Bio使用に関する妊娠・授乳中の注意について

はじめに
村
島
温
子
妊娠中に薬物治療する際の注意事項
および Bio
の妊娠中の使用に関する注意につい
て述べたい。
使用に関する妊娠・授乳中の
Bio
注意について
自己免疫疾患のみならず慢性疾患を持つ女性
において良好な妊娠結果を得るための必要条件
は、原疾患が落ち着いている状態で妊娠するこ
妊娠・授乳中に限らず、
﹁リスクを考慮して
とである。そのためには薬物療法と妊活を両立
も薬剤を投与することにより得られる効果が、
らず主治医も不安をぬぐえないというのが本音
ながら妊娠に挑戦することに、女性患者のみな
婦・授乳婦が特殊な点は、これらを対象とした
きにのみ処方するというのは大原則である。妊
病態の改善にとって必要である﹂と判断したと
せざるを得ない場合も多いが、薬物療法を行い
のところであろう。ましてや、その薬剤が新し
動物実験結果︵インタビューフォームでは非臨
臨床試験を行うことは倫理的に不可能なので、
︶とあっては、
く登場した生物学的製剤︵ Bio
その不安はさらに大きいに違いない。
ここでは、妊娠・授乳中の薬物療法の考え方、 床試験の中の項目にある生殖発生毒性試験に記
136
CLINICIAN Ê16 NO. 652
(1054)
安全性
対過敏期となる。妊娠8∼ 週は口蓋や外性器
が作られており、まだ慎重な対応を要する。胎
載されている︶のみを参考に添付文書の﹁妊婦
・授乳婦の項﹂が作成されることである。動物
なる︵図︶
。
盤が完成する妊娠 週以降は胎児毒性が問題と
有益性投与に格上げされることは稀である。
の疫学研究でリスクが否定されても、禁忌から
実験が根拠で﹁禁忌﹂となった薬剤が、その後
12
は刻々と変化していく可能性があることを説明
し、患者が納得した上で処方することが重要で
いというためには、ヒトでの使用経験や疫学研
学研究で催奇形性を証明するには少なくとも3
究で催奇形性が否定されなくてはならない。疫
妊娠中に薬物を投与することにより胎児が受
ける影響は、妊娠の時期によって考える必要が
1)
00例が必要とされているが、この規模の疫学
ある。
られていない。しかし、ヒトでも催奇形性はな
妊娠計画中ないしは妊娠中の
妊娠計画中ないしは妊娠中に薬物治療を行う
製剤の安全性について
場合には自然流産、先天異常児の自然発生率が
Bio
の生殖発生毒性試験はカニクイザルを用
それぞれ %、3%前後あること、安全性情報
Bio
いて行われているが、催奇形性を示す結果は得
15
ある。妊娠4 週︵ 受精から +数日 ︶までは
Ig
るはずで、流産しない場合には奇形の形で影響
が残ることはないと考えられている。妊娠4∼
7週は重要臓器が形成される時期で、奇形の絶
児へ移行する率が高い。 Bio
は免疫抑制作用が
あるのは周知の事実だが、胎児への影響が注目
︵全か無か︶
﹂の時期と呼ばれ、こ
はTNF阻害薬だけである。
研究がある Bio
﹁
All
or
None
の多くはヒト型ないしはキメラ型の免疫
の時期に何らかの害が及んだ場合には流産とな Bio
グロブリンG︵ G︶であり、胎盤を介して胎
14
(1055)
CLINICIAN Ê16 NO. 652
137
15
妊娠時期と児への影響
඲䛛↓䛾᫬ᮇ
㦵᱁䜔ჾᐁ䛜䛷䛝䜛᫬ᮇ
ዷፎ4䡚12㐌䠆㡭䜎䛷
⫾┙䜢⛣⾜䛩䜛పศᏊ໬ྜ≀䜔IgG〇๣䛿
㧗⃰ᗘ䛷⛣⾜䛩䜛
ୖグ௨㝆䡚
されるようになったのは、TNF阻害薬を妊娠
中も継続使用していたクローン病の母親から誕
生した児が、生後に生ワクチンであるBCGを
接種したことによって死亡したという報告であ
を妊娠中も
る。胎盤移行性の高い G型の Bio
継続した場合には、生後約半年間の生ワクチン
2)
用した薬剤と奇形発生や胎児毒性との関連を示
を示すことは難しいが、これまでに、父親が使
父親が使用した薬剤が児に与える影響につい
ての疫学研究は少なく、安全であるという根拠
︵任意接種︶である。
はBCG︵定期接種︶とロタウイルスワクチン
生後半年以内に接種することになる生ワクチン
接種は避けるべきと考えている。本邦において
Ig
唆する報告はない。
授乳中の薬物治療の考え方
産後の薬物治療は母乳栄養との両立という観
点、次回の妊娠に向けての治療戦略という観点
138
CLINICIAN Ê16 NO. 652
(1056)
3)
ᙳ㡪䛜኱䛝䛡䜜䜀ὶ⏘䚸ᑠ䛥䛡䜜䜀ಟ᚟䚸
ᙧែ␗ᖖ䛾ྍ⬟ᛶ䛿䛺䛔䛸⪃䛘䜙䜜䛶䛔䜛
ཷ⢭䡚2㐌䠙ዷፎ4㐌
ദወᙧᛶ䛻ὀព䛧䛺䛡䜜䜀䛺䜙䛺䛔᫬ᮇ
䠆10䡚12㐌䛿ᑠ䛥䛔ᙧែ␗ᖖ䛾ྍ⬟ᛶ
⫾ඣẘᛶ䛻ὀព䛧䛺䛡䜜䜀䛺䜙䛺䛔᫬ᮇ
(筆者作成)
から考えていく必要がある。母乳栄養には母児
を理由にしてのことである。妊娠中は高濃度で
ともかく、
﹁安全性が確立されていない﹂こと
胎児に移行するような G製剤が、出産後はい
のきずな構築、児の認知機能向上や母体の産褥
復古促進など、母児双方にとって大きなメリッ
きなり母乳不可となることに疑問を持つ医師、
を継続する例も少なくないと思うが、 薬剤師も多いのではなかろうか。実際にアダリ
かけて
Bio
関節リウマチや乾癬では産後に再燃した場合に
ムマブ︵ヒュミラ︶をはじめとするTNF阻害
トがある。炎症性腸疾患では妊娠中から産後に
Ig
は
再開ないしは新規開始が一般的であろう。 Bio
即効性ならびに母乳栄養との両立という点から
中に検出されないという研究報告がなされてい
れてもわずか、完全母乳で育っている乳児の血
薬の多くは母乳中に薬剤が検出されないか、さ
便利であるが、経済的に難しい場合には、離乳
る。
ある。
までの期間限定で使用することも一つの方法で
®
っている。
﹁乳汁中への移行が認められた﹂は
剤が母乳栄養とは両立できないような記載にな
を示すとは考えられない。しかし、すべての薬
消化管から吸収されて児の血中に移行し、薬効
から産後にかけての
トすることを目的として活動している。妊娠前
とって最善の妊娠結果が得られるようにサポー
る情報をもとにカウンセリングを行い、母児に
製剤の安全性について
は妊娠希望の自己免疫疾患患者にとって
授乳中の
Bio
Bio
が母乳に移行した
強い味方である。
﹁妊娠と薬情報センター﹂は、
高分子タンパクである Bio
としても、それを飲んだ新生児ないしは乳児の
妊娠中の薬の有用性と安全性︵危険性︶に関す
おわりに
1)
の使用に不安を持つ患
Bio
5)
(1057)
CLINICIAN Ê16 NO. 652
139
4)
者がいたら是非ご紹介願いたい。
妊娠と薬情報センター
センター長︶
︵国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター
主任副センター長、
文献
Skorpen CG, et al : The EULAR points to consider for
use of antirheumatic drugs before pregnancy, and
during pregnancy and lactation. Ann Rheum Dis, 75
(5), 795-810 (2016)
Cheent K, et al : Case Report : Fatal case of disseminated BCG infection in an infant born to a mother
taking infliximab for Crohn’s disease. J Crohns Colitis,
4, 603-605 (2010)
渡辺央美 父親の薬剤使用における胎児への影響、
伊藤真也、村島温子編、薬物治療コンサルテーショ
ン︱妊娠と授乳 改訂2版、南山堂、東京、9∼
︵2014︶
伊藤直樹、村島温子 母体の薬物療法と母乳育児支
援︱これからの医師に求められる﹁授乳と薬﹂への
対応、新薬と臨牀、 ︵8︶
、911∼915︵2
64
12
015︶
村島温子 妊娠中の薬剤使用とリスク評価︱妊娠と
薬情報センターの役割、産婦人科の実際、 、13
23∼1330︵2011︶
140
CLINICIAN Ê16 NO. 652
(1058)
1)
2)
3)
4)
5)
60