資料1-1 暫定税率等の適用期限の到来

資料1-1
暫定税率等の適用期限の到来
平成28年10月20日
関税・外国為替等審議会
関
税
分
科
会
財
務
省
関
税
局
1
適用期限の到来する暫定税率の取扱い
1.経
緯
基本税率が、長期的な観点から、内外価格差や真に必要な保護水準を勘案
して設定される税率であるのに対して、暫定税率は、政策上の必要性等から、
適用期限を定めて、基本税率を暫定的に修正する税率であり、その水準及び
必要性について常に見直していくものとされている。こうした観点から、暫
定税率の適用期間を一年間とし、毎年度の関税改正において適用期限の延長
を行ってきたところである。
平成 29 年3月 31 日に適用期限が到来する、433 品目に係る暫定税率につい
て、その後の取扱いについて検討する必要がある。
2.検
討
適用期限の到来する暫定税率に関する検討に際しては、下記の点に留意す
る必要がある。
(1)延長の適否
イ.生産者及び消費者等の間の利益調整に及ぼす影響について
・
関税率には、産業保護を求める国内の生産者と安価な供給を求める
消費者・需要者の間の利益調整を考慮して設定される面があり、この
水準を変更しようとする場合には、それらの者に与える影響を考慮す
る必要がある。
・
関税割当品目については、一定の輸入数量を超える枠外の輸入に対
して基本税率等を適用し国内生産者の保護に必要な水準を維持する一
方で、一定の輸入数量の枠内の輸入については、無税又は低税率の暫
定税率を適用し消費者等への安価な輸入品の供給を確保している。暫
定税率の延長については、こうした関税割当制度の必要性も踏まえて
検討する必要がある。
ロ.WTO交渉との関係について
・
ウルグアイ・ラウンド合意に基づく関税割当品目及び国家貿易品目
-1-
については、一定の輸入数量に限って、無税又は低税率(暫定税率を
設定)での市場アクセス機会の提供を国際的に約束していることに留
意する必要がある。
・
また、関税と納付金等を合わせた水準で国際的に譲許している品目
については、関税部分の水準を暫定税率によって設定している。
・
これらの品目の暫定税率に関する事項はWTOドーハ・ラウンド交
渉の対象となっているが、同交渉において新たな市場アクセスの枠組
みに係る合意はまとまっておらず、これらの品目の暫定税率の取扱い
については、同交渉の状況を予断なく注視する必要がある。
ハ.関係国との協議結果に基づく税率の引下げ措置の履行に及ぼす影響
について
・
ウルグアイ・ラウンド合意等に際して、関係国との協議の結果に基
づき、協定税率から更に実行税率を引き下げるために暫定税率を設定
している品目については、こうした関係国との協議の経緯等を考慮す
る必要がある。仮に、これらの品目の暫定税率を廃止する場合には、
関係国と改めて協議する必要がある。
ニ.産業政策上の必要性、内外価格差について
・
産業政策上の要請や内外価格差の状況に応じて暫定税率が設定され
ている品目については、その時々の情勢を踏まえた上で、暫定税率の
必要性について判断する必要がある。その際、内国税における同種の
措置との関係にも留意する必要がある。
(2)基本税率化の適否
・
長年にわたって暫定税率を設定し、それが定着している場合には、これ
を基本税率化(暫定税率を廃止して、同水準の基本税率を設定)すること
も考えられるが、その際、それまで暫定税率とされてきた経緯等を考慮す
る必要がある。
・
例えば、関税割当制度については、無税又は低税率が適用される輸入数
量を限定する国境措置であり、過去の関税率審議会等において、過度の輸
-2-
入抑制効果や国内産業の合理化の阻害などの弊害が生じないよう常に見直
しを行い、一般の税率形態への移行の可能性を検討すべきものと位置付け
られた。そのような経緯等を踏まえると、同制度を維持する品目について、
その関税率(枠内税率等)を基本税率とすることは適当ではなく、これま
で、暫定税率として設定されてきている。
(3)適用期限
暫定税率の適用期限を延長する場合、その時々の政策上の必要性や直近
の国際市況に基づいて暫定税率の要否を判断するという趣旨から、従来、
延長期間を1年としてきた経緯を考慮する必要がある。
上記の経緯や考え方に沿って、全品目について検討を行った結果、下記の
発泡酒及び蒸留酒並びに農林漁業用A重油を除く 418 品目は、暫定税率の適
用期限を一年間延長することが適当であると考えられる。
3.発泡酒及び蒸留酒の暫定税率の基本税率化
(1)現行税率及び経緯
発泡酒(1品目)については、カナダとの協議に基づき、ビールと同様
の関税上の取扱いをするため、平成9年4月から暫定税率により発泡酒の
関税を段階的に引き下げ、平成 14 年4月に関税を無税とし、同月以後、暫
定税率により無税の水準を維持している。
また、蒸留酒(12 品目)については、酒税の税率改正の実施がWTOパ
ネルの仲裁判断による期限を超えることの代償措置として、蒸留酒の関税
の段階的な引下げ及び撤廃を行うことで関係国と合意したことを受けて、
平成 10 年4月から暫定税率により蒸留酒の関税を段階的に引き下げ、平成
14 年4月に関税を無税とし、同月以後、暫定税率により無税の水準を維持
している。
(参考1)
「発泡酒」は、麦芽を原料の一部とし、発泡性を有するもの。
「蒸留酒」に
は、ブランデー、ウィスキー、ラム、ジン、ウォッカ、リキュールが含まれる。
-3-
(2)検討
発泡酒及び蒸留酒については、関係国との合意を履行するため、引き続
き無税の水準を維持する必要がある。
また、締結済みの全ての経済連携協定(EPA)において無税で譲許が
されており、更に環太平洋パートナーシップ(TPP)協定においても無
税で譲許がされていることを踏まえると、今後の国際交渉を受けて、発泡
酒及び蒸留酒に係る関税の引上げが行われる可能性は極めて低くなったと
考えられる。
これらのことから、発泡酒及び蒸留酒の関税については、今後、短期間
に関税の見直しを行う必要性が認められないことから、現行の暫定税率を
廃止し、基本税率により無税の水準を維持することが適当と考えられる。
4.農林漁業用A重油の暫定税率の基本税率化
(1)現行税率及び経緯
農林漁業の用に供するA重油(2品目)については、我が国の施設園芸
や漁船漁業の経営費に占める燃料費の割合(2~3割)が高いため、農林
漁業用A重油に係る税負担を軽減し、施設園芸農家及び漁業者の経営の安
定化を図り、園芸作物及び水産物の安定供給を確保する観点から、平成5
年度以後、暫定税率により関税を無税としている(注)。
(参考2)A重油とは、重油の中でも粘度・沸点が低いもの。農業では、農業用ハウ
スの加温用ボイラーの燃料として、漁業では、動力漁船や海苔の乾燥機燃料とし
て使用されている。
(注)
農林漁業用A重油については、
昭和 35 年度から昭和 46 年度までは免税とされ、
昭和 47 年度から平成4年度までは関税割当数量内のものに対して無税とされて
いた。
(2)検討
農林漁業用A重油については、輸入品と国産品との間に品質差がなく、
国内需要のほとんどが国産品で賄われている状況にある。
また、我が国の施設園芸や漁船漁業においては、近年、省エネルギー化
等、燃料費の負担軽減に向けた取組みが進められているものの、国土条件
-4-
及び産業構造等を鑑みると、基本的にA重油は施設園芸や漁船漁業の燃料
として必要不可欠な資材であることから、農林漁業者の経費軽減のため農
林漁業用A重油の関税無税を維持する必要性は今後も変わらないと考えら
れるとともに、関係業界も、より安価な農林漁業用A重油を安定して調達
するため、基本税率により無税の水準が維持されることが望ましいとして
いる。
更に、締結済みの全てのEPAにおいて無税で譲許がされており、TP
P協定においても無税で譲許がされていることを踏まえると、今後の国際
交渉を受けて、農林漁業用A重油に係る関税の引上げが行われる可能性は
極めて低くなったと考えられる。
これらを踏まえると、農林漁業用A重油については、今後、短期間に関
税の見直しを行う必要性が認められないことから、現行の暫定税率を廃止
し、基本税率により無税の水準を維持することが適当と考えられる。
5.改正の方向性
以上の考え方を踏まえ、発泡酒及び蒸留酒(13 品目)並びに農林漁業用A
重油(2品目)については、暫定税率を廃止し、基本税率により無税の水準を
維持することとし、これらを除く 418 品目の暫定税率については、適用期限を
1年延長することが適当ではないか。
-5-
2 特別緊急関税制度等の取扱い
1.特別緊急関税制度の取扱い
(1)経 緯
特別緊急関税制度(Special Safeguard:SSG)とは、ウルグアイ・ラ
ウンド合意に基づき関税化された農産品について、輸入数量が一定の水準
を超えた場合又は課税価格が一定の水準を下回った場合に、それぞれ関税
率の引上げを行うものである。SSGの制度については、SSG対象品目
に係る暫定税率の延長と同様に、適用期間を一年間として、毎年度の関税
改正において適用期限の延長を行ってきたところである。
平成 29 年3月 31 日にSSGの適用期限が到来することから、その後の
取扱いについて検討する必要がある。
(2)検 討
・
SSGは、ウルグアイ・ラウンド合意に基づき関税化された農産品の輸
入急増時等の安全弁として、関税化措置と一体として設けられたものであ
ることから、暫定税率と一体的に検討を行う必要がある。
・
ウルグアイ・ラウンド合意の履行のため、前述の暫定税率が引き続き必
要と考えられるところ、暫定税率と一体的な制度であるSSGについても、
適用期限の延長を行う必要がある。
(3)改正の方向性
SSGについて、適用期限を1年延長することが適当ではないか。
-6-
2.牛肉及び豚肉に係る関税の緊急措置の取扱い
(1)経 緯
牛肉及び豚肉に係る関税の緊急措置は、暫定税率によってWTO協定税
率より低い水準まで引き下げている実行税率を、輸入数量が一定の数量(以
下「発動基準数量」という。
)を超えた場合に、協定税率まで引き上げるも
のである。
これらの緊急措置について、牛肉及び豚肉に係る暫定税率の延長と同様
に、適用期間を一年間として、毎年度の関税改正において適用期限の延長
を行ってきたところである。
例:牛肉の場合
・
WTO協定税率(50%)よりも低い暫定税率 38.5%を設定。
・
当該年度の牛肉の累計輸入数量が、発動基準数量(原則として前年度
の四半期毎の累計輸入数量実績の 117%)を超えた場合、関税率を 38.5%
から 50%まで戻す。
平成 29 年3月 31 日に、牛肉及び豚肉に係る関税の緊急措置の適用期限
が到来することから、その後の取扱いについて検討する必要がある。
(2)検 討
・
牛肉及び豚肉に係る関税の緊急措置は、ウルグアイ・ラウンド合意の際
の関係国との協議の結果に基づき、暫定税率によって協定税率より低い水
準まで実行税率を自主的に引き下げることとした際、これと一体として、
牛肉及び豚肉の輸入急増時の安全弁として設けられたものであることから、
暫定税率と一体的に検討を行う必要がある。
・
関係国との協議結果の履行のため、前述の暫定税率が引き続き必要と考
えられるところ、暫定税率と一体的な制度である関税の緊急措置について
も、適用期限の延長を行う必要がある。
(注)我が国への輸入牛肉の 99%超が環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の締
約国の産品であることに鑑み、TPP協定の締結に伴う関係法律の整備に関する
法律案において、同協定の発効の日に当該緊急措置を廃止することとしている。
-7-
(3)改正の方向性
牛肉及び豚肉に係る関税の緊急措置について、適用期限を1年間延長するこ
とが適当ではないか。
-8-
3.牛肉に係る関税の緊急措置の発動基準数量に係る特例措置の取扱い
(1)経
・
緯
牛肉に係る関税の緊急措置の発動基準数量の算出基礎は、ウルグアイ・
ラウンド合意の際の関係国との協議の結果、原則として、当該年度の前年
度の輸入実績となっている。
・
米国でのBSE発生(平成 15 年 12 月に発生を確認)に伴う牛肉の輸入
数量の大幅な減少を受け、輸入の回復途上で緊急措置が発動されることを
防ぐため、生鮮・冷蔵又は冷凍の牛肉について、それぞれ、発動基準数量
の算出基礎を当該年度の前年度の輸入実績又は平成 14 年度と平成 15 年度
の輸入実績の平均値のいずれか大きい方とする特例措置が講じられた。平
成 18 年度から平成 28 年度に至るまで、この特例措置を継続しているとこ
ろ、今後の取扱いについて検討する必要がある。
(2)検 討
・ 本年度において、冷凍牛肉については、平成 27 年度の輸入実績が平成 14
年度と平成 15 年度の輸入実績の平均値を上回ったことから、発動基準数量
の算出基礎として平成 27 年度の輸入実績を用いているが、生鮮・冷蔵牛肉
については、平成 27 年度の輸入実績が依然として平成 14 年度と平成 15 年
度の輸入実績の平均値を下回っていることから、特例措置に基づき、平成
14 年度と平成 15 年度の輸入実績の平均値を発動基準数量の算出基礎として
いる。
・
このため、未だ、牛肉全体の輸入が米国でのBSE発生前の水準に回復
したとは断言できないのではないかと考えられる。
・
仮に、輸入の回復の途上で特例措置を廃止した場合、牛肉全体の輸入数
量がBSE発生前の水準以下であっても緊急措置が発動する可能性が生じ
ることとなり、消費者等の負担が増すこととなるおそれがある。
(3)改正の方向性
牛肉に係る関税の緊急措置の適用期限を一年延長する場合には、当該緊急措
置の発動基準数量に係る特例措置を継続することが適当ではないか。
-9-