平成28年9月号 千葉銀行ニューヨーク支店

平成28年9月号
夏 の 観 光 シ ー ズ ン が 終 わ り 、ニ ュ ー ヨ ー ク で は 少 し 落 ち 着 い た 雰 囲 気 が 広 が っ て い ま す 。
ニ ュ ー ヨ ー ク 観 光 で 活 躍 す る の が 、名 物 の ひ と つ で あ る 黄 色 い タ ク シ ー「 イ エ ロ ー キ ャ ブ 」
です。マンハッタンはどこを見渡してもタクシー ばかりで、数の多さに驚かされます。
そのタクシー業界に大きな変化を与える技術の開発が米国で進んでいます。その技術は
「ロボットカー」とも呼ばれる自動運転技術で、無人タクシーの実現に向け、研究開発が
加速しています。遠くない将来、ニューヨークの街角で見かけることが出来るかもしれま
せん。
さて、今月は以下のテーマでお送り致します 。
ロボ・アドバイザー
千葉銀行ニューヨーク支店
1.はじめに
皆 さ ん は 「 ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー 」 と い う 聞 き 馴 れ な い 言 葉 を 耳 に し た 時 、何 を 思 い 浮 か べ る
でしょうか。ロボというと、鉄腕アトムやドラえもんを想像する 人もいれば、工場で活躍する
産 業 用 ロ ボ ッ ト を 想 像 す る 人 も い る で し ょ う 。今 回 の レ ポ ー ト で は 、米 国 で 20 年 程 前 に 生 ま れ 、
近 年 資 産 運 用 の 分 野 で 目 覚 ま し い 発 展 を 遂 げ る「 ロ ボ・ア ド バ イ ザ ー 」に つ い て お 届 け し ま す 。
2.ロボ・アドバイザーとは
(1)提 供 さ れ る サ ー ビ ス
ロボ・アドバイザーを一言で表すと、「コンピューターが顧客の嗜好に応じ、自動的に資産
運用を行ってくれるサービス」と言うことができます。利用方法は、まずインターネット上に
ある運用会社のホームページにアクセスし、数問の簡単なアンケートに答えると、コンピュー
ター・プログラムによってポートフォリオ(資産の組み合わせ)が提案されます。そして口座
開設の手続が完了すると資産運用が開始されます。その後、顧客の嗜好や市場環境の変化に合
わせ、適宜自動で資産配分が見直されます。サービスは基本的に非対面で提供され、全ての手
続きはインターネット上で完結します。
ロボ・アドバイザーの特徴のひとつは、「プロファイ
【図表1】プロファイリングでの質問例
質問項目
リング」と呼ばれる顧客への最初のアンケートにありま
① あなたの投資目的は何ですか?
す。ロボ・アドバイザーが提案するのは、一様なポート
② あなたは何歳ですか?
フォリオではありません。アンケートの結果から、その
③ あなたの収入を教えてください。
④ 世帯構成を教えてください。
顧客がどのようなタイプかを過去のデータなどと照らし
⑤ 預貯金はいくらありますか?
合わせながら絞り込みを行い、顧客にマッチしたポート
⑥ 収益性と安全性、どちらを重視しますか?
フォリオを提案します。アンケートでは、顧客の年齢や
収入、投資において
重視することなどを
質問し、顧客のリス
ク許容度(どこまで
リスクがとれるの
か)を中心に分析が
行われます。
-1-
リスク特性を分析
(2)ロボ・アドバイザーの投資対象
ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー が 提 案 す る ポ ー ト フ ォ リ オ は 、 ETF( 上 場 投 資 信 託 ) な ど へ 分 散 投 資 を 行
う も の が 多 い よ う で す 。 ETF と は 、 証 券 取 引 所 に 上 場 し 、 株 価 指 数 な ど の 指 標 に 連 動 す る 投 資
信託のことです。各国の株価指数のほか、国債や社債などの 指数に連動したETFもあること
か ら 、 各 資 産 に 応 じ た ETF を 使 い 分 け る こ と で 、 効 率 的 な 分 散 投 資 が 期 待 で き ま す 。
ETF は 流 動 性 が 高 く 、イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で の 売 買 が 可 能 な た め 、コ ン ピ ュ ー タ ー・プ ロ グ ラ ム
で 売 買 を 行 う ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー と 親 和 性 が 高 い と い え ま す 。 ETF 無 し で は ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ
ーの成立は難しいとも言えるでしょう。
3.ロボ・アドバイザー拡大の歴史
(1)ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー の 登 場
ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー の 歴 史 は 意 外 と 長 く 、原 型 は 1990 年 代 後 半 に 登 場 し ま し た 。こ の 時 期 に
開発されたものは機能が限られており、参考ポートフォリオがインターネット上で提供される
だ け で し た 。 2005 年 に 当 局 か ら 証 券 会 社 に よ る 投 資 分 析 ツ ー ル の 提 供 が 許 可 さ れ る と 、 ロ ボ ・
ア ド バ イ ザ ー 業 界 は 拡 大 し 始 め 、2008 年 の 金 融 危 機 以 降 、多 く の 新 規 参 入 者 が 現 れ ま し た 。彼
ら の 多 く は IT 業 界 の 出 身 で 、彼 ら が 生 み 出 し た ロ ボ・ア ド バ イ ザ ー に は 、そ れ ま で 金 融 の 専 門
家 の み が 持 っ て い た 専 門 知 識 が 備 わ っ て お り 、一 部 の 投 資 家 か ら 注 目 さ れ る よ う に な り ま し た 。
この頃までに現在のロボ・アドバイザー投資の仕組みが出来上がり、市場は夜明けを迎えつつ
ありました。
(2)急 拡 大 す る 運 用 資 産
そ し て 、市 場 は 2010 年 代 に 入 り 大 き な 発 展
を 見 せ ま す 。 2012 年 に 10 億 ㌦ 程 度 だ っ た ロ
ボ ・ ア ド バ イ ザ ー に よ る 運 用 資 産 額 は 、 2015
年 に 500 億 ㌦ へ 跳 ね 上 が り 、 世 間 が 注 目 し 始
めました。しかし、サービスを利用している
人 は 、 ま だ 全 体 の 3% 程 度 と 見 ら れ 、 市 場 は
【図表3】ロボ・アドバイザーの運用資産額
22,000
20,000
実 績
予 測
調 査 で は 、 今 後 5 年 間 で 運 用 資 産 額 が 2.2 兆
15,000
15,000
9,000
10,000
まだ多くの拡大余地があると言えます。ある
単位:億㌦
25,000
5,000
5,000
㌦に拡大すると予測しており、ロボ・アドバ
イザーの勢いはさらに増していくと考えられ
ています。
-2-
3,000
10
20
160
500
0
2012 2013
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020
出所:Bloomberg, A.T. Kearney
4.ロボ・アドバイザーの魅力
(1)主 要 な 顧 客 は 「 ミ レ ニ ア ル 世 代 」
爆 発 的 に 増 加 す る ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー の 運 用 資 産 額 で す が 、 主 な 顧 客 層 は 、 2000 年 以 降 に 成
人を迎えた、「ミレニアル世代」と呼ばれる世代です。彼らは、インターネットが普及した環
境 で 育 っ た 最 初 の 世 代 で あ り 、オ ン ラ イ ン で の 資 産 運 用 に 抵 抗 が 少 な い こ と が 特 徴 で す 。ま た 、
金融危機を目の当たりにし、既存の金融機関への信頼が薄いといわれています。ミレニアル世
代の前に現れたロボ・アドバイザーは、彼らにとって非常に親和性が高いということができる
でしょう。
(2)大 き な 利 点 は 「 低 コ ス ト 」
証券業界にとって、人件費は最大のコストといわれています。 従来、資産運用サービスは対
面型のサービスが主流であったため、一定数の営業人員が必要でした。しかし、ロボ・アドバ
イザーは人間が担っていたサービスの大部分をコンピューターに任せることでコスト削減を実
現 し て い ま す 。そ の 結 果 、ロ ボ・ア ド バ イ ザ ー が 徴 収 す る 年 間 手 数 料 は 運 用 資 産 に 対 し て 0.3%
程 度 と 、従 来 型( 対 面 型 )資 産 運 用 サ ー ビ ス の 1 % 程 度 に 対 し 大 幅 に 低 い 水 準 と な っ て い ま す 。
ま た 、 主 な 投 資 対 象 で あ る ETF の 手 数 料 が 低 い 点 も 、 ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー を 用 い た 資 産 運 用 が
低コストで実現できる一因となっていま
す。このことは、多くの人びとを惹きつ
ける要因となっており、特に、まだ若く
経済的に余裕が大きくないミレニアル世
代にとって魅力となっています。
【図表4】主要ロボ・アドバイザー企業の年間手数料
企業名
ベターメント
フューチャーアドバイザー
シグフィグ
ウェルスフロント
年間手数料
組入商品の年間コ スト
0.25%
0.50%
0.25%
0.25%
0.05%~0.35%
0.05%~0.59%
0.05%~0.15%
0.05%~0.75%
出所:THE WALL STREET JOURNAL
5.従来型資産運用サービスとの融和の動き
ロボ・アドバイザーの台頭を目の当たりにした金融業界は、当初彼らを脅威と受け止めてい
ました。しかし、最近ではこれらの技術を取り込み、自分たちのビジネスの合理化・レベルア
ップを図ろうとする前向きな動きが増えています。
40 年 前 に イ ン デ ッ ク ス 型 投 資 信 託 と 呼 ば れ る 低 コ ス ト 商 品 を 開 発 し 、 米 国 で 手 数 料 引 き 下 げ
競 争 に 火 を つ け た 資 産 運 用 会 社 大 手 の バ ン ガ ー ド 社 は 、2015 年 5 月 に ロ ボ・ア ド バ イ ザ ー に 似
たサービスを導入しました。このサービスは「ハイブリッド型」と呼ばれるもので、コンピュ
ーターによる推奨と、人間による助言を組み合わせたものです。一定範囲でのロボ・アドバイ
ザーの利用により自動化・効率化を図り、低下した運用コスト分を安い手数料として顧客に還
元できるため、運用会社と顧客の双方にとってメリットがあります。
もう一つのメリットとして、ロボ・アドバイザーが苦手とする分野を人間がカバーしている
点があります。純粋なロボ・アドバイザーが選択する運用資産 の配分や、運用期間中の売買の
-3-
根拠に対する説明は、充実しているとは言い難いものでした。ハイブリッド型は、この弱点を
人間がサポートすることで、顧客の納得感を高めることに成功しています。
ま た 、バ ン ガ ー ド 社 が タ ー ゲ ッ ト と す る 顧 客 層 は 、退 職 者 や 退 職 時 期 の 近 い 人 と さ れ て お り 、
ロボ・アドバイザーの利用は、より広い世代へと 拡大を見せつつあります。ハイブリッド型サ
ービスは、バンガード社の他にも大手金融機関が導入を始めており、顧客層はさらに広がって
いく見通しです。
6.終わりに ―日本での導入―
ロ ボ ・ ア ド バ イ ザ ー は 2015 年 、日 本 に 上 陸 し ま し た 。国 内 ベ ン チ ャ ー 企 業 や オ ン ラ イ ン 証 券
が 2015 年 か ら 今 年 に か け て 相 次 い で サ ー ビ ス を 開 始 し 、大 手 金 融 機 関 も ポ ー ト フ ォ リ オ の 提 案
のみなど、機能を絞ったものから段階的に導入を始めており、今後のサービス拡大に注目が集
まっています。
現時点では若年層が主要顧客となっていますが、少子化が進むわが国においてロボ・アドバ
イザーが地位を築くためには、幅広い世代に受け入れられる必要がある と思われます。米国で
広がるハイブリッド型はそのヒントになるでしょう。
資産運用の新たな潮流であるロボ・アドバイザーは、各国の事情に合わせた形でその在り様
を変容させながら、これからも存在感を高めていくこととなるでしょう。
【参照ウェブサイト】
野 村 資 本 市 場 研 究 所 ( http://www.nicmr.com/nicmr/)
THE WALL STREET JOURNAL (http://www.wsj.com/)
Bloomberg (https://www.bloomberg.com/)
A.T.Kearney (https://www.atkearney.com/ )
以
上
※ ここに掲載されているデータや資料は、情報提供のみを目的としたもので、投資勧誘等
を目的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身の判断でなされるよう
お願いいたします。また、弊行は、かかる情報の正確性や妥当性については、責任を負
うものではありません。
※ 本 レ ポ ー ト に 関 す る お 問 合 わ せ は 、市 場 営 業 部 海 外 支 店 統 括 グ ル ー プ ま で ご 連 絡 下 さ い 。
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