【JST新技術説明会】 2016年10月18日 6) 腎臓病治療薬開発やアンチエイジング研 究に有用な寿命短縮化マウス 横浜市立大学医学部 循環器・腎臓内科学 田村功一, 涌井広道, 畝田一司, 前田晃延 E-mail: [email protected] Web: http://www.yokohama-medicine.org/ 新たな国民病 慢性腎臓病(CKD)とは ●『慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)』とは, ごく初期の腎障害(微量アルブ ミン尿)から腎臓の障害が進んだ「末期腎不全」まで含めて, 1) 腎障害の存在(アルブミン尿, 蛋白尿, 血尿, 腎構造異常などの存在), 2) 腎機能の低下(血清クレアチニン上昇, つまり糸球体濾過量=推算GFR低下), のどちらか,あるいは両方が慢性的に続く状態. ●日本のCKD患者は約1330万人.成人の約8人に1人が発症し, 新たな”国民病”. ●放置により腎臓障害が進み「末期腎不全」に至り, 透析・腎移植が必要な状態に陥る. 末期腎不全では透析・腎移植が必要 → 増え続ける日本での維持透析患者の数 (1) (日本での年次推移) 慢性透析患者数の推移 千人 350 兆円 2.1 314,180人 300 1.8 250 1.5 患者数 200 1.2 150 0.9 100 0.6 50 0.3 0 慢性透析患者にかかる費用 ︵600万円/人︶ (1,885,080百万円) 0 43/ 45/ 04 12 昭和 50/ 12 55/ 12 60/ 12 2/ 12 平成 7/ 12 12/ 12 17/ 12 22/ 12 年/ 月 わが国の慢性透析療法の現況(2013年12月31日現在)より引用・改変 末期腎不全では透析・移植が必要 → 増え続ける日本での維持透析患者さんの数 (2) (国際比較) 日本での維持透析患者さんはOECD (経済協力開発機構)諸国の中で最多(OECD報告書: 2015年6月) 腎移植患者 維持透析患者 OECD. Cardiovascular Disease and Diabetes: Policies for Better Health and Quality of Care, OECD Health Policy Studies. Report of OECD Health Policy Studies. 2015:1-182 (DOI: http://dx.doi.org/10.1787/9789264233010-en) 日本 腎機能低下(血清クレアチニン上昇=推算GFR減少)の段階では, 腎構造 変化(=尿細管間質繊維化)が進み, 腎障害・腎機能の正常化は不可能 まだ可逆的な段階でCKD発症 あるいは腎臓病進行を食い止めることが可能 (mL/min/ 1.73m2) 糖尿病, 遺伝的素因, 高血圧, 生活習慣 肥満等 元に戻れない不可逆的な段階であり, 腎臓病進行の速度を抑制することのみ可能 アルブミン尿出現 蛋白尿出現 (A区分)心血管病の増加 心血管病の増加 代償機能による 糸球体過剰濾過状態 (推算GFR: G区分) 腎機能 150 糸球体過剰濾過 (糸球体高血圧) 100 専門医を紹介 受診の患者様 に多い状態 一過性の血糖・血圧上昇, 蛋白過剰摂取 50 腎機能が低下し始めた段階 (G区分)ではすでに腎臓病が 不可逆的になってしまっている! (ある程度)可逆的 不可逆的(戻れない) 0 経過 Modified from Therapeutic Research,32(12)1605:1610,2011 Ruggenenti P, et al © 2006 Macmillan Publishers Ltd. アンメット・メディカル・ニーズ:待たれる腎臓病治療薬 治療満足度(2005年)別にみた新薬の承認状況(2006-2009年) 薬が充分 脂質異常症 高血圧 糖尿病 狭心症 不整脈 心不全 心筋梗塞 ネフローゼ 糖尿病性腎症 慢性腎炎 慢性腎臓病 薬が不足 薬が不足 薬が充分 財団法人ヒューマンサイエンス振興財団による治療満足度調査データ (JPMA News Letter No.140(2010/11: アンメット・メディカル・ニーズに対する医薬品の開発・承認状況) 厚生労働省:高齢者白書より 老年人口の増加は, 益々加速する 2060年の総人口に占める 65歳以上の割合 2060年の日本人の平均寿命予測 男性 84 女性 歳 世界6位 91 40 歳 % 世界1位 H27年:男性80.5歳、 女性86.8歳、 平均83.7歳 世界平均 1人の高齢者を1人が支える時代へ 71.4歳 2035年から毎年、人口100万人減少 2105年には日本総人口4459万人の推定も! 勝谷友宏先生作成: 勝谷医院 院長、大阪大学大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学 特任准教授 さらに, 腎臓病は, 末期腎不全だけでなく 老化とその関連疾患を促進する 罹患者数: 高血圧 4,300万人 (成人2.5人に1人) 心血管腎臓病(病態連関病) 病態: 高血圧・ 糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症 罹患者数: 慢性腎臓病 1,330万人 (成人8人に1人) 腎臓病 内皮障害 動脈硬化 病態機序: レニン-アンジオテンシン系, 交感神経系, 炎症・酸化ストレス, 高LDL,低HDL, 高血糖,インスリン抵抗性,など 老化促進 10万人当たり死亡数: 心・脳血管疾患 250人 (悪性新生物 280人に匹敵) 心血管病 横浜市立大学 田村功一 健康寿命の延伸にとって, 起点としての腎臓病の抑制は重要 【要支援・要介護の要因】 (%) その他 悪性新生物(がん) 呼吸器疾患 糖尿病 骨折・転倒 関節疾患 高齢による衰弱 資料:厚生労働省 「平成22年国民生活基礎調査の概況」 ≪健康寿命≫ 日本 世界1位 74.9 歳 世界平均 63.1歳 認知症 病態連関 心疾患(心臓病) 25.4% 腎臓病 脳血管疾患(脳卒中) 勝谷友宏先生(勝谷医院 院長、大阪大学大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学 特任准教授)作成図を改変 新技術の目的 (解決しようとする課題) 本発明は, 慢性腎臓病・老化の基盤病態研究, あるい は, 慢性腎臓病治療薬・アンチエイジング薬等の開発 研究にとって有用な慢性腎臓病モデル・寿命短縮化 モデルとして, 従来よりも優れたモデル非ヒト動物を 提供することを目的とする. 求められている慢性腎臓病・老化促進モデル : 従来技術とその問題点 (1) ● 慢性腎臓病モデル: 現在利用可能な慢性腎臓病の実験モデルでは,腎毒性のある薬剤(アデノ シン等)による薬理学的介入や,腎の部分切除(5/6腎臓摘出術)又は片側 性の尿管結紮等による外科的介入が必要であり,これら介入操作の必要 のない,より実際の病態に近い慢性腎臓病モデルは存在せず,広く利用さ れるまでには至っていない. 例: 正常な腎臓 5/6摘出による慢性腎臓病モデル 腎の部分切除 (5/6腎臓摘出術) 求められている慢性腎臓病・老化促進モデル : 従来技術とその問題点 (2) ● 老化促進モデル: 現在利用可能な老化促進モデル(Klotho欠損マウス,SAMマウス,テロメ ラーゼ欠損マウス等)では,外観の変化を含めて全身に広範な老化形質を 呈する等,より実際の老化の病態に近い老化促進モデルは存在せず, 広く 利用されるまでには至っていない. 例: Klotho欠損マウス (低身長, 低体重, 皮膚萎 縮, 骨粗鬆症, 石灰化等) 対照マウス SAMマウス (SAMP1: アミロイドー シス, 免疫機能不全, 聴覚 障害, 肺過膨張等) 対照マウス テロメラーゼ欠損マウス (体毛の変色・脱毛, 皮膚潰瘍, 造血障害, 不妊等) 対照マウス 着目した分子: 我々が発見したAT1受容体への結合蛋白質 (ATRAP/Agtrap遺伝子産物) 種々の刺激 アンジオテンシンII受容体 (AT1受容体) 細胞膜 ATRAP (アンジオテンシンII受容体結合蛋白, AngioTensin II ReceptorAssociated Protein) 受容体インターナリゼーション 促進作用 選択的受容体 機能制御作用 生理的情報伝達系による機能調節 臓器発生分化 心血管・腎機能調節, 電解質代謝恒常性維持 病的情報伝達系の 過剰活性化による臓器障害 心血管腎臓病 Daviet L, et al. J Biol Chem 1999; Lopez-Ilasaca M, et al. Mol Biol Cell 2003; Mogi M, et al. ATVB 2007; Tamura K, et al. Curr Hyp Rep 2007; Tamura K, et al. Curr Pharm Des 2013. ヒト慢性腎臓病(IgA腎症)では, 腎組織でのATRAP発現は腎機能低下にともない減少 ヒト腎組織でのATRAP発現と 腎機能との相関関係 ATRAP蛋白のヒト腎生検組織で の発現例 (褐色領域) 患者B: ATRAP少ない ヒト腎尿細管における ATRAPの相対的発現量(%) 患者A: ATRAP多い ATRAP 発現 20 多い R=0.44 P=0.046 N=22 15 10 5 ATRAP 発現 少ない 0 0 40 腎機能 低下 80 120 腎機能 正常 腎機能の指標: 推算糸球体濾過量 (eGFR, ml/min/1.73m2 ) Masuda S, et al. Am J Physiol Renal Physiol. 299: F720-31, 2010. 新技術の概要 発生工学的手法(相同的遺伝子組み換え法)により Agtrap 遺伝子がコードする受容体結合タンパク質 (ATRAP)の機能が阻害されていることを特徴とする, 寿命短縮化モデル非ヒト哺乳動物(ATRAP欠損マウ ス)を提供した. ATRAPを欠損させた非ヒト動物では, 腎線維化の増悪 (すなわち慢性腎臓病の進行した病態)が認められ, その他外観の異常がないまま寿命が短縮化する. ATRAP欠損マウスの慢性腎臓病モデル ・寿命短縮化モデルとしての特徴 (1) 全身に広範な老化形質を呈する他の老化モデルマウスと 全く異なり, 外観に変化・異常なく, また, 通常飼育時には, 血圧などの循環系機能, 全身諸臓器の発生・形態に異常等 を認めない. 若齢から高齢にかけての体重の推移 高齢マウス(100週齢)の外観 ATRAP欠損マウス 40 体重 (g) 対照正常マウス 対照正常マウス WT ATRAP欠損マウス KO 45 35 30 25 20 3 to 4 12-16 11 to 12 2288-100 to 25 44-48 週齢 (週) ATRAP欠損マウスの慢性腎臓病モデル ・寿命短縮化モデルとしての特徴 (2) 慢性腎臓病の増悪と透析・腎移植が必要な末期腎不全への 進行における主要な共通の腎臓病変である尿細管間質線維化 が特異的に亢進している. 心臓血管系臓器には認めず. 若齢 対照正常 マウス ATRAP欠損 マウス 高齢 若齢から高齢にかけての腎臓線維化 促進因子コラーゲンの腎臓での発現の推移 線維化促進因子 (コラーゲン3a)発現量 (%, 対 対照の若齢正常マウス) 若齢から高齢にかけての 腎臓線維化病変の推移(青色領域) 対照正常マウス ATRAP欠損マウス 600 6 400 4 200 2 00 WT KO 若齢 WT KO 高齢 ATRAP欠損マウスの慢性腎臓病モデル ・寿命短縮化モデルとしての特徴 (3) 通常条件での長期飼育(∼150週)下において, 寿命が有意に 短縮化(約18.4%)する. 若齢から高齢にかけての生存曲線 WT KO 100 生存率 (%) 対照正常マウス (寿命中央値=123.1週) 75 50 ATRAP欠損マウス (寿命中央値=100.4週) Log-rank test 25 P=0.0002 0 0 50 100 寿命 (週数) 150 ATRAP欠損マウスでの寿命短縮化の程度は, 日本人では50年以上前の時代(1960年頃)への逆戻りに相当する 日本人の 平均寿命推移 女性 男性 「日本の平均寿命の推移をグラフ 化してみる」(2014年9月3日: Garbage NEWS.com)(Web: http://www.garbagenews.net/a rchives/1940398.html) 新技術の特徴・従来技術との比較 従来技術の問題点であった, 薬理学的介入や外科的 介入の必要のない, 慢性腎臓病における主要な共通 病態である腎臓線維化が特異的に亢進する慢性腎臓 病モデルを作製することに成功した. 公知の老化モデルマウスとは異なり, 成育や外観, そして血圧や代謝系など生理的機能にも異常がなく, 従来知られている老化モデルマウスとは全く異なる 新たな寿命短縮化モデルマウスとしても有用である と考えられる. 想定される用途 不可逆的とされ重要度が高い重症腎疾患(末期腎不全 を包含する慢性腎臓病)の治療薬の開発・薬剤候補物 質のスクリーニング. 腎臓を起点とした老化促進の分子機序の解明. 腎臓を作用点としたアンチエイジング薬の開発・ 薬剤候補物質のスクリーニング. 長寿化作用のある医薬品ないしは健康食品・健康 補助食品等のスクリーニング. 今後の課題 現在, 慢性腎臓病・寿命短縮化モデル非ヒト哺乳 動物(ATRAP欠損マウス)として使用可能な段階ま で開発済み. しかし, ATRAP欠損が特異的に腎臓 の線維化をもたらす分子機序の詳細な解明が未解 決である. 現在, ATRAP欠損が特異的に腎臓の線維化をもた らす分子機序について解析中であり, 今後詳細な 分子機序についても実験データを取得できる予定. 企業への期待 未解決の, ATRAP欠損が特異的に腎臓の線維化をも たらす分子機序の詳細な解明については, 研究室の 解析技術により克服できると考えている. 腎臓病治療薬, アンチエイジング薬を開発中あるい は今後開発予定のある企業との共同研究等を希望. また, 長寿化作用のある医薬品ないしは健康食品・ 健康補助食品等の分野への展開を考えている企業 には, 本技術の導入が有効と思われる. 本技術に関する知的財産権 発明の名称: 寿命短縮化モデル非ヒト哺乳動物 出願番号: 特願2015-103747 出願人: 横浜市立大学 発明者: 田村功一, 涌井広道, 畝田一司, 前田晃延. 産学連携の実施例 2006年-2007年 受託研究実施 (A株式会社) 2011年-2012年 受託研究実施 (B株式会社) 2015年- 受託研究実施中 (C株式会社) 2015年- 厚生労働省先進医療B実施中 (D株式会社) 2015年- 契約型医師主導多施設共同研究実施中 (E株式会社, F company) お問い合わせ先 公立大学法人横浜市立大学 研究推進部 原田 研究企画・産学連携推進課 拓 〒236-0027 横浜市金沢区瀬戸22-2 Tel 045-787-8936 Fax 045-787-2025 E-mail [email protected]
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