自閉スペクトラム症幼児と母親の脳で起きる現象を発見

News Release
平成 28 年 10 月 11 日
各報道機関担当記者 殿
世界初
見つめ合う時,自閉スペクトラム症幼児と
母親の脳で起きる現象を発見
金沢大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長(医薬保健研究域医
学系 教授)
,菊知充教授,長谷川千秋博士研究員らの研究グループは,大阪大学大学院工
学研究科の浅田稔教授らの研究グループ(脳磁計(Magnetoencephalography: MEG)(図 1)
の同時計測システムの実装を担当)と協力し,世界で唯一金沢に設置されている,親子同
時測定が可能な脳磁計を活用し,自閉スペクトラム症幼児とその母親が見つめ合っている
最中の脳の活動を調べたところ,以下の 3 つのことが明らかになりました。
1.症状が重い自閉スペクトラム症では,「見つめ合う」ことで生じる脳の反応が低下し
ている
2.自閉スペクトラム症幼児の脳の反応が低下している場合,母親の脳の反応も低下して
いる(図2)
3.見つめ合い中の母親が子どもに合わせてうなずくといった動作をした場合,母親の脳
の反応が強い
親と子どもが見つめ合っている間,無意識の間にも,膨大な量の社会的な情報のやり取
りがなされています。すなわち,相手の表情を理解し,新たに感情が生まれ,そしてそれ
が自らの表情に表れ,相手に影響を与えるという双方向性の情報交換が絶え間なく続いて
います。
親子が見つめ合っている間の双方向性の交流は,
子どもの社会性の成長において,
とても重要な役割を果たしていると考えられています。
今回,親子が見つめ合う状態で脳機能を同時測定できたことにより,子どもの社会脳の
発達を解明する一つのステップになると期待されています。
本研究成果は,米国の科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に日本時間 10 月
10 日午後 6 時に掲載されました。なお,本研究は,文部科学省の「特別推進研究:代表浅
田稔教授」および一部,科学技術振興機構「革新的イノベーション創出プログラム(COI
STREAM)
」
(サテライト金沢大学代表研究者:三邉義雄教授)により行われた研究の成果で
す。
本件配布先:金沢大学→石川県文教記者クラブ
大阪大学→文部科学記者会・科学記者会
大阪科学・大学記者クラブ
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【掲載論文】
タイトル: Mu rhythm suppression reflects mother-child face-to-face interactions: a pilot study
with MEG simultaneous recording(母子の対面コミュニケーションに関わる脳活動:親子同
時MEG測定研究)
著者:Chiaki Hasegawa, Mitsuru Kikuchi, Yoshio Minabe et al.(長谷川千秋,菊知充,
三邉義雄 他)
所属:金沢大学医薬保健研究域医学系,子どものこころの発達研究センター
【研究の背景】
幼児用脳磁計(Magnetoencephalography: MEG)とは,超伝導センサー技術(SQUID 磁束
計)を用いて,脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測,解析する装置であ
る脳磁計を,幼児用として特別に平成 20 年に開発したものです(図1)
。幼児用 MEG では
超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ,
頭全体をカバーするように配置することで,
高感度で神経の活動を記録することが可能になりました(現在日本では 1 台のみ存在)
。さ
らに成人用 MEG と同時に測定することができるシステムは,
平成 26 年に大阪大学との共同
研究で開発したものであり,世界でも金沢に唯一存在するだけです。
MEG は神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり,その高い時間分解能(ミリ
秒単位)と高い空間分解能において優れているため,脳のネットワークを評価する方法と
して期待されています。さらに MEG は放射線を用いたりせず,大きな音もせず,狭い空間
に入る必要がないことから,幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっています。
これまで,親子が見つめ合っているときの脳の活動についてはよく調べられていません
でした。理由は,幼児の脳機能を測定することが困難なうえに,母子が見つめ合っている
状態で脳機能を精度よく同時に測定するシステムを構築することは困難でした。平成 26
年に金沢大学が大阪大学と共同で開発した親子同時 MEG 測定システムは,親子が見つめ合
った状態で,非侵襲的に測定できるシステムで,静かでリラックスした状態で脳全体の活
動を母子ともに同時に測定することを可能にしました(システムができたことは平成 26
年に発表済み)
。今回は,その装置を用いた世界で初めての医学研究報告です。
【研究の概要】
今回,4 歳から 7 歳の自閉スペクトラム症幼児 13 人とその母親 13 人を対象に,幼児用
MEG を搭載した親子同時 MEG 計測システムを用いて,母子が見つめ合っている間の脳の神
経活動を記録しました(うち,母子ともに脳の反応を測定できたのは 8 組)。その結果,母
子が見つめ合っているときに生じる特別な脳の反応(ミューサプレッション:注1)が自
閉スペクトラム症幼児の症状が重い場合に,より低下していることを発見しました。さら
に自閉スペクトラム症幼児の反応が弱い場合には,母親のこの反応も弱いことを発見しま
した。そして,この脳の反応が強い母子間の頭部の運動パターンを分析すると,見つめ合
い中の母親の頭の動きが,子どもの頭の動きに追随するようなパターンが多いことを発見
しました。このことは,母子間の見つめ合い中に起きる脳の反応には,自閉スペクトラム
症の特徴が反映されること,
そして母子間の関係性も反映されていることを示しています。
本件配布先:金沢大学→石川県文教記者クラブ
大阪大学→文部科学記者会・科学記者会
大阪科学・大学記者クラブ
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注 1 ミューサプレッション:人が人の動きを観察しているときに,まるでその動きを自
分でもシミュレーションするかのように,人の運動野皮質周辺で生じる脳の反応。実際に
自分の体を動かすときにも同様の反応が起きます。
【研究成果の意義について】
これまで,同様の研究報告がなかったため,社会性をはぐくむ母子間の脳活動について
まだ何も解明されていません。このような研究は今始まったばかりです。今回の成果は,
母親の子どもに追従した動作パターンが,子どもの社会脳の活性化と連動していることを
意味します。健常児の子どもの場合の母子関係でも同様な現象が観察されるかは,現在研
究中です。この研究は,子どもの脳の社会性(社会脳)の発達を「見える化」する,一つ
のステップになると期待されます。将来的には社会脳を育む療育の効果評価などに応用さ
れることを期待しています。
なお,今回の研究は,親の関わり方が自閉スペクトラム症の原因になっていることを示
しているわけでないことにご注意ください。
図1
図2
実際の MEG を用いた親子同時測定の
様子(写真は健常児)
母の反応が小さいと,子どもの反応
も低下
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[研究内容に関する問い合わせ]
金沢大学子どものこころの発達研究センター
菊知 充(きくち みつる), 長谷川 千秋(はせがわ ちあき)
Tel:076-265-2856 (金沢大学子どものこころの発達研究センター)
大阪大学大学院工学研究科
教授 浅田 稔(あさだ みのる)
Tel:06-6879-7347 (知能・機能創成工学専攻創発ロボティクス研究室)
[広報担当]
金沢大学総務部広報室
桶作 彩華(おけさく あやか)
Tel:076-264-5024
E-mail:[email protected]
金沢大学医薬保健系事務部総務課総務係
萬道 奈央子(まんどう なおこ)
Tel:076-265-2109
E-mail:[email protected]
大阪大学工学研究科総務課評価・広報係
Tel:06-6879-7231
E-mail:[email protected]
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