巻頭インタビュー~ハープ奏者 吉野直子さん

ハープは優雅に見えるかもしれませんが
ドラマチックで力強さもある楽器なんです
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吉野直子さん
ハープ奏者
国内外の一流オーケストラやアーティストと共演し、
ハープ界の最前線を走り続けてきた吉野直子さん。
10月の公演を前にお話を伺いました。
ハープを始められたきっかけは?
生は、昨年80歳になられましたが、まだ現
「母がハーピスト
(吉野篤子さん)
なので、生
役で教えられているんですよ。今でも、ハ
まれる前からハープの音は聴いていたと思
ープの行事でお会いしたり、私が会いに行
います。レッスンを受け始めたのは、6歳の
ったりと、親交はずっと続いています。私
ときです。幼稚園の終わり頃、父の転勤に
にとっては、もう一人の母親みたいな存在
ともなって、アメリカのロサンゼルスに引
ですね。最初から素晴らしい先生に出会え
っ越しました。母はアメリカでもっとハー
て、しかも相性がすごくよかったというの
プの勉強を続けたい、ということで、スー
はラッキーなことでした。いくら素晴らしい
ザン・マクドナルド先生という、素晴らしい
先生でも、必ずしもすべての生徒とうまく
ハーピストに師事することになったんです。
いくわけではないと思いますので」
母のレッスンについて行くうちに、じゃあ
ロサンゼルスでは、どのような練習環境
私も、という感じで始めました。日本でも、
だったんでしょうか
桐朋の子供のための音楽教室に3歳から通
「アメリカでは子どものときから、人前で演
い、ピアノも5歳から弾いていましたが、ハ
奏するチャンスがちょくちょくありました。
ープは6歳からですね。当初は母が持って
ホームパーティーのような場所での演奏だ
いた
“アイリッシュハープ”
というペダルの
ったり、アメリカハープ協会の支部コンサ
ない小さいハープを使っていました」
ートでの演奏だったり、です。例えていえ
日本に戻られてからは、レッスンはどう
ば、三軒茶屋の町内会コンサートみたいな
されていたんですか?
感じでしょうか。子どもだから、褒めても
「9歳で帰国してから、日本では先生につい
らうとうれしくて。また、南カリフォルニア
ていないんです。家では母が毎日一緒に練
大学のオーケストラとコンチェルトを弾か
習してくれていましたし、夏休みと冬休み
せていただく機会などもありました。子ども
にはそれぞれ、ロサンゼルスのマクドナル
の頃に、人前で弾くのは楽しいことなんだ
ド先生のところへレッスンを集中的に受け
な、という体験を数多くできたことは、とて
に行っていました。ですから母を除けばマ
もよかったですね。そして音楽とは直接関
クドナルド先生が、生涯で唯一のハープの
係のないことですが、英語を自然に身につ
先生ということになります。マクドナルド先
けることができたのも、よかったと思ってい
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ます。幼稚園の終わりから現地の子どもた
に行ったのは私だけ。最初は、自分だけ違
ちと一緒に勉強できたので、ほとんど苦労
うところに行くというのに抵抗がありました
せずに英語を話せるようになりました」
が、でも、ICU高校は帰国生が3分の2もい
アメリカでの生活を経て、帰国後、とまど
る高校なので、入ってみたら、私よりもず
われたことなどはありませんでしたか?
っと海外生活が長くて、日本語がヘタな人
「9歳で帰国したあとは、麻布にある西町イ
がいたり、そうかと思えば、ずっと日本で
ンターナショナルスクールに中学の終わり
育ってきた人がいたり。さまざまな文化で
まで通いました。中学の3学年を合わせても
育ってきた友達と出会うことができました。
60人ほどの小さな学校でしたので、もうみ
制服というのが初めてだったので、最初は
んなが家族みたいでした。高校はICU高校
少しとまどいましたけれど
(笑)
」
だったのですが、インターから日本の学校
子どもの頃を過ごしたLAで、
人前で弾く楽しさを体感
ハープの魅力、またハープの名曲など、
に入れると、ファの弦が全てシャープにな
これを聴くのがおすすめという音源は?
るという仕組みです。ハープは優雅に見え
「ハープは一般的に、ポロンポロンと優雅に
ますが、実は足の役割も大きい、けっこう
響いているイメージが強いかもしれません
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ハードな楽器なんですよ」
が、心地よさだけではなくて、すごくドラマ
10月には成城ホールでのコンサートを
チックだったり、力強かったりもする楽器
予定されていますね
なんです。ピアノやヴァイオリンのように、
「チェリストの横坂源さんとのデュオコンサ
誰でも知っている曲はあまりないんですけ
ートをやらせていただきます。デュオとい
ど、モーツァルトの
『フルートとハープのた
うことで、それぞれの楽器の良さが引き立
めの協奏曲』
などは、聴いたことがある方も
つようなプログラムを組みました。中心と
多いのでは、と思います。フルートとのか
なるシューベルトの
『アルペジオーネ・ソナ
けあいも楽しいですし、素晴らしい曲です。
タ』
は、チェロで演奏されることの多い名曲
ハープにはペダルが7本あって、ドレミ
です。ピアノではなくハープにもとてもよく
ファソラシの7つの音に対応しています。1
合うと思っています。横坂さんと共演する
本のペダルが、フラット、ナチュラル、シ
のは初めてですが、若手の素晴らしいチェ
ャープと、3つのポジションに入るようにな
リストなので、とても楽しみにしているんで
っていて、例えばファのペダルをシャープ
す」
30周年、自主レーベルの設立、
精力的な活動へ!
今年、自主レーベルを立ち上げられたと
のことですが
「ソロの録音はしばらくしていなかったので
すが、コンサート会場で、昔のCDが販売
されているのを見ていると、やっぱり今の
自分の演奏を聴いていただきたいという気
持ちがすごくあって。最近は、CDを買うよ
りも、インターネット経由で音楽を聴くこと
が多くなったり、ちょっとした技術があれ
回イスラエル国際ハープ・コンクールに参加
ばCDが作れる時代でしょう。そのような中
者中最年少の17歳で優勝)
のあと、本格的
で、自分が残したいものを、良い形で聴い
に演奏活動を始めてから、昨年でちょうど
ていただくためにどうしたらいいかと考え
30年になりました。節目の時期でもありま
た結果、自分でやってしまったほうが、大
すし、40代に入ったばかりの頃は、まだ時
変ではあるけれどじっくり作れるかしら、
と。
間はいっぱいある、とどこかで思っていた
それで自主レーベルを設立しました。1枚
のですが、40代後半になって、そうか、今
目のCDはオリジナルもあり、編曲ものもあ
やっておかないと、という気持ちが強くな
り、今まですごく好きで弾いてきた曲や、今、
ってきました。いろいろなことに興味を持っ
大事にしている曲を集めました。次の2枚目
て、オープンでいたい、という気持ちはい
のレコーディングは4月に終わり、リリース
つも大切ですが、これもあれも、ではなくて、
は来年の初め頃の予定です。そして、リリ
どこに自分の軸を置きたいか。それが、こ
ースと同じタイミングでリサイタルも予定
の年代になって、はっきりしてきました。そ
しています。
のあたりのバランスが、この年になって取
イスラエルのコンクール
(1985年、第9
れてきたような気がします」
pro f i l e
吉野直子さん
ロンドン生まれ。第9回イスラエル国際ハープ・コンクールで優勝。これまでにベ
ルリン・フィル、イスラエル・フィル、フィラデルフィア管などのトップオーケスト
ラおよび世界的指揮者と共演。最新盤は「ハープ・リサイタル 〜その多彩な響きと
音楽」
(grazioso)
とオーヴェルニュ室内管弦楽団との
「ハープ協奏曲集〜アランフ
ェス協奏曲」
(Aparte)
。
取材/手塚美和 撮影/渡邉誠
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