数学教育における視覚化を用いた試み

(10)工学教育・システムの個性化・活性化 -Ⅰ
講演番号:1C10
数学教育における視覚化を用いた試み
-フーリエ級数の視覚化による数式の理解度向上-
([SHULPHQWVXVLQJ9LVXDOL]DWLRQRQ0DWKHPDWLFV(GXFDWLRQ
,QFUHDVLQJWKHGHSWKRIXQGHUVWDQGLQJXVLQJ9LVXDOL]DWLRQIRU)RXULHU6HULHV
○堤 厚博※1 太田 和彦※
$WVXKLUR7687680,.D]XKLNR2KWD
キーワード:数学教育,フーリエ級数,([FHO,0$7/$%視覚化
.H\ZRUGV0DWKHPDWLFV(GXFDWLRQ)RXULHU6HULHV([FHO0$7/$%9LVXDOL]DWLRQ
金沢工業大学では、数学の初年次生の授業に三角関数、
はじめに
近年、工学系大学でも理数科目がしっかり身につい
ていない入学生も少なからず見られるようになったが、
このような理数基礎が身に付いていない学生に対し、
なるべく数理科目に興味を待たせるべく、金沢工業大
学では数学の授業において数学がどのように科学や技
術において使われているかを示し、学生の学習意欲を
高める教育が行われている。しかしながら、数学が数
式や証明を論述せずに授業を展開することが困難な科
目であるが故に、学生の理解を妨げているのも事実で
ある。
学生が数学に対して興味を持ちそれに誘発されるよ
うな形で自主的に考える授業が進められれば、それが
理想的な授業となろうが、現実には難しいものと思わ
れる。数学の重要な数式や証明そのものを教えるべき
本質を崩さずになるべくわかりやすく伝えられれば、
学生の理解を助けるとともに、学習意欲向上にも繋が
るものと考えられる。これに関連してこれまでにパソ
コンや Excel を用いてそのような試みの報告が幾つか
なされている ,。
そこで、公式や証明、そのものが視覚的に表示可能
な数学的な内容を持つならば、それを用いて興味を引
かせる授業を行うことで学生の理解や学習意欲に貢献
するものと考えられる。一昨年はこれらに関して、ネ
ピア数や sinx/x の極限の視覚化について学生のアンケ
ート結果を報告し、昨年度はべき級数やフーリエ級数
に計算ソフト Excel を用いて視覚化を行った授業につ
いて報告 )したが、本年度は、フーリエ級数に Excel
だけでなく、MATLAB を用いて視覚化を行った際の学
生の理解度等についてのアンケート結果について報告
する。
.
([FHO を用いた授業内容
※
金沢工業大学基礎教育部
※
金沢工業大学工学部ロボティクッス学科
公益社団法人日本工学教育協会 平成 28 年度
工学教育研究講演会講演論文集
対数関数、高次関数等について学生の理解を深めるた
めに、([FHO を用いて具体的な数値をこれらの関数に
入れて表示させ数式を視覚化する授業を行っている。
また、興味のある学生を対象に春期特別講座として、
フーリエ級数・解析を開講している。この講座では、
前回は周期関数をフーリエ級数に展開する際、足し合
わせる項の総数を増加させることにより元の周期関数
に近づいて行く様子について、各計算結果を重畳した
グラフにより視覚的に比較したが、今回は重畳したグ
ラフを 次元化し、変化の様子をさらに視覚的・直観
的に表すことにより学生の理解度を向上させることが
出来るかについて調査を実施した。
. 数式の視覚化
今回用いた数式の 例は 周期 πの関数
1
f (x )
(
0 (x
1
(0
x 0)
, 0, )
x
)
のフーリエ級数展開である。上の数式が級数に展開で
きることは、直感的には分かりにくい。そこで、
f (x ) のフーリエ級数は
4
1
1
f (x )
sin x
sin 3x
sin 5x
3
5
と展開できることから、近似式の項の数を変化させて
元の数式にどの程度近づいて行くのかを学生に体験さ
せることにした。
. ([FHO や 0$7/$% を用いたグラフ化
学生自身のパソコン上で Excel 及び MATLAB を稼
働させ上記の計算を行わせた例をここでは示す。グラ
フ作成に当たっては、-6.28(rad)から 6.32(rad)まで
0.2(rad)刻みで7項まで足し合わせて計算した近似結
果を図 1 に示す。この事例から学生はフーリエ級数に
― 52 ―
. アンケート結果及び考察
展開した近似式の次数を上げていけば行くほど項数
を増やせば増やすほど真値に近づくことが実感でき
たようである。さらに今回は項数が増えればどのよう
に変わっていくかを把握するため 項まで足した場
合の結果について図 に示す。
この Excel 及び MATLAB を用いた計算結果につい
て、学生がどのように考えているかについて学生アン
ケートを実施した。その結果の一部を下に示す。主な
質問 は、
「Excel や MATALB で任意の周期関数がフ
ーリエ級数で表されることが理解できたか。」質問 は、
「Excel や MATALB でどちらが分かり易いか」質問 は、
「Excel や MATALB を使うことで勉学の理解が進
むか」について 段階方式で、 を非常に悪い、 を最
も良い評価としたものである。質問 についての評価
を図 に示すが 4 と 5 の評価が多く、学生からの評判
はよい。また、主な学生の感想を表1に示す。
1.5
1
0.5
10
0
8
6
-0.5
真値
4
図 1 フーリエ級数近似曲線(7 項近似)
近似値 1.5
1
-0.5
0
-1.5
0.5
0
2
-1
1
2
3
4
5
図 4 質問 3 に対する学生の評価結果
表1 学生の主たる感想
-1
-1.5
図 2 フーリエ級数近似曲線(51 項近似)
1.周期関数がフーリエ級数により表現できるこ
とに対して理解しやすかった
2.フーリエ項の総数の変化に伴う計算過程がリ
アルタイムで把握でき、理解が深められた
3.数式のイメージ化が容易となった㻌
おわりに
今後も Excel や MATLAB に限らず、視覚化できる
ツール(ソフトやハードも含めて)を用いて、数学の視
覚化に努め学生の理解度向上と学習意欲の向上に努め
ていきたい。また、これによる理解度向上が成績にど
のように反映されるかについてもさらに検討してゆき
たい。
参考文献
西 誠,“パソコンを利用した演習の導入による数理科
目の理解度向上の試み”,日本リメディアル教育学会第 回
全国大会発表予稿集,,SS
堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み初年
図 フーリエ級数近似曲線(1 項~30 項近似)
図 は、足し合わせ項の総数を変えて得られるフーリ
エ級数の各計算結果を 次元的に重畳し比較したもの
である。これらのグラフにより学生は近似式が本来の
数式のグラフに近づくことを実感できたようである。
次生を対象とした視覚化による数式の理解度向上その ”,
工学教育研究講演論文集 SS
堤 厚博,“数学教育における視覚化を用いた試み初年
次生を対象とした視覚化による数式の理解度向上その ”,
工学教育研究講演論文集 SS
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