【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】 高等学校等就学支援金の受給資格の認定等について (平成28年10月27日付け 文部科学大臣宛て) 標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、 及び同法第36条の規定により意見を表示する。 記 1 高等学校等就学支援金の概要 (1) 高等学校等就学支援金制度の概要 貴省は、高等学校、中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部等(以下「高 校等」という。)の生徒又は学生(以下「生徒」という。)が授業料に充てるために高 等学校等就学支援金(以下「就学支援金」という。)の支給を受けることができること とすることにより、高校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育 の機会均等に寄与することを目的として、高等学校等就学支援金制度を実施している。 この制度は、「高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(平成22年法律第18号。以 下「支援金法」という。)、「高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行令」(平成 22年政令第112号。以下「支援金法施行令」という。)、「高等学校等就学支援金の支給 に関する法律施行規則」(平成22年文部科学省令第13号。以下「支援金法施行規則」と いう。)等に基づき実施することとなっており、支援金法によれば、就学支援金は、都 道府県知事(当該高校等が地方公共団体の設置するものである場合は都道府県教育委 員会。以下、これらを合わせて「知事等」という。)が生徒に支給することとされてい る。また、国は、就学支援金の支給に要する費用の全額に相当する金額を高等学校等 就学支援金交付金(以下「交付金」という。)として都道府県に交付することとされて いる。 この制度は、平成22年度に公立高等学校に係る授業料不徴収制度とともに設けられ たが、低所得世帯の生徒に対する一層の支援と公立私立間の教育費負担の格差是正を 図る必要があり、厳しい財政状況の下で限られた財源を有効活用する観点から、25年 度に「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する 法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第90号。以下「改正法」という。)が制定 された。そして、改正法が施行された26年度からは、公立高等学校の生徒も就学支援 - 1 - 金の支給の対象となるとともに、保護者等の収入の状況に照らして就学支援金を支給 しないこととする所得制限が設けられた。また、この改正法の法律案の議決に際して は、衆議院及び参議院において、改正法の施行から3年を経過した後、教育の機会均等 を図る観点から、政策の効果を検証した上で、必要な措置を講ずるものとすること、 就学支援金を受給できる資格(以下「受給資格」という。)の認定に当たって地方公共 団体や学校現場に相応の事務量が発生することに鑑み、そのための条件整備に努める ことなどについて、特段の配慮をするよう附帯決議が行われている。 支援金法等によれば、受給資格を有する者は、生徒で日本国内に住所を有する者と されている。ただし、高校等を卒業するなどしていたり、高校等の在学期間が通算し て36か月を超えるなどしていたりする者については、就学支援金を支給しないことと されている。また、「保護者等の収入の状況に照らして、就学支援金の支給により当該 保護者等の経済的負担を軽減する必要があるとは認められない者」として支援金法施 行令において定める保護者等の地方税法(昭和25年法律第226号)の規定による市町村 民税の所得割額(保護者等が2人以上いるときはその全員の合算額。以下「所得割額」 という。)が304,200円以上である者(以下「所得制限対象者」という。)についても、 就学支援金を支給しないこととされている。 そして、就学支援金は、生徒が高校等に在学する月について月を単位として支給さ れ、その額は支給限度額の範囲内で生徒の在学する高校等の授業料の月額に相当する 額となっている。この支給限度額は、支援金法施行令において、表1のとおり、生徒の 在学する高校等の区分に応じて一律に定められている(以下、この額を「一律額」と いう。)。また、私立高等学校等(以下「私立高校等」という。)に在学する生徒で、 「その保護者等の収入の状況に照らして特に保護者等の経済的負担を軽減する必要が あるもの」(以下、この者を「加算対象者」という。)については、一律額に保護者等 の所得割額に応じた加算額を加算した額を支給限度額とすることとなっている。なお、 生徒の履修単位数に応じて授業料の額を定める制度(以下「単位制」という。)を採用 している高校等に在学する生徒については、上記とは別に、履修単位数や履修期間に 応じて支給限度額を算定することとなっている。 - 2 - 表1 就学支援金の支給限度額 高校等の区分 保護者等の所得割額 304,200円以上[年収910万円以上] 154,500円以上304,200円未満 [年収590万円以上910万円未満] 51,300円以上154,500円未満 [年収350万円以上590万円未満] 一律額 (ア) 私立高校等 支給限度額 加算額 (イ) (ア)+(イ) 支給されない 9,900円 - 9,900円 9,900円 4,950円 14,850円 0円超51,300円未満 [年収250万円以上350万円未満] 9,900円 9,900円 19,800円 0円[年収250万円未満] (市町村民税が非課税の場合を含む。) 9,900円 14,850円 24,750円 公立高等学校 支給限度額 (一律額) 支給されない 9,900円 ただし、 定時制の場合は2,700円 通信制の場合は520円 特別支援学校高等部の 場合は400円 (注)保護者等の所得割額欄の[ ]書きは、貴省が夫婦片働き、高校生、中学生の4人世帯を モデルとして試算した保護者等の年収の目安である。 (2) 就学支援金の支給手続 就学支援金の支給手続は、支援金法等によれば、次のとおりとすることとされてい る(図参照)。 生徒が就学支援金を受給しようとするときは、その在学する高校等の設置者(以下 「学校設置者」という。)を通じて知事等に対し、当該高校等における就学について受 給資格を有することについての認定を申請し受給資格の認定及び支給額の決定を受け なければならないこととなっている。この申請は、生徒の氏名、住所、高校等の在学 期間等を記入した受給資格認定申請書に保護者等の所得割額を示す課税証明書等を添 付して、当該学校設置者を通じて、知事等に提出することによって行われなければな らないこととなっており、多くの場合、当該高校等への入学時に行われている。 また、この所得割額は、各年度の4月から6月までの就学支援金の支給にはその前年 度の所得割額(前々年の収入に対する所得割額)を、7月以降の支給には当年度の所得 割額(前年の収入に対する所得割額)を用いることとなっている。このため、前年度 以前の所得割額により既に受給資格の認定を受けた者(以下「受給権者」という。)で あっても、当年度の7月以降も引き続き受給しようとするときは、7月頃に、当年度の 課税証明書等を添付した収入状況届出書を学校設置者を通じて知事等に提出しなけれ ばならないこととなっている(以下、受給資格認定申請書と収入状況届出書(いずれ も添付書類を含む。)を合わせて「申請書等」という。)。 そして、知事等は、受給資格認定申請書を審査して受給資格の認定を行い、また、 収入状況届出書を審査して生徒が引き続き受給資格を有していることの確認を行い、 その上で支給額の決定を行う(以下、これらを合わせて「受給資格の認定等」とい - 3 - う。)こととなっている。 就学支援金の支給は、受給権者である生徒に対し行うこととなっているが、学校設 置者は、受給権者に代わって就学支援金を受領(以下「代理受領」という。)して、当 該高校等が有する当該受給権者に対する授業料に係る債権の弁済に充てるものとする こととなっている。 また、支援金法施行規則によれば、知事等は、就学支援金の支給に関する事務の一 部を学校設置者その他当該事務を適正かつ確実に実施することができると認められる ものに委託することができることとされている。 図 就学支援金の支給手続 生徒 ⑧高等学校等 就学支援金 交付金を交付 ⑤受給資格の 認定等の 結果の通知 ①申請書等の 提出 ⑦就学支援金を 授業料債権に 充当等 国 ②申請書等の提出 学校設置者 (私立高校等 :学校法人、株式会社等) (公立高等学校:都道府県、市区町村等) ④受給資格の認定等の結果の通知 ⑥就学支援金の支給(学校設置者が代理受領) 都道府県 (私立高校等 :都道府県知事) (公立高等学校:都道府県教育委員会) ③申請書等の審査、受給資格の認定等 (注)都道府県立高等学校等の場合は、学校設置者が都道府県となるため、②、④及び⑥については都道府県内部の事務処理となる。 2 本院の検査結果 (検査の観点、着眼点、対象及び方法) 高等学校等就学支援金制度により都道府県に交付される交付金の額は、毎年度多額に 上っている。また、前記のとおり、衆議院及び参議院において、改正法の施行から3年を 経過した後に、政策の効果を検証した上で必要な措置を講ずるなどするよう附帯決議が 行われている。 そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、受給資格の認定等が適切に 行われているか、生徒の教育に係る経済的負担の軽減が十分に図られているか、所得制 限の制度が保護者等の収入の状況を適切かつ公平に反映したものとなっているかなどに (注1) 着眼して、貴省及び24都府県において、26年度に24都府県に所在する高校等の生徒約60 万名に就学支援金を支給するために交付された交付金計760億3611万余円を対象として、 受給資格の認定等の事務等について説明を聴取し、申請書等を確認するなどして会計実 地検査を行うとともに、学校設置者における事務の実施状況等を聴取したり、学校設置 - 4 - 者が保有する生徒の在学期間や授業料についての資料を確認したりするなどの方法によ り検査した。 (注1) 24都府県 東京都、京都、大阪両府、栃木、群馬、千葉、神奈川、富 山、福井、長野、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、広島、 徳島、香川、福岡、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県 (検査の結果) 検査したところ、次のような事態が見受けられた。 (1) 知事等による受給資格の認定等の事務 知事等は、前記のとおり、申請書等を審査して受給資格の認定等を行うこととなっ ているが、就学支援金の支給に関する事務の一部を学校設置者等に委託することがで きることとなっていて、貴省が26年4月に就学支援金の支給事務の標準的な手順等につ いて記載して都道府県に配布した「高等学校等就学支援金事務処理要領(新制度)」 (以下「事務処理要領」という。)によれば、保護者等の所得を証明する書類の実質的 な確認作業等について委託することなどは可能とされている。このため、都道府県以 外の者が学校設置者となっている高校等の生徒の受給資格の認定等に当たり、前記24 都府県のうち、市区町村立の高校等(以下「市立高校等」という。)が設置されている 17都府県のうち16都府県が、私立高校等が設置されている24都府県のうち23府県が、 生徒の高校等の在学期間や保護者等の課税証明書等の実質的な確認作業等を学校設置 者に委託している。これらの都府県が学校設置者へ委託する事務の内容は都府県によ り異なっているが、いずれも学校設置者の確認した情報又は確認結果を都府県に提出 させることとしている。 そこで、上記の16都府県及び23府県の純計である24都府県における受給資格の認定 等についての審査の状況をみたところ、表2のとおり、19都府県(市立高校等について は11都府県、私立高校等については17府県)においては、学校設置者の確認した情報 又は確認結果を用いながら、申請書等を学校設置者から受領するなどして、申請書等 に記された受給資格の認定等に必要な情報を入手して、受給資格の認定等を行ってい た。 (注2) (注3) 一方、8府県(市立高校等については5県、私立高校等については6府県)において は、表2のとおり、26年度に支給された就学支援金計140億1620万余円(交付金同額) について、就学支援金を支給された生徒が在学する470高校等の学校設置者が申請書等 を知事等からの委託に基づき保管していて、知事等は、各学校設置者に生徒の受給資 - 5 - 格の有無等の確認結果を記した一覧表(以下「確認結果表」という。)を提出させ、こ れを用いて受給資格の認定等を行っていた。 しかし、上記の8府県は、確認結果表が申請書等に記された情報を支援金法等の法令 等にのっとって適切に確認したものとなっているか抽出して調査するなど学校設置者 の確認結果の妥当性についての検証を行っていなかった。 表2 (注2) 5県 長野、愛知、兵庫、岡山、福岡各県 (注3) 6府県 大阪府、愛知、三重、兵庫、岡山、広島各県 生徒の高校等の在学期間や保護者等の課税証明書等の実質的な確認作業を学校設置者 に委託している24都府県における受給資格の認定等の方法 (単位:都府県、千円) 市立高校等の生徒分 私立高校等の生徒分 受給資格の認定等の方法 申請書等に記された受給資格の認定等に必要な情報を 入手していた都府県 申請書等を学校設置者から受領して、その内容を 審査していた都府県 職員を学校設置者に派遣するなどして、申請書等 の内容を審査していた都府県 学校設置者に確認結果表を提出させていたが、確認結 果の妥当性についての検証を行っていなかった都府県 計 都府 就学支援金 県数 の支給額 都府 就学支援金 県数 の支給額 計 都府 就学支援金 県数 の支給額 (注) 11 1,699,521 17 14,139,310 19 15,838,831 10 1,685,542 14 11,673,151 18 13,358,693 1 13,978 3 2,466,159 4 2,480,137 5 1,195,335 6 12,820,872 8 14,016,208 16 2,894,856 23 26,960,183 24 29,855,039 (注) 都府県数の計は純計であり、左の各欄を合計しても一致しない。 そこで、前記8府県の会計実地検査の際に、8府県において就学支援金を支給された 生徒が在学する470高校等のうち61高校等を選定し、当該高校等の生徒の一部を抽出し て、学校設置者が保管していた当該生徒の申請書等や、高校等に赴いて学校設置者が 保有している当該生徒の在学期間や授業料についての資料を確認するなどして検査し た。その結果、学校設置者が就学支援金を受給できる月数の確認を誤っていたり、学 校設置者が事実と相違した内容の確認結果表を提出するなどしたりしていたのに、学 校設置者の提出した確認結果表に基づき受給資格の認定等が行われていた事態が見受 けられ、生徒計5名に係る就学支援金が過大(計46万余円)に支給されていたり、受給 資格を有しない生徒59名について受給資格の認定等が行われたままとなっていたり (支給決定額計752万余円)などしていた。 上記について、事例を示すと次のとおりである。 <事例1> 兵庫県は、平成26年度に私立高校等の生徒に係る就学支援金計17億4492万余円を交付 している。同県は、課税証明書等の実質的な確認作業等を各学校設置者に委託し、各学 校設置者に確認結果表を提出させて、これを用いて受給資格の認定等を行っていた。 そこで、この確認結果表と学校設置者が保管する申請書等とを確認したところ、確認 結果表では就学支援金を受給できる月数が誤って算定されるなどしていたが、同県はこ れをそのまま用いて受給資格の認定等を行っていたため、生徒2名に対して就学支援金が 計23万余円過大に支給されたり、生徒3名に対して計40万余円が過小に支給されたりして - 6 - いた。また、保護者等の一方の課税証明書等が添付されていないなど必要な書類が不足 していた生徒14名について、受給資格の認定等を行っていた。 さらに、確認結果表には、学校設置者が受給資格の有無等を確認していない生徒108名 及び入学を辞退していた生徒6名が含まれていたり、申請書等を提出した生徒48名が含ま れていなかったりして、事実と相違した内容となっていたが、同県は、この確認結果表 をそのまま用いていたため、受給資格を有しない生徒59名について受給資格の認定等を していたり(支給決定額計752万余円)、生徒48名について支給額を誤って受給資格の認 定等をしていたり(過大に支給決定していた額計260万余円、過小に支給決定していた額 計2万余円)などしていて、計117名について誤った受給資格の認定等を行うなどしてい た。なお、上記の117名への就学支援金については、学校設置者が申請書等の内容を後日 確認して、その確認結果に基づく額を受給資格を有する者に支給して同県に報告してい たが、同県では、28年7月時点で、この報告を踏まえて誤った受給資格の認定等を取り消 すなどの手続が執られていなかった。 (2) 就学支援金の生徒への引渡し 就学支援金は、前記のとおり、学校設置者が都道府県から代理受領し、当該生徒に 係る授業料債権に充てることとなっている。また、都道府県は学校設置者への就学支 援金の支給を、四半期ごとなど年に数回に分けて行うこととしている。 しかし、単位制を採用している高校等で、年度の始めなど単位を登録する時に授業 料の全額を納入させることとしている場合、学校設置者が就学支援金を代理受領した 時は、就学支援金を充てるべき授業料債権は存在しない。この場合、教育に係る経済 的負担の軽減を図るというこの制度の目的に照らして、学校設置者は受領した就学支 援金を速やかに受給権者である生徒に支給する必要があり、事務処理要領によれば、 学校設置者は、当然に受給権者である生徒に就学支援金を引き渡す義務を負うことに なるとされている。なお、この場合における生徒への実際の引渡しの状況について、 知事等が学校設置者から報告を受けることにはなっていない。 そこで、単位制を採用している13都府県の26高校等において、これらを設置する25 (注4) 学校設置者の就学支援金の引渡し状況についてみたところ、このうち5県の生徒1,390 名に係る就学支援金計2億0788万余円(交付金同額)について、学校設置者は、生徒に 対し、単位登録時に授業料を全額納入させていたのに、26年度に就学支援金を代理受 領した後、生徒が就学支援金の速やかな引渡しを希望しないなど特段の事情がなかっ たにもかかわらず、当該生徒が翌年度に新たに単位登録して発生した授業料債権と相 殺するなどするまで預かり続けていて、26年度中に生徒への引渡しを行っていなかっ た。そして、これらの中には、生徒が退学等した後も就学支援金を預かり続けていた 事態も見受けられた。 (注4) 5県 千葉、三重、兵庫、広島、沖縄各県 上記について、事例を示すと次のとおりである。 - 7 - <事例2> 沖縄県は、平成26年度に単位制を採用する高等学校の生徒593名に係る就学支援金計85 08万余円について受給資格の認定等を行い、同校の学校設置者はこれを代理受領してい る。そして、同校は、原則として、生徒から、年度の始めなど単位を登録する時に授業 料を全額納付させることとしている。 そこで、同県が26年度に同校の生徒に支給した就学支援金が生徒に引き渡されている かについてみたところ、573名に係る就学支援金計8160万余円については、就学支援金を 充てるべき授業料債権がないのに、生徒が就学支援金の速やかな引渡しを希望しないな ど特段の事情がなかったにもかかわらず、26年度中に生徒に引き渡されていなかった。 そして、このうち495名に係る就学支援金計6988万余円については、当該生徒が27年度 に新たに単位登録して発生した授業料債権と相殺されていた。また、26年度末に同校を 退学等した生徒のうち、12名(保護者等の26年度の所得割額(25年の収入に対する所得 割額)が0円として受給資格の認定等が行われていた生徒5名を含む。)に係る就学支援金 計176万余円については、生徒の退学等の後も当該生徒に係る就学支援金を預かり続けて 28年1月以降に生徒に引き渡されていた。 (3) 保護者等が国外に在住している生徒に係る受給資格の認定等 受給資格の認定等に用いる保護者等の所得割額は、課税証明書等の発行時期を考慮 して、各年度の4月から6月までの就学支援金の支給にはその前年度の所得割額(前々 年の収入に対する所得割額)、7月以降の支給には当年度の所得割額(前年の収入に対 する所得割額)となっている。ただし、各年の1月1日に国外に在住している保護者等 (以下「国外在住保護者」という。)は、市町村民税の課税対象者とならず、所得割額 が存在しないことから、このような保護者等をもつ生徒は、支援金法施行令等の定め る所得制限対象者や加算対象者には該当せず、一律額を支給限度額として受給資格の 認定等が行われ、就学支援金が支給されることとなる。 そして、前記の24都府県が26年度に就学支援金を支給した生徒約60万名のうち、26 年4月から6月までの支給又は26年7月から27年3月までの支給に係る申請書等に保護者 等が国外に在住と記載されていて25年度又は26年度の課税証明書等の提出がなかった 生徒計4,552名についてみたところ、24都府県は、支援金法施行令等の規定に基づき、 課税証明書等の提出がなくても受給資格の認定等を行っており、これにより就学支援 金を計4億3452万余円(交付金同額)支給していた。 しかし、国外在住保護者であっても、その在住先において給与等の収入がある場合 が多く、在住先の税制や為替の影響等の事情があるため単純には比較できないものの、 国内在住時と同等程度の収入がある場合が一般的と考えられる。そこで、上記4,552名 の保護者等の国外在住の状況別の受給資格の認定等の方法についてみると、表3のとお - 8 - り、保護者等が25年1月1日に国内に在住し25年中に国外在住となった生徒888名及び国 外在住保護者が25年中に帰国し26年1月1日に国内に在住していた生徒641名については、 保護者等の25年度又は26年度のいずれかの所得割額が存在し当該保護者等の収入の状 況が確認可能となっていた。 表3 平成26年4月から6月までの支給又は26年7月から27年3月までの支給に係る申請書等 に保護者等が国外に在住と記載されていて25年度又は26年度の課税証明書等の提出 がなかった生徒の保護者等の国外在住の状況別の受給資格の認定等の方法 保護者等の国外在住の状況 ① 保護者等が25年1月1日に国内 に在住し25年中に国外在住と なった生徒 ② 国外在住保護者が25年中に帰 国し26年1月1日に国内に在住し ていた生徒 ③ ①②以外の生徒 (25年1月1日、26年1月1日とも 保護者等が国外に在住していた などの生徒) 計 受給資格の認定等の方法 平成26年4月から6月までの支給 26年7月から27年3月までの支給 26年度の所得割額が存在しないこと 25年度の所得割額が存在することか から、課税証明書等の提出がなくて 888名 ら、25年度の課税証明書等を用いて も、一律額を支給限度額として受給 受給資格の認定等を行う。 資格の認定等を行う。 25年度の所得割額が存在しないこと 26年度の所得割額が存在することか から、課税証明書等の提出がなくて 641名 ら、26年度の課税証明書等を用いて も、一律額を支給限度額として受給 受給資格の認定等を行う。 資格の認定等を行う。 25年度の所得割額が存在しないこと 26年度の所得割額が存在しないこと から、課税証明書等の提出がなくて から、課税証明書等の提出がなくて 3,023名 も、一律額を支給限度額として受給 も、一律額を支給限度額として受給 資格の認定等を行う。 資格の認定等を行う。 4,552名 生徒数 そして、これらの生徒の保護者等の所得割額の状況についてみたところ、次のよう な事態が見受けられた。 ア 保護者等が国外在住のため課税証明書等の提出がなかった場合の就学支援金の支 給 前記4,552名のうち、23都府県の888名は、25年1月1日には保護者等が国内に在住 していたが25年中に国外在住となったため、26年7月から27年3月までの間の就学支 援金については、26年度の所得割額(25年の収入に対する所得割額)が存在しない ことから、課税証明書等の提出がなくても、受給資格の認定等を受けて就学支援金 が支給されていた。そして、この67%に当たる598名については、この間に就学支援 金計5220万余円が支給されていた一方で、26年4月から6月までの間は就学支援金が 支給されていなかった。 しかし、この598名のうち、少なくとも429名(26年7月から27年3月までの間の就 学支援金の支給額計3772万余円)については、保護者等の25年度の所得割額(24年 の収入に対する所得割額)が304,200円以上であったため、受給資格の認定等を申請 しなかったり、申請したが不認定となったりしたことにより、26年4月から6月まで の間の就学支援金は支給されていなかった。 上記について、事例を示すと次のとおりである。 - 9 - <事例3> 東京都は、平成25年1月1日には保護者等が国内に在住していたが、25年中に国外在 住となった生徒267名に対して、26年度に就学支援金計2415万余円を支給していた。 都は、この267名のうち246名(92%)については、保護者等の25年度の所得割額(2 4年の収入に対する所得割額)が304,200円以上であったことから、生徒が受給資格の 認定等を申請しなかったり、申請したが不認定となったりしていたため、26年4月から 6月までの間の就学支援金を支給していなかったが、25年中に保護者等が国外在住とな ったため26年度の所得割額(25年の収入に対する所得割額)が存在しないことから、2 6年7月から27年3月までの間の就学支援金について、課税証明書等の提出がなくても受 給資格の認定等を行い就学支援金計2162万余円を支給していた。 25年の国外在住保護者の収入は24年の国内での収入がそのまま反映されるもので はないものの、国外在住保護者の中には、25年においても就学支援金の所得制限を 上回る収入を得ている者が多数存在していたと考えられるが、これらの保護者等を 持つ生徒に対しても、支援金法施行令等の規定に基づき、就学支援金が支給されて いた。 イ 国外在住保護者が25年中に帰国した場合の就学支援金の支給 国外在住保護者が帰国した場合、市町村民税は、その帰国した年の国外での給与 等の収入には課税されず帰国後の国内の所得について課税されることとなる。この ため、帰国の時期が年末に近い場合は、帰国後から年末までの期間が短期間となる ことから、所得割額が著しく低い額となる場合がある。 そこで、前記4,552名のうち、25年1月1日には保護者等が国外に在住していたため 25年度の課税証明書等の提出がなかった生徒であって、保護者等が25年中に帰国し ていた21都府県の641名についてみたところ、表4のとおり、399名(62%)は、26年 度の所得割額が304,200円未満であったとして、当該所得割額に基づき26年7月から 27年3月までの間に就学支援金計4271万余円(交付金同額)が支給されていた。そし て、この641名のうち、保護者等の帰国時期が確認できた120名の帰国時期と就学支 援金の支給状況の関係についてみたところ、帰国の時期が遅くなるほど、所得割額 が低くなり、所得制限対象者が少なくなって、就学支援金が支給された生徒の割合 が高くなっていた。このように、国外在住保護者の帰国した年の収入に対する所得 割額については、保護者等の経済状況が必ずしも適切に反映されたものとなってい ないが、就学支援金はこの所得割額に基づき支給されている。 - 10 - 表4 国外在住保護者が平成25年中に帰国していた生徒への26年7月から27年3月までの間 の就学支援金の支給状況等 (単位:名) 就学支援金の支給状況 就学支援金が支給されていた生徒 保護者等の所得割額の平均額 就学支援金が支給されていなかった生徒 うち、保護者等の所得割額が304,200円以上で あるとして就学支援金の支給の申請をしなかっ たり、申請して不認定となったりしていた生徒 計 うち、保護者等の帰国時期が確認できた生徒120名 25年1月から 25年4月から 25年7月から 25年10月から 生徒数 (割合) 3月までの間 6月までの間 9月までの間 12月までの間 生徒数 (割合) 生徒数 (割合) 生徒数 (割合) 生徒数 (割合) 399 (62%) 27 (65%) 25 (89%) 28 (96%) 22 (100%) 2 7 , 18 6 円 107,365円 18 0 , 0 7 8円 1 4 6 , 29 0 円 8 2 , 4 9 8円 242 (37%) 14 (34%) 3 (10%) 1 (3%) 0 186 14 3 1 0 641 41 28 29 22 (0%) (是正改善及び改善を必要とする事態) 就学支援金の支給に当たり、受給資格の認定等を行う際に学校設置者が行った確認結 果の妥当性についての検証を行っていない事態及び就学支援金を充てるべき授業料債権 が存在しないのに生徒に就学支援金が速やかに引き渡されていない事態は適切ではなく、 是正改善を図る要があると認められる。また、国外在住保護者の収入を考慮することな く受給資格の認定等を行っている事態は、在住先の税制や為替の影響等の事情があると しても、生徒の保護者等が国内に在住している場合と国外に在住している場合との間の 公平性及び厳しい財政状況の下で限られた財源を有効活用するために所得制限を設けた 支援金法等の趣旨に鑑みて適切ではなく、改善の要があると認められる。 (発生原因) このような事態が生じているのは、学校設置者における高等学校等就学支援金制度へ の理解が十分でないことにもよるが、次のことなどによると認められる。 ア 府県において、受給資格の認定等に当たり学校設置者に申請書等の確認作業を委託 する場合に、その確認結果の妥当性についての検証を行う必要があることについての 理解が十分でないこと イ 県において、就学支援金を充てるべき授業料債権が存在しない場合に、就学支援金 を速やかに生徒に引き渡す必要があることについての理解及び学校設置者への指導が 十分でないこと ウ 貴省において、生徒の保護者等が国外に在住していて市町村民税の課税対象となら ない場合における当該保護者等の収入の把握方法や収入を考慮した受給資格の認定等 の方法に対する検討が必ずしも十分でないこと 3 本院が求める是正改善の処置及び表示する意見 - 11 - 高等学校等就学支援金制度は、改正法の施行により公立高等学校に在学する生徒も支 給の対象となるなど支給の対象が拡大しており、高校等における教育に係る経済的負担 の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与するため、就学支援金を適切かつ公平に支 給することの重要性は一層高まっている。また、引き続き多くの保護者等が国外に在住 することが見込まれる。そして、29年4月には改正法の施行から3年が経過することから、 貴省において、衆議院及び参議院での附帯決議により、政策の効果を検証した上で必要 な措置を講ずることが求められている。 ついては、貴省において、就学支援金の支給が適切かつ公平に行われるよう、次のと おり是正改善の処置を求め、及び意見を表示する。 ア 知事等が受給資格の認定等に当たり学校設置者に申請書等の確認作業を委託する場 合には、学校設置者の確認結果が申請書等に記された情報を支援金法等の法令等にの っとって適切に確認したものとなっているか抽出して調査するなど確認結果の妥当性 についての検証を行い、確認作業が適正かつ確実に実施されるよう指導を十分に行う ことについて、事務処理要領に明記するなどした上でその内容を都道府県に対し周知 徹底すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの) イ 就学支援金を充てるべき授業料債権が存在しない場合の就学支援金の学校設置者か ら生徒への引渡しについて、知事等は、特段の事情がある場合を除き速やかに生徒に 引き渡すよう学校設置者への指導を十分に行うとともに、学校設置者に引渡し状況の 報告を求めるなどして就学支援金が生徒に適時適切に引き渡されることを確保するこ とについて、事務処理要領に明記するなどした上でその内容を都道府県に対し周知徹 底すること(同法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの) ウ 高校等の生徒の保護者等が国内に在住している場合と国外に在住している場合で就 学支援金の支給が可能な限り公平に行われるよう、都道府県及び学校設置者の事務負 担に配慮した上で、国外在住保護者の収入の把握方法やその収入を考慮した受給資格 の認定等の方法を検討すること(同法第36条の規定により意見を表示するもの) - 12 -
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