「人」が主役となる新たなものづくり

【産業競争力懇談会 2016年度 プロジェクト 中間報告】
【「人」が主役となる新たなものづくり】
~活力ある高齢化社会に向けて~
2016年10月5日
【エグゼクティブサマリ(中間)】
1. 本プロジェクトが取り組む政策的課題
日本のものづくり産業は国内GDPの2割を担い、労働者の2割の働く場を提供してきた。将来の
生産年齢人口縮小により、2060年には日本のGDPは8位に転落するという予想もある。将来に渡
り主要な産業として我が国に貢献するためには、国際競争力の維持・強化によるグローバル市場
獲得とともに国内製造の拡充が不可欠である。このための課題として、以下が挙げられる。
(1) 消費者ニーズ多様化に伴う変種変量生産への転換
「少品種大量生産」は、「もの」不足の時代が求めた生産技術であった。「もの」が行きわたった
昨今では、先進国の高所得者層を中心に消費者ニーズは多種多様化し、今後新興国の中間層
へ拡大することが想定される。それにより、ものづくりの現場は変種変量生産、マスカスタム生産
へと転換してゆく。この転換に対応するため、欧州のIndustry4.0など国際的な組合せ型生産を実
現する活動が進められている。ものづくりの国際競争力を維持するためには、この流れに対応し
ていくとともに、日本の強みを生かしたしくみづくりが必要である。
(2) 国内生産停滞による技術・技能後継者の不足
日本の製造業において、国内製造出荷額は1990年代から2010年代にかけて約300兆円で停滞
しており、雇用は1,500万人から1,000万人に減少している。この結果、従事者の高齢化、および工
場における技術・技能の伝承、後継者不足が課題であり、日本のものづくり力が弱体化していると
の指摘もある。
(3) 日本における急激な高齢化による労働人口減少と個人消費の低下
日本の生産年齢人口は1995年から減少に転じ、2060年には半減する。ものづくりに従事する人
材の確保が国内製造拡大への大きな課題になるとともに、社会保障を前提とした高齢者の増加
により個人消費の大幅な低下が想定される。
2. 課題解決に向けてのシナリオ
日本の強みを生かしたものづくりを強化するためには、機械やITを高度かつ柔軟に使いこなせ
る「人」の力を活用した他国では容易にまねできない「「人」が主役となる新たなものづくり」を実現
することが重要である。さらに、世代を超えて発展し続けることが重要である。その実現のための
課題解決に向けたシナリオを図1に示す。ここでは、まず、日本のものづくりの優位性を再確認し、
活用するしくみと、ものづくりを支える人材確保のしくみを考える。
課題
解決シナリオ
期待効果
世界市場に於ける競争力強化
と国内製造拡充の両立
消費者ニー
ズの変化
国内技能
後継者不足
日本ならではのものづくりの優位性の強化・活用
技能習熟や
工夫による高度
なものづくり
現場改善力
環境対応や機械
使いこなしなど
柔軟性
ものづくりの
国際競争力強化
国内生産拡大による
GDP拡大
×
労働人口の
急激な減少
日本ならではのものづくりを支える人材確保
(高齢者活用を中心に)
高齢者の身体的能力の
計測・活用・向上
個人消費の
大幅な低下
QoWの導入・
計測・評価
技術・技能の見える化、
伝承のしくみづくり
内発的動機づけ(仕事の
おもしろさ・興味)の向上
多様な働き方の
提示・サポート
図1 課題解決に向けたシナリオ
i
高齢者生産人口
拡大による
社会保障費削減
高齢者収入増による
個人消費拡大
(1) 日本ならではのものづくりの優位性の強化・活用
ものづくり産業は、完全自動化が最終目標と考えられがちであるが、実際はものづくり現場の
多くの人の活躍により、「良いものを適正価格でタイムリーに提供する」というシンプルで根源的な
顧客サービスを実現してきた。今後市場ニーズの多様化により、従来主流であった大量生産から
多品種少量の変種変量生産への移行が進み、生産過程の作業は益々柔軟性が求められ、難易
度も高くなると考えられる。その結果、一層「人(現場力)」の役割が重要になり、人と機械が互い
に補い合い、効率良く作業を行う技術が重要になる。
今一度、日本の強みを調査した結果、日本の現場には、高学歴でITへの対応力も強く、現場を
より良くしようとする人材が多く、ものづくりの現場改善力の高さが期待できる。また、“おもてなし”
の感性や、勤勉に作業に取り組む姿勢から、一手間(追加の手間によるきめ細やかな仕上がりや
高品位を実現)、人手間(熟練の技による高品位の実現)をかける工夫を得意としている。また、
生産現場での機械の活用においても、機械を大切に扱い、愛着を持って改善していくという文化
が、「柔軟性」「技能力」「改善力」という強みにつながり、今後の変種変量生産においても重要な
役割を担うことが改めてわかった。
日本のものづくりの優位性を考慮すると、「人」の作業が高付加価値を生む比率が高い生産は
国内に立地するメリットがある。一方、グローバル市場に対しても地産地消を目的とした積極的な
海外工場立地を推進する必要がある。その際、国内の生産方式をそのままコピーするのではなく、
現地の労働者の特質をよく考慮したものづくりに再編して展開することが重要である。これにより、
海外生産の利益率を改善できるしくみも同時に導入できると考える。さらに、導入時の生産戦略
立案や評価ができる高度なものづくり人材の育成基盤も必要である。
(2) 日本ならではのものづくりを支える人材の確保(高齢者活用を中心に)
日本の高齢者(65歳以上)の体力・運動能力は年々若返っており、過去12~15年間で5~10歳
若返っているとのデータがある。将来の日本の労働人口減少に対するものづくり力の維持・強化
には高度な技術や技能を保有する高齢者を活用することが有益であり、そのためには産業機器・
システムが人に寄り添った「「人」が主役となる新たなものづくり」のしくみ構築が必須になる。この
システムは、高齢者以外の人にも働きやすい職場環境を提供できると考える。
システムの実現には、加齢による能力変化への対策、および、高齢者の持つ技術、技能の活
用についての検討が必要である。また、高齢者の労働意欲維持の視点から、高齢者が働きやすく、
働きがいのある職場環境の実現が重要と考え、これらを総合的に表現する指標として新たな概念
であるQoW(Quality of Work)を導入する。具体的には以下の項目を検討した。
① 加齢による能力変化への対策
前述の通り、高齢者の身体能力は年々向上しており、今後さらなる能力向上が期待できる。
留意すべきは、加齢による身体的能力や認知能力の変化には、個人差、日時差、各個人の自
覚度の差がある。また、加齢による能力変化は、若い時期からの対処を適切に行えばさらに
改善できると思われる。そこで、産業システム要件として、下記を検討する。(図2にシステム化
のイメージを示す)
・体力や疲労度の状態を測定してセルフコントロールや働き方改善に繋がること
・能力の変化に対応して機械やITで補完できること
・能力変化を抑制するためのトレーニングのしくみに繋がること
・能力の個人差に配慮した安全な職場の実現に繋がること
(新たな安全基準や危険度の見える化など)
ii
技能の抽出-伝承
工学
医学 心理学
⼈の計測
システムの最適化
QoW指標
学び直しの仕組み
協働⽣産システム
能⼒に応じた安全基準
能⼒による職場マッチング
計測
分析
働き⼿を考慮した最適化
労働意欲の維持・向上
能⼒⾒える化
健康維持
能⼒⾒える化の
プラットフォーム
…
技能伝承の仕組み
分析結果を指針化
⼈の⽀援
⼈の計測
計測
判断
制御
従業員の能⼒ + 作業⽀援システム
⾒える化システム (企業毎/⽣産対象
毎にカスタマイズ)
人と機械が協働する生産システム
各生産機器・システムのイメージ
基盤技術確立(協調)
図2 産業機器・システム化のイメージ図
② 技術・技能の見える化、伝承のしくみづくり
日本の優位性を活用したものづくりの構築には、現場で活用すべき技術・技能を国内で伝
承し、発展するしくみを持っていなければ、ものづくりの空洞化が起こり競争力を失う。今後、
高度に自動化された大量生産時の設備を変種変量生産対応のシステムに変換する際も、自
動化される前の技術の理解がなければ開発できない。
よって、IT,AI、IoTなどの先端技術を活用した技術・技能の見える化、伝承、融合による新た
な発展のしくみと人材育成に産業界が率先して取り組む必要がある。
③ QoW (Quality of Work)の導入・計測・評価
医療の分野では人生や生活の質を示す指標としてQoL(Quality of Life)が用いられるが、人
と労働の関係についても同様の指標QoW(Quality of Work:働くために必要な条件(身体能力
他)、働きやすさ、働きがいの指標)が必要と考える。QoW指標を定義し、職場環境の計測、評
価に活用することで、働きやすい環境の整備が容易になる。技術・技能教育や、健康経営、働
き方改善の施策と連携し、QoWを指標とした経営の推進を検討する。
④ 内発的動機づけ(仕事のおもしろさ・やりがい)の向上
労働における動機として、仕事自体のやりがいによる内発的動機と、報酬などの外発的動
機がある。人が生き生きと働くためには内発的動機づけが重要であり、幾つかの先行調査に
て、「働きがい」、特に内発的動機づけの強い企業は企業業績が良好であることも示されてい
る。例えば、就業時間の自己決定や勤務スケジュール立案などへの関与など日々の業務の
やり方に対して主体性を持てるしくみ作りや、コミュニケーションを取りながら能力に応じて自律
して役立っていると高齢者が感じる職場環境づくり、高齢者が創造性を発揮できる人材マネジ
メントが必要である。
⑤ 多様な働き方の提示・サポート
高齢者の活躍・活用のためには、本人の働きやすさと経営側のメリットの合致が望ましい。
そのためのジョブマッチング制度の構築、高齢者によるITなど先端技術の学び直しのしくみな
どが重要になる。
以上の検討の結果として高齢者活躍・活用の拡大が進めば、高齢者の一部を、社会保障に頼
る立場から、自ら収入を得て積極的に消費する立場に変えることができる。生産人口拡大だけで
なく、社会保障費削減、個人消費市場拡大といった社会的効果も期待できる。
iii
3. 提言(骨子)
上記シナリオを実現するため、プロジェクト提案の考え方を図3に示す。「「人」が主役となる新た
なものづくり」を構築し、国内製造業を活発化させるためには、共通に使用できる基盤技術の確立
と、それら成果を具現化し、社会に定着させる社会実装に向けた施策が必要である。
(1) 日本ならではの強みを生かす人と機械が協働する生産システムの確立
-人の技(ひと手間)を生かした「人」が主役となる新たなものづくり技術基盤確立-
① 技術・技能の見える化の技術基盤確立
産業界と研究機関(国研、大学)が連携し、技術・技能の見える化の技術基盤を確立する。
人と機械の密な協働作業の実現、従来徒弟で学んでいた人の技術・技能・直感的な行動の伝
承には、人の作業の解析が重要である。この解析結果は作業における指針化にも利用できる
など、これからのものづくりの基盤的データとなる。
府省の協力を得、公的な研究拠点として IT、AI を応用した最先端のセンシング、分析が可
能な設備をもつ拠点をつくり、各社が課題を持ち込み、見える化に取り組むことで、国内の技
術伝承のニーズを集約していく。
② 人と機械が協働する新たな生産方法の確立
産業界と研究機関が連携し、公的研究機関で各社課題を見える化したデータを分析し、モ
デル化することで、生産技術や、人と機械の協働生産システムの要件を明確にし、ひと手間の
価値創造だけでなく、資源やエネルギーを最適化する生産システムのモデルを確立する。
【関連する省庁】:内閣府「Society5.0 超スマート社会サービスプラットフォームの新たなものづくり」、
「第 5 期科学技術基本計画」、経済産業省「第 4 次産業革命」
(2) QoWの基盤技術確立
医学・心理学・工学の学際知見を活用し、基礎技術を確立する。
① QoWの定義と指標化の基礎技術確立
産業界と研究機関が連携し、(加齢による)能力変化の状態、働きがい、働きやすさの状態
を定義する方法や、それを計測する方法を検討する。それを元に、ものづくり企業だけでなく学
官の有識者が集まってQoWの定義を定める。
② QoW指標を活用した新たなものづくりを支える人材活用のしくみ構築
産業界と研究機関が連携し、下記技術開発、しくみ検討を推進し、高齢者など多様な人材
の活用、柔軟な働き方の実現により、変種変量生産に適した人材活用のしくみを提言する。
・QoWを計測・評価するための産業システム技術開発
・作業者の能力変化を機械やITで補完できる人と機械の協働生産システムの開発
・加齢による高齢者の能力変化を抑制するための(職場での)訓練方法や機器開発
・柔軟な働き方(勤務地、時間、能力マッチング)も効率に変換できる生産のしくみ検討
【関連する省庁】:内閣府「Society5.0 働き方改革」、経産省「健康経営施策」、文科省等
(3) 社会実装に向けた施策
(1)、(2)項で確立した基盤技術をもとに、関連府省と相談し、「人」が主役となる新たなものづくり
の社会実装に向けた施策を検討する。
・日本のものづくり産業に製造現場を日本に立地させるための施策
【経産省】
・高齢者の能力に配慮した安全基準、企画の見直し
【厚労省、経産省】
・ITなど先端技術の高齢者の学びなおし機会を提供する人材育成施策 【経産省、文科省】
・QoW指標を活用した、能力に応じた職場マッチング、ワークシェアのしくみ【内閣府、経団連】
iv
4. 今後の活動
上記課題解決に向けてのシナリオ及びその実現に向けた提言について、目指す姿や課題及び
施策提言内容の具体化を進めるとともに、関連府省とのコミュニケーションを図り、産官学の役割
分担、府省横断の推進体制、社会実装に向けた課題や役割分担を議論・共有していく。
(1) 日本ならではの強みを生かす人と機械が協働する生産システムの確立に向けて
-人の技(ひと手間)を生かした「人」が主役となる新たなものづくり技術基盤確立-
① 技術・技能の見える化と分析・指標化の具体化
・主な対象の具体化
例えば人が得意な五感を使った工作、検証や調整作業:一手間、人手間など
・作業をセンシングするための医学的、心理学的な測定技術と工学を融合した高度センシン
グ技術やパーソナル特性を加味して分析できるAIなど、分析技術の要件洗い出し
・上記結果を応用した人に寄り添う産業機器の検討
・公的機関としての研究拠点の役割、狙い、研究テーマの具体化
② 人と機械が協働する生産方式の具体化
産業界中心に、国研、大学との連携体制で推進することを前提に、以下項目を具体化する。
・まずは分野を特定して、人と機械が協働する生産方式のモデルを定義
・上記基盤技術とモデルを元に、実用化に向けた技術実証実験の課題の洗い出し
・研究力を持たない中小企業を含む企業の技術伝承課題を集約し、技術伝承支援活動や、
ITや機械で補完できるシステム開発などに発展させるための拠点のあり方検討
(2) QoWの基盤技術確立に向けて
以下項目について具体的に検討する
・QoWを定義するための条件の具体化(労働能力、労働条件、働きがい、働きやすさ等)
・QoWを指標とし、健康で働ける寿命の延伸を可能にする職場環境について検討
-多様な人材が安心して働けるための労働災害リスク低減技術
例えば客観疲労と主観疲労の差異を測定し、事故の予兆を事前にセンシングする他
-生涯能力向上ができ、生き生き働ける環境づくりのための、医学、心理学的なサポートを
工学的に実現する方法
(3) 社会実装に向けた施策提言の具体化
産業界に導入するためのしくみと関係する情報共有のしくみ(経営者の動機付け、環境整備、
安全基準、QoW認定などのしくみ)、担う人材像の具体化と育成基盤について検討し、提言を具体
化する。さらに期待効果の具体化と社会実装できたか否かの評価方針も検討する。
<府省相談事項>
内閣府:府省横断、分野横断での検討体制について
(働き方改革、Society5.0 第5期科学技術イノベーション戦略など)
経産省:新たなものづくり拠点の研究体制と拠点づくり及びその後の地域展開について
厚労省:多様な人材活用の促進策や労働安全について
文科省:上記基盤技術推進に向けた医学・工学・心理学連携体制と担う人材育成について
v
期待
効果
GDP の2割(120兆円)を担う強い産業にチャレンジ
国内生産
拡大
国際競争力
強化
生産人口拡充
社会保障費削減
自立した
個人消費層拡充
産業界の役割
・戦略的な国内外生産、技能・技術伝承
・まねできないものづくり力拡充(一手間・人手間)
・伝統融合など日本ならではの技術の発展
ものづくり高度人材育成基盤
・高度技能者育成
・日本の競争力とグローバル市場獲得の両立を見
据えた、生産戦略立案・評価できる人材育成
QoW経営(仮称)
の実現
・多様な人材活用
・年をとっても元気
に働ける職場
・生涯能力向上
できる職場
⇒優秀な人材獲得
プランニング系
気づきの協働
習熟
の
協働
設 備開発
しくみづくり
人 材育成
国 内外
生 産戦略
強化
IoT
作業の協働
人が主役となる新たなものづくり
基盤技術確立
(
協調で推進)
日本の競争力(現場力)を
生かした新たなものづくり研究
工学
医学 心理学
高度センシング・
分析技術者
見える化
技術保有者
人と機械の協働システム開発
人と機械の協働システム開発
労働年齢延伸・多様
な人材活用のための
QoW向上
基礎技術確立
・QoW指標/評価
・人が働きやすい環境
人と機械・資源の最適生産モデル
経産省他、国研、大学と連携
課
題
市場ニーズ
の変化対応
文科省他、国研、大学と連携
国内後継者
不足
労働人口の
急激な減少
図3 プロジェクト提案の考え方
vi
個人消費の
大幅な低下
各社
技術開発
地域展開
(実証実験
含む)
支援
技術研究開発支援・研究拠点化
指標構築、基盤技術開発支援
QoW
技術実証実験支援
地 域拠点
へ展 開
各
社
各
分
野
競
争
領
域
日本ならではのものづくり
優位性強化・活用
多様な人材活用を踏まえた働き方改革
安全規格の見直し
各種認証制度
ものづくり再興支援(
国内回帰など)
め
ざ
す
社
会
実
装
官の支援
【はじめに】
「ものづくり大国日本」は 1980~2000 年代には高品質・高性能を誇る“Made in Japan”とし
て世界市場を制するほどの競争力を持っていた。しかしバブル崩壊後の長い低迷期を脱却でき
ずにいる中、ビジネスで欧米に差をつけられ、コスト競争で新興国に遅れを取るという板挟み状態
が続いており、“技術で勝ってビジネスで負ける”と揶揄されて久しい。
Society5.0 の新たなものづくりや第 4 次産業革命でも議論されているように、「もの」の大量生
産の時代から、「もの」が行き渡り消費者のニーズが多様化した変種変量、マスカスタム生産の時
代への転換が始まっており、それに適した生産技術の革新が求められている。一方、国内におい
ては世界に先立ち超高齢化社会を迎え、ものづくりの現場においても大きな課題になっている。ま
た、超高齢化社会では、社会保障を前提とした高齢者の増加により個人消費の大幅な低下が想
定される。以上のように市場・製造現場の環境が大きく変化している今こそ抜本的にものづくりの
方法を変え、科学技術の優位性を産業競争力に効率よく転化できる「新たなものづくり」の生産手
法を確立する必要があると考えている。
本提案では、産業課題である消費者ニーズ多様化に伴う変種変量生産への転換、国内製造の
停滞と技術技能後継者不足と超高齢化社会における課題である生産人口の激減及び個人消費
の大幅な低下に対し、日本の強みである機械や IT を高度かつ柔軟に使いこなせる「人」の力を活
用し、世代を超えて発展し続けることのできる「「人」が主役となる新たなものづくり」を実現するこ
とを目指している。
本プロジェクトでは、日本ならではのものづくりの優位性の強化・活用による、産業機器・システ
ムが人によりそう「「人」が主役となる新たなものづくり」の基盤技術確立を提言している。また、技
術・技能の見える化による高度ものづくり人材の育成基盤の確立に向けたシナリオと取組み案に
ついて提言している。さらに、働く人の状態(能力他)、働きやすさ、働きがいの指標として新たに
QoW(Quality of Work)の概念を導入し、多様な人材が活躍でき、年を重ねても元気に貢献で
きる職場環境の整備の推進に向けたシナリオと取組み案について提言している。
これらの提言の推進により、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる、人
間中心の Society5.0、超スマート社会の実現の一翼を担いたいと考えている。
産業競争力懇談会
理事長 小林 喜光
1
【プロジェクトメンバー】
担当実行委員:
企画小委員:
市毛 正行
五日市 敦
寺田 透
金枝上 敦史
(三菱電機株式会社)
(株式会社 東芝)
(富士通株式会社)
(三菱電機株式会社)
プロジェクトアドバイザ
関口 智嗣
椹木 哲夫
田中 健一
(産業技術総合研究所)
(京都大学)
(三菱電機株式会社
プロジェクトリーダー:
岩﨑 隆至
プロジェクトサブリーダー: 武田 保孝
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
メンバー:
<順不同>
(産業技術総合研究所)
(産業技術総合研究所)
(産業技術総合研究所)
(産業技術総合研究所)
(産業技術総合研究所)
(産業技術総合研究所)
(理化学研究所)
(理化学研究所)
(京都大学)
(京都大学)
(東京工業大学)
(沖電気工業株式会社)
(沖電気工業株式会社)
(沖電気工業株式会社)
(第一三共株式会社)
(第一三共株式会社)
(第一三共株式会社)
(大日本印刷株式会社)
(中外製薬株式会社)
(中外製薬株式会社)
(中外製薬株式会社)
(日本電気株式会社)
(日本電気株式会社)
(株式会社日立製作所)
(富士通株式会社)
(株式会社富士通研究所)
(富士電機株式会社)
(富士電機株式会社)
(富士電機株式会社)
谷川 民生
大崎 人士
山野辺 夏樹
岩木 直
遠藤 博史
花井 亮
抜井 正博
曾根 秀隆
高橋 雄介
藤原 幸一
武田 行夫
鈴木 雄介
辻 弘美
中澤 哲夫
横田 博
高鳥 登志郎
三浦 慎一
三宅 秀之
大泉 厳雄
大和田 潤
渡辺 佳宏
黒田 正洋
馬場 雅和
伊藤 潔人
高鹿 初子
延原 裕之
田中 泰仁
中村 光宏
小倉 英之
2
メンバー(続き):
<順不同>
植村 憲嗣
福室 聡子
佐藤 智典
佐藤 達志
前川 清石
片岡 健司
森 一之
加藤 嘉明
根岸 博康
籠橋 巧
岩本 秀人
龍 智明
小平 紀生
三和 雄二
河井 孝文
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
事務局:
岩井
佐藤
上田
泉井
中根
濱野
長江
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
(三菱電機株式会社)
匡代
剛
健詞
良夫
和彦
浩司
偉
3
【目 次】
1. 背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P05
2. 活動概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P07
2.1 日本ならではのものづくり優位性強化・活用について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P07
2.1.1 ものづくり産業の現状
2.1.2 日本のものづくりの強み調査
2.1.3 ものづくり産業活性化の課題
2.1.4 ものづくり産業競争力強化の対策
2.2 日本ならではのものづくりを支える人材確保について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P13
2.2.1 働くための条件・課題検討
2.2.2 高齢者(65~74)歳の体力・運動能力
2.2.3 身体能力の見える化
2.2.4 生産の「質」に関する検討
2.2.5 生産人口拡充に寄与するしくみ
2.3 新たなものづくりに向けたQoW(Quality of Work)について・・・・・・・・・・・・・・P17
2.3.1 労働意欲維持の動機づけ
2.3.2 高齢就労者の調査
2.3.3 高齢者の健康と就業支援
2.3.4 高齢者の就労と消費行動
2.3.5 主役の「人」が働きやすい環境 ~QoW(Quality of Work)
3. プロジェクト提言骨子(中間報告) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P24
3.1 課題解決に向けてのシナリオ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P24
3.2 プロジェクト提言の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P26
3.2.1 日本ならではのものづくりの優位性強化と活用の面からみた提言ポイント
3.2.2 日本ならではのものづくりを支える人材確保の面からみた提言ポイント
3.2.3 あらたなものづくりに向けたQoWの面からみた提言ポイント
3.2.4 プロジェクト提言概要案
4. 期待効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P29
5. 最終報告書に向けた検討上の課題と展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P30
4
【本文】
1. 背景と目的
日本では、生産年齢人口の減少により、労働力不足や個人消費縮小が懸念され、例えば、
2060年には日本のGDPは8位に転落するという予想もある。これに対し、政府方針として、2020年
に名目GDP600兆円達成(2014年 約500兆円)を掲げている。ものづくり産業は、近年GDPの約2
割を担い、労働人口の2割に働く場を提供している。引き続き、将来に渡り主要な産業として我が
国に貢献するためには、国際競争力の維持・強化によるグローバル市場獲得と国内製造の拡充
が不可欠である。このための課題として、以下が挙げられる。
(1) 消費者ニーズの変化への対応・・・生産技術の変革の時期
「少品種大量生産」は、「もの」不足の時代が求めた生産技術であった。「もの」が行きわたった
昨今では、先進国の高所得者層を中心に消費者ニーズは多種多様化し、今後新興国の中間層
へ拡大することが想定される。それにより、ものづくりの現場は変種変量生産、マスカスタム生産
へと転換してゆく。この転換に対応するため、欧州のIndustry4.0など国際的な組合せ型生産を実
現する活動が進められている。ものづくりの国際競争力を維持するためには、この流れに対応し
ていくだけでなく、日本の強みを生かした対応が必要である
(2) 国内生産の付加価値総額減少と後継者不足
日本の製造業において、国内製造出荷額は1990年から2010年にかけて約300兆円で停滞して
おり、利益率は激しいグローバルコスト競争の影響で長期低落しており、雇用は1500万人から
1000万人に減少している(表1-1参照)。結果、従事者の高齢化、及び工場における技能伝承が
課題であり、ものづくりが弱体化しているとの指摘もある。
一方、海外生産は同期間に約20兆円から約120兆円に拡大している。国内企業の海外市場獲
得戦略は益々加速する環境下、ものづくりにおいても、国内外生産の役割とグローバルでのもの
づくりを担う人材育成を含め、競争力維持を考慮した生産戦略が重要になってくる。
付加価値総額
国内製造出荷額
利益率
雇用
海外生産
表1-1 国内製造業の推移([1-1])
概況
1990年代概算値
減少
120兆円
20年間停滞
300兆円
長期低落
7%前後
減少
1500万人
急増
20兆円
5
2010年代概算値
90兆円
300兆円
3%前後
1000万人
120兆円
(3) 日本における急激な高齢化による労働人口減少と個人消費の低下
日本の生産年齢人口は1995年から減少に転じ、2060年には半減する(図1-1参照)。ものづくり
に従事する人材の確保が大きな課題になるとともに、社会保障を前提とした高齢者の増加により
個人消費の大幅な低下が想定される。
図1-1 日本の年齢推計[1-2]
図1-2 世界の生産年齢推計[1-3]
世界的にも 2030 年までに年間 830 万人の労働人口が激減する(図 1-2 参照)。日本が先
立って経験する高齢化社会が世界中で始まる。特に、製造業においては既に熟練労働者数
が低下し、求められるスキルと働く人材のミスマッチが拡大し、世界の雇用主の 31%は人
材確保が困難と考えている。
日本の強みを生かす対応として、日本の勤勉で高度に機械や IT を使いこなせる「人」の力によ
る、他国では容易にまねできない日本ならではの「「人」が主役となる新たなものづくり」の実現と、
それを支える人材が、世代を超えて発展し続ける人材育成のしくみを実現することが重要と考え
る。その実現に向けた課題解決のシナリオを図1-3 に示す。
課題
解決シナリオ
期待効果
世界市場に於ける競争力強化
と国内製造拡充の両立
消費者ニー
ズの変化
国内技能
後継者不足
日本ならではのものづくりの優位性の強化・活用
技能習熟や
工夫による高度
なものづくり
現場改善力
環境対応や機械
使いこなしなど
柔軟性
ものづくりの
国際競争力強化
国内生産拡大による
GDP拡大
×
労働人口の
急激な減少
日本ならではのものづくりを支える人材確保
(高齢者活用を中心に)
高齢者の身体的能力の
計測・活用・向上
個人消費の
大幅な低下
QoWの導入・
計測・評価
技術・技能の見える化、
伝承のしくみづくり
内発的動機づけ(仕事の
おもしろさ・興味)の向上
多様な働き方の
提示・サポート
図1-3 課題解決に向けてのシナリオ
(【エグゼクティブサマリ】図1 再掲)
6
高齢者生産人口
拡大による
社会保障費削減
高齢者収入増による
個人消費拡大
2. 活動概要
2. 1 日本ならではのものづくり優位性強化・活用について
ものづくり産業は、ここ近年日本のGDPの2割、労働人口の2割を支え、国際的にも1990年代に
は高品質、高性能を誇る"Made in Japan"製品として世界市場を制する競争力を有していた。
しかし、バブル崩壊後の長い低迷から脱却できず、激しいコスト競争、コモディティ化による競争
力低下が進み、国内生産の縮小や技術空洞化を招き、その勢いに陰りが出てきている。
そこで、今一度日本の競争力の源泉を見つめ直し、将来に渡り、GDPの2割を支え続ける強い
産業であるために国際競争力の維持強化と国内製造の拡大について検討する。
2.1.1 ものづくり産業(製造業)の現状
製造出荷額は、前述のとおり、バブル崩壊後の1990年代から20年間以上の長期にわたり、総
じて約300兆円の規模で停滞しているにも関わらず、利益率が半減以下に低迷している。(表1-1
参照)。よって、付加価値総額はピーク時の120兆円から90兆円へと減少している。また、就業者
数については約1,500万人をピークに大幅に減少しており、1,000万人弱となっている。逆に、海外
生産は、1990年代の20兆円から120兆円へと拡大している。
図2.1.1-1は、産業別に就業人口と労働生産性の関係を示している。GDPは全産業の付加価値
総計で、[2.2-1]によると、付加価値=労働生産性×就業者数である。よって、労働生産性が高く、
就業者数が多い産業(図2.1.1-1の右上に位置する)ほど、GDPに寄与する産業となる。
製造業は産業別に比較すると、労働生産性は高い。但し、激しいコスト競争から、自動化の意
義が生産の進化から人の作業を機械へ置き換え、単なる人件費削減にすり替わることにより、製
造業の生産人口減やコモディティ化を加速させるなど、グローバル市場の獲得で苦戦を続けてい
る。
1600
電気・ガス(18万⼈-3395万円)
鉄鋼業
化学⼯業
<製造業>
1400
労働生産性は高いが働く場は縮小
業務⽤機械
⾮鉄⾦属
1200
情報通信機械製造
汎⽤機械
輸送⽤機械製造
⽣産⽤機械
電⼦部品
電気機械卸
産業機械卸
学術研究
電気機械
1000
情報通信業
医薬品卸
労働⽣産性(万円)
プラスチック
⾷品卸
800
<製造業>
労働生産性も高く働く場も提供
GDP に大きく貢献
⾦属製品
輸送機⼩売
機械器具⼩売
⾐料⼩売
⾷品製造
600
医薬品⼩売
⽣活関連サービス
その他サービス
400
飲⾷サービス
200
⾷品⼩売(153万⼈-353万円)
凡例
製造業
その他(サービス等)
0
10
20
30
50
40
60
産業別就業者数(万⼈)
70
80
90
100
10
平成27年度 経済産業省企業活動基本調査より作成
図2.1.1-1 産業別就業人口と労働生産性[2.1-1]
2.1.2 日本のものづくりの強み調査
日本のものづくりの課題解決には、改めて日本の強みを再認識する必要がある。コストダウン
目的に海外進出した場合でも、20兆円規模で日本製部品を輸入している事実から、コスト競争に
7
負けない日本製、国内生産にも利点があると考える。
下表2.1.2-1に日本の生産における良好事例の一部を示す。
事例
島根富士通
HP
沖電気工業
ZecOO
電動バイク
安田工業
工作機械
共栄鍛工所
光機械製作所
上島熱処理
工業所
ダイフク
組立ライン
千代田工業
及源鋳造
エコグリーン
埼玉
東海バネ工業
トヨタ
表2.1.2-1 日本の生産における良好事例[2.1-2]
概要
島根富士通では、当初より、国内生産にこだわってカスタム製品を生産。人の
作業を助けるための自動化を進めており、結果として作業者の高齢化支援
東京都昭島工場にて、ほぼ手作業にて、カスタマイズ製品を短納期で生産
し、高い品質も実現
国内生産回帰の福島工場、現場の改善の見える化による従業員の雇用を維
持しながら生産効率向上を果たす
デザイン性と様々な新しい機械構造。ハンドメイドで熟練した職人の技グロー
バルニッチな製品の開発
熟練職人の腕で、最終仕上げをする高精度な工作機械の提供。人の手でし
かできないキサゲ加工とその技能伝承。世界一高精度名ものを作るというプ
ライドや誇り
熟練技能者による鋳造技術により世界トップクラスのシェアを保有
女性や誰でも使えるダイヤモンド工具研削盤を開発。従来、熟練の感と経験
が必要とされてきた研削を自動化
最終的に人の検査が必要な金属熱処理作業の技能伝承
人が作業しやすい高さに昇降させるラインの提案
人にやさしく効率的な工場の提案
ウルトラハイテン材を用いた金型製作で、熟練工の差別化で成功。木材加工
への応用など、技能と材料のミックスを模索
琺瑯引きのロボット化に成功。これまで人でしかなし得ていない作業を人手不
足解消のためロボット化
やわらかく不定形なパン生地のハンドリングロボットの製作。発酵食品の品質
の安定化、ヒト由来の異物(毛髪など)混入予防の実現
特殊大型コイルばねのコイル巻きの自動化。どうしても熟練工でしか作成でき
ない製品が明確となり、単なるスキルアップではなし得ない領域を再認識
生産工程の一部をロボットから人の手に。新人作業員の技術の習得、その結
果工場の改善が進み生産ラインを96%短縮、廃品の量も減らす。
分類
柔軟性・
改善力
柔軟性・
改善力
柔軟性・
改善力
技能力
技能力
技能力
改善力
技能力
技能伝承
人にやさしい
工場
技能力
⇒応用拡大
技能力
改善力
改善力
技能力認識
技能力
改善力
日本製(国内生産)の利点を整理すると、大まかに以下の3項目に分類されると考える。前述の
とおり、日本の製造業においては労働生産性が高く、自動化といった資本装備が進んでいるもの
の、以下3項目はいずれも「人」の力であり、日本の製造業において特徴と考えられる項目は「人」
が鍵になると考えられる。
① 柔軟性:人の柔軟性を活用し、製品のカスタマイズや生産システムの柔軟性を実現
② 技能力:高度な技能や伝統的技法により、高品位な製品を実現(人手間)
③ 改善力:気づきや工夫、経験に基づき生産の仕方を改善する推進力として人を活用
(一手間)
上記3項目に着目してさらに具体的な事例を以下に示す。
(1) 柔軟性の活用事例調査
人の柔軟性により、問題発生時などの非定型作業や製品のカスタマイズへの対応、環境条件
に応じた作業やプロセスの変更といった、比較的機械化が難しい、また機械化できても高コストと
なる領域において貢献するものである。
8
具体的な事例として島根富士通の工場(パソコン製造)を紹介する(図2.1.2-1)。島根富士通の
工場では、日本における他のパソコンメーカが生産コストの安い海外へ生産を委託する中、創業
当初よりプリント板の設計から製造、パソコン本体の組立てやお客様のニーズにあわせたカスタ
ムメイドの対応までを一貫して行い、品質の高いノートパソコンの国内生産を続けてきた。また、2
005年にはトヨタ方式を導入し、リードタイムの削減を図る等、製造から物流まで徹底的な改善と
効率化を進め、お客様の要望に応える高品質なパソコンをいち早く市場に投入することで市場を
リードしてきた。島根工場は今後も世界をリードする製造会社として”Made in Japan”だからこそで
きる高品質、スピーディ、フレキシブルな製造体制の構築につとめ、国内生産を続けると宣言して
いる。また、人の作業を助けるための自動化を進めており、結果として作業者の高齢化支援もで
きているとのこと。
図2.1.2-1 国内生産の成功例(富士通)[2.1-3]
次に日本ヒューレットパッカード社(HP社)が東京都でパソコン製造を行っている事例を紹介す
る(図2.1.2-2)。HP社においても、日本向けを日本国内で生産することの利点として、カスタマイズ
に対する納期の早さ、国内への製品供給を念頭に輸送経路が短縮されることによる製品故障発
生率の低さなどをあげている。

その 1: カスタマイズ注文でも「5 営業日納品」という早さ。

その 2: 輸送リスク削減で、故障発生率を低減

その 3: 生産拠点が東京であるため要望のフィードバック



が早い
その 4: 国内生産なので、雇用・税金など経済面で日本に大き
く貢献
図2.1.2-2 国内生産の成功例(HP)[2.1-4]
(2) 技能力活用の事例調査
ベテラン技術者の技術・技能伝承を積極的に行い、短納期化等競争力に繋げた事例がある。
上島熱処理工業所は、社員約 50 名のうち 10 名が 65 歳以上と高齢者が多く活躍する金属熱処
理の会社である。創業時から定年の考え方はない。技能・技術は年齢を重ねることで向上するも
のであり、意欲がある限り現役でいてもらう、という現社長の考えもあり、体力や集中力が低下し
9
て、自分の誇りを維持するだけの仕事が出来なくなったときに自分自身でリタイヤする時期を決め
るというシステムである。
現在、社員は 82 歳の工場長を筆頭に、70 代 3 名、60 代 6
名のベテランがいる一方で、20 代、30 代の若手社員も半数を
占めるという幅広い年齢構成となっている。
これは、高度な技術である熱処理を、技術伝承を通して枯れ
させることなく、常に複数名が対応できるようにしようという社長
の考えである。
取り扱う製品の多くは一品ものであり、過去の取り扱い製品
の熱処理条件などをデータベース化して管理しているが、実際
に行う際には最終的にはその処理時間などを目で見て判断す
る必要があるからである。このようにデータのみで判断できな
図 2.1.2-3 国内生産の成功例[2.1-5]
い部分は、現場できめ細かく、技術・技能の伝承を行っている。
(上島熱処理工業所)
(3) 改善力の事例調査
改善力は、生産に携わる人の気づきや工夫、経験を製品の品質向上や、生産の仕方そのもの
を改善するための基礎的な情報と考え、人がものづくりを改善していく推進力として考えるもので
ある。以下に事例を示す。
自動車部品メーカーのケーヒンが海外に移設していた生産を国内に戻した事例である。コスト
削減できたものの生産技術の進化が止まったことを危惧し、日本に生産を戻したうえで高効率化
を図った例である。
図2.1.2-4 国内生産の成功例(ケーヒン)[2.1-6]
以上の事例から、コスト競争が激化している状況下においても、「日本ならではの生産」により
顧客へのサービスと生産性及び雇用を確保できる国内生産のメリットを出せる道があると考える。
今後市場ニーズの変化より、従来主流であった大量生産からマスカスタム生産、変種変量生産
への移行が進む。より個別生産に近づき、多様なニーズへの対応や個人の嗜好への対応など生
産過程で対応しなければならない作業の柔軟性が求められ、難易度も高くなると考えられる。
益々「人(現場力)」の役割が重要になり、人と機械が互いに補い合い、効率良く作業を行う技術
が重要になる。
特に、日本の現場には高学歴でITへの対応力も強く、現場をより良くしようとする人材が多く、
現場改善力のあるものづくりが期待できる。また、“おもてなし”の感性や、現場作業の習熟・熟練
10
に取り組む姿勢から、一手間(追加の手間によるきめ細やかな仕上がりや高品位を実現)、人手
間 (熟練の技による高品位の実現)をかける工夫を得意としている。さらに、生産現場での機械
の活用においても、機械を大切に扱い、愛着を持って改善していくという文化がある。
従って、日本の勤勉で高度な機械やITを使いこなせる「人」の力を生かした他国では容易にま
ねできないものづくり「日本ならではのものづくり」を今一度再構築することで、競争力の維持向上
が可能と考える。
2.1.3 ものづくり産業(製造業)活性化の課題
日本の国際競争力を強化するためには、素早く多様な顧客ニーズに合致する競争力のある製
品をつくり、市場に供給しつづけなければならない。このためには、日本の労働者の特長である柔
軟性、技能力、改善力の各能力をさらに強化するしくみが課題となる。すなわち、これらの能力を
兼ね備えた労働者を育成するしくみ、優れたスキルをもつ労働者を見える化し、有効活用する生
産システムが必要となる。
これにより強化すべき領域を下図に示す。特に、柔軟性や改善力の向上は、今後増加が期待
される、中量産域でのマスカスタマイズにおいて重要な要素と考える。
従来の効率化
デジタル化/組合せ技術で対応する領域
強化を目指す領域
⾼
難易度
熟練度
技能⼒の活⽤
柔軟性の活⽤
マスカスタマイズ
低
⾃動化
機械+⼈
⼈+機械
⼤量
中量
少量
⽣産量
図 2.1.3-4 人の支援により強化される領域
11
2.1.4 ものづくり産業競争力強化の対策
(1) 日本のものづくりの優位性を活用した新たなものづくりの実現に向けて
国内生産において、柔軟性、技能力、改善力を向上し、労働者に幅広い能力を身につけさせる
しくみとして、人の気づき、工夫、知恵、調整、経験を共有し、生産システムから発生する生産デー
タ、製造モデル、製品の設計データと合わせて分析することにより、人の新たな気づき、工夫、知
恵を創発し、人と生産システムを螺旋的に成長させる人と機械の協働生産システム(図2.1.4-1)を
構築する手法や、基盤のしくみづくりを検討する必要がある。
また、従来の生産性指標である生産効率、生産量だけでなく、競争力や人と機械・資源のバラ
ンスを見た、最適生産計画などのモデルを構築する必要がある。
さらに海外展開する際も、戦略的に日本の競争力維持の視点を加味するとともに、現地の労働
者の特性を十分生かした生産設計をすることで、歩留まりなどを改善し、現地の労働者も喜ぶ生
産を実現するなど、日本の生産技術の高さをPRしていく必要がある。
そのためには、まず最初に長期低迷している国内製造出荷額の拡大と生産人口の拡充が必須
であり、その第一歩として国内外生産戦略を見直し、国内へ回帰すること、空洞化した技術の復
活から始める必要がある。
図2.1.4-1 協働生産システム
(2) ものづくり高度人材育成(協働生産システム構築ができる人材育成)
このような生産を行うためには、上記生産を支える高度ものづくり技術の育成に加え、柔軟性
の確保、人の技能の有効利用、人の活動に基づくシステムそのものの成長を視野に、人を活用す
る視点を合わせてシステム構築でき、日本の競争力の維持向上と効率的な海外展開による市場
獲得を両立させる生産戦略を立案・評価できるものづくり高度人材を育成する。
(3) 労働人材のマッチング
ものづくりの要望に応じて、製造に必要な能力をもつ人材のリソースを時間・空間的にマッチン
グさせる市場に類似したしくみが必要となる。このしくみにより、製造に必要な能力をもつ人材を適
切な対価にて活用し、顧客の要望に応じて製品を製造・提供することが可能となる。
12
2.2 日本ならではのものづくりを支える人材確保(生産人口拡充)について
日本企業の多くは定年制を採用しており、1970年代までは55歳が定年退職であったが、60歳と
なり、さらに65歳に引き上げられつつある。一方、厚生労働省によると、平均寿命は1960年の男
性65.32歳、女性70.19歳から2013年の男性80.21歳、女性86.61歳まで大きく伸びている。また健康
寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は2013年で男性71.19歳、
女性74.21歳となっており、単純には言えないが、退職しても健康上十分働ける高齢者の比率は
1970年代より増加しているものと推測される。そこで、高齢者を中心に、生産人口を拡充し、日本
のものづくりを支える人材を確保するしくみを検討した。
2.2.1 働くための条件・課題検討
高齢者の定年後の状況、また快適に働くための条件・課題を検討した。
インテリジェンスHITO総合研究所の「労働市場の未来推計」[2.2-1]によると、2025年時点での
65-69歳の労働力率を60-64歳のレベルまで引き上げると、121万人の供給増加が見込める。
55-59歳のレベルまで引き上げれば、さらに同程度の供給増加が見込め、69歳までで300万人近
い労働力供給が可能になる。
図2.2.1-1. 年齢階層別労働力率の推移[2.2-1]
(独)労働政策研究・研修機構(JILPT)の60代の雇用・生活調査[2.2-2]によると、現在仕事をして
いる最大の理由は「経済上の理由」(58.8%)が最も大きい。また、就業希望があるのに仕事に就け
なかった最大の理由は「適当な仕事が見つからなかった」 (36.2%)、「自身の健康上の理由」
(32.7%)と「家族の健康上の理由」(15.9%)が大きい。
再就職時には、生産工程からサービス業に職種が変わる人が多い。健康上の問題に加え、新
規に高齢者を雇う場合の雇用側と被雇用側の業種ごとの希望のずれから職種を変えている可能
性がある。
一方、JILPTの高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)[2.2-3]によると、企業側は、65歳以
降も働く際の該当基準として、「働く意思・意欲があること」 (58.9%)、「健康上支障がないこと」
(58.7%) を6割挙げている。また、65歳以降の高年齢者を雇用している理由として、「高齢者が身に
つけた能力・知識を活用したい」 (62.6%) が6割を超えている。健康を維持でき、これまでの能力
や知識を活かすサポートのしくみがあれば、雇用側と被雇用側のニーズを合致できると考える。
13
2.2.2 高齢者(65~79歳)の体力・運動能力の現状
文部科学省の「体力・運動能力調査結果の概要及び報告
書」[2.2-4]によると、高齢者の体力は年々向上しており、70
歳代では、過去12-15年間で5-10歳の“若返り”状態である。
高齢者に対する先入観を捨て、高齢者の定義を改めて見直
すことも必要である。
2.2.3 身体能力の見える化
高齢者が若返っているとはいえ、加齢に伴い低下する能
力はある。
仕事に必要な能力は、視力、聴力、筋力、記憶力、判断
力に分類される。また、加齢による低下が大きい能力は、視
力、聴力、疲労回復力、平衡感覚とされている。
中央労働災害防止協会の「高年齢労働者の身体的特性
図 2.2.1-1 体力・運動能力調査結果
の変化による災害リスク低減推進事業に係る調査研究報告
[2.2-4]
書」[2.2-5]によると、製造業での50歳以上の労働災害の内
訳は、墜落転落が51%、転倒が62%となっている。
また、アンケートの考察で、加齢の影響に対する認識とそれを補うために選択すべき行動の間
にずれがあると報告されており、IT技術等で能力を計測・見える化し、自己の認識とのずれや、選
択すべき行動を積極的に提示することで、労働災害が減少する可能性がある。
一方、厚生労働省の「高年齢労働者に配慮した職場改善事例」 [2.2-6]によると、以下のような
改善事項が推奨されている。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
職務配置に当たって判断や記憶の能力に関しての配慮
協働者との関係についての配慮
安全性の確保・心理的ストレスへの配慮
作業の継続時間への配慮
作業時間短縮と作業時間帯への配慮
作業スピード、ペース等への配慮
筋力の低下、不良姿勢への配慮
関節の可動性、組織柔軟性への配慮
生理機能低下への配慮
事故防止への配慮
作業場の施設管理への配慮
事故の防止や、負担を低減するための作業環境の整備への配慮...①安全面
事故の防止や、負担を低減するための作業環境の整備への配慮...②視覚機能面
事故の防止や、負担を低減するための作業環境の整備への配慮...③聴覚機能面
事故の防止や、負担を低減するための作業環境の整備への配慮...④温熱環境面
健康管理
総括管理への配慮
労働衛生教育等への配慮
これらほとんどは、高齢者以外の労働者の安全確保にも有効であり、能力の見える化は、上記
に示したような改善事項に対応し、安全に配慮した作業環境の実現や作業の途中でも疲労したら
休むことができる作業システムの構築にも寄与すると考えられる。
2.2.4 生産人口拡充(質向上)に関する検討
これまで、生産人口を拡充するための身体能力の見える化について考察してきたが、労働作業
中に身体能力を計測することは、労働作業そのものを計測する事になり、「労働作業の見える化」
を実現できる可能性がある。モノをセンシングするIT技術がIoT(Internet of Things)であるが、この
14
考えは、人に対するIoT、別の言葉でいえばIoA (Internet of Ability:人間の能力のネットワーク化)
に相当すると言える。「労働作業の見える化」が実現できれば、作業がデータとして蓄積され、分
析され、形式知化されることで、作業の「質」も見える化・データ化され、技術の伝承や労働作業の
質の向上につながるものと期待する。
質を向上させるしくみの例として、富士通総研では、「先送りされた技術・技能伝承「2012年問
題」」[2.2-7]において、技能を伝承させるしくみを提案している。
方法(1) ITを活用した技能の技術化
 属人的作業の7~8割は自動化可能な「技術的な作業」、残りの2~3割は
人間が判断を行いながら作業を行う「技能的(暗黙知的)な作業」
方法(2) 応用力を醸成する伝承のしくみ
 災害発生などの想定外の事態に際しても、生産移転などに効果的に技術化した
技能を活用できるゼネラリストの育成
 既存のしくみをベースに応用力を醸成する技術・技能伝承のしくみ
方法(3) 技術・技能伝承のフレームワーク整備
 伝承コーディネーターと退職した(がまだ働ける)技術者や技能者をチームで国
内外の企業に派遣し、技術・技能レベルの向上を支援するようなフレームワーク
の整備
この中の「技術・技能伝承コーディネーター」が伝える「技術・技能」の一部をデータ化し、システ
ム化されたフレームワークと合わせて様々なものづくりの現場に適用することで、特に中小企業で
危惧されている、高齢者の退職に伴う熟練技能の消滅を防ぐ事が可能と考える。
2.2.5 生産人口拡充に寄与するしくみ
身体的能力の見える化により労働災害リスクを低減するしくみを構築する。さらに、多様な人材
を有効活用し、能力向上・技術伝承ができるプラットフォームへと発展させる必要がある。
また、見える化できた技術の伝承や、機械による支援のあり方、産業教育のしくみの構築や、
異分野・異世代融合の場の提供も生産人口拡充には有効と考える。
方針としては、2.1項で検討している日本の優位性(熟練した技能や経験をもつ作業者)を活
用できるものづくりを実現するための生産方式を確立し、今まで働かなかった多様な人材が参入
できるようなしくみづくりを行うと同時に、能力向上を積極的に支援し、未習熟者の多い新興国と
の差異化(高付加価値)を打ち出す。失われつつある熟練の技能・経験(特に中小企業)を形式知
化し、シェアするしくみを実現する。
(1) 日本のものづくりの優位性を活用した新たなものづくりの実現に向けて
(2) 労働作業計測プラットフォーム(能力の見える化)構築
これまでに示してきた身体能力の見える化技術等は各業種、各企業により異なる可能性が高
いが、そこで得られたデータは、対象となった作業毎に個別に分析するだけでなく、同じ業種でま
とめたデータの分析や、異なる業種でも類似した作業で横串を通した分析を行うことで新しい気づ
きがあるのではないかと思われる。そこで、各社、できれば業種毎に、収集すべき身体能力の種
類やデータフォーマットを規格化し、データの共通化や利用者がわかりやすい解析技術の向上を
図るべく、労働作業計測プラットフォームの構築を推奨する。
(3) 計測データの分析による新たな指針づくり
プラットフォームで収集したデータは、用途に応じた様々な分析をすればよいが、後述するQoW
といった新たな指針の提案にも活用できる。「人」が主役となるものづくりという、これまでにないし
15
くみをうまく活用するため、共通的な指針作りを進めることを提案する。
(4) 生産現場への適用
プラットフォームおよび分析結果を活用することで、熟練者の分析で得られた技能や経験を他
の作業者が効率的に学ぶ(質のトレーニング)環境を構築したり、人協働生産システムと組合せて、
人の能力や作業進捗に合わせてシステムが支援したり調整するような労働作業支援システムの
出現が期待できる。
この考え方は、人の作業支援だけでなく、作業者がより効率的に経験を学ぶしくみ(質のトレー
ニング)にも適用可能である。最初は身体能力計測のしくみなどを用い、熟練技能者から熟練技
能を抽出し、所属企業に形式知として影響するループを構築。抽出した熟練技能が蓄積されれば、
汎用性の高い形式知として複数の企業に展開することが可能となる。
技能の抽出-伝承
⼈の計測
システムの最適化
QoW指標
学び直しの仕組み
工学
医学 心理学
協働⽣産システム
能⼒に応じた安全基準
能⼒による職場マッチング
計測
分析
労働意欲の維持・向上
能⼒⾒える化
健康維持
能⼒⾒える化の
プラットフォーム
…
⼈の⽀援
⼈の計測
働き⼿を考慮した最適化
計測
技能伝承の仕組み
判断
制御
従業員の能⼒ + 作業⽀援システム
⾒える化システム (企業毎/⽣産対象
毎にカスタマイズ)
分析結果を指針化
人と機械が協働する生産システム
各生産機器・システムのイメージ
基盤技術確立(協調)
図2.2.5-1 能力の見える化プラットフォーム、指針、生産現場への適用イメージ
(【エグゼクティブサマリ】図2 再掲)
(5) 働く環境づくりを支援するしくみの例
働く人の能力を最大限活かし、これまで以上に便利になり、雇用側と被雇用側の両者が安心し
て働ける環境づくり(図2.2.5-2)を支援するしくみの検討が必要である。
能⼒
・高危険ポテンシャル環境の改善
・危険ポテンシャルの見える化
・ワーキングシェア
安⼼
・現存能力と適正職種のマッチング
・能力開発を支援
便利
フリッカーテスト
・kokoroスケール(理研)
・ウェアラブルモーションセンサ
・毎朝、職場で継続的な計測
・VR、AR技術を活用した「高齢疑似体験」
図2.2.5-2 支援するしくみの検討例
16
2.3 新たなものづくりに向けた QoW について
世界に先立ち超高齢化社会を迎えた我が国は、2060年には5割の生産年齢人口で4割の高齢
者と1割の若年者を支える人口構成になる。また、高齢化が消費活動の縮小にも影響しており、こ
こ近年(10年間)で10%(約30兆円)の個人消費縮小がみられる。従って、単に働く場を創出しただ
けでは、社会保障受給を前提とした働き方に留まり、消費意欲までは繋がらない。仲間と働く喜び、
役立つ喜び、働きがいの向上により生涯働くこと、自己投資への意欲創出に繋がるいきいき働け
る環境づくりが重要であると考える。そのため、本節では74歳まで働き続けたくなるしくみづくりや
労働生産性のみではない新たな評価軸、すなわちQoW(Quality of Work)の必要性について述べ
る。
2.3.1 労働意欲維持の動機づけ
高齢就労の促進に向けた労働意欲の維持に関し、「働きがい」、すなわち動機づけやモチベー
ションを中心とする就労者本人の心的要素、「働きやすさ」、すなわち勤務条件や人間関係を含め
た周辺環境にもたらされる要素について、検討を行った。
「働きがい」について、労働における動機は外発的動機と内発的動機に分類される。
 ある活動それ自体ではなく、他の何かの要因、たとえば金銭報酬などの外的報酬によって
動機づけされることは「外発的動機づけ」と呼ばれる。
 外的報酬に依存せず、たとえば活動への好奇心や関心による動機づけは「内発的動機づ
け」と呼ばれる。
とくに内発的動機づけは教育からリハビリテーションにいたる幅広い分野において、QoLを高め
ながら成果を挙げるための重要な要因であることが先行研究にて示されている。
これは、自律的に活動を継続し、ある結果を生み出すために適切な行動を自らが遂行できると
いう確信と、自らがある行為を主体的に行っているという感覚とをもつことに起因すると考えられ
ている。このように、人が生き生きと働くためには、この内発的動機づけを高めるしくみづくりが必
要となる。
労働に関する内発的動機づけを高める要因としては、以下のものが知られている。
自律性
有能感
他者関連性
自ら環境をコントロールし、自らの行動を主体的に決めているという感覚
自らの行動でなにかを成し遂げることができるという、自らに対する確信
他者と結びつき、互いに尊重しあう関係性
高齢就労者においても内発的動機づけを高めるには、自律性と有能感を持った上で他者との
関連性を強めることが必要となる。
図2.3.1-1は実験社会心理学により産業・組織場面にて内発的動機づけの構成要素、その重
みづけや関連性を調査、解析した例である。
17
図2.3.1-1 働きがいの総合モデル[2.3-1]
労働における動機を考える上では、「働きがい」だけでなく「働きやすさ」の視点も重要である。
「働きやすさ」に関し、高齢就労特有の課題として、
 両親や配偶者の介護などに代表される環境的な制約
 就労者の身体的な能力や認知的な能力の低下
などが存在し、フルタイムの勤務が困難となりがちである。
高齢就労の推進に向け、勤務に対する裁量の付与やフレキシブルな対応を可能とする職場環
境の構築も求められる。
「働きがい」や「働きやすさ」を向上し、労働意欲を維持するための具体的な取り組みとしては以
下の施策が考えられる。
 業務の目標やそれを達成するための計画、具体的な作業内容の決定に関わり、行う作業
が自らの意見も反映された上で決定したものであるとの感覚をもてるしくみや職場環境の
構築
 就労時間の自己決定や勤務スケジュール立案へ関与して、日々の業務のやり方に対する
主体感をもちつつ、高齢者が無理の無いペースで就労を継続出来るしくみ
 年齢や病気等によって時々刻々変化する個人の能力に応じて、「努力すれば達成できる」
程度の適切な目標を設定するしくみ
 仕事を進めるうえでの協力関係、シナジー効果を最大化するリーダーシップ
 専門性を生かしたコミュニティでの活躍
幾つかの先行調査にて、企業業績とその企業に属する従業員の動機づけとの関係に関して、
「働きがい」、特に内発的動機づけの強い企業は企業業績が良好であることも示されている。
図2.3.1-2は日本の各産業における代表的な企業にて、就労者に対して内発的動機づけと外発
的動機づけを調査し、企業毎に就労者の内発的動機づけと外発的動機づけをスコアリングし、偏
差値を算出すると共に、企業毎の従業員一人あたりの営業利益額を求め、働きがいと企業業績
の関係やその推移を検討した例である。
18
図2.3.1-2 ワーク・モティベーションと企業業績の関係[2.3-2]
「働きやすさ」に関しても、その向上により、就労者の勤務継続意向が向上する、あるいは所属
企業の業績も高い傾向が示されている。これらから、従業員の「働きがい」や「働きやすさ」の向上
は、企業経営にも有用と考えられる。
2.3.2 高齢就労者の調査
(1) 高齢就労者の労働理由の国際調査
高齢者の就労を労働意欲面から考えるとき、個々人が働く「動機付け」は重要な観点と考えるこ
とができる。表2.3.2-1は内閣府が5年ごとに実施している「高齢者の生活と意識に関する国際比
較調査結果」から、1980年以降の高齢者の就業理由の国際比較をまとめたものである。
表2.3.2-1 就労の継続を希望する理由[2.3-3]
(収入の伴う仕事をしたい(続けたい)と回答した人を対象)(%)
⽇本
1 収⼊が欲しいから
2 仕事そのものが⾯⽩
いから、⾃分の活⼒
になるから
3 仕事を通じて友⼈や、
仲間を得ることが
できるから
第2回
1985
第3回
1990
第4回
1995
第5回
2000
第6回
2005
38.7
38.9
43.9
45.8
40.8
42.7
第7回
2010
43.8
49.0 52.7
16.9 28.1
12.2
8.1
11.0
11.1
19.8
24.6
20.7
7.5
7.6
10.2
11.6
5.7
4.7
8.3
42.0
32.9
27.2
28.9
25.9
25.8
3.3
1.7
3.7
4.5
2.2
1.1
2.7
19
独
瑞
第8回
2015
B
4 働くのは体によいから、
38.1
⽼化を防ぐから
5 その他
⽶
第1回
1980
7.1
2.8
24.8 14.9
2.2
A
1.5
C
31.9
20.8
48.9
54.4
0.9
3.0
14.8
16.9
3.1
4.9
これより、以下の傾向を見ることができる。
 日本・米国は「報酬のため」(外発的動機づけ)の比率が高い。独・スウェーデン (瑞)は「仕
事が面白い、活力になる」(内発的動機づけ)が高い(図中A)
 2000年以降、日本でも「仕事そのものが面白い、自分の活力になるから」という内発的動機
づけの比率が上昇傾向にある(図中B)
 「健康維持、老化防止」は、日本が他国に比べて相対的に高い(図中C)
とくに高齢者社会に向けた「「人」が主役となる新たなものづくり」においても、高齢者が働き続
ける要因となる内発的動機づけを、身体機能・認知機能が徐々に衰えていくなかでどのように維
持・増進するかという点が課題となる。
(2) 高齢者就業事例の調査
前期高齢者である74歳まで、働き続けたくなるしくみを検討する上で、生き生きと働いている高
齢者の事例として、中小企業を対象とした「エルダー活躍先進事例集・生涯現役いきいき企業100
選」などを調査した[2.3-4]。その結果、以下のことがわかった。
 従業員数が数十名~数百名の小規模企業が大半であり、2014年度版の内訳は
定年なし:9社、70歳定年:4社、65歳定年:35社、60-63歳定年:48社である
 高齢労働者が「いきいき」元気が出る背景には、内発的動機づけがみられる
・自分が持っているスキルを活かせて、楽しい
⇒ 働いている企業の商品価値が高く、それがスキルに結びつくと優遇される
・社会(コミュニティ)の役に立っていることを実感し、うれしい
⇒ 地域の人たちに喜んでもらえて、自分の存在価値や居場所が得られる
 経営者は、高齢者の身体・認知能力の変化に対し、職種・勤務形態と報酬のバランスに配
慮して、外発的動機づけの低下抑制対策を工夫している
なお、本事例は中小企業の製造業における切実な人手不足問題をベテラン層の雇用延長によ
り乗り超えるために行っている側面が大きく、高齢就労者にとっては勤務形態や収入は満足でき
るとは言い難いのが現状である。
一方、大企業の事例としてダイキン工業では、60歳定年者に対し、65歳以下の再雇用が90%、
65歳以上の再雇用が20%、70歳以上の再雇用が3%以下となっている。また、65歳以下の再雇用
は “年金支給開始までの生活保障”(企業責任)が色濃く、65歳以上の再雇用は 経営側にとって
労務費負担に見合うメリットが小さいというのが現状である。[2.3-5]
以上の事例の調査から、行政の立場(年金財政の健全化)、企業の立場(労務費の負担軽減)
個人の立場(生活収入の安定化)を『三方よし』にする打ち手を考える必要がある。
そのためには
①高齢就労者(65歳以上)の企業収益への貢献を高くする
↓
②企業は高齢者の労務費負担が減り、雇用・給与を増やす
↓
③高齢者は就労収入が増えて、年金への依存度を減らせる
↓
④国は年金支出を抑制し、高齢者の消費が市場を活性化する
に示すように①~④の循環を起こし、継続させる原動力として、新たな価値を創り出す高齢就労
者を増やすことが必要である。
2.3.3 高齢者の健康と就業支援
日本のものづくりを支える人材活用として高齢労働を推進する際には、高齢就労者における健
康問題への対策が必要となる。
20
先行調査や研究により、高齢就労者特有の健康問題に関し、下記の課題が知られている。
 加齢に伴い身体的能力や認知能力が低下し、労働災害や疾病のリスクが高まること。この
リスクは労使双方にとって高齢就労への妨げとなっている
 身体的能力や認知能力の低下はその内容や度合いに個人差があること、更に個人内にお
いても体調によって日々異なる
 加齢に伴う身体的能力や認知能力の低下により、高齢就労者は疲労やストレスを感じ易く
なる
また、労働に伴う疲労に関しては、先行調査や研究により、以下の知見が知られている。
 疲労の種類として、就労者本人が自覚的に感じる疲労=主観的な疲労と、生体信号、生理
物質の計測により観測される客観的な疲労に大別出来ること
 主観的な疲労は簡便に観測可能な反面、就労者の状況、あるいは労働の状況により感覚
に狂いが生じ、不正確になるなど、客観的な疲労とのギャップが生じること
主観的な疲労と客観的な疲労を図示すると次のような関係となる(図2.3.3-1)。
図2.3.3-1 主観的な疲労と客観的な疲労との関係
領域1: 主観的な疲労と客観的な疲労が適正な範囲であり、両者のギャップは少ない
領域2: 高齢就労者においては、加齢による能力低下、それに伴う不安や自信喪失により
主観的な疲労>客観的な疲労となり、労働の継続を自ら断念してしまうケース
領域3: 就労者にとってやりがいがある業務を行った場合、達成感や高揚感に起因する感
覚の麻痺により、主観的な疲労が軽減され、主観的な疲労<客観的な疲労となり、
労働災害や疾病のリスクが高まるケース
或いは、主観的な疲労を感じつつも、経済的な事情により、過労へのリスクを抱え
つつ、労働継続するケース
領域4: 主観的にも客観的にも過度の疲労があり、就労継続が困難なケース
本提言では次の二つの方策により、課題を解決し、高齢就労の促進に繋がると考えた。
方策①: 人協働ロボットやITによるアシストで就労者の負荷を軽減しつつ、客観的な疲労状
態を労使双方へ提示し、経営者に対しては安全に高齢労働を推進出来るしくみを、
就労者に対しては安心して働ける環境を提供する。
方策②: 就労者に対して、個々人の能力や就労事情に応じた多様な働き方を提示するしく
みと共に、客観的な疲労を把握することで、業務負荷や満足度を適正に調整出来
る環境を提供する。
21
これら二つの方策を個々の就労者へ提供することは、高齢就労に限らず、全ての就労者に対し
ても有用であるが、労働に関する能力の変動や個人差が大きい高齢就労者に対して特に有効と
考える。
2.3.4 高齢者の就労と消費行動
高齢者の労働意欲を高めると共に、それを消費に
つなげて我が国の経済効果に結びつけるための検討
が必要である。
内閣府の発表[2.3-6]によると、個人消費全体の中
で、高齢者層の占める割合が年々増加し、近年では
半分近くにまで達しており、高齢者層の消費に与える
インパクトが増大していることがわかる。また、高齢者
の消費行動として、勤労者と無職世帯(年金または貯
蓄取り崩し世帯)を比較すると可処分所得(月額)は、
勤労世帯は無職世帯よりも、約16万円多く、消費支
出(月額)も約7万円大きいという調査結果がある。ま
た、現在就労していないが、希望する高齢者が職に
図 2.3.4-1 60歳以上の世帯における1世帯当たりの
60 歳以上の世帯における1世帯当たり
図2.3.4-1
就き安定した収入を得ることができれば、消費支出も
の可処分所得と消費支出
可処分所得と消費⽀出(⽉額、2014年)
より積極的になる可能性が高いとの見解も示されて
(月額、2014)[2.3-6]
いる。
高齢者の消費者動向について、さらに参照資料[2.3-7],[2.3-8]も参考にしながら消費行動に如
何につながるかを検討した結果を以下にまとめる。
(1) 高齢者の貯蓄は多いものの収入は少ない
2012年の1世帯あたりの平均貯蓄額を世帯主の年齢階級別にみると60歳代の2,249万円をピー
クに減少するが、純貯蓄(貯蓄‐負債)は60歳代以上で比較的多く保有しており、貯蓄の理由は、
老後の不安に対する備えが多くを占めている。このことから、65歳以降も安心して生き生きと働け
る環境が整えられれば、年金に頼る生活から就労による収入増により、貯金分を差し引いた余剰
分は人生を楽しむための旅行や食事などの消費に使われることが期待できる。
(2) 高齢者の消費動向は「健康維持や介護のための支出」が多い
高齢者の消費行動をみると、優先的にお金を使いたいものとして、①健康維持や医療介護の
ための支出(42.6%)、②旅行(38.2%)、③子どもや孫のための支出(33.4%)となっている。また、
食に関しても、価格よりも健康志向、本物志向の傾向にある。先の高齢者の就労理由の調査結
果においても、健康のために働き続けたいという意見も多く、健康を維持しつつ働き続けられる環
境が整えられれば、健康維持や医療介護のための支出が減り、他の消費に使われる
(3) 高齢者の男性単身者や大都市在住者ほど「孤独の不安」を抱えている
一人暮らしの男性の20%が「困ったときに頼れる人がいない」と回答、また、大都市ほどその割
合が多くなっている。特に男性は定年後、自由時間が増える一方で、積極的にコミュニティに参加
しないと、他者とのかかわりが益々減少していくものと考えられる。従って、働くことで職場での世
代を超えた対話やコミュニティに居場所ができれば、他者とのかかわりが維持され、「孤独の不安」
解消につながり、消費行動につながることが期待される
2.3.5 主役の「人」が働きやすい環境 ~QoW(Quality of Work)
人と労働の関係は、産業や経済などの「社会」環境とともに変化し、時代ごとの「価値」概念に
大きく依存すると考えられる。第4次産業革命とも呼ばれる、IoTや人工知能(AI)に代表される技
術革新が進行していく中で、ものづくり(生産システム)の一部はロボットやAIに代替されていく。一
22
方で、新たな製品やサービスを創出する生産現場として‘人がロボットやAIとともに働く職場’が増
えていく。本プロジェクトがめざす「「人」が主役となる新たなものづくり」では、そのような「社会」環
境の過渡的段階を想定し、そこで暮らす人々が何に「価値」を見出して働いているのか、消費して
いるのかに着目することが大切である。[2.3-9]
本プロジェクトでは、人と労働の関係を示す新しい概念として、QoW (Quality of Work) を提案す
る。身体的な能力に加え、2.3.1節 「労働意欲維持の動機づけ」で指摘したように、「働きがい」だ
けではなく、「働きやすさ」の視点をもつことが重要であり、QoWを以下のように定義する。
QoW :「人」が主役となる新たなものづくりにおいて、主役の「人」が‘働きやすい環境’
具体的には、以下のような環境づくりを指標に設定している。
①「内発的動機づけ」が高くなる環境: 自律感・有能感・コミュニケーションの向上
②「多様で柔軟な働き方」をサポートする環境: 学び直しやジョブマッチングの機会提供
③「新たな価値」を創り出せる環境: 一人ひとりを見ていく人材マネジメント
①は、「人」がロボットやAIとともに働く生産現場が増えていく状況で、高齢者や女性、障がい者
を含めて、働く「人」が主体的に判断し、行動する‘システムづくり’の指標である。
②は、ライフステージ(ライフスタイル)や技術革新に合わせて、必要とされるスキル(例:IT)を
習得する機会が得られ、勤務場所や報酬形態を選ぶことができる制度の確立・普及が課題であ
る。高齢者とともに、子育てや介護をしながら働く女性や若い世代が、「新たなものづくり」を取り巻
く‘人材の流動化’を自律的につくりだし、維持している状態を示す指標である。
③は、ロボットやAIとともに働く生産現場で、「人」の創造性を最大限に活かすチャレンジを支援
する取り組みである。特に、高齢者の活用においては、一人ひとりの健康状態、業務スキル、企
業収益に対するミッションなどに応じて、雇用形態や報酬を契約する制度が望まれる。これにより、
個人の立場(生活収入の安定化)、企業の立場(労務費の負担軽減)、行政の立場(年金財政の
健全化)を、『三方よし』へ導いていく指標として期待される。
なお、QoWは、個性をもった「人」が、各々の「労働」経験を通じて初めて得られる認識であり、
個々人の労働経験や価値観から‘全く独立して’結果を導くことは難しいと考えられる。
また、QoWは、「社会」環境の変容に応じて常に見直しが必要な指標であるので、現状を認識す
るとともに、近い将来を導き出すための手段としての確からしさを検証する必要がある。
したがって、本プロジェクトでは、‘「人」が主役となる新たなものづくり’を実践する現場で働いて
いる人々、例えば、高齢者や障がい者に焦点を当てて、上記の①~③を指標として、QoWの検証
実験をいくつか具体化し、継続的な計測・評価を行うことを提言する。
特に、‘人がロボットやAIとともに働く職場’における検証実験では、「人」を‘働き易くする「ロボッ
ト(ヒューマンインターフェース)やAIの技術開発」に関する知見の獲得、及び「人」と「労働」の関係
を示す「人文社会科学」の新たな領域を開く可能性も期待できる。
23
3. プロジェクト提言骨子(中間報告)
3.1 課題解決に向けてのシナリオ(図1-3参照)
(1) 日本ならではのものづくりの優位性の強化・活用
ものづくり産業は、市場ニーズの変化より、大量生産から多品種少量生産へと転換が求められ
ており、その生産方式に適した生産技術への変革時期に来ている。ものづくりは、完全自動化が
最終目標と考えられがちであるが、実際はものづくり現場の多くの人の活躍により、「良いものを
適正価格でタイムリーに提供する」というシンプルで根源的な顧客サービスを実現してきた。多品
種少量の変種変量、マスカスタム生産への移行により、多種多様な消費者ニーズへの対応等、
生産過程の作業は益々柔軟性が求められ、難易度も高くなると考えられる。よって、一層「人(現
場力)」の役割が重要になり、人と機械が互いに補い合い、効率良く作業を行う技術が重要にな
る。
今一度、日本の強みを調査した結果、日本の現場には、高学歴でITへの対応力も強く、現場を
より良くしようとする人材が多く、ものづくりの現場改善力の高さが期待できる。また、“おもてなし”
の感性や、勤勉に作業に取り組む姿勢から、一手間(追加の手間によるきめ細やかな仕上がりや
高品位を実現)、人手間(熟練の技による高品位の実現)をかける工夫を得意としている。また、
生産現場での機械の活用においても、機械を大切に扱い、愛着を持って改善していくという文化
が、「柔軟性」「技能力」「改善力」という強みにつながり、今後の変種変量生産においても重要な
役割を担うことが改めてわかった。
日本のものづくりの優位性を考慮すると、「人」の作業が高付加価値を生む比率が高い生産は
国内に立地するメリットがある。一方、グローバル市場に対しても地産地消を目的とした積極的な
海外工場立地を推進する必要がある。その際、国内の生産方式をそのままコピーするのではなく、
現地の労働者の特質をよく考慮したものづくりに再編して展開することが重要である。これにより、
海外生産の利益率を改善できるしくみも同時に導入できると考える。さらに、導入時の生産戦略
立案や評価ができる高度なものづくり人材の育成基盤も必要である。
(2) 日本のものづくりを支える人材活用(高齢者を中心に)
日本の高齢者(65歳以上)の体力・運動能力は年々若返っており、過去12~15年間で5~10歳
若返っているとのデータがある。将来の日本の労働人口の減少に対応する「ものづくり力の維持・
強化」には今まで働いていなかった高齢者を活用することが有益であり、そのためには産業機器
システムが人に寄り添った「「人」が主役となるものづくり」のしくみ構築が必須になる。このシステ
ムは、高齢者以外の人にも働きやすい職場環境を提供できると考える。
システムの実現には、加齢による能力変化への対策、および、高齢者の持つ技術、技能の活
用についての検討が必要である。また、高齢者の労働意欲維持の視点から、高齢者が働きやすく、
働きがいのある職場環境の実現が重要と考え、これらを総合的に表現する指標として新たな概念
のQoW(Quality of Work)の導入を検討する。
① 高齢者の能力変化への対策
前述の通り、高齢者の身体能力は年々向上しており、今後さらなる能力向上が期待できる。
留意すべきは、加齢による身体的能力や認知能力の変化は、個人差、日時差、各個人の自
覚度の差がある。また、加齢による能力変化は、若い時期からの対処を適切に行えばさらに
改善できると思われる。
医学的には、健康から介護状態への移行期である「フレイル(虚弱状態)」の予防、フレイ
ル状態からのリハビリが重要など、研究が進んできている段階である。
② 技術の見える化、伝承のしくみづくり
日本の優位性を活用したものづくりの構築には、現場で活用すべき技術・技能を国内で伝
24
承し、発展するしくみを持っていなければ、ものづくりの空洞化が起こり競争力を失う。今後、
高度に自動化された大量生産時の設備を変種変量生産対応のシステムに変換する際も、自
動化される前の技術の理解がなければ開発できない。
よって、IT,AI、IoTなどの先端技術を活用した技術・技能の見える化、伝承、融合による新
たな発展のしくみと人材育成に産業界が率先して取り組む必要がある。
③ 高齢者の労働促進した場合の影響への考察
・働くことが高齢者の健康維持に繋がる可能性が高い
高齢者の就業率が高い都道府県ほど医療費が低くなる傾向(図3.1-1)がある。さらに、心
理学的な調査では、生きがいを感じている人の方が長生きするというデータもある(図
3.1-2)。
・若者の就業ににも好影響の可能性が高い
OECDデータベースから厚生労働省が調査した結果、高齢者の就業率が高いほど若者の
就業も高い傾向がある。(図3.1-3)
図 3.1-1 高齢者就業率と医療費の関係[3-1]
アンケートタイミング
生
存
率
経過年数
図 3.1-3 高齢者と若者の就業率[3-3]
図 3.1-2 生きがいと生存率 [3-2]
以上を踏まえ、日本のものづくりの人材確保(生産人口拡充)施策として、労働年齢延伸、多様
な人材活用のための「QoW向上基盤技術」の確立が必須であり、工学だけでなく、医学、心理学
他異分野融合での取組が必須であると考える。その基盤技術をもとに、ものづくりの現場におい
てどのようなシステムを展開する必要があるか、どのようなしくみが必要であるかを各社が検討で
き、対応できる人材育成に繋がるよう支援しながら、働き方改善、健康経営推進施策と連携し、労
働生活を通じて、生きがいと健康を維持できることをめざす「QoW経営」について具体的施策を考
える。
25
3.2 プロジェクト提言の考え方
3.2.1 日本ならではの優位性強化と活用からみた提言ポイント
市場ニーズの変化に対応すべく、Industry4.0 などで進めている組合せ型の生産への対応と同
時に、日本の勤勉で高度に機械や IT を使いこなせる「人」の力を生かした、他国では容易にまね
できない世代を超えて発展し続けることができる「「人」が主役となる新たなものづくり」を実現する
ことが重要である。その対策として、ものづくり力の優位性を活用した新たな生産手法の確立とそ
の生産戦略を牽引する人材育成の 2 軸で考える。
3.2.2 日本ならではのものづくりを支える人材確保の面からみた提言ポイント
高齢者(65歳以上)の体力・運動能力は年々若返っており、過去12~15年間で、5~10歳若返っ
ているとのデータがある。将来の日本の労働人口減少に対する、ものづくり力の維持・強化には、
高度な技術や技能を保有する高齢者を活用することが有益であり、そのためには産業機器・シス
テムが人に寄り添った「「人」が主役となるものづくり」しくみ構築が必須になる。このシステムは高
齢者以外の人にも働きやすい職場環境を提供できると考える。さらには、次世代が高齢になった
時に現在よりはるかに元気で長く働けるように、そのための予防策、トレーニングも積極的に導入
する必要がある。
一方、能力低下の自覚と実際が異なると大きな事故に繋がる可能性があるので、身体能力、
状態(疲労度合など)の見える化、や労働の見える化を進め、安心して働ける環境と能力向上を
積極的に支援する環境を整備することで、質の高い人材確保を目指す。
3.2.3 あらたなものづくりに向けたQoWの面からみた提言ポイント
幾つかの先行調査にて、企業業績とその企業に属する従業員の動機づけとの関係に関して、
「働きがい」、特に内発的動機づけの強い企業は企業業績が良好であることも示されている。
医療の分野では人生や生活の質を示す指標としてQoL(Quality of Life)が用いられるが、人と
労働の関係についても同様の指標QoW(Quality of Work:働くために必要な条件(身体能力他)、
人にとっての働きやすさ、働きがいの指標)が必要と考える。QoW指標を構築し、職場環境の計測、
評価に活用し、働きやすい環境の整備を進め必要がある。
特に社会保障を前提とした働き方から、給与取得で生活する自立した消費者への転換には、
以下のような主役の「人」が‘働きやすい環境’の指標として検討する。
① 「内発的動機づけ」が高くなる環境: 自律感・有能感・コミュニケーションの向上
② 「多様で柔軟な働き方」をサポートする環境: 学び直しやジョブマッチングの機会提供
③ 「新たな価値」を創り出せる環境: 一人ひとりを見ていく人材マネジメント
さらに、多様な人材活用には、本人の働きやすさと経営側のメリットの合致が望ましい。マスカ
スタマイズなどの柔軟な生産に於いて、パート志向の高齢者の働き方は経営側のメリットにも合
致するものがある。その効果をさらに向上するために、ジョブマッチング制度や高齢者によるITな
ど先端技術の学び直しのしくみなどが重要になる。
3.2.4 プロジェクト提言概要案
3.1項課題解決のためのシナリオ、3.2.1項~3.2.3項の提言のポイントを踏まえ、実施す
べき施策提言の考え方を図3.2-1に示す。「「人」が主役となる新たなものづくり」の構築にむけて、
産業界で共通に使用できる基盤技術構築、それら成果を具現化し、多様な人材を「競争力の源泉」
に変える人材活用(QoW経営)を健康経営、働き方改善として取り込み、国内製造業を活性化す
るための施策について提言する。
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(1) 日本ならではの強みを生かす人と機械が協働する生産システムの確立
-人の技(ひと手間)を生かした「人」が主役となる新たなものづくり技術基盤確立-
① 技術・技能の見える化技術基盤確立
産業界と研究機関(国研、大学)が連携し、技術・技能の見える化技術基盤と確立する。人
と機械の密な協働作業の実現、従来徒弟で学んでいた人の技術・技能・直感的な行動の伝
承には、人の作業の解析が重要である。この解析結果は作業における指針化にも利用でき
るなど、これからのものづくりの基盤的データとなる。
府省の協力を得、公的な研究拠点として IT、AI を応用した最先端のセンシング、分析が可
能な設備をもつ拠点をつくり、各社が課題を持ち込み見える化に取り組むことで、国内の技
術伝承のニーズを集約していく。
② 人と機械が協働する新たな生産方法の確立
産業界と研究機関が連携し、公的研究機関で各社課題を見える化したデータを分析し、モ
デル化することで、生産技術や、人と機械の協働生産システムの要件を明確にし、ひと手間
の価値創造だけでなく、資源やエネルギーを最適化する生産システムのモデルを確立する。
【関連する省庁】:内閣府「Society5.0 超スマート社会サービスプラットフォームの新たなものづくり」、
「第 5 期科学技術基本計画」、経済産業省「第 4 次産業革命」
(2) QoW 基盤技術確立
医学・心理学・工学の学際知見を活用し、基礎技術確立を推進する。
① QoWの定義と指標化の基礎技術確立
産業界と研究機関が連携し、(加齢による)能力変化の状態、働きがい、働きやすさの状
態を定義する方法や、それを計測する方法を検討する。それを元に、ものづくり企業だけでな
く学官の有識者が集まって QoW の定義を定める。
② QoW指標を活用した新たなものづくりを支える人材活用のしくみ構築
産業界と研究機関が連携し、下記技術開発、しくみ検討を推進し、高齢者など多様な人材
の活用、柔軟な働き方の実現により、変種変量生産に適した人材活用のしくみを提言する。
・QoWを計測・評価するための産業システム技術開発
・作業者の能力変化を機械やITで補完できる人と機械の協働生産システムの開発
・加齢による高齢者の能力変化を抑制するための(職場での)訓練方法や機器開発
・柔軟な働き方(勤務地、時間、能力マッチング)も効率に変換できる生産のしくみ検討
【関連する省庁】:内閣府「Society5.0 働き方改革」、経産省「健康経営施策」等
(3) 社会実装に向けた施策
(1)、(2)項で確立した基盤技術をもとに、関連府省と連携し、「人」が主役となる新たなものづくり
の社会実装に向けた施策推進を図る。
・日本のものづくり産業に製造現場を日本に立地させるための施策
【経産省】
・高齢者の能力に配慮した安全基準、企画の見直し
【厚労省、経産省】
・ITなど先端技術の高齢者の学びなおし機会を提供する人材育成施策 【経産省、文科省】
・QoW指標を活用した、能力に応じた職場マッチング、ワークシェアのしくみ【内閣府、経団連】
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期待
効果
GDP の2割(120兆円)を担う強い産業にチャレンジ
国内生産
拡大
国際競争力
強化
生産人口拡充
社会保障費削減
自立した
個人消費層拡充
産業界の役割
QoW経営(仮称)
の実現
・戦略的な国内外生産、技能・技術伝承
・まねできないものづくり力拡充(一手間・人手間)
・伝統融合など日本ならではの技術の発展
・多様な人材活用
・年をとっても元気
に働ける職場
・生涯能力向上
できる職場
ものづくり高度人材育成基盤
・高度技能者育成
・日本の競争力とグローバル市場獲得の両立を見
据えた、生産戦略立案・評価できる人材育成
⇒優秀な人材獲得
プランニング系
気づきの協働
習熟
の
協働
設 備開発
しくみづくり
人 材育成
国 内外
生 産戦略
強化
IoT
作業の協働
人が主役となる新たなものづくり
基盤技術確立
(
協調で推進)
日本の競争力(現場力)を
生かした新たなものづくり研究
工学
医学 心理学
高度センシング・
分析技術者
見える化
技術保有者
人と機械の協働システム開発
人と機械の協働システム開発
労働年齢延伸・多様
な人材活用のための
QoW向上
基礎技術確立
・QoW指標/評価
・人が働きやすい環境
人と機械・資源の最適生産モデル
経産省他、国研、大学と連携
課
題
市場ニーズ
の変化対応
国内後継者
不足
文科省他、国研、大学と連携
労働人口の
急激な減少
図3.2-1 プロジェクト提言の考え方
(【エグゼクティブサマリ】図3 再掲)
28
個人消費の
大幅な低下
各社
技術開発
地域展開
(実証実験
含む)
支援
技術研究開発支援・研究拠点化
指標構築、基盤技術開発支援
QoW
技術実証実験支援
地 域拠点
へ展 開
各
社
各
分
野
競
争
領
域
日本ならではのものづくり
優位性強化・活用
多様な人材活用を踏まえた働き方改革
安全規格の見直し
各種認証制度
ものづくり再興支援(国内回帰など)
め
ざ
す
社
会
実
装
官の支援
4. 期待効果
日本のものづくりの競争力強化とそれを支える人材確保対策は、産業競争力強化による効果
とともに、超高齢社会における日本の社会課題についても効果が期待できる。
4.1 日本ならではのものづくりの優位性強化と活用対策による期待効果
(1) 国内製造拡大による期待効果(表 1-1 参照)
国内外生産戦略見直しにより、地産地消以外の目的の海外生産(表1-1では約30兆円)の回帰
や競争力強化による国内出荷、輸出拡大が可能になった場合、2010年と同条件で推定すると、
・国内製造出荷額が+30兆円(330兆円)⇒付加価値総額が+10兆円(計100兆円)に向上
・雇用についても約100万人の雇用創出
に繋がる可能性がある。
(2) 日本ならではの製品開発により、世界から求められるキー部品、製品の輸出拡大により、さら
なる国内製造出荷額の拡大も期待できる。
(3) 世界が求める高度なものづくりができる人材を豊富に輩出することで、日本のものづくりの地
位向上が期待できる。
4.2 日本のものづくりを支える人材確保対策による期待効果
(1) 生産人口拡充による社会保障費削減の期待効果(2030 年で試算[1-2])
前期高齢者(1400万人)の2割が給与取得者になったと想定すると、平均年金受給額(*1)から、
年間3.8兆円の年金削減に繋がる可能性がある。
(*1) 1人あたり年金受給額/年:136.2万円
(厚生労働省公表値では、経済条件により、2030年の平均年金受給額は夫婦で20.7~
24.7万円/月より試算)
(2) QoW 向上による自立した個人消費層(給与収入で消費)拡充
生産年齢人口がすべて給与取得者(自立的消費者)とすると、年金受給者に比べ可処分所得
が年間約190万円多いことから、QoW向上により、前期高齢者の2割(280万人)が社会保障に依
存せず、給与取得者(自立的消費者)に移行した場合、約5兆円の改善に繋がる可能性がある。さ
らに前期高齢者がすべて給与取得者になった場合は、2010年時より自立的消費者率が高くなり、
個人消費母体として豊かになる。
表4-1 消費者構成概算
( )内は前期高齢者
(百万人)
2010年
2030年
2030年
対策時
個人消費母体
総人口
(除く若年者)
111.2
自立的消費者
生産年齢人口
15~64歳
社会保障依存者
高齢者人口
(65歳以上)
81.7
29.5(15.3)
自立的消費者
高齢者の内給
与で生活
-
自立的
消費者率
73.5%
104.5
67.7
36.8(14.0)
-
64.8%
104.5
67.7
34.0(11.2)
22.8(0.0)
2.8
14.0
67.5%
78.2%
(3) QoW経営(仮称)推進による豊かなワークライフと健康寿命延伸及び優秀な人材確保
労働生活を通じて、生きがいと健康を維持できることにより、豊かな超高齢化社会のモデルとし
て、国民の健康寿命延伸と企業評価向上により優秀な人材が集まることが期待できる。
29
5. 最終報告書に向けた検討上の課題と展開
上記課題解決に向けてのシナリオ及びその実現に向けた提言について、目指す姿や課題及び
施策提言内容の具体化を進めるとともに、関連府省とのコミュニケーションを図り、産官学の役割
分担、府省横断の推進体制、社会実装に向けた課題や役割分担を議論・共有していく。
(1) 日本ならではの強みを生かす人と機械が協働する生産システムの確立にむけて
-人の技(ひと手間)を生かした「人」が主役となる新たなものづくり技術基盤確立-
① 技術・技能の見える化と分析・指標化の具体化
・主な対象の具体化
例えば人が得意な五感を使った工作、検証や調整作業:人手間、人手間など
・作業をセンシングするための医学的、心理学的な測定技術と工学を融合した高度センシ
ング技術やパーソナル特性を加味して分析できるAIなど分析技術の要件洗い出し
・上記結果を応用した人に寄り添う産業機器の検討
・公的機関としての研究拠点の役割、狙い、研究テーマの具体化
② 人と機械が協働する生産方式の具体化
産業界中心に、国研、大学との連携体制で推進することを前提に、以下項目を具体化する。
・まずは分野を特定して、人と機械が協働する生産方式のモデルを定義
・上記基盤技術とモデルを元に、実用化に向けた技術実証実験の課題の洗い出し
・研究力を持たない中小企業を含む企業の技術伝承課題を集約し、技術伝承支援活動や、
ITや機械で補完できるシステム開発などに発展させるための拠点のあり方検討
(2) QoW基盤技術確立に向けて
以下項目について具体的に検討する
・QoWを定義するための条件の具体化(労働能力、労働条件、働きがい、働きやすさ等)
・QoWを指標とし、健康で働ける寿命の延伸を可能にする職場環境について検討
-多様な人材が安心して働けるための労働災害リスク低減技術
例えば客観疲労と主観疲労の差異を測定し、事故の予兆を事前にセンシングする他
-生涯能力向上ができ、生き生き働ける環境づくりのための、医学、心理学的なサポートを
工学的に実現する方法
(3) 社会実装に向けた施策提言の具体化
上記基盤技術・モデルをベースに各社・各分野で実際に具体化し、実用化を促進・加速するた
めのしくみ(経営者の動機付け、環境整備、安全基準、QoW認定などのしくみ)、オープンプラット
フォーム、担う人材像の具体化と育成基盤の在り方について検討し、提言を具体化する。さらに期
待効果の具体化と社会実装できたか否かの評価方針も検討する。
<府省相談事項>
内閣府:府省横断、分野横断での検討体制について
(働き方改革、Society5.0 第5期科学技術イノベーション戦略など)
経産省:新たなものづくり拠点の研究体制と拠点づくり及びその後の地域展開について
厚労省:多様な人材活用の促進策や労働安全について
文科省:上記基盤技術推進に向けた医学・工学・心理学連携体制と担う人材育成について
以上
30
【参考文献】
[1 -1] 内閣府国民経済計算 及び 経産省工業統計から作成
[1 -2] 総務省 平成26年度版情報白書 図表4-1-2-1から作成
[1 -3] 内閣府 2011年 世界の潮流 第1-3-4図
[2.1-1]
[2.1-2]
[2.1-3]
[2.1-4]
平成27年度 経産省企業活動基本調査から作成
経産省 2015年、2016年 ものづくり白書から作成
METI Journal 経済産業ジャーナル 平成27年4・5月号
日本HP社のホームページより
http://h50146.www5.hp.com/partners/reseller/partnernews/feature/20140708.html
[2.1-5] 経産省 2015年ものづくり白書
[2.1-6] 日本経済新聞のホームページより
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85241440T00C15A4000000/
[2.2-1] インテリジェンスHITO総合研究所 労働市場の未来推計
http://hito-ri.inte.co.jp/roudou2025/
[2.2-2] 労働政策研究・研修機構(JILP) 調査シリーズNo135 60代の雇用・生活調査
http://www.jil.go.jp/institute/research/2015/135.html
[2.2-3] 労働政策研究・研修機構(JILPT) 調査シリーズNo156
高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)http://www.jil.go.jp/institute/research/2016/156.html
[2.2-4] 文科省 体力・運動能力調査結果の概要及び報告書
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa04/tairyoku/kekka/k_detail/1362690.htm
[2.2-5] 中央労働災害防止協会 高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク提言推進事業に関わる調査研究
報告書
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101006-1a.pdf
[2.2-6] 厚生労働省 高年齢労働者に配慮した職場改善事項
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/1003-2b.pdf
[2.2-7] 富士通総研 先送りされた技術・技能伝承「2012年問題」
http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201204/2012-4-6.html
[2.3-1] 国際経済労働研究所 インフォメーションセンター 働きがい総合モデル
http://www.iewri.or.jp/cms/archives/2008/10/post-14.html
[2.3-2] 国際経済労働研究所 業績向上の鍵を握るワーク・モティベーション
JMA Management Review 2009年12月号
[2.3-3] 内閣府高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果
平成27年度(第8回)http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h27/zentai/index.html
平成22年度(第7回)http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h22/kiso/zentai/
[2.3-4] 高齢・生涯・求職者雇用支援機構 「生涯現役社会の実現」に関する関連資料
http://www.jeed.or.jp/elderly/data/company70/index.html
http://www.jeed.or.jp/elderly/data/company70/03.html
[2.3-5] 第75回労働政策フォーラム(2014年9月25日)
高齢者の多様な働き方と社会参加の実現に向けて~企業・行政・地域の取組み~
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20140925/resume/index.html
[2.3-6] 内閣府 「日本経済2015-2016」 日本経済の潜在力発揮に向けて(平成27年12月)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2015/1228nk/index.html
[2.3-7] 消費者庁【概要】平成25年消費者白書 第1部 第2章 第一節
「高齢者を取り巻く社会経済状況
http://www.caa.go.jp/adjustments/hakusyo/2013/summary_1_2_1.html
[2.3-8] 日本政策金融公庫 シニア世代の消費動向
http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_no60_1303_1.pdf
[2.3-9] リクルート組織行動研究所 2030年の「働く」を考える
http://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/
http://www.recruit-ms.co.jp/research/2030/report/individual1.html
[3 -1] 厚生労働省 高齢者医療状況報告
[3 -2] Sone, et. al, : Sense of Life Worth Living(Ikigai) and Mortality in Japan:
Ohsaki Study Fig.1
Psychosomatic Medichine 70:709-715(2008)
[3 -3] 厚生労働省 厚生労働白書 H24年 労働経済の分析
31
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