工学教育の入り口としての中学技術科の 重要性と理科との連携

(10)工学教育・システムの個性化・活性化 -Ⅰ
講演番号:1C08
工学教育の入り口としての中学技術科の
重要性と理科との連携
-
共有分野とコース別スクランブル方式を核として
-
Significance of technological subjects in secondary schools
as fundamentals for the engineering education.
- With a focus on the common contents and the parallel selective topic method -
○丸山 晴男※1
中條 祐一※2
Haruo MARUYAMA
Yuichi NAKAJO
キーワード:理科,技術科,中等教育,コース別スクランブル方式
Keywords: Science, Technological Arts, Secondary Education, Parallel Selective Topic Method
1. はじめに
工学・技術の進歩とそれを担う人材を育成するため
には,その重要性について中等教育の初期である中学
校の理科・技術科から言及することが効果的であると
考えている.さらに,自然科学上の原理・原則に重点
を置く思考型の理学教育と同時に,実用化を重視する
工学教育を教育の初期段階から導入する必要がある.
著者の丸山9)は,初等・中等教育を主体として,高等
教育(大学)までの教育8)に携わっている.一方中條
は,大学を主体として,初等・中等教育の場で講座等
を実施している.この両者の実践結果を共有すること
で明らかとなったのは,工学教育の入り口とも言える
中学での技術科が過小評価されていること,その重要
性を理科と結びつけることで,生徒の関心を大いに高
められることであった.そこで,理科・技術科学習か
ら工学教育につながる授業および実践を報告する.
2.教員免許取得(理科・技術・工業)と教員
初等中等教育では,対応する小・中・高等学校の教
員免許状が必要である.特に,工学教育に関係する,
理科・技術・工業の免許取得と教員について調査した.
表1 教員免許取得とその専門性
学部関係→
比較項目↓
取得免許
種類:中・高
免許取得者
の手間・人数
教職課程の
履修
教員・就職
工学・技術等
専門性
工学・理工学部
工学系
理科,技術
数学・工業等
非常に困難
非常に少ない
実験,研究で履
修困難・要意欲
ほどんどいない
専門性は非常に
高い,学問と直結
理学・理工学部
理学系
理科,数学等
(学科関係科目)
教職課程ルート
で取得可能
目的がある学生
は取得可能
ある程度就職可
専門性はある程
度ある
教育学部
理科・技術課程
対応課程教科
理科・技術等
教職課程で十分
取得できる
卒業要件なので
確実に取得
概ね教職に就職
中学理科・技術
科の専門性が主
※1
足利工業大学
※2
足利工業大学工学部 機械分野 自然エネルギーコース
3.工学教育推進のシステム開発3,4)
中等教育に工学教育を取り入れた授業コンテンツを
複数用意し,以下のようにブロック・ユニットシステ
ムおよびコース別スクランブル方式を開発し,授業に
組み込み実践した.
3.1 ブロック・ユニットシステム3,4)の開発
表2 ブロック・ユニットシステム
ブロック
ブロック実施内容
Aブロック 課題,学習・追究内容,解決方法,理論・解説
Bブロック 実験・観察・調査など実技,操作性活動
Cブロック 結果の検討,考察,まとめ,Report,工業化
・大ブロックを組み合わせてユニットを構成する.
ブロック構 ・大ブロックの中を細かくして,いくつかの小ブロック
を組み合わせ,ユニットを構成する場合もある.
成解説
・単位時間は,1ブロックを基本とする.
ユニット
ユニット構成(ブロック構成順)
タイプ1 A ブロック→B ブロック→C ブロック
タイプ2 A ブロック→B ブロック→B ブロック→C ブロック
タイプ3 A ブロック→B ブロ→B ブロ→A ブロ→C ブロック
ユニット構 ・1つの小単元や課題から考察・まとめまでの流れを
各タイプ1,2,3等に構成して実施する.
成解説 ・ブロックの組み合わせで,タイプ4,5・・・を生成.
3.2 コース別スクランブル方式3,4)の開発
単元:追究テーマ〔3コース設定〕
A:実験コース:①実験方法 A-1 ②実験方法 A-2
B:実験コース:①実験方法 B-1 ②実験方法 B-2
C:調査コース:①実物の調査
②図書 Web 活用
A: 実験コース B: 実験コース
①実験方法 A-1 ①実験方法 B-1
②実験方法 A-2 ②実験方法 B-2
C: 調査コース
①実物の調査
②図書 Web 利用
A: 実験結果
考察・まとめ
C: 実験結果
考察・まとめ
A+B+C=D
総合研究センター
公益社団法人日本工学教育協会 平成 28 年度
工学教育研究講演会講演論文集
B: 実験結果
考察・まとめ
全体考察,まとめ ⇒次のステップ
図1 コース別スクランブル方式システム図
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3.3 コース別スクランブル方式の事例
下図のように,それぞれの分野に複数のトピックを
設定し,生徒が同時進行で選択的に実験・調査をして
最後にまとめるという方式を開発し,コース別スクラ
ンブル方式と名付けた.実践事例を下記の表3に示す.
表3 コース別スクランブル方式実践事例
学年教科
領域
中1理科 身の回りの現象・光
中1理科 プラスチックの化学
中3理科
イオン・手作り電池
中3理科
色々なエネルギー
コース内容
A 太陽光発電,B 太陽熱,
C 光の進み方,D 光の反射
A 水中実験,B 燃焼実験,
C 表示調査
A~F,果物電池,ジュース電
池,ボルタ電池,備長炭電池等
A手回し発電,B自然エネルギ
ー活用,C自然エネルギー調査
4.各教育段階の連携による工学教育推進
中等教育と高等教育の情報を相互に共有し,中等か
ら高等教育への連続性を図る.それぞれの教育段階で,
お互いの研究成果2)を取り入れることで,より説得力
があり一貫した工学教育を推進できると考えた.
4.1 高等教育の研究・実践を中等教育に活用
中学校理科・技術の授業に,足利工大の中條7)の講
義資料や研究室 Web,恵那エネルギー環境研究所1)(以
下恵那エネ環境研)Web5,6)を活用した.表4に示す.
表4 相互コンテンツ・資料の活用
学年教科 領域
身の回りの現象
中1理科
光の世界
中3理科 エネルギーと自然
中2技術 発電方式の特徴
中3理科 自然エネルギー
資料内容
足工大:太陽熱エネルギー
大学講義資料,中條研 Web
足工大:ソーラークッカー
足工大:風と光の広場
恵那エネ環境研 Web
4.2 恵那エネ環境研の研究・実践を高等教育に活用
中学校勤務を主とする教員が,足工大8)にて,自然
エネルギー特別講義Ⅰの一部を担当している.その際,
恵那エネ環境研の研究内容を講義に活用し,さらにキ
ャリア教育部門の中に教育現場の中等教育から高等教
育までの流れを提示し,今後の進路指導,職業指導,
キャリア教育等への情報提供をしている.
4.3 理科・技術科の共有分野を活かした連携
工学教育推進のために,中等教育においては,理科・
技術の共有部分を深めることが有効である.理論を理
科で,工業化を技術科で学ぶ.以下の表5に示す.
表5 主な理科・技術科共有分野
学年教科
領域
中1理科・技術 プラスチック
化学電池・発電
中3理科・技術
自然エネルギー
中2,3
発電方式の特徴
理科・技術 エネルギー変換
資料内容
種類と組成・高分子化合物
恵那エネ環境研,自然エネ
足工大:ソーラークッカー
各種発電システム
現代科学の進歩
5.結果及び考察
1)技術科の重要性を理解できる工学系教員が理科を
教えることで,基礎としての理科と応用としての工
学の2つの重要性を強調できる.
2)理科・技術科の共有分野が大きいことにそれぞれ
の担当教員は気付いていない.またその連携を図る
には,工学分野出身の教員が理科を教えることが効
果的である.
3)中等教育から高等教育までの流れの中で,双方の
教員がそれぞれの専門分野や資料を共有活用するこ
とで,それぞれの生徒・学生に有益となる.
4)ブロック・ユニットシステム,コース別スクラン
ブル方式による授業実践は,生徒の興味関心を高め
深い学習につながり,実験・調査技能が高まる.
5)中等教育から興味関心を持たせ,早くから実験・
観察・調査を深めることは工学系進路につながる.
6.おわりに
教育段階,あるいは科目間の連携は今後ますます重
要になると思われる.
工学教育を中等教育後期から取り入れる事例は多い
が,中等教育前期(中学)において既に工学教育の入
り口となる科目が用意されている.理工系離れは,理
学的な理論及びペーパーテストにおける得点取得に目
が向いているが,実験操作や調査研究などの授業を義
務教育の段階から導入することがより効果的である.
中等教育から高等教育まで携われる環境をより一層活
かして,今後も工学教育を推進していく決意である.
注および参考文献
1)丸山晴男:家庭用気象データ連携収集型太陽光・風
力発電システムの開発,日本太陽エネルギー学会,
Vol.35,No.3,PP.47-52,2009
2)丸山晴男,中條祐一:エネルギーを体系的に捉える
ための化学エネルギー導入教育,日本エネルギー環境
教育学会第9回全国大会論文集,PP.102-103,2014
3)丸山晴男,中條祐一:エネルギーを体系的に捉え
るための化学エネルギーから自然エネルギー導入教
育,エネルギー環境教育研究,10,1,PP11-18,2016
4)丸山晴男,中條祐一:理科教育から工学教育にな
ぐ,化学史導入カリキュラム実践の効果,技術史教育
学会,17,2,PP19-24,2016
5)恵那エネルギー環境研究所:http://ena-eco.jp
6)恵那ライブ気象台:http://ena-eco.jp/VWS/wx.htm
7)足利工業大学 中條祐一研究室:
http://www2.ashitech.ac.jp/mech/nakajo/
8)足工大総研:http://www2.ashitech.ac.jp/crc/
9)教育士(工学・技術)
:日本工学教育協会
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