檜皮葺(ひわだぶき)

檜皮葺きについて
日本建築の屋根は、葦(よし)や藁(わら)、萱(かや)、板や瓦など様々な素材で葺かれています。曼陀羅寺
正堂の屋根は檜の皮を材料とした檜皮葺(ひわだふき)で葺かれています。檜皮葺きの起源は古く、7世紀に
さかのぼるといわれています。平安時代になるとさかんに用いられ、貴族の邸宅や社寺の屋根を優美に飾
りました。やがて日本建築には欠かせない、代表的な屋根を葺く技法となり、現在まで伝えられてきまし
た。
檜皮葺きの屋根の寿命は環境や、立地条件によって異なりますがおおよそ25~30 年といわれています。
前回の葺替が昭和59年、その前が昭和35年ですのでおおよそ通説通りに修理が行われてきているよう
です。これからも曼陀羅寺正堂の美しい屋根を維持していくには約 30 年ごとの葺替とその間の定期的な
メンテナンスが必要不可欠となります。
檜皮葺きの技法について
檜皮葺きの伝統的な技法は、現在でも全てが職人の手作業によって気の遠くなるような時間をかけ、慎
重に行われています。その仕事はおもに原皮師(もとかわし)と葺師(ふきし)によってささえられています。
原皮師の仕事
原皮師とは、檜から檜皮をつくりだす職人たちのことをさします。原皮師は、樹齢100 年以上の檜から、
8年から 10 年ごとにその表皮を特別なヘラを使ってはぎ取ります。上部の皮は「ぶり縄(縄の両端に長
さ 40cm、太さ 3cm ほどの振り棒を結びつけたもの)」を使用して木に登り、皮を剥ぎあげます。皮を剥
ぐ際には、檜の成長をさまたげないようはぎ取るために細心の注意が払われるとともに、熟練した技術が
必要とされます。
原皮師がはぎ取った檜皮の原皮は、通常長さ 75 ㎝、直径 40 ㎝、重さ 30 ㎏ほどの筒形にまとめられ
て出荷されます。これを丸皮(まるかわ)といいますが、大規模な建物を葺く場合、1坪(3.3 ㎡)におよそ
5丸分(150 ㎏)が必要とされています。
曼陀羅寺正堂では通常の長さと異なるため、丸皮に仕立てる段階から長さを変えて出荷する必要があり
ます。
①根元にヘラを入れる
②皮を剥ぐ
③「ぶり縄」を足掛かりに登る
④再び皮を剥ぎあげる
⑤剥いた皮を束ねて所定の長さに
裁断する
⑥「丸皮」完成
葺師の仕事
葺師はこの原皮を屋根の大きさ、葺いていく場所に合わせて、適当に切りそろえ、特別にあつらえた檜
皮包丁で、丹念に厚さをそろえていきます。
屋根の大部分は「平地(ひらじ)」用の檜皮、そして軒先の部分には「軒付(のきつけ)」用の檜皮が使われ、
その他用途に応じてきまった厚さや大きさに加工されます。
軒先の部分は屋根に重厚な印象を持たせるために、檜皮を非常に分厚く使います。そのため、直接檜皮
を屋根にのせていくのではなく、あらかじめ適当な量を積み上げ、たばねておきます。
それを軒先に葺き、前面を手斧(ちょうな)で切り落とし整えていきます。
軒先が整えられたのちに全体の平地に檜皮が葺かれていきます。檜皮は少しずつずらしながら重ねられ、
竹の釘を用いて止めていきます。また、檜皮を止める竹の釘は鍋で焙煎されて油を抜き、檜皮の寿命を伸
ばす工夫がなされています。葺師は口の中にこれを含み、左手で檜皮を押さえ、右手の金槌で檜皮に打ち
込みます。
屋根工事施工の様子
既存檜皮葺きの解体
平葺施工状況
平葺施工状況
軒付釿切り施工
使用される竹釘
右 平葺用(長三六㎜)
左 軒付用(長四五㎜)
檜皮の拵え
正堂の屋根
平葺用檜皮は、通常長さ 75 ㎝、口幅(手前の幅)15 ㎝、尻幅(奥の幅)10㎝、厚 2~3 ㎜に整形し
ます。整形の際は幅を揃えるため、別々の皮をつなぎ合わせますが、曼陀羅寺正堂では皮をつなぎ合わせ
ず、1 枚の皮から長さ45 ㎝、口幅、尻幅とも10㎝、厚3~4㎜の檜皮を使用します。
通常の檜皮
正堂の檜皮
口幅 15 ㎝
口幅 10㎝
長さ75 ㎝
2 枚の皮を
つなぎ合わ
せる
尻幅 10㎝
長さ45 ㎝
1枚の皮か
ら整形する
尻幅 10㎝