- 1 - 【意見を表示したものの全文】 国立大学法人が保有する研究設備の

【意見を表示したものの全文】
国立大学法人が保有する研究設備の共同利用について
(平成28年10月24日付け
文部科学大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
1
国による研究設備の共用の取組及び整備に対する補助の概要
(1) 科学技術基本計画における研究設備の整備方針等
国は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づき、科学技術の振興に関する
施策の総合的かつ計画的な推進を図るために、5か年ごとに科学技術基本計画を策定し
ており、第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定。計画期間は平成23年度から
27年度まで。以下「第4期計画」という。)において、「国は、大学が保有する研究施設
及び設備について、限られた資源の有効活用を図るため、大学間連携による相互利用
や再利用を効果的に行う体制の整備を進める」ことなどとしている。
また、第4期計画を受け、貴省科学技術・学術審議会先端研究基盤部会が24年8月に
取りまとめた報告「科学技術イノベーションを牽引する研究基盤戦略について」(以下
「部会報告」という。)によれば、国立大学法人や独立行政法人等の機関における研究
設備の共用の取組が一層進展するよう、機関全体の研究設備等に関する情報の一元的
把握等の取組が進むことが望まれ、国はこのような取組を促進することなどが求めら
れているとされている。
(2) 貴省における国立大学法人の研究設備の整備に対する補助
貴省は、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることな
どを目的として、国立大学法人の研究設備の整備に要する経費に対して、国立大学法
人施設整備費補助金又は国立大学法人設備整備費補助金(以下「補助金」という。)を
交付しており、各国立大学法人は、補助金により、多様な学術研究を支える基盤的な
研究設備や、特色ある研究の発展に不可欠な研究設備等を整備している。
補助金の交付を受けようとする各国立大学法人は、保有する研究設備の整備状況を
把握し、その利用形態や経過年数等から研究設備の現状を分析するなどした上で、補
助金の交付を受けて整備しようとする研究設備について、当該研究設備の要求要旨、
研究設備の概要等を記載した「要求概要」等を貴省に提出して補助金の交付を申請す
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るなどしている。
そして、各国立大学法人は、補助金により整備しようとする研究設備が複数の研究
分野において利用可能なため共同利用の用に供することとする場合には、要求概要に
その旨を記載している。
2
本院の検査結果
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、国は、国立大学法人の保有する研究設備について、限られた資源の有
効活用を図るための体制整備を進めることなどとしており、また、共用のための取組を
促進することが求められている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、各国立大学法人が補助金により整備
した研究設備について、要求概要に記載された趣旨に沿って共同利用の取組が適切に行
われているか、研究設備の共同利用を促進するために必要な体制は整備されているかな
どに着眼して検査した。
(注)
検査に当たっては、21年度から23年度までの間及び25、26両年度に、26国立大学法人
が要求概要において共同利用の用に供するとして補助金により整備し、26年度末に保有
している研究設備98件(取得価格計68億7185万余円)を対象として、貴省及び26国立大
学法人において、要求概要その他の関係書類により会計実地検査を行うとともに、26国
立大学法人から研究設備の共同利用の取組状況等を記載した調書の提出を受けて、その
内容を分析し確認するなどの方法により検査した。
(注)
26国立大学法人
北海道大学、岩手大学、東北大学、東京大学、東京医
科歯科大学、東京農工大学、お茶の水女子大学、金沢大学、静岡大
学、名古屋大学、三重大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、鳥取
大学、島根大学、広島大学、徳島大学、香川大学、愛媛大学、高知
大学、九州大学、佐賀大学、長崎大学、宮崎大学、富山大学の各国
立大学法人
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
補助金により整備された前記の研究設備98件について、26国立大学法人において要求
概要に記載された趣旨に沿って共同利用の用に供されているか確認したところ、15国立
大学法人が23、25、26各年度に補助金により整備した研究設備19件(取得価格計12億20
37万余円)は、各国立大学法人が共同利用の用に供するための研究設備を登録して管理
することとしている共通機器センター等に登録されていないなど、要求概要に記載され
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た趣旨に沿った共同利用の用に供されていない状況となっていた(表参照)。
表
共同利用の用に供されていない研究設備の件数及び取得価格
(単位:件、千円)
国立大学法人名
年度
件数 取得価格 国立大学法人名
年度
件数
取得価格
岩手大学
平成25
1
23,656 大阪大学
25
2
69,300
東北大学
25
2
155,232 神戸大学
25
1
25,893
東京大学
25
1
59,955 島根大学
26
1
35,640
東京医科歯科大学
26
1
30,121 香川大学
25
2
92,022
お茶の水女子大学
25
1
53,237 九州大学
26
1
43,200
金沢大学
25
2
118,440 長崎大学
25
1
291,652
静岡大学
25
1
108,150 宮崎大学
25
1
37,275
三重大学
23
1
76,597 計
19 1,220,372
(注) 単位未満を切り捨てているため、取得価格の合計と計欄は一致しない。
そして、これら19件のうち研究設備の利用実績の確認ができた7件について1週当たり
の平均利用回数をみたところ、1回当たりの利用時間が数日から数か月の長期にわたるこ
ととなる1件を除いて、他の6件はいずれも1週当たりの平均利用回数が2回未満と低調な
利用状況となっており、このうち3件は、1週当たりの平均利用回数が1回未満となってい
た。
これら19件の研究設備について、要求概要に記載した趣旨に沿った共同利用の用に供
していない理由を各国立大学法人に確認したところ、法人として共同利用の用に供する
ことについての検討が十分でないこと、利用者向けの規程等の整備に必要な知見がない
ことなどによるとしている。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
国立大学法人大阪大学(以下「大阪大学」という。)は、平成25年12月に、理学研究科の
宇宙・地球科学科校舎に超高周波電子スピン共鳴(ESR)年代測定装置を構成する電子
スピン共鳴装置及び微小領域X線回折装置(取得価格36,750,000円及び32,550,000円、計6
9,300,000円)を整備している。これらの装置は、大阪大学が既存設備の老朽化による更新
のために、24年度補正予算の補助金により整備することとしたものである。そして、大阪
大学は、貴省に提出した要求概要において、これらの装置を理学系、医薬学系、工学系等
の様々な分野で応用可能な装置として、共同利用の用に供して広く公開することで、学内
外の多くの分野に寄与することが可能であるとしていた。
しかし、大阪大学は、要求概要に記載した共同利用の用に供することについての検討を
十分に行わなかったため、会計実地検査時(28年5月)においても、上記の2装置を理学研
究科が運用する共同利用設備として登録していないなど、共同利用の用に供していなかっ
た。そして、利用簿が整備されていた微小領域X線回析装置について、稼働調整後の26年1
2月から28年5月までの18か月間の利用実績をみたところ、利用回数が10回、利用時間が計4
03時間と低調な利用状況となっていた。なお、電子スピン共鳴装置については、利用簿が
整備されておらず、利用実績を確認できなかった。
また、貴省においても、各国立大学法人が要求概要において共同利用の用に供するこ
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ととして補助金により整備した研究設備について、各国立大学法人における共同利用に
関する取組状況を十分に把握していない状況が見受けられた。
一方、研究設備の共同利用を促進するために必要な体制を整備するなどして、要求概
要に記載された趣旨に沿って共同利用の用に供している国立大学法人も見受けられた。
上記について、参考事例を示すと次のとおりである。
<参考事例>
国立大学法人北海道大学(以下「北海道大学」という。)は、平成26年3月に、理学研究
院のNMR研究室に生体機能分子動態解析システムとして、固体高分解能核磁気共鳴測定
システム(取得価格126,000,000円)を整備している。同システムは、北海道大学が24年度
補正予算の補助金により整備することとしたものである。同システムは、共同利用の用に
供するために、北海道大学の創成研究機構の設備共同利用システムである「オープンファ
シリティ」に26年8月に登録され、貴省に提出した要求概要に記載されていたとおりに、学
内及び学外に広く門戸を開放することで、幅広い研究者に利用されている。その結果、27
年度末まで20か月間の利用実績をみたところ、利用回数65回、利用時間4,138時間(うち設
備を管理している研究者による利用回数34回、利用時間1,721時間、学内者による利用回数
9回、利用時間246時間、学外者による利用回数22回、利用時間2,171時間)となっており、
設備を管理している研究者だけでなく、幅広い研究者に利用され、利用状況が好調なもの
となっていた。
また、北海道大学においては、オープンファシリティに登録されていないものも含め、
学内の研究設備の効果的、効率的な利用を促進するために、研究設備の装置名、型名、共
同利用の可否等を整理した一覧表を作成し、その内容を北海道大学のホームページにおい
て公開することにより、保有する研究設備の有効活用のための積極的な情報公開を進めて
いる。
前記のとおり、部会報告において、研究設備等に関する情報の一元的把握等の取組の
促進が求められていることや、参考事例のように、国立大学法人の中には、保有する研
究設備の装置名、型式、連絡先等の項目を一元的に取りまとめた一覧表等(以下「デー
タベース」という。)を整備して公開することにより、保有する研究設備の共同利用を促
進しているものがあることに鑑みると、国立大学法人が保有する研究設備の共同利用を
促進するために、データベースを整備することは有効な方法の一つであると考えられる。
(改善を必要とする事態)
国立大学法人において、補助金により整備された研究設備について要求概要に記載し
た趣旨に沿った共同利用の用に供していない事態は適切ではなく、改善の要があると認
められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
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ア
国立大学法人において、研究設備を共同利用の用に供するとして要求概要を提出し
て補助金の交付を申請しているのに、整備した研究設備を共同利用の用に供すること
について検討が十分でないこと
イ
貴省において、国立大学法人における補助金により整備された研究設備の共同利用
の取組状況等を把握しておらず、また、アの検討について、国立大学法人に対する周
知等が十分でないこと
3
本院が表示する意見
貴省は、今後も引き続き、補助金の交付により、国立大学法人における研究設備の整
備を推進することとしている。
ついては、貴省において、補助金により整備された研究設備について、共同利用を通
じて有効活用が促進されるよう、次のとおり意見を表示する。
ア
複数の研究分野において利用可能なため要求概要において共同利用の用に供すると
して、補助金の交付を受けて整備する研究設備を共同利用の用に供することについて
十分に検討するよう、各国立大学法人に対して周知すること
イ
各国立大学法人における補助金により整備された研究設備の共同利用の取組状況を
把握するとともに、各国立大学法人に対して、データベースを整備して公開すること
により研究設備の共同利用を促進させている事例等の有用な情報の提供等を行うこと
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