転倒骨折を繰り返す強直性脊椎炎患者に対し

O1-B07
九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
転倒骨折を繰り返す強直性脊椎炎患者に対し,膝装具の
工夫が転倒防止につながった一例
吉田
貢己(PT)
社会医療法人財団白十字会 燿光リハビリテーション病院
Key Words
強直性脊椎炎・膝装具・転倒防止
【はじめに】
強直性脊椎炎は,体軸性関節 ( 仙腸関節および脊椎 )
の慢性炎症とそれに引き続く不可逆的な骨化を主病態と
使用した。膝装具を使用した歩行訓練を実施し動作定着
を図り歩行車にて歩行が自立し自宅退院となった。
【考察】 する脊椎関節炎の原型となる疾患である。今回,既往歴
強直性脊椎炎は,脊柱の骨化が著明で,仙腸関節,両
に強直性脊椎炎を有した症例を担当する機会を得た。30
側性の股関節,膝関節,肩関節,全脊柱の強直により重
年前に発症,関節可動域制限や両下肢筋力低下による,
大な機能障害を残すと言われている。膝折れの原因とし
転倒を繰り返していた。度重なる転倒により,車椅子で
て,強直性脊椎炎による重度の関節可動域制限と受傷前
の移動獲得を目標にしたが,本人とご家族は「もう一度
からの歩行が膝をロックし大腿四頭筋を使用しない歩容で
だけでも歩きたい」と強く望まれていた。そこで,歩行
あったことにより,歩行時に膝がロックできず荷重を掛け
による転倒を防止することを目的として膝装具に工夫を加
たことが原因と考えられる。それにより,歩行に関しては,
え,結果歩行が自立したためその内容をここに報告する。
転倒を繰り返していたと考えられる。そのため,機能改善
【対象】
70 歳代女性。左大腿骨頚部骨折により当院入院。既
を目的とした運動療法を実施したが,変化はみられなかっ
たため,膝折れ防止に対して膝関節の安定性を重視した
往歴に強直性脊椎炎,右大腿骨顆上骨折,右膝蓋骨骨折
膝装具を作製した。それにより,今後在宅生活を送る上
がある。入院前の移動は屋内外ともに歩行車にて自立し
で安全性かつ自立性を補えるものになるのではないかと
ていた。入院時評価としては,頚部は全方向,体幹は屈
考える。膝装具を作製したことで,歩行立脚期に膝関節
曲以外の方向,両下肢は膝関節屈曲に著明な関節可動域
の安定性が図れ,膝折れの心配がなく,歩行車にて歩行
制限あり。徒手筋力検査 (MMT) 両下肢 2 レベル。基本
動 作 は 中 等 度 介 助。機 能 的 自 立 度 評 価 法 (FIM) は
71/126 点であった。
【経過および結果】
が自立し在宅復帰できたと考える。
【まとめ】
今回,症例は移動方法として屋内を膝装具使用した歩
行車歩行,屋外を電動車椅子使用し在宅復帰となった。
理学療法実施し,病院内歩行は歩行車にて自立してい
基盤となる機能面・能力面へのアプローチはリハビリテー
たが,退院前日に膝折れによる転倒を起こし,両脛骨粗
ションとして重要であるが,環境面にもアプローチを行い,
面骨折を呈した。その後も再び膝折れを起こし,左膝蓋
安全な日常生活活動 (ADL) の獲得に繋がる事を学んだ。
骨骨折と右脛骨粗面転移を呈し,急性期病院にて手術後
今回の経験を活かし,様々な視点からの気づきを増やし
当院に再入院となった。チームの方針としては車椅子移
ていくとともに,多方面からのアプローチを行っていきた
動自立を目標としたが,本人やご家族は「もう一度だけで
いと考える。
も歩きたい」と強く望まれた。そのため,方針を転換し
【倫理的配慮,説明と同意】
歩行自立を目標に膝装具の検討を行った。しかし,既存
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき発表に関しての趣
の装具では膝折れを防ぐことができるものがなかったた
旨を説明した上で,同意を得た。
め,膝装具に以下に示す工夫を加えた。両側支柱付膝装
具を使用し,支柱をリングロック膝継手へ変更。膝装具の
ずり落ちを防止するために上下にベルトを装着。本症例は
頚部を屈曲させて,ベルトの装着を確認できる関節可動
域がなかったためベルトの留め具を音で確認できるものを