【Message】 授業を 「ワクワク」するものにしよう 企 業における人 材 開 発・マネ ジメント研 究の長 年の知 見 を 活かし 、 近 年は、 教 育 機 関から 仕 事 領 域へのトランジション研 究 や 、 高 校 教 育に関 する実 態 調 査・情 報 発 信 を 行 う な ど 、 活 動の場 を 広 げている東 京 大 学・中 原 淳 先 生 。 円 滑 なトランジションの重 要 性や、 学び続 けることの大 切さなどについて伺いました。 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授 企業の人材開発研究者が 高校教育に関心を抱いた理由 私の専 門は、企 業における人 材 開 発の調 査・研 究ですが、近 年は、教 育 機 関から仕 事 領 域ヘの移 行︵トラン ジション︶ や、高 校 教 育に関 する実 態 調 査・研 究にも 深 く 携わっていま す 。 そのため、﹁なぜ、企 業の人 材 開 発 分 野 から 高 校 教 育へ?﹂と 尋 ねられる ことが あ り ま す 。 答 え はシンプル。 危 機 感 をもったからです 。 日本 企 業には今、余 裕があ りませ ん。 かつては、 学 生 が 大 学 などの教 育 機 関で 獲 得 し た 力 と 、 就 業 後 に 必 要とされる能 力の差は、企 業 内 教 育で 埋められていま した 。 そのため 訓 練 可 能 性の高い若 者さえ採 用 すれ ば問 題が生 じることはあ り ませんで 40 2016 OCT. Vol.414 取材・文/堀水潤一 撮影/平山 諭 なかはら・じゅん●1975年生まれ。東京大学教育学 部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期 課程中途退学。大阪大学博士(人間科学)。メディア 教育開発センター、 マサチューセッツ工科大学客員研 究員等を経て、2006 年より現職。民間企業の人材 育成を研究活動の中心におきつつ、近年、最高検察 庁(参与)、横浜市教育委員会など、公共領域の人材 育成に活動を拡大。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人カタリバ理事。 中原 淳 【Message】授業を「ワクワク」するものにしよう 「授業」で社会を生きる力を育む し、 社 会で必 要 とされる力の育 成に ん 。 この変 化 を 教 育 機 関 側 も 認 識 もはや企 業 内 教 育だけでは足 りませ り、その差は急 速に広がっていま す 。 められる 知 識やスキルは 格 段に高 ま 複 雑 化 、スピード 化 したことで、 求 した 。 しかし、 仕 事 が 大 規 模 化 、 を 説 き 、 大 勢の人 を 巻 き 込んで高い う な 方 に、 リーダーシップの重 要 性 業 務 を 粛々とこな しているだ けのよ ないことです 。 ま して、 与 えられた 参 加 者の頭が固いとなかなか定 着 し プレゼンテ ーションスキルに して も 、 たのは、ロジカルシンキングにしても が少なく あ りません。 そこで実 感し る前に、 何らかのつま ず き を 経 験 し 大 勢の学 生 が 、 仕 事 領 域 に 参 入 す な 感 情 を 抱 えや すい時 期でも あ り 、 す 。 不 安や 葛 藤 といった ネガティブ 教 育 機 関と仕 事 領 域の間には、ク レバスのよう な 断 絶が横 たわっていま まったく 違いま す 。 う か、 そこから 這い上 がれるかでは ど、ショックのま まこぼれ落 ちてしま 私たちの研 究でも 明らかです 。 けれ も ちろん、トランジションにリアリ ティショックはつき ものであることは、 う ﹂ということは、 不 快 なことでも 努めてはき ましたが、十 分 とは言 え 目 標 を 達 成 す るよ う な 課 題 を だ し ま す 。 厳 しい就 職 活 動 を 乗 り 越 え あ り ま す 。 人 材 開 発の研 究では 、 する経 験の有 無は、その後の仕 事 人 気で考 え抜いたり、熱 く 議 論したり さが不 可 欠であ り、若いう ちから本 びつづけるモチベーションやアクティブ 何より 、 雇 用 が 流 動 化 し、 技 術 革 新が著しい時 代においては、一生 学 人の姿 を 何 度 も 目にしてき ました。 である私は、 そのよ うに苦 しむ 若い し ま う 卒 業 生 もいま す 。 大 学 教 員 や業 務に適 応でき ず、早 期 離 職して 欲や自 信 を 失ってしま う 学 生 、 組 織 でし ま う 学 生 、 内 定 者 研 修 中 に 意 たものの、このままでよいか考 えこん ても、経 験に勝るものはあ りません。 す 。コーピングストラテジー ︵ストレス なことではないな ﹂で 済 ま せられ ま だったな 。 人 と う ま くやるのは簡 単 を 感じたとしても、﹁ あの時 も、こう で 似 た 場 面に遭 遇 し 、 強いストレス た経 験が豊 富にあれば、実 際の職 場 対 処の仕 方 も 訓 練によって左 右 さ れま す 。例 えば、人と本 気でぶつかっ ことも あるはずです 。 あ り ま すから、メンタル的にはきつい ません。 このま までは学 生 と企 業の ても、あ まり 響かないのです 。 訓練と経験こそが円滑な トランジションの近道 双 方に不 幸 を も たら す 。 そ う した 調 査 結 果 を 研 修やワークショップなど 生 を 大 き く 左 右 するはずです 。 しかも 、これからの若 者が生 きて いく 職 場は、従 業 員の雇 用 形 態 も 国 も う一つ、鉄は熱いう ちにうつ必 要 があることを 痛 感したという 理 由 も 危 機 感 を 抱いたのです 。 の形でビジネスの場 に 還 元 す ること 企 業における大 人の学びも 大 切で すが、 失 敗が許される教 育 機 関にい 籍 も 違い、 多 様 な 人々とぶつか り あ 対 処 行 動 ︶な どの知 識 が あった とし るう ちに訓 練 を 積むことの重 要 性 を 学びとは何か。なぜ学び 続けなければいけないのか ﹁ 学びとは何か ?﹂と問われたら、 リアリティショックは必ず起こる。 そこで落ちるか、這い上がれるかは 経験と訓 練で変わってくる ンといえ ば 聞こえ はいいで す が 、 ﹁違 の根 幹になってき ま す 。 コラボレーショ いながら目 標 を 達 成 することが仕 事 こうしたことを口にすると、 ﹁何も 学 校は、企 業に必 要とされる人 材 を つく る 場ではない﹂と 不 快 感 を も た れる方がいま す 。 確かに、 教 育の目 標はそれだけではあ り ません。 なら ば、 ﹁ 教 え 子が社 会で幸せに生 きてい けるために﹂と頭につけて考 えてほし いのです 。 困 難な時 代における社 会 への移 行 は、 若 者 が 抱 えている 本 当 に切 実な問 題なのですから。 2016 OCT. Vol.414 41 今 も 強 く 感じていま す 。 中原淳研究室と日本教育研究イノベーションセンターが運営するWebサイ ト「マナビラボ」。全国高校のアクティブラーニング実態調査や実践事例を 公開するほか、授業がさらに「ワクワク」するためのコンテンツを毎週更新。 http://manabilab.jp 学びとは、先人の知 識を活 用しながら 自 分 自 身を変えること。 そして、自 分の周りを変えること けれど、 本 来 、キャリア教 育 的な 指 導 を す るべき なのは、 授 業におい 周 りを 変 えること﹂と答 えま す 。 ら自 分 を 変 えること。 そして自 分の く 、 蓄 積 された 知 識 を 活 用 しなが 私は、﹁ 知 識 を 蓄 えることだけではな 加 えて、 高 度 経 済 成 長 期 と 今 が 違 うのは、 健 康 寿 命 が 延びているこ でも、それは遠い過 去の一瞬の話 。 生 安 泰で あった 時 代 が あ り ま し た 。 大 学 を 出て、 良い会 社に入 れば、一 思 えば、この国では高 度 経 済 成 長 期 とその後のほんの一時 期だけ、 良い か考 えざるを 得なくなる社 会だとい りの長い人 生をどうやって生 きていく が減るという 単 純な話ではなく 、 残 ういうこと。 高 齢 者が増 えて子ども とを 教 師 が 折に触 れて語 り 続 ける 。 教 科によってやりやすい、やりにくい はあ り ま す が工 夫はできるでしょう 。 先 生 方にとっては、 そこが 妙 味 なの では ? 落 語でいえば枕 を 作るよう な もの。 ﹁ 今 から 学ぶことは、こうい うことなんだよ﹂というところから授 業に入 れば、 生 徒 が 関 心 を もつきっ かけになるはずです 。 人は、﹁ 自 分に 関 係があること﹂ ﹁ 自 分でもできるこ と﹂ ﹁ 社 会 から 求 められていること ﹂ ジャスト していくこと 。 そ して、 あ たのに、 今 は 、 そこか ら 先 が 長い。 どう 生 きるかを 考 えれば 何 とかなっ り 組みが行われていま す 。 大 学のな キャリア教 育の充 実 が 求められる ようになり、 教 育 機 関では様々な取 らも 行ってほしいと思いま す 。 よう な、ワクワクする授 業 をこれか の学びに対 す る 関 心 が ぐっと 高 まる 42 2016 OCT. Vol.414 しているからで す 。 もはや、 どんな 場 面でも 通 用 する知 識・スキルなど あ り ません。 変 化の激 しい社 会では、 変 化に応 じて自 分の学びをデザイン していくことが求められるのです 。 その意 味で、一生 、 食いっぱぐれが ないような学 問や学 部などあ り ませ ん。 たまに、 ﹁ 理 系は潰しがき く ﹂と なるまで働 く 時 間は単 純 計 算で約7 てだ と 思いま す 。 今 、 学んでいるこ ろが少なく あ りません。 歳 まで な ら いうフレーズを 聞 き ま す が、で あ る トラ が 行 わ れ るのは な ぜで しょう 。 万 時 間 にな り ま す 。 参 考 までに、 年 間1800時 間 勤 務 するとして、 歳の若 者が 歳に 技 術 革 新によって一気に不 要になる古 約8万 時 間 。いっぽう 、 知 識は、先 人や誰かの経 験から借 りてく ればいい。 そ れより 重 要 なの とで す 。 し か も 社 会 保 障 は 穴 だ ら る程 度、それができたなら、今 度は 会 社や 社 会 が 人 生 を 丸 抱 え して く かには、 特 定の担 当 部 署 をつく り 、 に意 味 を 見 出しやす く、そこに学び 自 分の周 囲にある仕 組みや環 境に働 れないため、 自 分 自 身で 次のステー 特 任の教 員 を 雇 う などして、キャリ の関 心が向 くのだと思いま す 。 生 徒 きかけ 変 えていくことだと思いま す 。 ジを 切 り 開かなければならない﹁キャ なぜ自 分 を 変 える必 要があるのか といえば、 社 会のあ り 方が常に変 化 ア 教 育の充 実 をウリにしている とこ 教室と社会はつながっている ことを語ってほしい うことです 。 は、 先 人の知 識や知 恵 を 自 分のもの 歳 まで け 。 少し前の世 代であれば ならば 家 電メーカーで 大 規 模 なリス い技 術など無 数にあ り ま す 。 むしろ、 歳 まで過ごす 時 間は睡 眠 時 間 を 除い 65 としたう えで、自 分 自 身 を 周 囲にア とと 社 会 とが 密 接に関 連 しているこ 旧 態 依 然のスキルに拘 泥 することが、 ても 約9万 時 間に及びま す 。 あれほ 65 に長いわけです 。 高 齢 化 社 会 とはそ 歳 から リスクになるという 考 え 方 もで き る 80 ど 長 時 間いたオフィスよ り も 、 さら 60 のではないでしょうか。 22 リアの個 人 化 ﹂が始 まっているのです 。 60
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