東大寺東塔院跡 -平成 28 年度境内史跡整備事業に係る発掘調査- 正倉院 転害門 講堂跡 大仏殿 二月堂 開山堂 戒壇堂 鐘楼 西塔院跡 法華堂 東塔院跡 東大寺総合文化センター 南大門 本坊経庫 0 200m 図1 東大寺境内図(1:5,000) かづらいし 葛 石 つかいし 束石 つかいし 束石 は め い し 羽目石 みみいし 耳石 ふみいし 踏石 は め い し 羽目石 じふくいし 地覆石 のべいし 延石 図2 壇正積基壇にともなう階段模式図 写真1 奈良時代の基壇外装 昨年度の調査で、東面階段南側面の石材を 検出しました。 写真2 埋められた階段(塔北面階段) 写真3 心礎の抜取穴 鎌倉時代の階段の内側に埋められた、奈良時代の階段踏石 の一部を検出しました。 心礎そのものは残っていませんでしたが、巨大な抜取穴を 検出しました。 PU300 VPφ2 50 VP φ25 0 PU300 24 0 PU300 PU PU300 コンセント盤 灯 石畳 115 T 110 北 門 灯 E 石畳 奈良時代基壇 灯 写真2 110 鎌倉時代基壇 A区 115 東 塔 西 門 写真3 B区 写真1 東 門 写真4 110 写真5 C区 南 門 0 回 廊 50m 0 11 図3 調査区平面図(1:1,000) 写真4 礎石下の盛り土工法 写真5 二つの階段 鎌倉時代の基壇盛り土の中に、環状の列石を確認しました。 塔の南面でも、鎌倉時代の基壇盛り土の中から、奈良時代 の基壇外装が顔を出しています。 はじめに 東大寺では、平成 26 年度(2014)に境内整備事業に着手しました。その一環として、昨 年度から奈良文化財研究所・奈良県立橿原考古学研究所の協力を得て東塔院跡の発掘調査を行ってお り、今年度はその2年目にあたります。東塔院は、東塔を中心に四周が回廊で囲まれた区画で、東西 南北の回廊それぞれには門が設けられています。東塔は奈良時代[天平宝字8年(764)頃]に創建 たいらのしげひら された七重塔で、平 重衡の南都焼き討ちによる焼失[治承4年(1180)]、鎌倉時代における復興 [嘉禄3年(1227)頃]を経て、南北朝時代[康安2年(1362)]に雷火により再び焼失しました。 その高さは、南都七大寺の塔の中でも当寺の西塔とともに最も高かったとされています。発掘調査の 目的は、往時の東塔院の姿を明らかにし、今後の整備につなげていくことにあります。 調査区 今回の調査では、3箇所の調査区を設定しました(図3)。A区は、昨年度と同じ東塔の中 心から塔基壇および周辺を含む北東部分で、主に心礎周辺部や奈良時代基壇の確認を、B区は、塔基 壇南面に設定し、南面階段および塔基壇西南隅の確認を、塔基壇から南方に延ばしたC区は、東塔院 南門の位置や規模、さらには参道の確認などを目的としたものです。 塔 昨年度の調査によって、鎌倉時代の基壇は、奈良時代の基壇の上と周囲に盛り土をして一回り大 きくしたことが判明しています。今年度の調査では、鎌倉時代の塔の柱を支える礎石を置く箇所には、 基壇造成の工程で環状に石が配されており、その中は他の部分より盛り土が強固であることが新たに 判明しました(写真4)。 基壇周囲の石敷は、南面・西面では大半が抜き取られていましたが、幸いなことに西南の隅石が残 存しており、塔の中心位置などを知るための重要な情報を得ることができました。 また、奈良時代の基壇についても知見が深まりました。昨年度の調査では、基壇東面に設けられた ぎょうかいがん 階段の南側面にあたる基壇外装(凝灰岩製)を検出しました(写真1)。今年度着手した南面階段の 東側面付近でも、やはり基壇外装が姿を現しました(写真5)。奈良時代の階段は、鎌倉時代の階段 よりも幅が広いと推定されますが、そのことは建物構造そのものが奈良時代と鎌倉時代で異なって いたことを示唆します。さらに基壇北面では、奈良時代の階段踏石の一部を検出しました(写真2)。 踏石の上3段分の表面は黒く焼け焦げています。奈良時代の基壇外装は、鎌倉時代の盛り土の中に比 較的良好な状態で残されていると考えられます。 南門 奈良時代の南門の遺構は明確ではありませんが、同じ位置を踏襲したと考えられる鎌倉時代の 南門の位置をほぼ特定することができました。基壇は、当初の想定と異なった平面形状を呈すると考 えられます。 主な遺物 出土した遺物は、大半が鎌倉時代の瓦類です。軒丸瓦・軒平瓦・丸瓦・平瓦・鬼瓦・面戸 瓦などがあります。特に鬼瓦は全体が復元できる資料が出土し、表面には赤色顔料が見られます。そ かすがい ふうたく せん の他に釘・鎹や風鐸片も出土しました。奈良時代の瓦や塼、基壇外装の石材も出土しています。奈良 時代の瓦は鎌倉時代の瓦の出土量と比べてあまり多くありません。また、奈良時代の基壇外装石材の 大半には被熱した痕跡が認められ、南都焼き討ちの際の火災のすさまじさを物語っています。 おわりに 今年度の調査では、鎌倉時代における東塔院復興の様相だけでなく、奈良時代創建時の様 子も明らかになりつつあります。来年度以降、門や回廊の本格的な調査に着手し、東塔院全体の姿を 明らかにし、その成果を踏まえて整備を進めていきます。極めて残りの良い巨大な塔基壇の遺構から、 往時の七重塔の偉容に思いを馳せていただければ幸いです。 東 大寺東塔院跡 ―平成 28 年度境内史跡整備事業に係る発掘調査― 編 集:史跡東大寺旧境内発掘調査団 (東大寺・奈良文化財研究所・奈良県立橿原考古学研究所) 発 行:東 大 寺 〒 630-8587 奈良市雑司町 406-1 発行年月日:平成 28 年 10 月 8 日 ※表紙 東塔基壇(南西から)
© Copyright 2024 ExpyDoc