大阪市で市有地内神社境内地をめぐる訴訟が R&R No323 ついうっかりして気づかずに来た政教問題に関わる一つの訴訟が進行中であることを遅 ればせながら報告致します。 去る三月十五日の読売新聞(関西版)に「市有地に神社 大阪市vs住吉さん」という 見出しの六段にわたる詳細な記事が掲載されました。 それによれば、大阪を代表する神社として全国に知られている住吉大社(大阪市住吉区) の末社・港住吉神社(同市港区)の境内地の一部が大阪市の市有地であり、これまで無償 で貸与されて来たことの是正を図るために、市と神社との間で続けられてきた協議がまと まらず、昨年九月に市が住吉大社を相手取って市有地の明け渡しを求める民事訴訟を提起 したというのが訴訟に至った経緯です。 実はここまでには百年近くもの長い歴史があります。そもそも港住吉神社は天保十三年 (一八四二)に海運の守護神として現在の港区にある天保山に鎮座したのが端緒。幕末期 に至り、海防強化のために砲台がこの地に建設されることになったので、近くに移ったも のの、後にその境内が市の開発する天保山運河の予定地とされたことにより、大正六年(一 九一七)に現在地に移転したという経緯があるのです。 当時、大阪市は住吉大社に移転補償費を支払い、市有地を無償で貸与しました。全体で 約三六〇〇平方㍍ある境内の現状を見ると、本殿・拝殿は神社所有地にありますが、社務 所や祭具庫・手水舎は約二二〇〇平方㍍の市有地に建っています。 市によれば、終戦後は憲法の定める政教分離原則に基いて有償貸与に切り換えるよう大 社に要請、両者の交渉は長引きましたが、平成二十二年(二〇一〇)に言い渡された「砂 川市市有地内神社敷地譲渡訴訟」最高裁判決(R&R No278参照)を契機として、 市と大社は二十四年七月に市有地を売却することで合意しました。 ところが、この売却価格をめぐって両者は再び対立し、協議は難航しました。市は当該 土地を「宅地」として不動産鑑定し、売却額を約三億五三〇〇万円と提示したのですが、 大社は「境内には神社の所有地もあり、近隣住宅地と同様に評価できない」と提示額に難 色を示したからです。 とどのつまり、売却の合意から二年近く経った二十六年五月、市側は無償の賃貸契約の 解除を通知し、九月には大社が市有地を不法占拠しているとして明け渡しを求める訴訟を 起こしたのでした。大社側は「地域住民から長年信仰されて」いる神社の公共性を考慮す べきだと主張し、独自の不動産鑑定から売却額は二億円以下が適正であるとしています。 先の最高裁判決は、市有地に建てられている神社の敷地を町内会に無償譲与したのは、 違憲のおそれのある状態を「是正解消するために」行なったものであると認定し、適法で あると判示したのですが、本件はもともと有償譲与の金額をめぐる対立から生じたもので すから、最終的には裁判所の仲介による「和解」によって解決されるのでしょうか。 (四月十五日)
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