在宅での外用療法の実践 ∼褥瘡チーム医療へまず一歩∼

チ ー ム 医 療と
薬剤師
在宅での外用療法の実践
∼褥瘡チーム医療へまず一歩∼
株式会社あおもり健康企画 常務取締役 ま す じ ん
大野あけぼの薬局 薬局長・管理薬剤師 舛甚
路子
先生
株式会社あおもり健康企画(本社:青森県青森市)は、県内に調剤薬局5店舗を運営し、1996年から在宅医療に
積極的に取り組んできた。
しかし、20年近く経過してもなお薬剤師は『薬を届ける人』
と言われることも多く、
その状態か
らの脱却を模索した舛甚先生は2015年2月、薬剤師が関与する褥瘡治療に活路を見出す。以後、薬剤師がチーム医療
に欠かせない真の一員となるべくどのような活動に取り組んできたのか、
これまでの歩みと現状、今後の展望を伺った。
に関し、医学的な判断や技術を伴わない範囲内での実技
在宅での褥瘡外用療法は協働薬物治療管理実践の場
指導を行うこと」の後押しもあり、薬剤師は薬剤の使用状
̶在宅での褥瘡外用療法に取り組むようになったきっかけは?
況をヒアリングするだけでなく、見て触れて創部をアセスメ
舛甚 当薬局は1996年から訪問薬剤管理指導を実施
ントし、外用薬の適切な使い方を実技指導することで効
し、現在では居宅療養管理指導を約150名に実施するに
果的な薬物療法を推進できる、つまり褥瘡治療は、薬剤師
至っています。サービス担当者会議や退院時共同指導、
が在宅で『協働薬物治療管理』
を実践できる分野であり、
在宅カンファランスに参加して応需先病院との密な連携
存在意義を発揮することができると確信しました。
を図り、
フィジカルアセスメントやバイタルチェックの技術・
拡大回避にも貢献してきましたが、チーム医療において
褥瘡の外用療法を独学で学び
医師・看護師に協力求める
薬剤師は『 薬を届ける人 』
と言われることも多く、その状
̶ その後、
どのように褥瘡の外用療法を実践したのですか?
態からの脱却を模索していました。
舛甚 全くの未経験だったので、
まずは古田先生のe-ラ
そして2015年、
『 外用療法研究会 』や『 薬剤師が担う
ーニングや著書 1,2)を活用して独学で学んでいたところ、
チーム医療と地域医療の調査とアウトカムの評価研究シ
2015年4月に実践1例目となる施設入所の患者さん
(90代
ンポジウム』で薬剤師が関与する褥瘡治療について古田
女性)
を経験しました。
勝経先生(小林記念病院褥瘡ケアセンター)の講演を聴
仙骨部の褥瘡が改善せず、精製白糖・ポビドンヨードか
きました。その講演で、褥瘡は創部を目で見て治療効果を
らスルファジアジン銀に処方変更される際に初めて訪問
判定できるので、検査値を要する疾患と異なり、薬局でも
しました。看護師に思い切って「創部を見せてほしい」
と
知識を習得して副作用のみならず感染症の早期発見・
対応可能であること、外用薬の基剤は、薬剤師にとって特
頼んだところ、薬剤滞留障害(創の変形・移動により創内
徴を理解し提案できる領域(強み)であること、何より外用
に充填した薬剤がはみ出し、量が不足している状態)
を
薬が正しく処方されていない・使われていない現状を知
認め、正しい処方にもかかわらず十分な効果を得られて
り、衝撃を受けました。2014年3月の厚生労働省による通
いないことが分かったのです(図1)。そこで、古田先生の
達「薬剤師が、調剤された外用剤の貼付、塗布又は噴射
書籍を持って主治医を訪ね、
「先生の処方は正しかった
のに、私たちの説 明 不 足で治
療効果が得られなかった」
と謝
罪し、
「書籍には創部のテーピ
ング固定が必要とあるので試し
たい」
と許可を求めたところ、即
協 力を得られることになりまし
た。数日後、往診に同行して創
部のテーピング固定を行い、そ
大野あけぼの薬局
(青森市東大野2丁目2番地1)
3
の後もテーピングや薬剤塗布の
図1. 褥瘡外用療法の実践症例
図2. 研修会での実技指導
創部の状態
薬剤滞留障害あり
↓
創内に入れた薬剤が
外に出ている
↓
創固定が必要
創辺縁が巻き込み
↓
薬剤がはみ出して創辺
縁 の 湿 潤 環 境が 不 足
し、肉芽形成より上皮化
が進んでいる
正しい処方なのに、軟膏が創
部にないため全く効果を発揮
していない状態
実技指導を続けたところ、創部の縮小を得ました。
ほぼ同時期に、同じ医師から別の患者さん(実践2例
目)の踵褥瘡の外科的デブリドマン後に処方したブロメラ
イン軟膏の塗布指導を依頼され、正常皮膚を損傷しない
ように周囲の皮膚にワセリンを塗布してからブロメライン
軟膏を塗布するように指導しました。その後も創部の湿
す最後の医療人でありながら、その治療効果については
潤状態に応じて処方変更を進言し、薬剤や医療・衛生材
医師ほど臨床感をもって見ようとしていませんでした。
し
料の使い方について実技指導を行ったところ改善が見ら
かし、一連の取り組みにより当薬局の薬剤師は、治療効
れました。
果を高めるために自分たちができることはたくさんあると
以来、褥瘡往診に毎週同行するようになり、その後の約
知りました。そして、緩和医療、外来化学療法、感染症、
1年間で延べ7名の患者さんの褥瘡治療に関わりました。
循環器など個々の専門性を高め、患者さんのために何が
また、在宅患者のみならず入院患者に関する褥瘡の外用
できるか『協働薬物治療管理』の実践を考えるようになっ
療法についてメールで情報を共有し、対応しています。
さ
ています。
これこそが褥瘡治療に関わったことによる最大
らに2016年3月からは、別の医師の褥瘡往診にも同行す
の成果だと考えています。
るようになりました。
̶今後の展望をお聞かせください。
̶実践にあたり心がけていることは?
舛甚 この経験を当薬局だけにとどめるのはもったいな
舛甚 薬剤師が在宅医療を行う上で、医師や看護師、介
いと考え、2015年11月に北海道・東北6県の民医連の中
護者の協力は必要不可欠です。何事もチームの許可を得
堅薬剤師研修会に古田先生を講師として招き、講演と実
てから進め、実技指導も訪問看護師の処置の時間に合わ
技指導を行いました(図2)。医師にも参加してもらい、治
せて行います。医師の処方意図を受け止め、薬剤の特性
療の考え方を統一できたのも大きな成果です。
を最大限に生かす知識と技術の習得に努めています。
薬剤師は、薬物療法の専門家として外用薬および外
用療法に関する知識・技術を高め、医師の往診回数を減
最大の成果は
『患者さんを治す』
ことに
思いを馳せるようになったこと
らし、
ご家族を含めた介護者の負担を金銭的にも体力的
̶
『薬を届ける人』
からの脱却は叶いましたか?
に実践していく使命があります。そして、薬剤師が『 在宅
舛甚 薬剤師が介入することによる効果が目に見えたこ
患者訪問褥瘡管理指導料(750点)』の算定対象である
とで医師や看護師の見る目も変わり、信頼の下、相談する
在宅褥瘡対策チーム職種の一員となることを目指し、
「在
関係性になりました。私自身、褥瘡治療に関わるようになっ
宅褥瘡チームに薬剤師は欠かせない」と言われるよう、
てから、医師は24時間『 医師 』であり、患者さんを治すた
活動を実践していきたいと考えています。
にも軽減できるような外用療法を提案して、介護者ととも
めの方策をさまざまな視点から検討し、悩み、誰かに相談
したいと思っていることを実感しました。私たち薬剤師は、
薬の副作用については気にしますが、患者さんに薬を渡
参考文献
1)
古田勝経,ほか.早くきれいに褥瘡を治す
「外用剤」の使い方.照林社.2013.
2)
古田勝経.褥瘡の病態評価と薬物療法―薬剤師の視点を活かす.
じほう.2012.
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