで放置後、蓋をする。 結核菌用培地 3%小川培地 (生培地) 〔組成と作り方〕リン酸二水素カリウム 3.0 g、グルタミン酸ナトリウム 1.0 g、全卵液 200 ml、グリセリン 6 m1、2% マラカイト緑溶液 6 ml、pH6.2 リン酸塩とグルタミン酸塩を 100 ml の精製水に溶かし、100℃30 分加温して 3%の原塩液とする。約 4 個の卵をアルコー ル綿でよくふいてから割り、滅菌したメスシリンダーか目盛りつきのコルベンに 200 m1 分をとり、十分に混合したあと 滅菌ガーゼで濾過する。原塩液 100 ml に全卵液 200 ml を加えて混合、これにグリセリン、マラカイト緑溶液を順次加え、 泡立たないように十分注意しながらよく撹拝する。滅菌中試験管に 6-7 ml ずつ分注し、血清凝固器に斜めにねかし、90℃ で 60 分加温して凝固滅菌する。市販されている。 〔機構と使用法〕この培地に加えられた全卵液は培地に含まれた微量の増殖阻害物質(とくに脂肪酸)を中和する作用をも つと同時に、培地の固化剤としての働きも兼ねている。この培地には上気道由来の雑菌の発育を抑制する目的でマラカイ ト緑が加えられている。 緑膿菌用培地 ヒュー・レイフソン Hugh-Leifson 培地 (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 ml あたり ペプトン 2.0 g、ブドウ糖 10.0 g、塩化ナトリウム 5.0 g、リン酸水素ニカリウム 0.3 g、 ブロムチモール青 0.03 g、寒天末 3.0 g、pH7.0-7.2 〔機構と使用法〕糖分解が酸化形式か、発酵形式によるかを区別するのに使われる培地。 この培地 2 本に菌を接種し、1 本はそのまま、1 本は流動パラフィンを重層したうえで 30-35℃で培養する。7-14 時間観察 すると、発酵形式の場合には 2 本とも糖分解が起こって指示薬の BTB が黄変するが、酸化形式の場合では流動パラフィ ンを重層したほうでは糖分解がみられず、培地の黄変はパラフィンを重層しないほうの培地で、しかもその上層部でのみ 観察される。 キング King 培地 (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 ml あたり A 培地: ペプトン 20.0 g,塩化マグネシウム(無水) 1.4 g,硫酸アンモニウム 10.0 g,寒天末 15.0 g,pH7.2 B 培地: プロテオーゼペプトン 20.0 g,グリセリン 10.0 g,リン酸水素ニカリウム 1.5 g, 硫酸マグネシウム 1.5 g,寒天末 15.0 g,pH7.2 〔機構と使用法〕Pseudomonas 属の産生する主な色素には、ピオシアニン(青緑色)とピオベルジンまたはフルオレッシン(螢 光性黄緑色)があり、その他にピオルビン(赤色)、ピオメラニン(褐色)などがある。菌株によりこの全部の色素を産生する ものがあるが、1 種または 2 種しか産生しないものもあり、特にピオシアニンおよびピオベルジン産生のない菌株ではふ つうの培地では特有な培地の緑変が起こらないので、鑑別を誤ることがある。A 培地はピオシアニンおよびピオルビン、 B 培地はピオベルジンの産生に適しているので、両培地を併用すればこの菌群の色素産生を確認できる。 病原ビブリオ用培地 TCBS 寒天 thiosulfate-citrate-bilesalt-sucroseagar (乾燥培地) 〔組成と作り方〕培地 1,000 m1 あたり 酵母エキス 5.0 g、ポリペフトン 10.0 g、塩化ナトリウム 10.0 g、チオ硫酸ナトリウム 7.0 g、クエン酸ナトリウム 10.0 g、 クエン酸鉄 1.0 g、ウシ胆汁末 5.0 g、コール酸ナトリウム 3.0 g、白糖 20.0 g、ブロムチモール青 0.04 g、チモール青 0.04 g 寒天末 15.0 g、pH8.8,加温溶解後、滅菌することなく平板に固める。 〔機構と使用法〕チオ硫酸塩、胆汁酸塩、クエン酸塩の相乗作用と高い pH によって Vibrio 属以外の菌の発育は強く抑制 される。この培地ではコレラ菌は黄色の集落を作るが、白糖非分解の腸炎ビブリオは変色しない。ときには,変形菌や腸球 菌群などが発育することもあるが、集落の大きさや色調によって容易に区別できる。コレラ菌および腸炎ビブリオのすぐ れた選択分離培地である。 嫌気性菌用培地 GAM 寒天 Gifu anaerobic medium (乾燥培地) 〔組成と作り方〕培地 1,000ml あたり ペプトン 10.0 g、ソイペフトン 3.0 g、プロテオーゼペプトン 10.0 g、消化血清末 13.5 g、酵母エキス 5.0 g、肉エキス 2.2 g 肝エキス末 1.2 g、ブドウ糖 3.0 g、リン酸二水素カリウム 2.5 g、塩化ナトリウム 3.0 g、可溶性でんぷん 5.0 g、L 一システ イン塩酸塩 0.3 g、チオグリコール酸ナトリウム 0.3 g、寒天末 15.0 g、pH7.2 115℃で 15 分高圧蒸気滅菌。また培地をワインベルグ管に分注して高層寒天とし、検体と混合したあと、混釈段階希釈培 養を行って孤立深部集落を作らせることもできる。 〔機構と使用法〕嫌気性菌に対して優れた増殖能力をもつほかに、好気性菌、通性嫌気性菌を含めて多種類の菌も発育可 能であり、日常広く用いられる。寒天濃度 0.2%のものは GAM 半流動寒天として、また寒天をぬいたものは GAM ブイヨ ンとして増菌に用いられる。また GAM 寒天にゲンタマイシン 25 ㎎/1 を含有させたゲンタマイシン加 GAM 寒天や GAM 炭水化物分解用半流動寒天も市販されている。 細菌学実習 23/35 腸内細菌用培地 BTB(BCP)乳糖加寒天 (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 m1 あたり:肉エキス 4.0 g、ペプトン 10.0 g、乳糖 10.0 g、BTB または BCP 0.04 g、寒天末 15.0 g、pH7.4 〔機構と使用法〕Drigalski と Conradi の培地を改良した腸内細菌の分離培地で、培地 pH の変化による集落の変色によっ て、乳糖非分解の腸内細菌と速やかに乳糖を分解して酸を産生する大腸菌群を鑑別するのに用いられる非選択性の培地で ある。乳糖分解性の大腸菌群は産生する酸のため黄色の大きな集落を作り、培地も黄変するが、乳糖非分解の腸内細菌(チ フス菌、パラチフス菌、赤痢菌群など)は青緑色、半透明の集落を作る。グラム陽性菌(ブドウ球菌や腸球菌)の発育はかな り阻害されて小さな集落を作る。Proteus 属のスウォーミングは抑制されない。 マッコンキー寒天 MacConkey's agar(乾燥培地) 〔組成と作り方〕培地 1,000 ml あたり:ペプトン 20.0 g、乳糖 10.0 g、胆汁酸塩混合物 1.5 g、塩化ナトリウム 5.0 g、ニュ ートラル赤 0.03 g、クリスタル紫 0.001 g、寒天末 14.0 g、pH7.0 加温溶解し、平板に固める.保存する場合には 121℃で 15 分高圧蒸気滅菌しておく。 〔機構と使用法〕腸内細菌のうち、乳糖分解菌群と乳糖非分解菌群とをより分けるための分離培地。SS 寒天と同様の機 構をもち、胆汁酸塩によってかなりの選択性が与えられている。 Salmonella 属や Shigella 属などの乳糖非分解菌群は無色透明な集落を、乳糖分性の大腸菌群は混濁した赤色集落を作り、 その集落の区別がきわめて明瞭である。 TSI 寒天 triple sugar iron agar (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 ml あたり:肉エキス 4.0 g、ペプトン 15.0 g、塩化ナトリウム 5.0 g、乳糖 10.0 g、白糖 10.0 g、ブドウ 糖 1.0 g、亜硫酸ナトリウム 0.4 g、硫酸第一鉄 0.2 g、チオ硫酸ナトリウム 0.08 g、フェノール赤 0.02 g、寒天末 12.0 g、pH7.4 〔機構と使用法〕クリグラー培地と同様の機構をもつ培地で、高層部に穿刺、斜面部に塗抹して 37℃で 18-24 時間培養す るとブドウ糖分解菌では高層部の黄変が起こり、乳糖および白糖分解菌、または乳糖と白糖のどちらかを分解できる菌で は斜面部の黄変も観察される。ガス発生と硫化水素の産生はそれぞれ高層部での気泡または亀裂形成、黒変によって判定 できる。 SIM 培地 sulfide-indol-motility medium (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 ml あたり、肉エキス 3.0 g、プロテオーゼペプトン 10.0 g、ポリペフトン 20.0 g、チオ硫酸ナトリウム 0.05 g、L 一塩酸システイン 0.2 g、クエン酸鉄アンモニウム 0.5g、寒天末 5.0g、pH7.4 〔機構と使用法〕この培地は半流動培地で寒天高層として用いられ、穿刺培養を行う。 腸内細菌の鑑別、確認培地で硫化水素 (S) 産生、インドール (I) 産生、運動性 (M) が検査できるほかに、インドールピ ルビン酸 indol pyruvic acid (IPA)の産生も判定できる。 OF 培地 oxidation-fermentation medium 〔組成〕培地 1,000 ml あたり、ペプトン 2.7 g、ブドウ糖 10 g、塩化ナトリウム 5.0 g、リン酸二カリウム 0.3 g、BTB 0.05 g、 寒天末 3.0g、pH7.1 〔機構と使用法〕この培地は細菌のブドウ糖分解が酸化(oxidation;O)か、発酵(fermentation;F)かを確認するために 重層式に分注した半流動培地で、穿刺培養を行う。 ブドウ球菌用培地 スタフィロコッカス培地 No.l10 (乾燥培地) 〔組成〕培地 1,000 ml あたり 酵母エキス 2.5 g、ペプトン 10.0 g、ゼラチン 30.0 g、乳糖 2.0 g マンニット 10.0 g、塩化ナトリウム 75.0 g、リン酸水素ニカリウム 5.0 g、寒天末 15.0 g pH7.0 〔機構と使用法〕耐塩性を利用したブドウ球菌群の選択的分離培地の一つで、色素産生、マンニット分解、ゼラチン液化 も同時に検査できる。 乳糖の存在により色素産生株は明瞭な色素を産生し、マンニット分解は集落を取り除いたあとの培地面に BTB 液を滴下 したときの色調の変化(黄)で判定、ゼラチン液化は飽和硫安液または 20%スルホサリチル酸溶液を培地に流し、透明帝が できるかどうかで判定する。 真菌用培地 サブローのブドウ糖寒天 Sabouraud dextrose agar 〔組成〕培地 1,000 ml あたり ブドウ糖 40.0 g ペプトン 10.0 g、寒天末 15.0g、pH6.0 〔機構と使用法〕一般に真菌はエネルギー源として比較的大量の炭水化物のみを必要とする。また真菌は、弱酸性の環境 で好んで発育する。この培地は、嫌気性酵母を除く一般病原真菌の分離にもっともよく用いられる。汚染が強い検査材料 からの分離には、クロラムフェニコールを 100μg/ml あるいはシクロヘキサミドを 500μg/ml の割に加えて用いるとよい。 上記の培地の組成から寒天をぬいたものがサブローのブドウ糖ブイヨンとして酵母様真菌の検査に用いられるし、またブ ドウ糖を 1%含有量としたものは、サブローの保存培地として病原真菌の保存に用いられる。 コーンミール寒天 corn meal agar 〔組成〕培地 1,000 ml あたり コーンミール 40.0 g、寒天末 15.0 g、pH6.0 〔機構と使用法〕真菌の形態学的観察に用いられる。とくにのせガラス培養法による真菌の形態検査に用いられ、この培 地に 0.1-0.3%の割に tween80 を加えると、Candida albicans の厚膜胞子の形成が一層よい。 Helicobacter pylori 用培地 5%馬血清加ブルセラ培地 〔組成と作り方〕培地 1,000 ml あたり トリプトン 10 g、ペプタミン 10 g、ブドウ糖 1 g、酵母エキス 2 g、塩化ナトリウム 5 g、重亜硫酸塩 0.1 g、寒天 15 g を精製水 950 ml に加え十分に加温溶解した後、121 ℃で 15 分間高温蒸気滅菌をする。高圧蒸気滅菌後、培地が適当な 温度(約 55 ℃)になったら、馬血清を 50 ml 加える。 〔使用目的〕この培地は豊富な栄養素と growth factor が含まれており、ブルセラ属や他の細菌、とりわけ普通の培地では 生育困難な細菌の培養に適している。 細菌学実習 24/35 付録2 細菌の代謝 細菌学実習 25/35 付録3 健康成人の消化管各部位の菌叢 糞便の10%程度は菌体そのものであり、糞便1gあたりに偏性嫌気性菌が1011-12個、通性嫌気性菌が108個程度 含まれている。糞便中に見られる代表的な細菌を以下に挙げる。 Bacteroides fragilis (バクテロイデス属) 偏性嫌気性、グラム陰性桿菌、無芽胞 (1011個程度) Eubacterium spp.(ユウバクテリウム属) 偏性嫌気性、グラム陽性桿菌、無芽胞 (1010個程度) Bifidobacterium spp.(ビフィドバクテリウム属 乳酸菌) 偏性嫌気性、グラム陽性桿菌、無芽胞 Enterococcus spp.(腸球菌属)通性嫌気性、グラム陽性レンサ球菌 Escherichia coli(大腸菌) 通性嫌気性、グラム陰性桿菌 (109個程度) Enterobacteriaceae (腸内細菌科) 通性嫌気性、グラム陰性桿菌 Citrobacter spp.(シトロバクター属) Klebsiella spp.(クレブシエラ属) Enterobacter spp.(エンテロバクター属) Proteus spp.(プロテウス属) Actinomyces spp. (放線菌属) 偏性嫌気性、グラム陽性桿菌、無芽胞 Bacillus spp.(バシラス属) 通性嫌気性、グラム陽性桿菌、有芽胞 Clostridium spp. (クロストリジウム属)偏性嫌気性、グラム陽性桿菌、有芽胞 Streptococcus spp.(ストレプトコッカス属) 通性嫌気性、グラム陽性レンサ球菌 その他、真菌(Candida albicans, Protozoa(原生動物、寄生虫)等も観察される場合がある。 細菌学実習 26/35 付録4 抗生剤 オキサシリン peniciline-binding protein(PBP)と結合する。PBP は細胞壁合成酵素であり、ペニシリンをはじめとするβラ クタム剤はその活性を阻害する事で細菌の増殖を抑制する。また、グラム陰性菌の内圧は7〜10気圧、グ ラム陽性菌の内圧は10〜20気圧あるため、細胞壁が脆弱化する事で破裂してしまい、殺菌的にも働く。 副作用が最も少ない抗生物質であるが、最も問題となるものはアナフィラキシー。0.002%程の確率で致死的 なショック状態を引き起こす。抗菌スペクトルが広いが耐性菌も多く、細胞内寄生性細菌には効果が薄い。 オキサシリンはクラス Dβラクタマーゼ(クラス A~D まである)で分解される。そのため発育阻止円が 10mm 以下となる S. aureus の場合はβラクタマーゼ産生菌であり、MRSA と判断する。 エリスロマイシン マクロライド系の薬剤で蛋白合成阻害を行う。抗菌スペクトルが非常に広く、グラム陽性菌・グラム陰性 菌・マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアにも有効。長期投与により慢性気道感染症であるびまん性汎 細気管支炎の病状を改善することが知られているが、詳細なメカニズムは不明。緑膿菌のバイオフィルム形 成阻害や免疫抑制の可能性が示唆されている。副作用が少なく小児にも投与しやすいが、胃腸障害(胃痛や 下痢)を起こす可能性がある。 クロラムフェニコール 50S リボソームに結合する。マクロライド系同様に幅広い菌種に効果があるが、通常緑膿菌には無効であ る。脳脊髄液への移行が非常に良く、髄膜炎の治療に良く用いられる。 毒性が強く副作用も重篤なものが 多いため血中濃度のモニタリングは必須。副作用は骨髄抑制(可逆的)や極々希に再生不良性貧血(不可逆 的)が生じる。低体重児・新生児には gray baby 症候群(嘔吐・低体温・循環障害を起こし死亡する)が起 こりうるため使用は禁忌。 ゲンタマイシン アミノ配糖体に属し、30S リボソームに不可逆的に結合することで蛋白合成阻害をするが、細胞壁にも働 きかけるらしい。詳細はまだ不明。グラム陽性菌・グラム陰性菌・抗酸菌などに良く効くが電子伝達系が働 いている菌にしか取り込まれないため(プロトン濃度勾配を利用して菌体内に取り込まれる)、偏性嫌気性 菌には全く効果がない。βラクタムにより細胞壁がもろくなっているとアミノ配糖体が取り込まれやすくな り、強い相乗作用が生じる。副作用は腎障害と第8脳神経(聴覚と平衡感覚)の障害 テトラサイクリン 30S リボソームに結合する。抗菌スペクトルが非常に広く、グラム陽性菌・グラム陰性菌・マイコプラズ マ・リケッチア・クラミジアさらには一部の原虫にも有効。しかし、耐性菌が非常に多くなってきているた め、実際は意外と使いづらい。(クラミジアに耐性菌の報告はないが、治療にあったっている医師はテトラ サイクリン単剤では効果が出にくくなったというケースが時々あるようです。)副作用は骨形成阻害と歯牙 の黄染。そのため小児には使用禁忌。また胎盤を通過するため、妊婦にも使用禁忌。 セファレキシン 細胞壁合成阻害剤であるβラクタム剤はペニシリン系とセフェム系に大別される。セファレキシンはセフ ェム系の中でも第一世代セフェムに属する。作用機序はペニシリン系と同様であるが、半合成的に改変でき る側鎖がペニシリン系よりも一つ多く、数多くの誘導体が作られ、βラクタム系の主流となっている。グラ ム陽性菌の大半とグラム陰性桿菌の一部に有効。ペニシリナーゼ産生菌にも有効だがβラクタマーゼには分 解される。ヘモフィリス・エンテロバクター・緑膿菌などには無効。 第二世代セフェムはβラクタマーゼに対しより安定で、グラム陰性桿菌に対して第一世代より強い抗菌力を 示す。ヘモフィリス・エンテロバクターにも有効だが緑膿菌には無効なことが多い。 第三世代セフェムはグラム陽性菌に対する殺菌作用が弱まっているが代わりに緑膿菌などのグラム陰性菌に 対する抗菌力が増加している。 細菌学実習 27/35 付録5 提供する菌の説明・性状 E. coli 腸管出血性大腸菌 (STEC=VTEC, EHEC)、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、毒素原性大腸菌(ETEC)、 腸管凝集付着性大腸菌 (EAggEC)といった下痢原性大腸菌は腸管内にいることで下痢を発症するが、通常の大腸菌は常在 菌として存在する。下痢,発熱,腹痛,悪心,嘔吐の一般的食中毒の症状を呈するが,脱水を伴わない限り,重症化する ことはない。EPEC: 非特異的一般的食中毒の症状 (サルモネラ症類似) EIEC: 典型的な症例では粘血便を呈し,大腸には 潰瘍も認められる。(赤痢様) ETEC: 典型的な症例では水様性下痢。(コレラ様) EAggEC: EPEC に似るが遷延性下痢が多い。 異所性感染として泌尿器系への感染がよく起こり、その頻度は多の細菌の泌尿器感染症より高い。新生児髄膜炎の原因と なることもある。また近年では糖尿病患者の増加に伴い下肢の非クロストリジウム性ガス壊疽の原因菌にもなっている Salmonella typhimurium 人畜共通感染症で、家畜、鳥類、爬虫類が慢性保菌動物となって、病原菌を拡散させる。人間への感染は、感染した動物 からの製品(生肉、加工肉、乳製品、卵)、飲料水、人間や動物の糞便で汚染された野菜や果物を摂食して起こる。人間 同士の直接感染は、(病院、託児所、兵舎などでの)集団流行の原因となる。 食後数時間で進行性または激烈に発病し、嘔吐、腹痛、稀に血性の液状で悪臭のある下痢、発熱が見られる。予後は良好 で、幾らかの症例では患者が数か月から数年間、慢性保菌者となる。乳児のサルモネラ菌性胃腸炎は、集団発生を突然起 こすことがある。症状は液状または粒が混ざった大量の便が噴出し、嘔吐と食欲低下を伴う。発熱、鼓腸を認め、急速に 脱水に陥る。菌血症を合併することは稀で、無症状または軽症型が多い。サルモネラ菌血症は幼児や免疫不全の者に好発 する。侵入部位は消化管(S.Typhimurium による胃腸炎)であったり不明である。臨床像は重篤で、脾腫と二次性化膿性 病変(骨、腎、髄膜、肝)を認める。消化管外の局所型サルモネラ症は、化膿性髄膜炎、肺-胸膜炎、胆嚢炎、腎盂腎炎、 急性虫垂炎、骨-関節炎(脊椎々間板炎)が血行性に拡散したものである。 菌血症型や局所型は健常者には稀で、疾病罹患中(麻疹、レプトスピラ症、発疹チフス、ブルセラ症、マラリア)や栄養 不良児(Kwashiorkor) 、AIDS 患者にしばしば出現する。 Proteus mirabillis 土壌,下水,汚物,ヒトや動物の腸管など,自然界に広く分布している.周毛性の鞭毛に覆われ活発な運動を行い、普通 寒天培地上では限局した集落を作らない傾向がある.一般には非病原性細菌と考えられているが,ときに尿路感染や創傷 感染を起こすことがある。尿路感染の際ウレアーゼを持つために尿がアルカリ性を示すことがある。尿のアルカリ化に伴 い、リン酸マグネシウム、アンモニウムの析出が生じ、尿路結石の頻度が高くなる。 Enterobacter cloacae ヒトの腸管内常在細菌叢を形成するグラム陰性桿菌で、自然界の土壌、水に存在するが、病院環境では、流しやその排水 口など湿潤箇所からしばしば分離される。ヒトに対する病原性は弱いが、感染防御能力の低下した患者において感染症の 原因菌となりうる。癌末期や大手術後などで、感染防御能力の低下した患者などで、散発的な日和見感染症が報告されて いる。医療用具に関連する感染症としては、カテーテル留置時の尿路感染、人工呼扱器装着時の呼吸器感染、静脈内高カ ロリー輸液等に伴う、敗血症、骨髄炎等が報告されている。また院内感染による死亡例も報告されている。 Citrobacter freundii 広く自然界に存在し、またヒトの腸管常在菌でもある。現在の所病原性に関してはよく分かっていないものの、病原性は 低と考えられて散る。しばしば尿路感染、呼吸器感染、手術部位感染、血流感染を起因し、新生児髄膜炎を起こすことも ある。染色体性の AmpCβ ラクタマーゼ産生によりアンピシリン、第一、第二世代のセファロスポリンに耐性を示す。 Klebsiella pneumoniae 広く自然界に存在し、またヒトの鼻咽喉・腸管常在菌でもある。通常健常人には無害だが、アルコール中毒者に肺炎をお こすことがあったり、尿路感染、呼吸器感染、血流感染、手術部位 感染を起因し、肺炎、敗血症をもたらす場合がある。 また新生児においては髄膜炎を起因することもある。本来多くの抗菌薬に感受性を示すが、ヨーロッパでは 1983 年にプ ラスミド性の広域セファロスポリン耐性 K. pneumoniae の臨床分離が報告され、その後多剤耐性 K. pneumoniae が欧米など で拡散し問題となってる。日本においては特定施設において高頻度に検出されることがあり注意が必要。K. pneumoniae は入院患者の糞便、咽喉および医療従事者の手指などから検出され、しばしば尿路カテーテル、気管切開チューブ、その 他の器具を介した感染症を起こす。 Shigrlla.flexneri 先進国で分離されることが一番多い。ヒトは赤痢菌の唯一の保菌者であり、発病中と回復期に1ヵ月間、または既往後数 年にわたり、糞便中に排菌することがある。多くは患者から周囲の者へ直接的に伝染する。患者の排泄物で汚染された水 や食物を通して、間接的に伝染することもある。ハエは付随的に赤痢菌を伝播することがある。大人の典型的な急性赤痢: 数時間から数日の短い潜伏期間の後、急激に発病する。臨床像は、赤痢の症候群と一般的な所見が短時間に合併するのが 特徴的である。赤痢の症候群には仙痛、裏急後重(トイレに行きたいが排便はない)、テネスムス、高頻度の排便(一日に 100 回位で、量は僅かで粘液、膿、血液を含む)がある。喀痰は下痢と交互に見られる。嘔吐は頻回にある。全身状態は 志賀菌による場合、重篤である。熱発、全身状態の悪化(恐怖の顔貌、無力感、脱水)、関節痛、筋肉痛、頻脈、多呼吸 が認められる。細菌性赤痢は数日で自然に回復することが多い。 2 類感染症です Enterohemorrhagic Escherichia coli (EHEC) O157:H7 乳幼児、高齢者に好発。1982 年、米国ミシガン州とオレゴン州で、同じメーカーのハンバーガーによる大腸菌 O157 : H7 集団食中毒が世界で初めて発生した。わが国では、1990 年埼玉県浦和市の幼稚園で、井戸水汚染による事件が発生し、 患者数 319 人、死者 2 人を出した。1996 年には全国で爆発的発生がみられ、厚生省の調査では、この年の患者総数は 17、 877 人、無症状保菌者 1、475 人、死者 12 人。特に大阪府堺市では小学校給食が O157 :H7 に汚染したために、10、000 人を超える患者が発生した。世界最大の歴史的な事件であった。その後、毎年約 1、500 例の患者が報告されている。ベ ロ毒素(VT )を産生する大腸菌は、8 割あまりが O157 血清型に属する。VT は蛋白毒素で VT1 、VT2 の 2 種類があ り、多くは両方を産生する。蛋白合成阻害とアポトーシスの誘導による細胞死を起こし、血管内皮細胞や腎尿細管、脳な どに強い毒性を示す。本菌はウシ、ヒツジ、シカなど反芻動物の大腸に生息しており、それらの腸内容物で汚染された食 品(生肉、土の付いた野菜など)や水を介して経口感染する。患者や保菌者からの 2 次感染もしばしば起きる。潜伏期は 2 ~14 日(平均 3 ~5 日)。出血性大腸炎と溶血性尿毒症症候群(HUS )をおこす。水様性下痢と腹痛で発症すぢ、血 便、発熱、嘔気、嘔吐、感冒様症状も初発症状の数%にみられる。翌日にはほとんどに血便がみられる。重症例では鮮血 を多量頻回に排出(出血性大腸炎)し、腸重積、脱肛、虫垂炎などの合併もみられる。発症後 1 週間頃、患者の約 10 % に HUS が続発する。血小板減少や溶血性貧血(LDH の上昇)、尿量減少、血尿、蛋白尿などで気づく。意識障害を随伴 することも多く、重篤例では痙攣、昏睡に陥る。HUS の約 3%は死亡する。3 類感染症です Pseudomonas aeruginosa Psudomonas 属菌は広く土中、水中に分布するが、Psudomonas 属の中で病原菌となるものは P. aeruginosa 以外ほとんどな い。グラム陰性桿菌で偏性好気性、一本の鞭毛をもち運動性がある。ピオシアニン(緑色)やフルオレセイン(蛍光黄緑色) などの色素を産生し緑色のコロニーを形成する。P. aeruginosa はそれ自体では病原性は低いが、多くの場合各種慢性疾患、 高齢、放射線治療、薬物投与などで感染抵抗が減弱した宿主に感染することがあり、代表的な日和見感染菌のひとつであ る。とくに呼吸器の P. aeruginosa 感染は産生される毒素により肺組織が破壊され重篤化しやすい。また遺伝的な肺疾患 systic fibrosis(Cl-チャンネル異常)では P. aeruginosa 感染を起こしていることがしばしばある。火傷部位、辱創部、手術創 に感染をおこすことも多々ある。多剤耐性菌であるため、この場合は化学療法より洗浄が有要である。中耳炎、髄膜炎や 細菌学実習 28/35 敗血症など全身感染をおこすことがしばしばあり、P. aeruginosa 敗血症では致命率は 80%以上といわれ、予後不良である。 緑膿菌はわずかな有機物と水分があれば増殖するので病院内などでもいたるところに存在し院内感染の潜在的原因とな っている。 Serratia marcescens 土壌や汚水などの自然界に広く分布している弱毒性の細菌で、人間の腸内に存在することもある。健康な人であれば何も 問題はないが、手術後で免疫力が低下した患者、子供や老人など抵抗力の弱い人が感染すると、敗血症や尿道の炎症など を引き起こし、古くから日和見感染菌として知られている。また化学療法の進歩に伴う耐性菌の増加は薬剤耐性セラチア 感染症としての病像を作り上げている。セラチアは呼吸器感染症、尿路感染症の原因菌として臨床材料から比較的多く検 出され、頻度は約 2.4%である。 S. aureus 調理者の逆むけなどの傷口で増殖して、食中毒の原因菌として有名。中毒の症状はエンテロトキシンによるもので、下痢・ 腹痛・嘔吐を起こす。このエンテロトキシンは100℃でも失活しないので火入れでは食品が安全になるわけではない。 また Exfoliative toxin による黄色ブドウ球菌熱傷様皮膚症候群(SSSS)や Toxicshock syndrome toxin 1 による Toxic shock syndrome を起こす。心臓の人工弁に感染し、塞栓症の原因になることもある。 Burkholderia. cepacia もともと Pseudomonas 属に分類されていただけあってか、肺炎や敗血症の原因になる点は P. aeruginosa と同様。最大の特 徴はクロルヘキシジンなどの一部の消毒薬に対して抵抗性を持ち、消毒薬内で増殖するために院内感染の危険性が高い細 菌であること。 Clostridium 属 バチルス科細菌の一属。グラム陽性桿菌で周辺鞭毛をもち、多くは偏性嫌気性細菌であるが微好気性のものもある。芽胞 を形成するが形と位置は菌によって異なる。一般にヘミン体を欠き、チトクロムを含まない。菌によって発酵様式は多様 である(糖を分解してアセトン、ブタノール、酪酸、酢酸、二酸化炭素、水素などを生ずるもの、セルロ−スの分解が可 能であるもの、炭水化物を利用せず窒素化合物や脂肪酸を利用するもの、窒素固定を行うものナド) Clostridium perfringens クロストリディウム属細菌の一種。非運動性で莢膜をもつ。正常なヒトの腸内にも少数ながら存在し、時に異常な増殖で 自家中毒症の原因となる。組織侵入性で顕著なヒアルロニダ−ゼを産生して膿瘍を拡大する。グリコゲンがあれば酪酸発 酵を行うが、タンパク質を与えると分解したアミノ酸から非酸化的に脱アミノ反応を行って NH3、H2、CO2 をさかんに生 成し、またヒスチジンを脱カルボキシル化してヒスタミンを作る。 Clostridium tetani クロストリディウム属細菌の一種。A.Nicolaier が発見し、北里柴三郎が分離。杓子状の端生胞子を形成するため、コンマ バチルスともいわれる。動物の刺傷あるいは深部傷においてとくに他の細菌と共存的に発育して局所膿瘍を作りそこに留 まるが、その際に産生する外毒素(→破傷風毒素)は脊髄の抑制性シナプスの細胞に強い親和性を示し、神経刺激伝達物 質の遊離を阻害しいわゆる随意筋の痙攣強直の症状を起こす。 種名 stock# (和名/通称) Pseudomonas aeruginosa (緑膿菌) グラム /形状/大きさ 陰性 /桿菌/中 芽胞 /形状 なし 培地 Burkholderia cepacia (セパシア) 陰性 /桿菌/大 なし 普通寒天 自然界に広く分布 日和見感染、院内感染、 薬剤耐性、 ヒビテン内で増殖 Staphylococcus. aureus (黄色ブドウ球菌) 陽性 /球菌/房状/小 なし 普通寒天 自然界に広く分布 化膿、食中毒 Escherichia coli (大腸菌) 陰性 /桿菌/小 なし 普通寒天 腸内常在 異所性感染 Clostridium tetani (破傷風菌) 陽性(難染色) /桿菌/長い 末端 /大円形 GAM 培地 土壌、腸管など 破傷風 Clostridium perfringens (ウェルシュ菌、ガス壊疽菌) 陽性(難染色) /桿菌/大 (難形成) 遍在 /楕円形 GAM 培地 土壌等 ガス壊疽菌/食中毒 酸素下で緑色 Peptostreptococcus anaerobius 陽性/球菌 なし 対状、連鎖状 GAM 培地 皮膚や腸管など 日和見感染、歯周炎、 虫垂炎など Bacteroides spp 陰性 /桿菌/小 なし GAM 培地 口腔、腸管 腹腔内膿瘍 Bacillus cereus 127 (セレウス菌) 陽性(難染色) /桿菌/大 /24 hr~ 中央〜遍在 普通寒天 /楕円形 自然界に広く分布 非感染性/食中毒 Bacillus subtilis (枯草菌) 陽性(難染色) /桿菌/小 /24 hr~ 中央〜遍在 普通寒天 /楕円形 自然界に広く分布 非感染性 陽性(難染色) /桿菌/中 /36 hr~ 遍在 /楕円形 130 Bacillus aneurinolyticus (AK) 細菌学実習 126 29/35 普通寒天 生息域 病原性 自然界に広く分布 日和見感染、緑膿症、 薬剤、ヒビテン耐性 付録6 薬剤感受性 薬剤感受性/耐性試験結果 ベンジルペニシリン エリスロマイシン ストレプトマイシン セファレキシン カルベニシリン ゲンタマイシン テトラサイクリン クロラムフェニコール オキサシリン MPIPC 細菌学実習 P. aeruginosa (緑膿菌) + + - B. cepacia (セパシア) + - S. aureus (黄色ブドウ球菌) + ++ ++ +++ E. coli (大腸菌) + + ++ ++ ++ ++ + + - +++ - +++ +++ +++ +++ ++ ++ ++ ++ ++ + 30/35 レポートのひな形1(レポートの内容量はA4版用紙5枚程度) 【目的】 1.何を学ぶために実験を行うか、簡潔に表現する(100−200字)。 1.実習書をコピー&ペーストしてはならない。 2.実習書にある「目的」は考察にすべき内容が多分に含まれている。 3.自分の言葉で実習の意義を簡潔に記述する。 【方法】 1.書くべき内容は、実験材料、具体的な方法、実験方法の変更点で、簡潔にまとめる。 2.実習書をコピー&ペーストしてはならない。実習書の記述を簡潔にまとめて書く。 3.各自の実験によってその方法は異なるはずであり、それを記載すること。例えば予期せぬ結果が得られ た場合や予定外の(間違った)実験を行った場合、その結果を考察する上で方法の記載は重要である。 【観察・結果】 1.観察の場合、実際のスケッチ図を記述し、顕微鏡(観察)の条件、染色方法を記載する。 2.観察に基づき形態を言葉で表現し、数量・統計的解析を記載。 3.実験の場合、結果を表にまとめる。明らかな実験の失敗についても記載する。 4.一般に「結果」には教科書の内容や自分の考え・感想などは記載しない。 (図1)XXX 菌を YY 染色した図 油浸対物100倍、菌体の縦横の比は X:Y くらいである。 (表1)菌種1−3について条件1−4での増殖の結果 菌種1 菌種2 菌種3 条件1 条件2 条件3 【考察】 1.結果を踏まえて分かったこと、理解出来ない問題点を記述する。 2.既に「結果」で記述した内容を「考察」で繰り返して書かないこと。 3.与えられた設問に簡潔しかし十分に答える。 3.教科書などの記載と実際の観察を比較する。必ず引用をつけて考察してください。 4.実験方法の原理を記述する。 6.レポートを採点する上で「考察」は最も重要なポイントである。 【引用文献】レポート中に他者の意見や知識を記述する場合は、必ず引用をつけてください。引用記述は、そ の記述者の名前や所属が明示された「責任ある情報」である必要があります。インターネット上に散在する情 報はこの「責任」が不十分であることが多く、引用には不適切な場合がありますので注意してください。一般 的に引用物としては教科書や辞書などの著作物が適しています。 (例) 1.「教科書などのタイトル」、編集者もしくは筆者、出版社、発表・発行年。 2.インターネット上の情報の場合:URL、記述者、更新日(もしくは閲覧日) 細菌学実習 31/35 レポートのひな形2(レポート課題 R1) レポート課題 R1 学籍番号(通し番号) 名前: 【目的】何を学ぶために実験を行うか、簡潔に表現する(100−200字)。 【方法】 1.実験材料(菌名、培地名、染色試薬など)。 2.具体的な方法を簡潔に書く(分離培養、純培養方法、グラム染色)。 3.実験方法の変更点があれば詳しく書く。 【観察・結果】 1.培地上の菌の様子 Staphylococcus aureus (供与された平板のスケッチ) (分離培養の様子をスケッチ) (純培養の様子) 菌名、日付、コメント 菌名、日付、コメント 菌名、日付、コメント Escherichia coli (供与された平板のスケッチ) (分離培養の様子をスケッチ) (純培養の様子) 菌名、日付、コメント 菌名、日付、コメント 菌名、日付、コメント 細菌学実習 32/35 2.分離培養の観察に基づき形態を言葉で表現し、数量・統計的解析を記載。 a.分離培養の結果何個の孤立集落が得られたか。 分離培養がうまくいかなかったとき、原因や対処方法など。 b.孤立集落の特徴を次の項目について調べる。 (硬度、粘度、乾湿性などは白金線で触れる) (Staphylococcus aureus) (Escherichia coli) 1)集落の大きさ 2)隆起の程度(高さ) 3)表面の光沢 4)色調 5)透明度 6)構造(顆粒、しわなど) 7)辺縁の形状(RまたはS) 8)硬度、粘度など 3.グラム染色 1. 観察の場合、実際のスケッチ図を記述し、顕微鏡(観察)の条件、染色方法を記載する。 (図1)XX 菌と YY 菌を ZZ 染色した図(図を示す目的や、培養や観察条件) (図2)目的もしくは図のテーマ サンプルの調整方法、観察方法(XX 社顕微鏡、油浸対物100倍) 細菌学実習 33/35 (図3)目的もしくは図のテーマ サンプルの調整方法、観察方法(XX 社顕微鏡、油浸対物100倍) (図4)目的もしくは図のテーマ サンプルの調整方法、観察方法(XX 社顕微鏡、油浸対物100倍) (図5)目的もしくは図のテーマ サンプルの調整方法、観察方法(XX 社顕微鏡、油浸対物100倍) 細菌学実習 34/35 2.観察に基づき形態を言葉で表現し、数量・統計的解析を記載。 (例)XX 菌の縦横の比は X:Y くらい、YY 菌の縦横の比はで X:Y くらいある。 3.明らかな実験の失敗についても記載する。 【考察】 1.結果を踏まえて分かったこと、理解出来ない問題点を記述する。 2.教科書などの記載と実際の観察を比較する。必ず引用をつける。 3.与えられた設問に簡潔しかし十分に答える。 1)細菌染色の原理を整理する。 1.グラム染色試薬中の化合物の組成 2.グラム染色によって細菌を染め分ける意義。 3.グラム染色によって染め分けられる細菌群が存在する意味。 2)「コンタミ」しないようにする注意点の整理。 3)大腸菌、ブドウ球菌の性状を簡単にまとめる。 4)真菌の種類とその性状、細菌の違いについてまとめる。 5)実習時間の制約上断腸の思いで割愛している典型的な細菌(群)や用語について、その細菌学的性状をそ れぞれ200字程度にまとめる。 1.結核菌、抗酸菌 2.ビブリオ属菌(コレラ、腸炎ビブリオ) 3.細胞内寄生菌(レジオネラ、リケッチア) 4.スピロヘータ 5.マイコプラズマ 6.ヘモフィリス 7.ナイセイリア 8.枯草菌 9.クラミジア 10.ヘリコバクターピロリ 【自由なコメント】 たとえば、教官の態度の善し悪しやライセンス認定試験について、実習や授業の改善が必要な点、微生物の印 象など 【引用文献】 (例) 1.「教科書などのタイトル」、編集者もしくは筆者、出版社、発表・発行年。 2.インターネット上の情報の場合:URL、記述者、更新日(もしくは閲覧日) 細菌学実習 35/35
© Copyright 2024 ExpyDoc