美術 - リクルート進学総研

美術
どんな授業なのか
術は得 意であるか、消 去 法 的に選 択 す
を書かせる授 業を構 成した。その例が、
にワークシートを取り入れたり、小 論 文
えたことをその都 度 言 語 化させるため
アール・ブリュット︵ 以 下AB︶を 考 える
る傾 向があった。
徒が選 択したく なる 、美 術の学 び方は
﹁﹃ 不 得 意だけど美 術は好き ﹄という生
や、茶 道 を 通して日 本 文 化
授 業︵ 図1︶
正 規の芸 術 教 育を受けていな
ABは、
い人による 、自 由で無 垢 な﹁ 生の芸 術 ﹂
ないものかと 。特に当 校のよう な 進 学
のことで 、障 がい者 芸 術 と 認 識 される
を学ぶ授 業︵ 図2︶
だ。
を 学ぶ最 後の1年 ﹄に、﹃ 絵が上 手 だか
場 合 もある。多 角 的 な 見 方ができるこ
校では、将 来 的に美 術 を 専 門 とする生
ら面 白い﹄で終わるのではな く 、美 術で
とから 、生 徒の思 考 力 を 深められる 題
徒は極 めて 少 数 派です 。
﹃ 人 生で 美 術
学んだことが社 会に出 たときにつなが
を 通して 、学 年の最 後に小 論 文 として
りを 感じられる 授 業 をつく れないかと
茶 道 の 授 業では 、茶 器 作り 、和 菓 子
のデザインをふまえ 、自 分たちの作った
材 と 考 え 、様々な 専 門 家の講 話や鑑 賞
﹁﹃ 伝 統 文 化に関 する 教 育や 、言 語 活
授 業 設 計 を 構 想 するにあたって 、学
習 指 導 要 領を読み直してみた。
ものを 使って 御 茶 会 を 行い、
一連の流れ
考えました﹂
動 、体 験 活 動の充 実 ﹄が改 善 事 項 とし
のなかで日 本の伝 統 文 化 を 学んでいる 。
取り 込めれば、美 術でも 社 会で 必 要 な
に銘の付け合いもする。
茶 器 作りでは、生 徒 同 士が仲 間の作 品
自 分の意 見をまとめる授 業とした。
方も求められています。これらを授 業に
て 記 されています 。また 協 働 する 学 び
力を育めるはずだと思ったのです ﹂
同じころ 、全 国 高 等 学 校 美 術工芸 教
育 研 究 大 会が滋 賀 県で開 催された。そ
こで 美 術 教 育 をサポートするNPOや
美 術 館の学 芸 員 など 、外 部の人々との
出 会いがあった。
﹁ 外の世 界の人 とのつながりは小 旅 行
﹁ 高 校 教 育における芸 術 科 目の位 置づ
たちにも 体 験してほしいと思いました。
会 うと 何かが起こる。その発 見 を 生 徒
のよう な 楽しさがあります 。誰かと 出
けとは?﹂。現 在 、膳 所 高 校の美 術 科を
私 個 人でやるよりも 外 部の人に補って
美術に﹁連携授業﹂と
﹁言語活動﹂を多様に導入
担 当 する山 崎 仁 嗣 先 生は、前 任の中 高
もらえ ば 、生 徒に早 くたく さんの世 界
のことを知らせることができます ﹂
一貫 校 時 代に、そんな疑 問をもつように
なった。美 術は中 学では全 員が履 修し、
単 な る 外 部 講 師 を 呼 んでの 連 携 授
高 校では選 択 科 目 と なる 。その 際に、
業ではなく 、生 徒たちが感じたこと、考
書 道 、音 楽の他の芸 術 科 目に比べて、美
アール・ブリュットの授業で生徒たちが書いた小論文。
A4用紙にびっしりと自分たちの考えが詰まっている。
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2016 OCT. Vol.414
1898年創立/普通科・理数科/生徒数1318人
(男子729人・女子589人)
/
進路状況/表記なし
学校データ
学校で「美術」を学ぶ最後の1年間で
社会における「文化芸術」の意義と視点に迫る
膳所高校(滋賀・県立)
山崎仁嗣先生
教員歴 23 年。2006 年に膳所
高校着任。出会った学芸員が偶
然高校の先輩だったり、恩師が
絵画指導をした福祉施設の作品
を集めた美術館と連携したり、縁
のつながりで連携授業を推進。
山崎先生と取材に協力してくれた生徒さん
(写真左から、津田啓生君、長船慈子さ
ん、山崎先生、馬場咲良さん、南 沙希さ
ん、田中倫さん)
「授業」で社会を生きる力を育む
【Report 06】美術
図1 『アール・ブリュットを知り、考える』授業の展開(2016年度:2学年)
授業の目的
アール・ブリュットに触れ、創造することの意義や人としての生き方、在り
方を考える。
茶 器 の 銘 付けの 授
業では、
自分の作品、
他者の作品に込めら
れた想いをそれぞれ
言語化していく。
授業の展開(全14時間)
︵
生徒はどう変わったか
複眼的な思考と、
いつか社会で
役立つ兆しを得た生徒たち
1・2年 時にこれらの
現 在3学 年で 、
授 業を受けた生 徒たちの感 想を下 段に
記した。いずれの生 徒 も 小 論 文に苦 労
したり、絵 を 描かない美 術の授 業への驚
今 後行いたい授業
外部から得た知見の成果を、
学校の内外、地域にも伝えたい
﹁ 地 域のそれぞれの分 野で活 躍されて
外部との連携授業の成果を学校の内
外に伝えたいと山崎先生は考えている。
き を 語っていたものの 、
﹁ 将 来 何かの役
に立つのではないかと思った瞬 間が何 度
自分たちで作った茶碗、考えた和菓子(プロの職人が
製造)
を用いて、外部から招いた茶道家による御茶会
の実践。
かあった﹂と答えていた。山 崎 先 生 も 生
自分の作った茶 碗に、他の
生徒たちに銘を付けてもらう。
外 部の多 数の専 門 家の話 を 聴いたり、
仲 間の意 見に触 れることで 、自 分の見
茶器の銘付け
御茶会
︵2時間︶ ︵1時間︶
外部から和菓子職人を招い
ての実践授業。和菓子のデ
ザインを考え、選ばれた作品
は御 茶 会のときにプロの職
人に実際に作ってもらう。
方や考え方が断 片 的・一面 的であったこ
外部から陶芸家を招いての実践授業。
いる方々を、﹃ 美 術 ﹄という窓口から学 校
外部講師を招いての講話。茶道の歴史や展開、道具、作法、菓子、銘など
について学び、千利休が目指した佗茶の在り様や考え方を理解する。
徒たちについてこう語る。
お菓子制作
︵2時間︶
一連のプログラムを通じて﹁茶道﹂における
日本の〝おもてなし〟文化を学ぶ
鑑賞
陶芸
︵3時間︶ ︵4時間︶
授業の展開(全12時間)
とに生 徒たちが気 付いていることが、
ワ
日本の文化と美の関わりについて作品制作や鑑賞活動、
実際に使用するこ
とを通して深く理解するとともに、
これからの文化芸術の意義や役割を考える。
千利休が目指した茶道の世界について学び、
ものの考え方や生き方を知る。
文化芸術や美術に関わる様々な人たちと直に接し、
自らの考え方や生き方
を見つめ直すきっかけとする。
成 果を発 信したいと思っています。その
授業の
目的
へ集めることができたので 、今 度はその
図2 『利休と茶道∼その形と心に学ぶ』授業の展開(2015年度:2学年)
かを 実 感 するタイミングは生 徒 それぞ
ことで、﹃ 高 校 ﹄
や﹃ 生 徒たち ﹄
は
﹃ 広い社
※仕上げた小論文は冊子として配付、展示
﹁ 高 校で学んだことが何に役 立っている
れです 。彼 らが社 会に出 るのはまだ 先
会 ﹄と、﹃ 美 術 ﹄
は
﹃ 暮らし ﹄とつながるき
小論文作成
︵ 時間︶
7
『アール・ブリュットについて知り、考えたこと』
を
各自が小論文にまとめ、
お互いの小論文を輪読
し、考えたことを語り合う。
話し合いにより修正したい箇所を直し、小論文
を改訂。
かには 、自 分 自 身 の 視 野 の 広 がりだけ
でな く 、自 分 と 異 なる意 見の人の気 持
で、
高 校は社 会とつながる力のタネを蒔
鑑賞
時間︶
6
ークシートや小 論 文から読み取れる。な
ち も 理 解 でき るようになったという 生
︵
っかけにもなると思います ﹂
外部から様々な講師を招いた講話とアール・ブリュットの作品鑑賞(授業ごとにワ
ークシートを作成)。
いている段 階だと思います ﹂
アール・ブリュットに関する新聞記事を読んで、
授業全体を通した自己のテーマを考える。
徒もいた。
導入
時間︶
1
受けた
授業を の声
生徒
南さん
美術は息抜きのつもりでし
たが、小論文で大きすぎる
テーマをたててまとまらず、
絞りこむ作業など、めちゃめ
ちゃ頭を使って頑張った感
があります。茶器の銘付け
で、必死に考えた銘を作者
の子に選んでもらえたとき
は嬉しかったです。
田中さん
和 菓 子のデザインが選ば
れて実際にプロの方に作
ってもらえたのが嬉しかった
です。正直、絵も描きたかっ
たですが、
もの作り+ 考える
授業で、芸術の幅や視野
を広げてもらったと感じ、希
望している国際関係の仕
事に役立つと思います。
長船さん
「ABは障がい者アートなの
か?」という疑 問を中 学 時
代からもっていました。人の
話を聴くときもそのテーマで
聴いていたので、小論文を
書くのは大変だったけれど、
自分の考えをまとめて順序
立てて説明する訓練になっ
てよかったです。
津田くん
「あれが美術の授業だった
のか?」
と思うこともあります
し、小論文を書くのは本当
にしんどかったですが、たく
さんの人の話を聞いている
うちに、
疑問に思っていたこ
とに対して自分の意見がだ
んだん生まれてくることは面
白かったです。
馬場さん
ABの授業で、みんなの書い
た小論文の輪読は、人の意
見を知ることができて面白か
ったです。
「同じ講話を聞い
ても人によって感じ方や見
方が違うんだ」
と。美術で茶
道体験などをやると思ってい
なかったのでびっくりしたけ
ど楽しかったです。
取材・文/長島佳子
27
2016 OCT. Vol.414
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