プ レ ス リ リ ー ス 2016 年 10 月 13 日 国立研究開発法人情報通信研究機構 シースルーなプロジェクション型ホログラフィック 3D 映像技術を開発 ~ホログラムプリンタで作製した光学スクリーンによって画面面積と視野角を自在に設計可能~ 【ポイント】 ■ NICT が開発したホログラムプリンタで特殊な光学スクリーンを作製 ■ 透明な光学スクリーン上にホログラフィック 3D 映像を表示可能 ■ ヘッドアップディスプレイやスマートグラス、デジタルサイネージ等への応用に期待 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)電磁波研究所 電磁波応用総合研究室 は、独自に開発したホログラムプリンタにより作製した特殊な光学スクリーンと、今回新たに開発したホログラム 映像を投影する技術を組み合わせることで、透明なスクリーンにホログラム映像が浮かぶプロジェクション型ホ ログラフィック 3D 映像技術を開発しました。 電子ホログラフィ*1 と呼ばれるこれまでのホログラフィック 3D ディスプレイは、空間光変調器(SLM)*2 の解像 度不足から、実用的な画面面積と視野角を両立することが困難でした。また、ディスプレイ後方に大掛かりな光 学系の装置が必要で、これらが実用化に対する大きな障壁となっていました。 今回開発した技術は、SLM の解像度に依存せず、特定の観察位置に対して画面面積と視野角を自在に設計 することができ、さらに、ホログラム映像をほとんど透明なスクリーンを介してユーザーに提示できることから、先 述の障壁を緩和し、車載ヘッドアップディスプレイやスマートグラスのホログラム映像化、デジタル 3D サイネージ の実現といった実用的な応用が期待できます。 この成果は、10 月 3 日(月)に、Nature Communications に掲載されました。 なお、本研究の一部は、JSPS 科研費(26790064、16H01742)の助成と総務省 SCOPE(162103005)、文 部科学省 COI STREAM の委託を受けたものです。 【背景】 計算機の処理能力や通信技術の向上により、膨大な情報のやり とりが可能になってきました。それに伴い、情報を最終的にユーザー に提示するディスプレイの重要性も増しています。特に、近年は、3D プリンタや 3D スキャン技術の台頭を受けて、立体映像表示を可能と する”3D ディスプレイ”への需要が高まっています。 NICT は、電子ホログラフィと呼ばれるホログラフィック 3D ディスプ レイの開発を行ってきました。しかし、実用的な画面面積と視野角を 持つホログラフィック 3D ディスプレイの実現には、空間光変調器 (SLM)の更なる高解像度化が必要でした。 図 1 今回開発したホログラフィック 3D 映像技術 透明な光学スクリーンに投影されたホログラム映像 【今回の成果】 今回、NICT は、SLM の解像度に依存することなく、画面面積と視野角の両方を自在に設計できる、プロジェクショ ン型の新しいホログラフィック 3D 映像技術を開発しました。 当研究室では、2014 年から、特殊なホログラム印刷技術及びその複製技術によって、様々な応用が可能な光技 術の実現を目指した HOPTECH(Holographic Printing Technology)という研究プロジェクトを開始しました。その研 究の一環として、コンピュータで設計した光の波面をホログラムとして記録できるホログラムプリンタを開発してきまし た。ホログラムプリンタは、3D データの可視化といった応用(補足資料 図 8 参照)や、任意の反射分布特性を持つ光 学素子 DDHOE(Digitally designed holographic optical element)を作製することができます。 今回開発したプロジェクション型ホログラフィック 3D 映像技術は、ホログラム映像を拡大投影する技術と、投影され たホログラム映像の光を特定の観測位置に集光する特殊な光学スクリーンをホログラムプリンタで作製することで、 実現しました。ユーザーは、自在に拡大されたホログラム映像を自由な視野角で見ることができます。これまでにも、 レンズや凹面ミラーといった光学素子を用いて、ホログラフィック 3D ディスプレイの視野角を拡大する技術は提案され ていましたが、今回開発した技術は、ホログラムプリンタで作製した薄い光学スクリーン 1 枚で、従来の光学素子以上 の設計自由度を実現することができます。 さらに、この光学スクリーンはほぼ透明(補足資料 図 6 参照)であることから、ディスプレイの使い方に応じて柔軟 なシステム設計が可能となり、例えば、3D 情報を提示する車載ヘッドアップディスプレイやホログラム映像を提示する スマートグラスの実現、デジタルサイネージのホログラム映像化等への応用が期待できます(図 2 参照)。 図 2 プロジェクション型ホログラフィック 3D 映像技術とその応用例 【今後の展望】 今後は、ディスプレイのフルカラー化を進めるとともに、実用化を目指したシステムの簡素化、複数の観測者に映像 を提示できるシステムの検討や観測位置を自由に走査できるシステムの開発などを進めます。 <論文情報> 掲載誌: Nature Communications, DOI: 10.1038/ncomms12954 URL: http://www.nature.com/ncomms/2016/161003/ncomms12954/full/ncomms12954.html 掲載論文名: Projection-type see-through holographic three-dimensional display 著者名: K. Wakunami, P-Y. Hsieh, R. Oi, T. Senoh, H. Sasaki, Y. Ichihashi, M. Okui, Y-P. Huang & Kenji Yamamoto < 本件に関する問い合わせ先 > 電磁波研究所 電磁波応用総合研究室 涌波 光喜、山本 健詞 Tel: 042-327-6425 E-mail: [email protected] < 広報 > 広報部 報道室 廣田 幸子 Tel: 042-327-6923 Fax: 042-327-7587 E-mail: [email protected] 補足資料 従来のホログラフィック 3D ディスプレイの課題 電子ホログラフィと呼ばれているホログラ フィック 3D ディスプレイは、空間光変調器 (SLM)に表示する干渉縞によって入力光 を自在に回折させることで、3D 映像を再生 します。これまでは、SLM の解像度不足に より、実用的なディスプレイの画面面積と視 野角の両立が困難でした(図 3 参照)。これ は、視野角を決定する光の最大回折角θM を大きく設定するためには、SLM の画素の 大きさを光の波長程度まで小さくする必要 図 3 従来のホログラフィック 3D ディスプレイの課題 があるためです。 例えば、解像度 8K(7,680×4,320 画素)、画素の大きさ p が 4.8μm の SLM を用いて波長 532 nm の緑色の光 で再生した場合、画面面積は 3.6 cm×2.0 cm、θM は 6.3 度となり、この小さなホログラム映像全体を見るために、 32 cm 程度離れて見る必要があります。画面面積を大きくするために p を大きく設定すると、θM は小さくなり、ユー ザーは更に離れなければ画面全体を見ることができません。このように、画面面積と視野角との間にはトレード・オフ の関係があるため、両者を同時に拡大したり、自由に設計することができませんでした。 また、ディスプレイ後方に複雑な光学系を必要とする場合が多く、これらの課題がホログラフィック 3D ディスプレイ の実用化における大きな障壁となっていました。 今回開発したプロジェクション型ホログラフィック 3D 映像技術の特長 今回開発した技術の概要を図 4 に示します。本技 術は、ホログラフィックプロジェクタとホログラムプリ ンタで作製した光学スクリーンで構成されます。ホロ グラフィックプロジェクタは、NICT が 2010 年に開発 したホログラフィック 3D ディスプレイ*3 と投影レンズ を組み合わせることで、ホログラム映像を自由に拡 大投影できるよう新たに開発しました。 一方、ホログラム映像を投影するスクリーンは、 同じく NICT が開発したホログラムプリンタで作製し ました。通常のプロジェクタに使われる拡散スクリー ンでは、光の角度指向性が失われるため 3D 映像を 表示することができません。 図 4 今回開発した技術の概要 今回作製した光学スクリーンは、ホログラフィックプロジェクタとユーザーが観察する位置関係から計算した適切な 反射分布特性を持つように作製しました(図 5 参照)。 また、図 6 に示すように、再生に用いる緑色の光(波長 532 nm 付近)以外の光をほぼ透過する特徴があります。 図 5 光学スクリーンの反射特性 図 6 光学スクリーンの透過率分布 この光学スクリーンによって、SLM の解像度に依存することなく、3D 情報を保ったままホログラム映像の光を自在 にユーザーの観察位置に集められるようになり、従来技術より大きな視野角とより近い距離でホログラム映像を観察 できるようになりました(図 7 参照)。今回の実験では、画面面積は 7.3 cm×4.1 cm、水平視野角は約 20 度を達成し ましたが、これらは自在に設計可能です。 図 7 再生されたホログラム映像を所定の観察位置から見た写真 ホログラムプリンタについて 当研究室では、コンピュータで設計した光の波面(振幅分布と位相分布)を自在に記録する”波面印刷”が可能なホ ログラムプリンタの開発を行ってきました。ホログラムプリンタは、コンピュータグラフィックス(CG)で作成した 3D デー タや実物体の 3D スキャンデータをホログラムとして透明なフィルムに印刷することができます(図 8 参照)。記録する 光の情報は、コンピュータで計算され、ホログラムプリンタ内で光学的にホログラム再生されます。再生された光をホ ログラム記録用フィルムに小領域ずつ順次記録していくことでホログラム全体を出力することができます。 ホログラムプリンタは、図 8 に示すように、3D 情報の可視化技術としての利用だけでなく、今回のようにコンピュー タで設計した光学機能を持つホログラフィック光学素子 DDHOE を作製する製造技術としての利用も期待できます。 DDHOE は、従来のホログラフィック光学素子(HOE)と比べて、より自由度の大きい光学特性や大型な光学素子を製 造することが可能です。また、軽量なフィルム 1 枚で、非球面やフリーフォームな反射特性を実現できることから、 DDHOE は様々な光産業分野への応用が期待できると考えています。 図 8 ホログラムプリンタで作製したホログラムの例 <用語解説> *1 電子ホログラフィ ホログラフィは、光の干渉を利用して物体光を干渉縞として記録し、回折を利用して記録された物体光を再生する技術 を指す。光を記録・再生する媒体(メディア)をホログラムと呼ぶ。この媒体に空間光変調器(SLM)を使い、干渉縞を電 子的に表示し再生する技術を電子ホログラフィと呼ぶ。 *2 空間光変調器(SLM) 空間光変調器は、空間的・時間的に光の振幅や位相を変調するために使用されるデバイスを指す。 *3 NICT が 2010 年に開発したホログラフィック 3D ディスプレイ 2010 年 9 月 28 日付け NICT プレスリリース(http://www.nict.go.jp/press/2010/09/28-1.html) 「世界初、電子ホログラフィで、視域角 15 度、対角 4cm のカラー動画表示を実現」
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