厚生年金・健康保険の加入対象が拡大 2016年10月から厚生年金・健康保険の適用が拡大した。これまでは一般的に週30時 間以上働く人が加入対象だったが、 10月からは月額賃金8.8万円以上で週20時間以上 働く人なども対象となった。適用拡大による新たな加入者については、保険料負担が増 える人もいるが、 将来の年金額が増える上、 健康保険の給付も充実する。 会社員が加入する厚生年金・健康保険は、これまで は一般的に週 30 時間以上働く人が加入対象であっ たが、2016年10月1日からは、①週の所定労働時間が 20 時間以上あること、②雇用期間が 1 年以上見込ま まず、適用拡大による厚生年金の給付と負担の変 れること、③賃金月額が8.8万円以上(年収106万円相 化を確認する。厚生年金の加入者は、国民年金と厚生 当以上)であること、④学生でないこと、⑤常時 501 年金の両方に加入するが、厚生年金に加入していな 人以上の企業に勤めていること、の 5 つの要件を満 い場合は国民年金のみの加入となる。国民年金のみ たす短時間労働者も加入対象に加わった。なお、③ の加入者のうち、厚生年金の加入者(国民年金第 2 号 には賞与、時間外手当、通勤手当などは含めず、⑤は 被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配 1年で6カ月以上、週30時間以上(勤務時間・勤務日数 偶者(年収130万円未満)は「第3号被保険者」となり、 が常時雇用者の 4 分の 3 以上)働く人が 501 人以上の 第2号被保険者、第3号被保険者以外の人が「第1号被 企業を指す。 保険者」となる。 今回の改正は、①企業に勤務していながら厚生年 短時間労働者のうち、第 1 号被保険者であった人 金・健康保険の恩恵を受けられない非正規労働者に が適用拡大により厚生年金に加入すると、給付が充 厚生年金・健康保険を適用し、セーフティーネットを 実する上、対象者の多くは保険料負担が軽減される。 強化することで、社会保険における正社員などとの 一方、第 3 号被保険者については、適用により給付は 「格差」を是正することや、② 社会保険制度における、働か ●図表1 厚生年金の適用拡大による給付と負担の変化(月額賃金 8.8 万円の場合) ない方が有利になるような仕 組みを除去することで、特に 女性の就業を促進して、今後 の人口減少社会に備えること 【厚生年金】 【第1号被保険者】 保 険 料 保険料 月約1.6万円 を目的としている。 負担減 保険料 月約0.8万円 適用拡大 以下では、今回の改正によ る影響を整理するとともに今 後の見直しについて検討す る。 保険料 月約0.8万円 給 付 基礎年金 月約6.5万円 給付増 【第3号被保険者】 負担増 本人負担 保険料 負担なし 事業主負担 適用拡大 厚生年金 月約0.5万円 基礎年金 月約6.5万円 10年加入 ← の場合 給付増 基礎年金 月約6.5万円 (注)保険料は2016年10月時点で、 厚生年金保険料は報酬の18.182% (労使折半)、給付は2016年度価格。 (資料)厚生労働省資料などより、 みずほ総合研究所作成 10 充実するが、これまで保険料負担がゼロであったの に対し、新たに保険料負担が生じることになる。 例えば、月額賃金8.8万円のパートタイム労働者が 適用拡大により厚生年金に加入すると、10 年間加入 厚生労働省によると、厚生年金・健康保険が適用さ した場合で月額約 0.5 万円、20 年間加入で同約 1.0 万 れる事業所で週 20 時間以上働く短時間労働者(勤務 円の老齢厚生年金が支給される。また、障害がある状 期間1年未満見込みの人と学生を除く)は約250万人 態になった場合には障害厚生年金が支給されるほ である。このうち、2016年10月から厚生年金・健康保 か、死亡した場合に一定の遺族がいれば遺族厚生年 険に加入した短時間労働者は約 25 万人と見込まれ 金が支給される。 ている。 保険料負担は、第 1 号被保険者であった人は月額 なお、今回の改正では適用除外となる従業員 500 約1.6万円から同約0.8万円(本人負担分)へと負担減 人以下の企業についても、労使の合意に基づき、企業 になるが、第 3 号被保険者であった人は保険料負担 単位で適用拡大を可能とする改正法案が国会に提出 がゼロから約0.8万円へと負担増になる(図表1) 。 されている。実施されれば、最大で約 50 万人が対象 となる。 また、今後 3 年以内に検討を加え、その結果に基づ き必要な見直しを講じることとされており、厚生年 次に、適用拡大による健康保険の給付と負担の変 化を確認する。勤務先で健康保険に加入していない 金・健康保険のさらなる適用拡大が検討される見通 しである。 場合は、会社員などに扶養されていれば健康保険の 社会保障制度において、企業規模により制度の適 被扶養者(年収 130 万円未満)となり、その他は市町 用が異なる状況は望ましい姿ではない。また、短時 村の国民健康保険に加入する。 間労働者についても、正社員などと同様のセーフ 給付に関しては、患者の窓口負担は 3 割(小学校入 ティーネットを整えていくことは必要である。非正 学以後 70 歳未満)でいずれの場合でも変わらない。 規雇用者が増加しているなかで、より多くの短時間 ただし、健康保険に加入すると病気やケガの療養の 労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大を進 ために休業する場合や出産で休業する場合で、賃金 めていくことが求められよう。 の支払いが受けられないときに賃金の 3 分の 2 相当 の傷病手当金、出産手当金といった給付が受けられ みずほ総合研究所 政策調査部 る。また、健康保険は、 「健康保険組合」 (健保組合)を 上席主任研究員 堀江奈保子 設立している企業の従業員は健保組合に加入し、健 [email protected] 保組合がない企業の従業員は全国健康保険協会が運 営する「協会けんぽ」に加入するが、健保組合に加入 ●図表2 厚生年金保険料と健康保険料 する場合には、法令で定められた給付に加えて独自 厚生年金保険料 に給付する付加給付が行われる場合もある。 一方、保険料負担は、短時間労働者のうち、国民健 康保険に加入していた人が適用拡大により健康保険 に加入した場合には、居住する市町村や世帯構成な どによって異なるものの、単身世帯の場合はおおむ ね負担減となる。また、健康保険の被扶養者は保険料 負担がないため、適用拡大により健康保険に加入す ると新たに保険料負担が生じる。 なお、厚生年金と健康保険の保険料は、図表 2 の通 りである。 保険料率 うち本人負担分 健康保険料(協会けんぽ) 2016年度 2016年9月 ~ 2017年8月 2017年 9月以降 18.182% 18.3% 10.0% 11.58% 9.091% 9.15% 5.0% 5.79% 40歳未満 40歳以上 (介護保険料含む) (注)1. 健康保険には健康保険組合(健保組合)と協会けんぽがある。健保組合を 設立している企業の従業員は健保組合に加入し、健保組合がない企業の 従業員は全国健康保険協会が運営する協会けんぽに加入する。 2. 健保組合の保険料は組合ごとに異なり、労使折半が原則だが事業主負担 の割合を増やすこともできる。 3. 協会けんぽの保険料は都道府県ごとに異なり、労使折半。図表中の保険料 率は全国平均。 (資料)厚生労働省資料より、みずほ総合研究所作成 11
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