Fate/Grand Mahabharata 幕間 ID:99284

Fate/Grand
Mahabharata 幕間
月瑠
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
Fate/Grand Mahabharataの番外編です。
本編の方に投稿していたんですが、未だに小説投稿に手間取ってしまうので分かりや
すく分けることにしました。
目 次 IF まさかのフラグ │││││
イベント ほぼ週間サンタオルタさん 1
た英雄 ││││││││
32
苦いそれはなんの味 │││││
ネタ ジューンブライド ││││
EXTRA 守護の英霊ルート │
びにはご用心 │││││││││
91
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴
83
67 59
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節
IF ×××
17
│
IF まさかのフラグ
クル族主催の競技大会。
カルナへ向けられた矛先を自分へと向けるために、パーンダヴァ兄弟へと侮蔑の言葉
を投げかけ、それに乗せられた主にビーマと嫌味と罵倒の応酬を繰り広げ、残りの兄弟
と野次馬全員がドン引きしていた。
止 め る べ き な の か お ろ お ろ し て い た カ ル ナ は ふ と、ア ル ジ ュ ナ が 黙 っ た ま ま
じーーーっとスラクシャを見詰めていることに気が付いた。
⋮⋮心なしか顔が赤いのは気のせいか
を掛けようとした。
何故だか嫌な予感がひしひしとする。カルナがいい加減スラクシャに止めるよう声
?
そんな奴に何を⋮⋮﹂
が、その前にアルジュナはツカツカとスラクシャへと近づき。かなりの至近距離でま
たも彼を見つめる。
﹁お、おい。アルジュナ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あの、なにか﹂
?
1
無言のまま、アルジュナはスラクシャの両手を取り、しっかりと握りしめた。
﹁妻になって下さい﹂
競技場がシン⋮⋮││と水を打ったように静まり返った。
誰もが、それこそユディシュティラやビーマですら言葉を発せない中、その視線はア
﹂
ルジュナは勿論、スラクシャにもその視線は集中する。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はい
!!
いかけの声に、アルジュナは誰もが見惚れるような笑顔を浮かべる。
あと今のはどう聞いても了承じゃなく疑問形だ
﹂
突然の求婚︵しかも罵り合ってたやつの弟︶に呆然としながら無意識に零れ落ちた問
?
﹁なんでしょう、兄上﹂
ラもアルジュナの肩を掴んで自分の方へと向き直らせる。
正気を取り戻したカルナが妹をアルジュナから引きはがすと同時に、ユディシュティ
﹁待て待て待て待て
!!
﹁ありがとうございます。では、行きましょう﹂
IF まさかのフラグ
2
﹁なんでしょう
なんでしょうじゃないだろ
﹂
!?
﹂
﹂
!?
﹂
!?
んってなんでしたっけ、植物
﹁落ち着け﹂
﹂
おつけち
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あの、いま、いきなりきゅうこうんされたような⋮⋮きゅうこん
きゅうこ
カルナに頬をペシペシと軽く叩かれてようやっと魂が戻ってきたスラクシャ。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮はっ
﹁起きろ、スラクシャ︵ペシペシ︶﹂
﹁そうじゃない
﹁妻にしたいと思ったからです﹂
﹁何を突然求婚なんてしてるんだ
カオス。その一言に尽きる光景だった。
抜けかかってる妹を動揺しているのかガクガクと揺さぶるカルナ。
不満そうな顔をする弟にほぼ悲鳴同然の声をあげるパーンダヴァ長兄と、口から魂が
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁スラクシャ、スラクシャ。起きろ。大丈夫か﹂
!?
!!
﹁お、おちつけ、おちけ、ん
?
??
?
?
3
﹁⋮⋮ダメだな﹂
魂は戻ってきたがかなり混乱しているらしい妹にため息を吐く。勿論呆れている訳
ではない。心配しているだけだ。
﹁スラクシャ﹂
﹂
﹂
?
絶句するスラクシャをカルナが庇うように体で隠す。
﹁﹂
﹁ふふふ⋮⋮おびえる姿も可愛らしい﹂
﹁な、ななななななんでしょう
その様子はまるで小動物のようで、はからずも周囲の野次馬をほっこりさせた。
背後から掛けられた声に思わず悲鳴を上げてカルナの後ろへと引っ込むスラクシャ。
﹁ひいっ
!
﹂
?
﹁待て。落ち着けアルジュナ﹂
えばいいのか分からずに言葉に詰まる。
人の嘘を見抜くことに長けたカルナは、その言葉が本心であることがわかり、何とい
﹁そのままです。彼女を妻にしたい﹂
﹁なんのつもりだ
﹁どいてください。私は彼女に用があります﹂
IF まさかのフラグ
4
見かねたビーマが声をかける。
﹂
!!!
﹂
!?
﹂﹂
!?
まさかの発言に周りが一気にざわつく。パーンダヴァの兄弟はスラクシャを思いっ
﹁﹁アルジュナァアアアア
﹁どうとでもなります。なんなら、身分を捨ててもいい﹂
﹁いいいいいや、あのほら、あなた王子でしょう
﹁もう一度、いえ、了承してくれるまで何度だって言います。私の妻になって下さい﹂
度彼││いや彼女の手を取る。
そのスラクシャが女だと聞いて唖然とする兄弟たちをしり目にアルジュナはもう一
うっかり口を滑らせたカルナについ後ろから拳を決めるスラクシャ。
﹁バカッッ
﹁⋮⋮しまった﹂
﹁やはり女性ですか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮何故わかった﹂
﹁女性ですよ。兄上こそ何を言っているのですか﹂
﹁御者の子供に何を言う。大体、そいつは男だろう﹂
5
﹂
きり睨みつけ、カルナがその視線から妹を庇うように睨み返し、騒ぎの中心であるスラ
﹂
クシャは一気に顔を青ざめさせた。 ﹁冗談ですよね
﹁本気ですよ。この場で我が父に誓いますか
﹂
?
!?
﹁││お友達からでお願いします
﹁すまん⋮⋮﹂
!!
スラクシャはアルジュナが連れて行こうとしたがカルナと他の兄弟が全力で止めた。
あの後、ドゥリーヨダナに食事に招かれた。
﹁なんというか、災難だったな﹂
﹂
それに思い当り、スラクシャは全身全霊、ヤケクソ気味に叫んだ。
なってしまう。
こんな公衆面前の前で父││神であるインドラに誓われたらそれこそ逃げ場がなく
﹁やめて
!!
﹁胃が痛い⋮⋮﹂
IF まさかのフラグ
6
﹁ふむ。確かに良く見れば女だな。兄と同じ顔をしているから、言われないと分からん
なあ﹂
﹂
愛に理屈は通用しないという﹂
﹁なんでアルジュナにはバレたんでしょうか⋮⋮﹂
﹁惚れたからじゃないのか
﹁だったら同じ顔のカルナでもいいでしょう
﹁やめろ﹂
﹁︵仲が良いな︶﹂
﹁ですよね﹂
﹁オレに聞くな﹂
﹁どうしましょう兄上﹂
﹁スラクシャ。﹁お友達から﹂と言っていたが、どうする気だ
﹂
ドゥリーヨダナは思わず想像してしまい、顔を引き攣らせながら苦笑した。
聞き捨てならないらしく、珍しくカルナがスラクシャの頭を軽く叩いた。
頭をかかえて嘆くスラクシャには同情の念しか浮かばない。が、流石に最後の言葉は
!!
?
﹁まあ、あっちも王子だ。流石にそうホイホイと出歩きはしないだろう。来た時にだけ
ダナは微笑ましくなった。
仲睦まじい兄妹、しかも片方が妹とわかると一気に場が華やいだ気がしてドゥリーヨ
?
7
いえ、そうですね﹂
適当にあしらえばいい﹂
﹁⋮⋮そうでしょうか
ナに声にならない悲鳴を上げた。
昼食を作り終え外に出て洗濯をしていたスラクシャは、護衛もなしに現れたアルジュ
﹁﹂
﹁おはようございます。いい朝ですね﹂
たが、家事が溜まっているので断念した。
今日、カルナはドゥリーヨダナの元に出向いていた。スラクシャもついていきたかっ
?
﹂
!?
遊びに来ました﹂
?
﹁邪魔なのでいりません﹂
﹁護衛は
﹁お友達から、でしょう
﹁⋮⋮なんでいるんですか﹂
IF まさかのフラグ
8
﹂
スラクシャは思わず顔を覆う。普通、王子様が護衛もなしに、曰く御者の子供の家に
来るか
﹁⋮⋮服はそれしかないのですか
!?
はい、大体同じものしかないですね﹂
?
﹂
?
いるのか、割と布の面積は少なく、その代わりに布を巻くような形になっていた。
似合わないだろうとスラクシャは思ったが、案外しっくりきた。鎧のことも考慮されて
アルジュナに渡された服は白と薄い青が基調のシンプルな服だった。髪が赤いので
有無を言わせない笑顔に気圧され、スラクシャは渋々服を受け取った。
﹁着てください﹂
﹁いや﹂
﹁着てください﹂
﹁⋮⋮⋮⋮え
の衣服だった。
そう言ってアルジュナがどこからか取り出したのは、明らかに高級品と分かる女性用
﹁そうですか。では、こちらを﹂
﹁え
?
9
何故かサイズがピッタリだったが、スラクシャは聞かないことにした。
﹁思った通り良く似合いますね﹂
蕩けるような笑みを浮かべるアルジュナは、百人の女性が見たら百人がオチるだろう
﹁ははははは⋮⋮﹂
確信できるほどの美青年である。
だが、スラクシャとしては乾いた笑みしか浮かばない。前世は男の上に、数日前の騒
ぎがすっかりトラウマになっているようだった。
え、どこに
﹂
﹁では、行きましょうか﹂
﹁は
?
﹁そうですね⋮⋮街にでも行きましょう﹂
?
あちこち店を覗きながら上から目線の発言をするアルジュナに、スラクシャは冷や汗
﹁︵今絶対にお店の人を敵に回したぞ︶﹂
﹁ほう。みすぼらしいですが、そこそこ品は揃っていますね﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮え﹂
IF まさかのフラグ
10
をかきっぱなしである。
店の人達はその言葉にムッとした顔になるが、アルジュナが明らかに高貴さを感じさ
せる出で立ちなので何も言わない。賢明な判断だ。
スラクシャにとっては幸運なことに、街の人々はアルジュナの隣にいるのがあのスラ
クシャとは気づいていない。
むしろ、しっかりと手をつないでいることから恋人か何かだと思われているくらいだ
が、これは彼女にとって知らないでよかった情報である。
因みに手はアルジュナが無理やりつないだ。彼女自体は離してほしいと頼んだが笑
﹂
顔のまま無言で手を思いっきり握られたので諦めた。
﹁︵折れるかと思ったな⋮⋮︶﹂
﹁そういえば、貴女は髪を結わないのですか
﹁
何か
?
﹂
﹁そうですか、よかった﹂
﹁ええ。特に必要ありませんので﹂
たなと思ってから切るくらいだ。
るものの、オシャレをしようとは思わないので伸びっぱなしである。精々、邪魔になっ
スラクシャの髪は調度肩甲骨の辺りまで伸びていた。本人は身だしなみを整えはす
?
11
?
﹁いえ、なんでもありません﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
時間が経ち、陽も傾き始めた。
﹁名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりませんね⋮⋮﹂
﹁そ、そうですか︵助かった⋮⋮︶﹂
スラクシャは強張った体からホッと力を抜いた。
玄関まで送ってもらい︵一応断った︶、そのままさようならも失礼だと見送り位はする
ことにした。
﹁ありがとうございます。また来ますね﹂
﹁え、あ、えーっと、はい⋮⋮﹂
﹂
!?
﹁あの、﹂
ことなく、アルジュナは髪をいじっていた。
突然背後に回り髪に触れたアルジュナにスラクシャは硬直する。そんな彼女に構う
﹁
﹁それと⋮⋮失礼﹂
IF まさかのフラグ
12
﹁できました﹂
アルジュナが離れ、サッと触れられていた部分に手を伸ばすと何やら固いものが手に
当たる。
これ以上どう着飾るきなのかと、スラクシャは考えただけでげんなりした。
﹁勘弁してください⋮⋮﹂
﹁ふむ⋮⋮。どうせなら紅も持ってくるべきでしたね。次はお持ちします﹂
ある。
やられている本人といえば、その行動の意味が分からずに疑問符を浮かべるばかりで
アルジュナはふと手を伸ばし、顎に手をかけ唇に触れる。
﹁気にしないでください。それより⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ありがとうございます﹂
る。
言われてみると確かに、適当に伸ばしていた髪の毛が一纏めにされているのがわか
﹁髪留めです。持っていらっしゃらないようなので﹂
﹁これは⋮⋮﹂
13
﹁⋮⋮これで友人になれましたか
﹁⋮⋮⋮⋮余り奴と喋るなよ﹂
﹂
﹂
なったうえに、何処に行くにしても連れまわされることになったのは別の話である。
因みに戻ってきたカルナに着飾った姿を見られ、問い詰められて全て白状することに
﹁⋮⋮ありがとうございます。それでは、また﹂
一瞬、その黒い瞳が大きく揺れたが、それを誤魔化す様に微笑んだ。
アルジュナは大きく目を見開く。
友人⋮⋮親友にはなれるでしょう﹂
﹁何を悩んでいるかはわかりませんが、それを話してもいいと思えるようになったなら
﹁隠し事はしないで欲しいですね﹂
﹁︵マジでそのために来たのか︶そうですね⋮⋮友人になりたいのなら﹂
?
﹁善処します⋮⋮するから離して、背骨折れるぅうう⋮⋮
!
IF まさかのフラグ
14
﹂
パーンダヴァに戻ったアルジュナは兄弟たちの追及を躱し、自室に閉じこもってカギ
をかける。
そして││
誰もいない部屋で1人、笑った。
﹁クッフッフ⋮⋮⋮⋮アッハッハッハッハ
﹁ああ⋮⋮やはり、欲しいな﹂
妻に迎えたいと思ったのは本当だ。
それでも自分には関係ないと思った。
たのだ。
スラクシャが女だとわかったのは偶然だ。たまたま、カルナとの会話を聞いてしまっ
た。
の時の彼女はカルナの後について回り、それ以外には関わろうともしない、無表情だっ
1目惚れではない。師の元で修業をしている時に何度も見た事があるから。ただ、そ
!!
15
だが、あの競技大会でカルナを庇い、自ら矢面に立った姿に何故か心が震えた。
アレが欲しいと思った。
そのために一番手っ取り早いのが、妻に迎えるという形だったのだ。
の口に当て、うっそりと笑った。
アルジュナは、彼女の手の、髪の、唇の感触を思い出し、それらに触った右手を自分
それらすべてを送ると⋮⋮貴女のすべてが欲しい。
衣服はその服を着たあなたを脱がせてみたい
紅は唇を吸ってみたい
髪飾りは綺麗な髪を乱してみたい
﹁贈ったものの意味を、アレは知らないだろうな⋮⋮﹂
IF まさかのフラグ
16
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
クリスマス。
本来はイエス・キリストの生誕祭だが、いまではそれに便乗したただのお祭りだ。こ
のカルデアで真剣に祈るのはおそらくジャンヌと天草四朗くらいだろうか。
その幾日か前。
い出したのは今日だった。
?
知識で現代のソレを補っている状態だ。
聖杯の知識があれば話は別だったんだろう。しかし聖杯知識のない私は遠い前世の
代インドにクリスマスなんてイベントあるわけも無し。
なんで忘れてたかって
私がクリスマスを祝うの何年ぶりだと思ってるんだ。古
せめて前々から準備しておけば何とかなったのだろうが、生憎クリスマスのことを思
だが勘弁してほしい。何も思いつかない。
食堂でうんうん悩んでいる私ははたから見たら異常だと思う。
﹁プレゼント⋮⋮プレゼント⋮⋮何を渡せば⋮⋮﹂
17
﹂
しかも座で数千年も経っている。忘れたって仕方ないだろう。
そこにいるのはスラクシャか
?
﹁むう⋮⋮﹂
﹁ん
あ、エミヤ﹂
?
﹁ああ⋮⋮実は、クリスマスのプレゼントが思いつかなくて⋮⋮﹂
﹁何を悩んでいるのかね﹂
顔をあげると、そこには赤い外套に褐色肌の英霊エミヤ。
﹁
?
め息を吐く。
﹂
﹁⋮⋮何も物に限定せずとも、例えば手料理などを振る舞えば喜ぶのでは
﹁手料理⋮⋮因みに、クリスマス当日の夕飯の予定は
?
チキンは勿論、クリームシチューやケーキを﹂
﹁緑茶やダビデ王とオケアノスの海に繰り出して魚を確保するつもりだ。無論、他にも
?
﹂
色んな意味で難しいあの2人の顔を思い浮かべたのか苦笑いを浮かべるエミヤに、た
そう、カルナとアルジュナ。
﹁⋮⋮あの2人か﹂
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
18
﹂
﹁却下で﹂
﹁何故だ
﹁そんなバカ高いハードル飛び越えられませんよ
﹂
プロ並みの実力を持つご自分と、
あくまで一般的な腕しか持たない私を一緒にしないでください
﹁
最後に何か言いましたか
﹂
?
﹁寒そう﹂
あ。
そこからなにか思いつく事⋮⋮。
兄と弟、2人の様子を脳裏に思い浮かべる。
﹁思いつく事⋮⋮﹂
﹁そうだな⋮⋮普段の様子から、なにか思いつく事などはないのかね﹂
しかし本気で思いつかないのだ。正直、ネコの手も借りたいくらいだ。
腕を組み、考え込むエミヤに申し訳ない気持ちになる。
﹁いや。⋮⋮しかし、言われてみれば御馳走が2回続きというのは少々無理があるか﹂
?
狂喜乱舞するのでは︵特に弟の方が︶﹂
﹁買い被ってくれるのは嬉しいのだが⋮⋮君が作った方が彼らは喜ぶ⋮⋮いや、むしろ
!!
!
!?
19
﹁は
﹂
腕出してますし﹂
﹂
﹁︵モフモフ⋮⋮︶な、なるほど。それでは少々ベタだが⋮⋮﹂
ごにょごにょごにょ
﹁なるほど⋮⋮でも重すぎやしませんか
お礼はいつか必ず
!
らな﹂
﹁はい
﹂
!
クリスマス当日。
出来た
!
!!
﹁⋮⋮っ
﹂
﹁いや、例には及ばんさ。だが急いだ方が良いぞ。クリスマスまであまり時間がないか
!
?
﹁いや。むしろそうすべきだ。その方が彼らも喜ぶだろう﹂
﹂
﹁いや、兄はホラ、最終再臨にもなってあのモフモフもなくなりましたし。アルジュナは
?
﹁そういうものですか⋮⋮ありがとうございます
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
20
顔が輝くのが自分でもわかった。
間に合って本当に良かった⋮⋮⋮⋮
こもって作ったかいがあった。
生前の家事スキルがこんなところで役に立
つとはさすがに思わなかった。エミヤにアドバイスしてもらってからずーっと部屋に
!
﹂
﹁あとは渡すだけですが⋮⋮あの2人はどこに﹂
﹁エクスカリバー、モルガーン
﹂
ドォオオン⋮⋮
﹁
!!
で臨戦態勢を取る。
﹂
?
土煙の中、出てきたのは⋮⋮
そのカチューシャ
﹁⋮⋮え。せ、セイバーオルタ
何ですかその格好は。それに、マスター 何ですか
突如聞こえてきた宝具名と、崩れる、いや、ぶっ飛んだ壁に唖然としつつも体は反射
!!??
﹁今の私はセイバーではない。ライダーだ。そして、子供たちに夢とプレゼントを届け
故かミニスカサンタ衣装のセイバーオルタに向き直る。
ロマンが泡吹きそうだなあ、と遠い目をするマスターには何の非もないと判断し、何
﹁アハハハハ⋮⋮。ごめん、スラクシャ﹂
!
!?
21
るサンタオルタだ
﹁あっ、はい﹂
﹂
﹂
!
ちょ、力強っ⋮⋮﹂
!
とができたのは僥倖だった。
﹁うん⋮⋮﹂
?
﹁トナカイがサンタと共にいるのは当然のことだろう﹂
しかも部屋まで壊されたんですけど。
﹁はあ⋮⋮。それで、何で私は連れてこられたんでしょうか
﹁プレゼントだ﹂
﹂
腕を掴まれ、簡単にソリの上に放り投げられる。咄嗟に先ほど完成したそれを掴むこ
﹁答えになってないです
﹁む、そうだったな。来てもらうぞ
﹁⋮⋮それで、私の部屋を破壊した理由は﹂
はサンタクロースらしい。そういえば後ろにソリがある。
文句を言おうとしたが勢いに押されて何も言えなくなった。良くわからないは彼女
!
﹁⋮⋮マスターはトナカイとして連れまわされてると﹂
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
22
﹁は
﹂
?
﹁は
﹂
どういうことなの
!?
﹂
?
何してんのあの劇作家
﹄⋮⋮だそうだ﹂
!
た⋮⋮。
探してたしある意味丁度いいんだろうけど、なんでだろう、胃がすごく痛くなってき
﹁⋮⋮⋮⋮がんばって﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ジャマだ、なんとかしろ
﹁お願いはこうだ。﹃どこぞの昼ドラ兄弟が妹︵姉︶の姿が見えないとうるさい。執筆の
!
﹁それからウィリアム・シェイクスピア君﹂
何してんのあの童話作家。
盟会員、アンデルセン君からだ﹂
﹁その通りだ。今回の﹁お願いサンタさん﹂レターは⋮⋮雪原からだな。P.N 作家同
!?
﹁⋮⋮スラクシャがプレゼントって事
﹁プレゼントを届けるのがサンタの仕事だ﹂
23
﹁ふっ
﹂
﹂
﹂
は限界が来そうだよ
﹂
ス
ト
フォ
リ
オ
そろそろ私の胃
まったく、危うく座に強制帰還させられるところだった
ファー
!
??
ねえ、何やってんのあの2人。何でクリスマスまで喧嘩してるの
顔を覆ったまま何も言えなかった。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんかすでに凄いことになってるんだけど﹂
﹁さあ、到着だ
﹁せえっ
!
﹂
!
そして被害が
私の勘があの2人に対して、この劇作家︵愉快犯︶の宝具を使わせた
らダメだと言っている
!!
やったら最後、今以上に拗れると言っている︵特にアルジュナが︶
!!
!
セェーーフ
思ったのですが⋮⋮いやあ、実に残念です
﹁あと5分遅かったら﹃開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を﹄を発動させようと
!
?
!
!
﹁ふむ、ようやくご登場か
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
24
すべて私に来るとも
!!
﹂
﹂
インスピレーションを得ようとわざわざここまで来たというのにあの始末
﹁⋮⋮ようは、あの2人を止めたらよいのですね﹂
﹁そうだ
!
初めは関係ないだろうと放っておいたがもう我慢ならん
!
何だこの快適空間。
?
!
じゃあ、何であの2人はあんなことに﹂
?
兄が私の居場所を把握してないことがわかると﹁なんで知らないんだ ﹂と言って戦
襲してきた。⋮⋮⋮⋮私を探しに。
カルナに頼んでかまくらを作ってもらい、中で執筆作業をしているとアルジュナが強
曰く。
﹁⋮⋮え
﹁なに人の兄パシってんですかぶっ飛ばしますよ﹂
した﹂
﹁酷いですなマスター 無論、あちらで争っている施しの英雄殿にやっていただきま
﹁これ、2人が作ったの
﹂
つ︵線はない︶、さらにみかんまである。
マスターの目線の先にはそこそこの広さを持ったかまくら。中にはストーブとこた
﹁インスピレーションを得るためにわざわざかまくらを作ったの
?
!!
25
!!
闘になったらしい。
結論:私のせい。
﹁なんか⋮⋮なんかすいません⋮⋮﹂
﹁ははは⋮⋮。まあ、とにかくあの2人を止めよう。﹂
﹁そうですね⋮⋮。あの2人は私がとめますので、そこでターキー食べているサンタク
ロースはもう行っても大丈夫です﹂
飽きてターキー食べるなよ、チキンの匂いが届いてお腹すいてきたじゃん。
﹂
!!
ナカイ
ちょ、がんばってね、スラクシャー
!? !
せん
﹂
ドが誇る最強の英霊3体のぶつかり合いに巻き込まれて生きていられる自信がありま
﹁あのまま放っておけば、この辺り一帯が更地となりかねないですなあ。なにより、イン
﹁⋮⋮はぁ。オレはカルデアに戻るとするが、あの2人はなんとかしておけ﹂
マスター、体が半分そりから出てたけど大丈夫かなアレ。
﹁ええ
﹂
﹁む、そうか。プレゼントは届けたし、ここで私の役目は無いようだな。では行くぞ、ト
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
26
!
2が雪原から去り、後に残ったのは私と、いまだに喧嘩している兄弟のみだ。
﹁気を付けてくださいね。今晩はエミヤが御馳走を作るそうですから﹂
作家
﹁﹁
﹂﹂
﹁喧嘩⋮⋮両成敗ィイイイ
﹂
愛用の戦車を呼び出し、丁度あの2人にぶつからない真ん中あたりに狙いを定める。
﹁さて⋮⋮﹃英雄の手綱﹄﹂
ラー ド ヘー ヤ
らいで大げさな。別に仲良く喧嘩とか羨ましいって思ってないからな。
アンデルセンが言うには、ケンカの原因は私らしいが⋮⋮たった数日姿が見えないく
×
辺りを更地にするつもりですか
﹂
戦車で突っ込んでくるなど、何を考えている。危険だろう﹂
﹁あね、っ、スラクシャ
つい数秒前の自分たちを振り返ってから言えと。
!
!
﹁その台詞、そのままそっくりバットで打ち返しますよ﹂
!
﹁
も魔力放出はしてないしブラフマーストラもしてないし、たぶん大丈夫だろう。
2人を引かないように注意しながら全力で間に割り込む。まあ、万が一撥ねたとして
!!??
!!
27
﹂
﹁カルナの施しは、まあ、いつものことですから後で言わせてもらうとして。⋮⋮アル
ジュナは私を探していたようですが、何か用事でも
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮で﹂
﹁
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮えー、と。心配、してくれた、と
?
セプテムのSA☆MU☆RA☆I騒動は凄かった。そして酷かった。祭りで調子に
らなくても暴れないでくださいね。ドクターの胃が死にますから﹂
﹁ふぅ⋮⋮。折角のクリスマスですし説教はやめにしましょう。今度からは私が見つか
する。
チラチラこっちを見てくる子猫を撫で回したいような衝動に駆られたが、グッと我慢
がっているのか目元と耳を赤くさせて⋮⋮なんだこの可愛い生きもの︵2回目︶。
え、ちょっと可愛すぎないですかねこの子。目を逸らして、拗ねてるのか恥ずかし
何だこの可愛い生きもの︵弟︶。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮数日前から、姿が、見当たらなかったので⋮⋮⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
28
乗って歴史に残るとか笑えない。
﹂
﹁﹁⋮⋮⋮⋮﹂﹂
﹁返事は
何不満そうな顔してるんだ
!?
⋮⋮あ﹂
?
これ以外に思いつかなかったんだ
&黒、青&白︶だ。
ベタとかいうな
﹁クリスマス⋮⋮ということは⋮⋮﹂
!
﹁近い近い
近いですアルジュナ離れて
怖いんだけど
﹂
!
﹁⋮⋮作ったのか﹂
﹁誰にって、2人にですよ。こっちが兄上です﹂
!?
!
﹁スラクシャ。それを誰にあげる気ですか今すぐに教えなさい﹂
!!
カルナの視線の先には2人にプレゼントしようとした⋮⋮手作りのカーディガン︵赤
﹁え
﹁スラクシャ、それはなんだ﹂
なんなんだ。
思わず声を上げれば渋々と言った様子で2人は返事をした。
!
29
﹁はい﹂
﹁⋮⋮無駄なことに時間を使うな﹂
﹁はいはい。兄上の為に時間を使うことは全く無駄じゃないので、いらないなら捨て﹂
﹁貰う﹂
﹂
実は仲良しだろお前ら
捨ててもらって∼の﹁捨て﹂の時点で奪われた。いや最後まで言わせて。
⋮⋮いいのですか
﹁これはアルジュナに﹂
﹁
﹁はい。⋮⋮あ、やっぱり私からのなんていら﹂
貰ってくれるのは嬉しいけど最後まで言わせろよ
!?
?
喜んでるのかは分からないけど、ちゃんと受け取ってもらえたので大変満足である。
﹁⋮⋮ありがとうございます﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
ぞ﹂
﹁まあ、レイシフトの時に着けていくわけにもいかないでしょうし、寝る時とかにどう
!
!
﹁貰います﹂
イベント ほぼ週間サンタオルタさん
30
31
12秒後、自分たちは何も用意してないと落ち込む2人を宥めるのに時間がかかっ
た。
IF ドシュッ
た英雄
覚悟を決め、アルジュナ達のいる方へ目を向けたその時││
矢がもう、すぐそこまで迫っている。
×××
でここに嘘だうそだうそうそうそうそうそうそだ
こんなところにいるはずがない、いるわけがないだってだって確かに眠らせたのになん
違う、ちがうちがう違う違うちがう違う違うちがう違うちがうちがういるわけない、
あああああああああああああああ。
そこにいたのは、いた、のは、い、た、のは、あ、あぁ、ああああああああああああ
フッ、と割り込んできた白い影。矢が突き刺さる音。
﹁⋮⋮⋮⋮え﹂
IF ×××た英雄
32
﹁カ、⋮⋮ル、ナッ⋮⋮
﹁っ、ぁ││﹂
﹂
ヒューと細い息が漏れるばかり。
小刻みに震える手を伸ばし、私、の頬に触れ、微笑む。
││力尽きた手が、そのまま地面へと落ちた。
﹁││っ、ぁあ゛アああ゛あアあアァア゛アあ゛あああぁ゛ああア゛アああ
アルジュナは茫然としながらその光景を見ていた。
﹂
!!!!
何か言いたげに、口を動かす。慌てて傍に膝をついた、でも、カルナの口からはヒュー
ける。
俺に、私に、突き刺さるはずだった矢を首に受け、崩れ落ちた兄が、こちらに目を向
!
33
││どういうことだ、倒れているのがカルナだというなら、今までそこにいたのは
クリシュナの言葉に、冷えた頭のどこか冷静な部分が納得する。確かに、この2人は
﹁スラクシャ、か。入れ替わってたなんて、私ですら気が付かなかった﹂
よく似ている。色さえ誤魔化せば、入れ替わることはわけないだろう。
そして、悲痛、という表現では生温い叫びをあげ、カルナを抱きしめるスラクシャの
姿に、胸がひどく傷んだ。
何を言おうとと思ったのかは分からない。ただ、衝動的に声を掛けようとした。
次の瞬間だった。
﹂
!!
その目に普段の光はなく、ただただ絶望に満ちていた。
そしてその姿をアルジュナが認めた途端、彼は地を蹴り、無言で追撃してくる。
涙を流し、殺気を放ちながら短剣を突き立てているスラクシャの姿だった。
慌てて体制を整え、前に向き直るとそこには││
凄まじい殺気にその場を飛び退く。
﹁││││ッ
IF ×××た英雄
34
﹁くっ⋮⋮
うだ。
﹂
﹂
﹁⋮⋮ろす、殺すッッ
﹁⋮⋮
﹂
普段の彼にここまでの力はない。カルナが死んだという事実が、彼女の箍を外したよ
咄嗟にガーンディーヴァで受け止める。余りの衝撃に手が痺れる。 !
﹂
!
﹂
!!!!
﹁ぁ⋮⋮
﹂
﹁うわあ。完全に理性がトんでるね⋮⋮ま、いいか﹂
﹁離せ、離せ、離せぇええええええええ
いつの間に背後を取ったのか、クリシュナはスラクシャに手を伸ばし動きを封じた。
﹁
﹁おっと、それ以上はいただけないな﹂
││⋮⋮いっそ、このまま、
る事すらできない。
アルジュナは反撃しようとした。が、その度に先の悲鳴が脳裏に木霊し、矢をつがえ
!
!!
35
!
無防備な首筋に手刀を落とされ、スラクシャは気絶させられてしまった。
ぐったりとしたスラクシャを抱えたクリシュナを見て、アルジュナはようやっと正気
に戻る。
﹁っ、クリシュナ、彼を⋮⋮どうするつもりですか﹂
﹂
?
表面上は普段通りの彼だったが、その内心は黒いもやが渦巻いていた。
し、スラクシャを捕らえた英雄としてアルジュナも参加していた。
パーンダヴァでは盛大な宴が開かれた。カウラヴァの中で最も厄介だったカルナ殺
も最後まで戦ったが、とうとう討たれた。
それから、パーンダヴァはクルクシェートラの戦いで勝利を収めた。ドゥリーヨダナ
││とても、とても愉しそうに、わらった。
暫らく見つめ続け、それから
ふと、クリシュナは腕の中のスラクシャを見つめる。
﹁このまま連れて行くよ。この子なら捕虜としても十分⋮⋮うん
IF ×××た英雄
36
スラクシャはもう、目を覚ましただろうか││
ンティーに呼び出された。
そうして宴も終わり、夜も更けたころ、アルジュナを含む5人の兄弟は母親であるク
アルジュナはそっと頭を振ってそれを追いやった。
親友が連れて行った宿敵の弟の姿を思い浮かべると、あの悲鳴が聞こえてくる。
?
頭が真っ白になった。
﹁カルナとスラクシャは⋮⋮あなたたちの兄弟です﹂
﹁⋮⋮言わなければならないことがあります﹂
やがて意を決したのか、震える声で打ち明けた。
中々口を開かない。
長兄であるユディシュティラが代表して聞くが、クンティーは顔を青くさせたまま
﹁母上、どうしましたかこんな夜更けに﹂
37
﹁は、母上、何をおっしゃるのですか
いと誓ったことを全て話した。
﹂
始まる前にクリシュナの協力でカルナに会い、カルナがアルジュナ以外の兄弟を殺さな
クンティーは過去に自分が犯した過ちを、カルナとスラクシャを捨てた事を、戦いが
?
もっと早く言ってくれれば
﹂
﹁⋮⋮スラクシャには、最期まで会うことは叶いませんでしたが⋮⋮﹂
﹁何故、今更⋮⋮
!
!!
ユディシュティラが母を責める。ビーマが呆然とする。ナクラとサハディーが泣き
崩れる。 そして
﹂
!!
アルジュナは息を切らし、クリシュナの部屋の前まで来ていた。スラクシャのことを
アルジュナは走り出した。
﹁││││っ
IF ×××た英雄
38
クリシュナ
聞く為だった。スラクシャに、会うためだった。
部屋の扉を激しく叩く。
﹁はあ、はっ⋮⋮っ、クリシュナ、いますか
が、返事はない。
﹂
!?
﹂
ガチャ
﹁
﹁アルジュナ
?
!
があった。
スラクシャはどこですか
﹂
!!
││ぞわり。と、怖気が走った。
目の前の親友はパチパチと目を瞬き、愉快でたまらないといった表情をする。
﹁クリシュナ
!
ハッと顔をあげると運動でもしていたのか、髪を乱し汗をかいているクリシュナの姿
どうしたんだい、こんな時間に﹂
もう寝てしまったのかと、明日にでも出直そうかと考えた。
﹁⋮⋮くっ﹂
!
39
そんなアルジュナに構うことなく、クリシュナは人差し指を唇に当てる。
﹁静かに。⋮⋮疲れてるみたいだから、寝かせてあげよう﹂
言っていることが良く分からず、聞き返そうとした。その時、見えた。
﹁⋮⋮⋮⋮え﹂
﹂
﹂
彼女はあくまで捕虜なんだしね﹂
なにを
クリシュナの部屋。寝台の上に、酷く乱れた赤い髪と、投げ出された白い手が。
﹁││││
﹂
クンティーは言わなかったのかい
﹁そんな││待て、かの、じょ
?
﹁構わないだろう
!
﹁スラクシャは女の子だよ﹂
?
?
?
!
﹁⋮⋮⋮⋮あれ
IF ×××た英雄
40
あの後、アルジュナは逃げるように自分の部屋へ戻った。あれ以降、1度もスラク
シャに会おうとはしていない。
常にクリシュナの部屋にいるという訳ではないらしい。普段は地下牢で自害できぬ
ように拘束されていると聞いた。
だから、会いに行けないのではない。会いに行く勇気がないだけだ。
地下牢まで何度も足を運んだ。しかし、入り口から先に進むことが出来ず、結局引き
返した。
姉に会うのが怖いだけなのだ。
兄弟だと知らぬままに罵り、傷つけ、片割れを目の前で殺してしまった。
││挙句、彼女は戦士としても女としても辱められた。
そうして今日もまた、こうして足を運んでいる。
扉に手を掛けるが、開かない。開くことが出来ない。どうしても、そこから1歩も先
﹁︵どのような顔をして会えというのだ⋮⋮︶﹂ 41
に進めない。
そうして、今日も何も出来ぬまま引き返そうとした。
│││││。
﹂
たが、アルジュナは自分が呼ばれているとわかった。
?
じっと、扉を見つめる。
しかし、私は、やめる でも、会う
?
││入るか
│
?
そうしてアルジュナは││。
会いたくない、会いたい│
ほんの微かだが、それでも確かに声が聞こえた。何と言ったかまでは聞き取れなかっ
﹁っ
!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
IF ×××た英雄
42
ED1 壊れた英雄
アルジュナは意を決し、目の前の扉を開ける。
入り⋮⋮││
﹂
何故か鍵のかかっていないそれは、重く錆びついた音を立てながらゆっくりと開い
た。
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮スラクシャ
﹁⋮⋮ぁ、⋮⋮
!!
﹁っ
何故こんなに⋮⋮食事はどうしたのです
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
!
﹂
!?
寄った。
朦朧とした目を向けるスラクシャに、アルジュナは先の躊躇など忘れ、慌てて駆け
姿。
真っ先に目に飛び込んだのは、牢にそぐわない豪華な衣服を着せられている彼女の
?
?
43
焦点が合ってない彼女の視線の先を見れば、扉のすぐ横にポツンと放置された貧しい
食事と水差し。
さあ
﹂
ゆっくりとスラクシャを寝台に横たえ、食事を手に取って戻る。
﹁食べてください
!
ルジュナへと視線を向けた。
それを何度か繰り返すと、ようやく喋れるほどまで回復したらしい。スラクシャはア
アルジュナは水を掌へとこぼし、少しずつ、少しずつスラクシャの口へと注ぎこんだ。
でいないようだった。
それ以前に、口を開こうとするたびにわずかに顔を顰めているのを見ると、水も飲ん
ろか噛むことすらできない。
暫らくぼんやりと差し出された食事を見つめ、わずかに口を開いたが、飲み込むどこ
﹁⋮⋮⋮⋮っ﹂
!
﹂
!
気付きますよ⋮⋮﹂
?
微笑む彼女を見て、アルジュナは耐え切れずにスラクシャへ縋り付いた。
﹁││││っ
﹁何度も、来ていたでしょう
﹁⋮⋮⋮⋮気づいて、いたのですか﹂
﹁あ、⋮⋮はは。やっと、入ってきましたね⋮⋮﹂
IF ×××た英雄
44
力が入らない彼女はそのまま後ろへと倒れ込む。意図せず押し倒されたような姿勢
になったが、下心などは一切なく、縋り付いてくる弟を拒否することなく彼女はゆっく
﹂
りと腕を上げアルジュナの背を、まるで子供にするように撫でる。
﹁っ、申しわけ、ありませんでした⋮⋮
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
を、貴方にぶつけてしまいました﹂
﹁貴方がたに、貴方に責任はありませんよ。むしろ、ごめんなさい。守れなかった苛立ち
のは私たちです﹂
﹁戦の前から知っていました。それでも、そちらに着くという選択肢を蹴って敵対した
﹁え⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
が、すぐに撫でるのを再開する。
その答えに、僅かにスラクシャの方が揺れた。
﹁母、です﹂
﹁⋮⋮誰から﹂
﹁知らなかったとはいえ、私達は、彼奴を、あなたを⋮⋮﹂
!
45
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
っ、ぁ﹂
!
その度に、アルジュナは目を見開く。それを見るたびに、彼女は、アルジュナがどれ
言って聞かせた。
スラクシャはわがことのようにそれを喜んだが、決して無理はしないようにと必ず
そのほとんどが、何を得た、何を成し遂げたという成功談ばかりで。
そしてその日に会ったことを話す。
いものを。あるときは花を毎日、毎日持ってくる。
窓1つ無い牢の中にいる姉を、少しでも楽しませようとしているのか、あるときは甘
その代りと言わんばかりに、アルジュナは牢を訪れる。
うとスラクシャ自らが断った。
最初はここから出すと言っていたが、流石に敵将を自由にするわけにもいかないだろ
それから、アルジュナは毎日スラクシャの元を訪れた。
服がぬれたような気がしたがスラクシャは何も言わずに、背を撫でつづけた。
﹁⋮⋮⋮
IF ×××た英雄
46
だけの期待に晒されているのか実感した。
どんな天才にも、無理のないように言って聞かせるのは当たり前だ。心配しているの
だから。
なのに弟は、そんな当たり前のことを言うたびに驚き、嬉しそうな顔をするのだ。
回りの人間は、一体アルジュナの何を見てきたのか。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
考えてもわかるはずがない。なら、彼がここを訪れなくなるまで、せめて声をかけ続
けようと思った。
ふと、複数の気配が近づいてきた。
アルジュナは今日はどうしても来られないと、酷く残念そうな顔をしていたので彼で
はないだろう。勿論、他の兄弟でもない。
と大きな音を立てて扉が乱暴に開かれる。
そして││││殺気。
バン
﹁⋮⋮⋮⋮なにか御用でも
﹂
雪崩れ込んできたのは複数のパーンダヴァの兵士だった。
!!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
?
47
兵士たちは答えない。
ただひたすらに殺気を向けてくる。
実を言うと予想はしていたのだ。
王子が、それも誰よりも期待され、それに応え続けているアルジュナが捕虜の元に毎
日足を運んでいるのだから。
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ﹂
今のスラクシャは足の腱を切られ、ずっと牢に閉じ込められ続けていたせいで筋力も
落ちている、戦士ですらないただの女だ。
⋮⋮対抗するすべはないだろう。
剣を抜き、大きく振りかぶる兵士。
咄嗟に腕を前で交差させるが防ぐことはできないだろう。運よく防げても、またすぐ
に斬られて終わりだ。
⋮⋮何故、抵抗しないのか。意味がないから
違う、壊れているからだ。カルナが死んだ時から既に壊れてしまっていた。生きるこ
?
死が間近に迫った時、周りの景色がゆっくり見えるという。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は、はは﹂
IF ×××た英雄
48
とにも、殺されることにもなんの感慨もわかない。
アルジュナが居れば、別だっただろう。生きたいと思ったかもしれない。しかし、こ
の場に彼はいなかった。
︵ごめんね、ありがとう︶
最期に思い浮かべたのは、嬉しそうに笑う弟の姿だった。
﹁ごめん⋮⋮⋮⋮﹂
49
ED2 壊された英雄
遠ざかっていく気配にスラクシャは一抹の寂しさを覚え、ため息を吐く。
毎日牢の前まで来ては、扉を開くことなく去っていく弟。仮に扉を開けてくれたとし
ても自分がどうしたいのかスラクシャにはわからなかった。
⋮⋮もしかしたら、アイツ以外の誰かと会いたかっただけかもしれない。
﹂
!
とする。
カタカタと体が震えだすのを両肩に力の入らない爪を喰い込ませることで抑えよう
寝台の上で体を丸め、ギリッ⋮⋮と歯を食いしばる。
﹁││││っ
IF ×××た英雄
50
目を覚まして真っ先に目に入ったのはクリシュナの姿で、次の瞬間にはそのまま上か
ら抑え込まれた。
抵抗はしたがどうやってもその腕からは逃げられず、スラクシャは舌を噛み切ろうと
した。
折角カルナが庇ってくれた命をすぐに捨ててしまって﹂
││││けど。
﹁いいのかい
だった。
そこで彼女は思考を止める。目を閉じる。これ以上考えると頭がおかしくなりそう
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
その一瞬で││││
その言葉に息を飲み、一瞬だけ動きを止めてしまった。
?
51
IF ×××た英雄
52
⋮⋮いや、既におかしくなっているのかもしれない。
ぐちゃぐちゃにされたあと、気が付いたら既にこの牢に閉じ込められていた。
何時の間に着替えさせられたのか、おそろしく豪奢な、窓1つ無い薄暗い牢にはとて
も似合わない衣服を身にまとっていた。
手元に武器が無いとはいえ、すぐに扉を破ろうとした。
が、気絶している間に足の腱を切られてしまったらしく、立ち上がる事すらできな
かった。
自害しようにも、クリシュナの言葉が頭を過り、できない。
それから食事は運ばれてくるが、誰も訪れることなく数日が経った。
毒が入っているかを確かめようともせずに食事を口へ運ぶが、どうしても嚥下するこ
とはできずに、結局運ばれてきたほとんどの量を残してしまっている。
毎日毎日その繰り返し。その間、誰とも合わずにいる。
本人は自覚していないが、スラクシャの体も精神も、既にボロボロだった。
ロクにものを考えられない。頭が重く、ぼんやりする。体がだるい。
起きていることすら辛く、そのまま眠ってしまいそうだった。
﹂
﹁││││寝てしまったのかい
﹁││││││
ぁ、ぐ⋮⋮
!?
!
﹁仕方ないなあ﹂
﹁がっ
﹂
﹂
スラクシャは口を閉ざし、クリシュナを睨み続ける。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ほら、口を開けて﹂
シャの口元へと持ってくる。
声の主││クリシュナは入口のすぐそばに置いてある水差しを手に取ると、スラク
﹁⋮⋮水も飲んでいないのか﹂
﹁││っ、ぁ、⋮⋮な、⋮⋮し、に﹂
﹁ああ。ロクに動けないんだから、急に動いたら危ないだろう﹂
切られているため、思うように体を動かす事が出来ずに崩れ落ちてしまった。
咄嗟にその声の主から距離を取ろうとするが、ただでさえ狭い寝台、その上足の腱を
唐突に聞こえた声に、本能が警鐘を鳴らす。
!!
?
53
クリシュナはスラクシャの喉を締め上げる。
酸素を少しでも取り込もうと彼女が口を開けたのを見計らい、そのまま水を流し込ん
だ。
咄嗟に履きだそうとした口を手で塞ぎ、鼻を押さえて息ができないようにする。
⋮⋮ぐっ、おまえ⋮⋮
﹂
耐え切れずに口内の水を全て飲み込んだのを確認して、やっとクリシュナは彼女から
手を離した。
﹁っげほ、ごほ
!
﹁⋮⋮⋮⋮何しに来た﹂
?
﹁っ
ふざけるな
どけ
!
﹂
スラクシャの顔に、隠しきれない怯えが走った。
そういうと同時に、クリシュナは彼女を手首を一纏めにし、壁に押し付けた。
﹁⋮⋮分かってるんじゃないかい
﹂
それどころか、逆に目を細め、笑みを深くする。
殺意を込めて睨みつけてもクリシュナは顔色一つ変えない。
﹁あはは。そう怒らないでよ﹂
!
どけ、どけよっ
﹁いやだ﹂
!
﹁くそっ
!
﹂
!
!!
IF ×××た英雄
54
そういうが早いが、クリシュナは首筋に顔を寄せ、強く噛みつく。
﹂
スラクシャは必死で拘束を振りほどこうともがくが、ただでさえ弱ってしまっている
今ではそんな抵抗など、クリシュナにとって無いに等しかった。
いいからどけ
﹁あーあ。すっかり弱くなってしまって⋮⋮ちゃんと食事をとらないから﹂
﹁動けないままこんなところに閉じ込められてたら当たり前だ
!!
﹁ひどいなあ。⋮⋮久しぶりに会ったんだから、仲良くしようじゃないか﹂
上げた。
いや、っ
﹂
!
る。
が、次の言葉を聞き、ピタリと動きを止めた。
!
やだ、カルナ、たす⋮⋮⋮⋮
!
最期の言葉を口にしかけた途端、スラクシャはまるで言ってはいけないことを言って
﹁ぁ、かるな、カルナぁ⋮⋮
﹂
嗚咽交じりのその悲鳴に、クリシュナはやめるどころかますます楽しそうに首を舐め
﹁やめっ、や、やだ、いやだ
!
その感覚に、痛みに、目を覚ました時のことを思い出し、スラクシャは恐怖に悲鳴を
!!
55
しまったように口を閉ざす。
﹃助けて﹄⋮⋮かな
おかしなことを言う。だって﹂
無表情でそれを聞いていたクリシュナは、最期の言葉を聞き、薄らと笑うと彼女の耳
元でささやいた。
﹁なんて言おうとしたんだい
?
じゃないか
君 が カ ル ナ の 代 わ り に 戦 場 に 出 た り し な け れ ば 彼 は 死 な な か っ た ん
シュナは続ける。
目を見開き凍りついたように動かないスラクシャを、さらに追い詰めるためにクリ
ひゅう、と息が止まった。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮あ﹂
││カルナは君が殺したんじゃないか。
?
﹂
﹁余計な事さえしなければ、カルナは勝てなかったとしても、戦士として戦って死ぬこと
﹁あ、ぁあ﹂
?
?
﹁そ う だ ろ う
IF ×××た英雄
56
はできた。でも、君を庇ったことでそれすらできなかった﹂
違うなら、何故君の父、スーリヤは君を助けない。カルナは
ちがう。ち、が﹂
﹁なにも違わないだろう
!
そんな彼女をクリシュナは優しく抱きしめる。
いや、悲鳴はあげたかもしれない。ただ、声にならなかっただけで。
スラクシャは悲鳴一つ上げず、光を失った虚ろな目からただただ涙を流した。
﹁│││││││││﹂
﹁カルナを殺したのは、スラクシャ、お前だよ﹂
彼と一体化しているはずなのにだ。⋮⋮あの2人も、君を疎んでいるんじゃないのか﹂
?
﹁ちがう
から奪ったのは君だったわけだ﹂
﹁彼は奪われ続けてきた。その分君が与えようとした。⋮⋮⋮⋮でも、最期の最期で彼
﹁あ、あぁあ、あ⋮⋮﹂
57
﹁安心していいよ。君が父に、兄に嫌われていても、私がいるからね﹂
﹁ねえ、スラクシャ。死んでも一緒に居ようか﹂
IF ×××た英雄
58
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節 苦いそれはな
そう﹁女性サーヴァント全員﹂で。
スターや縁のある男性サーヴァントにチョコを贈るべく張り切っている。
かさずやっている。勿論バレンタインデーも過言ではなく、女性サーヴァント全員でマ
外から切り離され、時間の概念がないカルデアではそういう季節感を感じる行事を欠
長々と話してしまったが、2月14日とはそういう甘酸っぱい日だ。
の大きな特徴。
いう事、贈るものの多くがチョコレートに限定されているのは日本のバレンタインデー
またバレンタインデー限定という訳でもない。女性から男性へ贈るのがほとんどと
西欧・米国でも似たような行事があるが、別にチョコレートに限った話ではない。
日本では女性が男性に愛情の告白としてチョコレートを贈るという日である。
バレンタイン。
んの味
59
﹁あら
スラクシャのチョコレート、とっても綺麗だわ
﹂
!
﹁誰に渡すのですか
﹂
?
﹂
?
だといいのですが﹂
?
クリスマス以降、ちょくちょく視線を感じるし、少しだけど話しかけてもらえるよう
﹁そうですか
﹁確実に受け取ってもらえるので大丈夫ですよ﹂
大丈夫かな。
クリスマスは受け取ってもらえたから多分、大丈夫だと思うけど。ていうか甘いもの
﹁受け取ってもらえるかわかりませんからね﹂
﹁何故アルジュナさんには﹁一応﹂なんですか
改めて多いな⋮⋮言っておくけど恋愛感情じゃないからね。感謝の方だからね。
クフリートですね﹂
﹁ああ、マシュさん。えー、マスターと兄上と、一応アルジュナ。それからエミヤにジー
?
﹂
いや、半神半人に転生した上にサーヴァントになってるんだから人生も何もないけど。
ま さ か バ レ ン タ イ ン に チ ョ コ を 贈 る 側 に な る と は ⋮⋮ 人 生 何 が 起 き る か わ か ら ん。
﹁ありがとうございます、マリーさん﹂
!
﹁太陽と月と星⋮⋮それに剣と、これは、竜
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節 苦いそれはなんの味
60
にもなったし、大丈夫だよな。
﹁え、えーと、何故エミヤさんとジークフリートさんにまで
﹂
?
﹂
だ。もちろんその恩はちゃんと返すが、まあ感謝の気持ちとして渡しておく。
﹁それで剣とドラゴンですか﹂
ボフン
なによ
いきなり爆発だなんて、火加減間違えたかしら
?
﹁ええ。⋮⋮よし、後は固めて箱に入れれば完成ですね。それまで⋮⋮﹂
﹁きゃあああああ
!
﹁おかしいわね⋮⋮もう少し柔らかくなると思ったのだけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
おかげで寂しくなかったし、良く鍛練にも付き合ってくれるしお世話になりっぱなし
⋮⋮。それに、兄が来るまで気を使ってくれたのか色々話してくれましたし﹂
﹁彼、カ ル ナ と ア ル ジ ュ ナ を 足 し て 割 っ た み た い な 感 じ で 放 っ て お け な い ん で す よ ね
﹁それでは、ジークフリートさんは
感動のあまり目頭を押さえたくらいに美味しかった。
初めて食べたときは感動した。その時のおやつはお手軽なホットケーキだったけど
﹁エミヤにはいっぱいお菓子をもらってますから。作り方も教えてもらってますし﹂
?
61
⋮⋮⋮⋮タコ、と八連双晶 しかも異様に赤い。イチゴ味と誤魔化すのが不可能な
くらいに赤い。一体全体、どんなものを入れたらあんな色になるんだ。
?
報をガンガン鳴らしている。
﹂
決戦前にクリシュナと会ったときと同じレベルで危険を訴えている⋮⋮
﹁やっぱりマスターにですか﹂
どうしてわかったんですか
!?
﹂
!
的な奴だが森林特有のにおいも木漏れ日も完璧に再現している。
カルデア内の共有スペースの一つである森林。勿論本物ではなく、超・リアルなVR
﹁⋮⋮はい
﹁きっと、喜んでくれますよ。私は終わったので戻りますが、頑張ってください﹂
﹁先輩、喜んでくれるでしょうか⋮⋮﹂
だ。そりゃわかる。
そんなに楽しそうというか、幸せそうというか、とにかくかわいい表情をしているん
﹁は、はい
!
!
見なかったことにしよう。聞けば最後、確実にドクターのお世話になると本能が行警
﹁⋮⋮マシュさんのチョコレートは気合が入ってますね﹂
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節 苦いそれはなんの味
62
今は冷凍されている者達も含め、マスターがストレスを感じないように色々再現した
らしいがここまでするとは。
食堂を出てからフラリと立ち寄ったそこ。ひときわ大きな木の根元で、ついうたた寝
をしてしまったらしい。
考えるのをやめる事だった。
﹁⋮⋮⋮⋮寝よう﹂
暫らく悩んだ末、だした結論は││
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
なぜ起きなかった私。そしてなぜ一緒に昼寝してるんだこの2人。
起きられない。
が、抱き枕のごとく兄にホールドされ、手はしっかり弟に握られているため起きるに
明してもらいたい衝動に駆られる。
色々ツッコみ所が多すぎるその配置と状況に今すぐにでも2人を起こして事情を説
右にカルナ。左にはアルジュナ。
﹁どういう⋮⋮ことだ⋮⋮﹂
63
││死んでいる、そう思った。
木の根元で体を横たえる赤い髪に息が止まった。慌てて駆け寄り、確認する。
﹁⋮⋮オレもだ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮死んでいると思ったか﹂
とに無意識に安心しているのだ。
同時に、ここまで接近したのに彼女が起きない理由もわかった。カルナが傍に居るこ
かったのだ。戦士としては致命的である。
そういう宿敵に何も言い返せない。すぐ傍に居たのに、声を掛けられるまで気付かな
オレに気が付かないとは。
﹁貴様らしくないな﹂
﹁⋮⋮カルナ﹂
ハッと横を向くと白い男の姿。
﹁静かにしろ。起きてしまう﹂
﹁︵││息がある︶﹂
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節 苦いそれはなんの味
64
脳裏に過るのは生前の戦。
あの顔を、地に横たわる姿を今でも覚えている。
﹁感謝する﹂
﹁⋮⋮ありがとうございます﹂
﹁いえいえ﹂
?
﹁ジークフリートです。エミヤには渡したので、あとは彼だけですね﹂
﹁ところで、スラクシャ。そのチョコレートは誰に渡すつもりだ
﹂
﹁はい、バレンタインです。甘いので苦手ならばコーヒーなどで飲むといいですよ﹂
││握った手は暖かく、仮初めとはいえ確かに生きていた。
なかった。
カルナとは反対側に腰を下ろし、手を握る。奴はそれを見詰めていたが結局何も言わ
﹁⋮⋮ふん﹂
65
﹁姉上。私が代わりに届けましょう。なのでそれを今すぐ渡してください﹂
﹁え⋮⋮、いや、やめておきます﹂
﹁︵チッ︶﹂
アルジュナか。なにか⋮⋮﹂
?
﹂
違っても好意などと思わないように﹂
﹁
??
﹁では﹂
?
?
﹁⋮⋮俺は何かしてしまったのだろうか⋮⋮
﹂
﹁勘違いしないでください。スラクシャはあくまで感謝の気持ちで渡すのですから、間
﹁
﹁ジークフリート﹂
チョコレート・レディの空騒ぎ 第X節 苦いそれはなんの味
66
﹂
それにその姿で戦車はアウトだ
言い訳はありますかキャスターのみなさん﹂
ネタ ジューンブライド
﹁⋮⋮⋮⋮で
﹁気持ちは分かるが落ち着きたまえ
﹁それ以前にカルデア内で宝具の使用はやめてくれないか
事の発端はこうだ。
﹂
!
暫らくは休んでていいよ﹂と暇をもらったのだ。
?
最近セットのジャック・ザ・リッパーの姿はなかった。なんでも今日はセイバー、アー
リーライムがやってきて読み聞かせをせがまれたのだ。
しかし休みを貰っても特にする事が無く、図書室で暇をつぶしていたところナーサ
まわしちゃってごめんね
に参加していたのだが、そろそろアイテム集めも終盤に差し掛かるらしく﹁ずっと連れ
ライダークラスが駆り出される場所も多々あり、私はかなり最初の方からレイシフト
フトする日々が続いていた。
天竺がどうの札がどうのド〇ゴンボーr⋮⋮玉がどうのとマスターが必死でレイシ
!!
!
?
67
次はこっちを読んで
﹂
チャー、ライダークラスがいる所を周回しているのでカルナやアルジュナと一緒にレイ
シフトしているとか。
とーっても素敵だったわ
?
﹁こうしてシンデレラは王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ。おしまい﹂
﹁ありがとう、スラクシャ
﹁あ、はい﹂
!
﹁ハッピーエンドは大好きよ
でもバッドエンドは嫌い。見飽きてしまったもの﹂
﹁⋮⋮お姫様とハッピーエンドばかりですね﹂
されているのはラプンツェル。
部お姫様が出てくる絵本。今読んでたのはシンデレラ。その前は白雪姫だし、今差し出
読み終わった側から新しい絵本を差し出される。何度目だこれ。せがまれるのは全
!
﹁想像がつきませんね⋮⋮﹂
﹂
お嫁さんねえ⋮⋮。元男とかそういうの抜きにしても興味ない⋮⋮ていうか
﹁へー﹂
!
だ。
元が絵本の〝子供たちの英雄〟にこんな事言われた時ってどんな反応すればいいん
!
﹁それにお姫様とお嫁さんは女の子の夢よ
ネタ ジューンブライド
68
﹁あら、どうして
﹂
?
﹁
バラケルスス
﹂
?
﹁私に何か用事でも
﹂
いやな予感しかしない。
握られている。
廊下を歩いているとPことパラケルススが近づいてきた。手には薬のようなものが
?
﹁ああ。ちょうどよかった﹂
翌日。
を思いついたような顔をしたことに私は気が付かなかった。
過去を思い出して一人頷く私をナーサリーライムがずっと見つめ、途中、ハッと何か
ていうか結婚自体してないし。
全然バレないしで結局死ぬまで女らしい服なんぞ着たことなかったな。
身を守るため&私の精神衛生上ずーっと男装してたしな。実際それで被害は減るし、
いうか﹂
﹁生前は死ぬまで男装してましたからね。あまり女の子って言うのが良くわからないと
69
?
﹂
﹁ええ。⋮⋮これを飲んでくれませんか﹂
﹁いやですけど
じゃないかそんな怪しいもん呑ませるくらいなら私が飲むわ
パラケルススから薬を受け取る。
﹂
覚悟を決めて薬を飲み干す。味は特に悪くない⋮⋮というか水と変わらない。
信がある。
カルナに呑ませられたらアウトだ。マスターが何といおうがブラフマーストラする自
今すぐに床に叩きつけたいところだが、また同じものを作られて私のいないところで
!!
あの施しバカのことだから頼まれたらどんな効果だろうと百パー飲むに決まってる
﹁飲みます﹂
﹁仕方ありません⋮⋮施しの英雄辺りに頼み﹂
効果は言えないとか怪し過ぎるだろうが。誰が飲むんだよそんなの。
﹁当たり前です﹂
﹁効果は言えませんが⋮⋮どうしても飲んでくれませんか﹂
﹁大体なんなんですかそれ﹂
なにを言ってるんだこの魔術師。
!?
﹁⋮⋮これでい、い゛っ
!?
ネタ ジューンブライド
70
電流が走ったような衝撃が来たと思った次の瞬間には床にぶっ倒れていた。目の前
が暗くなっていく。おま、毒か。毒なのか。
﹂
﹁ドクター。⋮⋮あのイカレ魔術師はどこですか
﹁良かった、目が覚めたようだね﹂
バッと目を覚ますこすと⋮⋮医務室
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
!?
?
頼まれたらしくてね﹂
﹁私本気で何かしました
﹂
﹂
﹁うわあ。こんなに口の悪いスラクシャ初めて見た⋮⋮。どうやらナーサリーライムに
﹁私にいったい何の恨みがあるんだあの野郎﹂
よう。
言われると気付くが、確かに体が動きにくい。仕方ない、ベッドから降りるのは諦め
﹁うん怒るのは分かるけど落ち着いて。まだ薬抜けてないみたいだし﹂
?
?
良くわかんないけど起きたら絶対に轢いてやる事を誓い、意識が飛んだ。
﹁⋮⋮申し訳ありません。しかし、あの子に頼まれてしまったので⋮⋮﹂
71
え
間接的に幼女に毒盛られたって事
記憶を探るが心当たりは一つもない。
?
着替え
﹂
めっちゃ参加してんじゃねーか
﹁ん
?
私が何をした
!
ことは全力で無視した。
他のサーヴァントがやらかした、という可能性もあるかもしれない。が、そういった
食堂の方から話し声⋮⋮というか嗜める声が聞こえてくる。
に聞きながら食堂に向かって全速力で走った。
それが目に入った瞬間、重い体を無理やり動かし、文字通りドクターストップを後方
服を確認する。
苦笑いをしながら布団を指差すドクター。めくってみろ、という意味だと気づいて衣
!?
ヤとマルタ、それからジャンヌ・ダルクに説教されている﹂
アンデルセンとシェイクスピアとダ・ヴィンチちゃんが面白がって協力した。今はエミ
リート。ナーサリーライムの提案に賛成して着替えさせたのがマリー王妃とメディア。
﹁え ー と ね。実 を 言 う と こ の 2 人 だ け じ ゃ な く て。気 絶 し た 君 を 運 ん だ の が ジ ー ク フ
?
?
﹁あー、えー、うん。そのー⋮⋮﹂
ネタ ジューンブライド
72
﹁そこかぁあ
﹂
声を荒げて食堂へ飛び込むと、その場の視線が一気に集中した。
!!
﹁とっても可愛いわ
お姫様みたい
凶
﹁当たり前よ。私の目に狂いはないわ
元
﹂
⋮⋮でも、もう少し宝石を使っても良かった
私が今着ているのは、宝石とレースがふんだんに使われたレヘンガと呼ばれる、シャ
こめかみを押さえ、椅子に座りながら何とか絞り出した一言。
﹁⋮⋮あの、いつもの服に着替えようとしてもできないんですが﹂
ランスの王妃とコルキスの女王に頭が痛くなった。
無 邪 気 に 褒 め て く る ナーサリーライム。反 省 す る ど こ ろ か 改 善 点 を 話 し は じ め た フ
かしら﹂
!
!
!
﹁ごきげんよう、スラクシャ。やっぱり良く似合うわね﹂
除︶面々に向き直る。
場所を譲ってくれた3人に目線で礼を言い、床に正座で座らされている︵女性陣は免
﹁そうですね﹂
﹁その方が良いわね﹂
﹁⋮⋮当事者が来たようだ。後は彼女に言わせよう﹂
73
ツとスカートに分かれたドレスの上に、ストールをサリーのように巻いたもの⋮⋮の現
代版ウェディングドレス。
ご丁寧に宝石やら花やらが縫い付けられている当たりやる気が伺えた。
﹁しかも寝てたのに皺1つないって⋮⋮﹂
﹁そりゃあ素材からこだわったからね。おかげで次の礼装をどうするか、大まかにだけ
ど決まったよ﹂
ぐ⋮⋮。礼装はマスターの役にも立つし⋮⋮仕方ない、言いたいことはあるけどダ・
﹁はあ⋮⋮﹂
ヴィンチは不問としよう。
次は作家どもだ。
!
﹁落ち着きなさい、スラクシャ。﹂
とても似合ってます
!
﹁因みにその服が皺にならないのは彼らのエンチャントのおかげだよ﹂
﹁フォローになってないぞ2人とも⋮⋮﹂
﹁大丈夫です
﹂
﹁そんなに座に還りたいんですか。いいでしょう、潰れたメロンゼリーにしてあげます﹂
﹁﹁カルナとアルジュナの反応が面白そうだったから﹂﹂
ネタ ジューンブライド
74
何という魔術と技術の無駄遣い
﹁⋮⋮ジークフリート﹂
﹁すまない⋮⋮﹂
て、言われるまま運んだらなんか着せ替え人形にされた、と。
あー、なるほどわかった。倒れている私を見てパラケルスス辺りに運ぶように頼まれ
﹁⋮⋮すまない⋮⋮その、体調が悪いのかと⋮⋮﹂
!!
これはジークフリート悪くない。どう考えても善意でやっただけだこれ。
﹁ジークフリート無罪﹂
﹂
﹁立っていいですよ﹂
﹂
﹁ああ、すまな⋮⋮
﹁うわっ
!
問題。咄嗟のことで力加減が出来ずに思いっきり掴み掛られた場合どうなる
私 身長/体重:168cm・52kg。筋力:D。
ジークフリート 身長/体重:190cm・80kg。筋力:B+。
を掴んでバランスを取ろうとするが、
慣れない正座で足が痺れたらしく、ジークフリートがバランスを崩す。咄嗟に私の肩
!
ヒント:筋力差
?
75
﹁いだだだだだ
チクショウ
ちょ、肩砕ける
大丈夫か
﹂
﹂
再臨で鎧が無い上に不意打ちだったから余計に痛い
す、すまない
痣になっているのでは⋮⋮﹂
あぶねー⋮⋮。危うく肩の骨粉砕されるところだった⋮⋮。
﹁本当に大丈夫か
﹁
放してください﹂
というか何をやって⋮⋮
!
どうしたのですかマス⋮⋮タ⋮⋮﹂
﹁
どうした。入り口で固まっては邪魔⋮⋮﹂
﹁
?
?
﹁ただいまー。みんなで集まってどうし⋮⋮﹂
﹂
なんか涙出
肩の部分をずらして確かめさせ⋮⋮ようとするとジークフリートに手を掴まれた。
﹁ああ、確か痛かったですけど大丈夫でしょう。ほら﹂
?
!
!!
!?
てきた
﹁っ
!
!
﹁は、はい。なんとか⋮⋮﹂
!
! !!
!
?
﹁だ、ダメだ
ネタ ジューンブライド
76
事情を聴く前に宝具はやめて
﹂
食堂が静まりかえ⋮⋮あ、いや作家英霊sはなんか目輝かせてる。
待ってアルジュナ
!!
﹁⋮⋮⋮神聖領域拡大、空間固て﹂
﹁ワー
!!
﹁あいたっ
﹂
女性がそう簡単に肌を晒すものではない
あ、そういうことか﹂
﹁スラクシャ﹂
﹁あ、兄上。お帰りなさい﹂
﹁ああ﹂
﹁何故泣いている。それにその姿は⋮⋮﹂
﹂
﹁泣いているのは事故です。そしてこの格好は⋮⋮﹂
﹂
!
﹂
だって、スラクシャったら一度も女の子の格好したこと無いっていうんだも
嫁⋮⋮
﹁あのね、お嫁さんよ
﹁
?
一度でいいから、綺麗な格好をしなくちゃ﹂
﹁ええ
の
!
?
!
!!
!
﹁何を考えているのだね君は
??
あー、そっか。そういうことね。うん。完全に失念してたわ。
﹁
?
!?
マスターの叫び声にハッとジークフリートが手を放し、私はエミヤに叩かれた。
!!
77
﹁え、それでこんな大がかりなことを
か
﹂
おい嘘だろ。昨日のあの世間話ともいえないようなあの会話が原因でこうなったの
?
とんでもない誤解が生じているぞ落ち着いてください
﹂
﹂
ろくな事が無いな女装
!!
のならオレは応援しよう﹂
﹁待て
何がどうしてそうなった⋮⋮この格好のせいか
!!
﹁今はサーヴァントの身。とはいえ、お前が奴⋮⋮ジークフリートと添い遂げるという
﹁待ってカルナ。別に私が自分からやった事ですから、そんな重くとらえなくても﹂
かったからな﹂
﹁そうか⋮⋮思えば女らしい恰好どころか、女として生きていくことすらさせてやれな
!?
﹁⋮⋮スラクシャ。本気でそこの男と生涯を共にする気で
?
!!
!!
﹂
!
いうことで軽いお仕置き︵3日間おやつ抜き︶だったが、薬を盛ったパラケルスス、面
原因のナーサリーライム、マリーさん、メディア⋮⋮は微妙なラインだが一応善意と
この後事情を説明するのに30分以上かかった。
フリートに矢を向けない
﹁うんアルジュナ落ち着いて誤解だからその言い方やめてください。⋮⋮だからジーク
ネタ ジューンブライド
78
白半分で加担したアンデルセンとシェイクスピアは肉体労働を命じられた。
私としては戦車で轢いてやりたいところだったが、流石にマスターにそれはやめてく
れと言われたので諦めた。
感する。近すぎたからこそ忘れていた。オレが一番忘れてはならないというのに。
双子ゆえに男装をしても違和感はなかったが、こうして着飾ると確かに女なのだと実
させてやれなかった。
ナーサリーライムの言葉が思い出される。結局、死ぬまで一度も女らしい服も生活も
男装を始めていたので慣れないのだろう。
確かに部屋にたどり着くまでに何度も躓いていたのを思い出す。物心ついた頃には
﹁最低でも明日まで脱げないそうです。動きにくいったら⋮⋮﹂
﹁⋮⋮脱がないのか﹂
無意識か、目を細めて気持ちよさそうに頭を摺り寄せるそれは猫のようだった。
る。
ぐったりとした様子で机に突っ伏す妹の頭を、サリーの下に手をくぐらせて直接撫で
﹁⋮⋮疲れた﹂
79
﹄
婚礼用の衣装と言っていた。スラクシャが女として生きていたのなら、きっと死ぬ前
に着ることもあったのだろう。
はい﹂
コンコン
﹁
﹃私です。入ってもよろしいですか
﹁何か用事ですか
﹂
見て動きを止めたが、すぐに視線をそらしてスラクシャへ近づく。
スッと扉が開き、手に何か⋮⋮トレイを持ってアルジュナが入ってくる。一瞬オレを
﹁ああ、アルジュナ。どうぞ﹂
?
?
?
仙桃。
?
ので⋮⋮もう一つはカルナに、と﹂
﹁先ほどの騒ぎで疲れただろうから、これを食べて休めと言っていました。1つは貴女
﹁桃のコンポートですか。これをエミヤが
﹂
上に乗っていたのは涼しげな硝子の皿が3つ。その中には、おそらく今日手に入れた
﹁はい。エミヤがこれを持って行けと﹂
ネタ ジューンブライド
80
﹁そうですか。わざわざありがとうございます﹂
嬉しそうに器を手に取り、机の上に並べる。そういえば、甘いもの、とくに果実には
目が無かったな。
﹂
﹁あ、待ってください。その1つは貴方のでしょう どうせなら、一緒に食べませんか
﹁それでは、私はここで﹂
81
?
﹁ああ、そうだ。スラクシャ﹂
する妹を見るとそれもいいかと思えた。
宿敵と共に、それもこの距離で食事をするのは思うところもあるが、嬉しそうな顔を
﹁⋮⋮いいでしょう。ここで食べます﹂
﹁オレはかまわない﹂
チラリ、とこちらに目を向ける。どうやら、オレを気にしているらしい。
﹁いえ、そうではなく⋮⋮﹂
﹁嫌ならいいです。無理しないで﹂
スラクシャの誘いにアルジュナは戸惑ったような表情を見せる。
?
﹁
﹁
﹂
っ、スラ、クシャ。⋮⋮私も見たいので、その時は呼んでください﹂
﹁似合っている。明日になれば脱いでしまうのだろうが、たまには着てくれ﹂
?
!
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮考えておきます﹂
ネタ ジューンブライド
82
EXTRA 守護の英霊ルート
︻予選︼
痛みで、立っていられない。怖い。消失が怖い、ここで何もわからず消えるのが怖い。
だから。諦めたくない。諦めない。
だってこの手はまだ一度も、自らの意志で戦ってすらいないのだから││
ます﹄
どこからか響いた、凛として涼やかな声。
パリンとステンドグラスが割れる音がして、私の前には││青年
?
私は訳が分からないまま、しかし安堵を感じながら頷いた。
外見の華美な印象とは裏腹に、その目はとても優しい。
身に纏う黄金の鎧の隙間からは、胸元に埋め込まれた赤い宝石が僅かに見える。
赤い髪、白い肌。
﹁貴女が私のマスターですか﹂
が立っていた。
﹃死にたくない、ですか。王になるだの、世界平和だのという願いよりはるかに共感でき
!!
83
︻一回戦︼
ライダーの真名は
﹁まだ内緒ですね﹂
どうして。
サリと突き刺さった。
申し訳なさそうな顔で、微塵の遠慮もなく言い放たれた言葉は私の繊細なハートにグ
る人間の中でも一番弱いでしょう﹂
﹁貴女は魔術師として未熟です。こういっては失礼ですが、この聖杯戦争に参加してい
?
失礼な
む⋮⋮そう言われると何も反論できない。
ら﹂
の時点でおしまいです。自分でいうのもなんですが、私は戦闘向きではありませんか
﹁真名がばれる=弱点がばれる、ですからね。貴方が敵の策に嵌って情報がばれたらそ
明してほしい。
まあ、それは置いといて⋮⋮そんな目をするんじゃない。それは置いといて理由を説
!
﹁そういう人ほど図太かったりするんですよ﹂
EXTRA 守護の英霊ルート
84
というか戦闘向きではないというのは謙遜しすぎでは
てたけど。
あの人形、木端微塵になっ
?
うが││あの空間そのものが破壊されかねませんよ﹂
何処かは分からないけど、ライダーの故郷の英雄ってどうなってるの
︻一回戦終了︼
殺した。私が慎二を。⋮⋮友人を。
顔を上げると、座り込んだ私の正面に立つライダーと目が合った。
﹁⋮⋮マスター﹂
理由。自分が、生きる。相手を殺して、生きる理由
﹁貴女は予選で戦うことを選んだ。生きる理由があるのでしょう﹂
た。
俯いてしまった私には、その時ライダーがどんな表情をしていたのか分からなかっ
も、一度選択したのならそれを貫くべきです﹂
﹁仮初とはいえ、友人の死を悼む心はよくわかります。しかし、まだ理由がわからなくて
?
!?
﹁あれくらい普通です。私の兄や異父弟なら││マスターの実力にも左右されるでしょ
85
﹂
凛のアドバイス通り、自分の名前をしっかり手に書き留めてアリーナへ入る。固有結
︻三回戦︼
界が発動するが、対策はバッチリだ。
私は今何を言おうとした⋮⋮
フランシスコ、ザビ││﹁マスター
⋮⋮ハッ
?
!?
さあ、進もうと一歩踏み出そうとするとライダーに手を取られた。
れる。
ライダーの呆れたような目に、慌てて﹁岸波 白野﹂と自分の名前を言うと結界が敗
!?
さくなるしかなかった。
ていうか、こんなに小さいのに何でそこを読むんですか。というライダーの言葉に小
﹁⋮⋮遊び心を持つ余裕は大事ですが、それで死にかけては意味がないですよ﹂
スコ・ザビ⋮⋮と書いてある。
ライダーが見つめるのは名前を書いた掌。そこには私の名前と、下に小さくフランシ
﹁⋮⋮﹂
EXTRA 守護の英霊ルート
86
敵の攻撃を受けて倒れてしまったライダー。
︻五回戦︼
魔力が供給されず、生命の危機に瀕している、はずなのだが⋮⋮。
なんで普通に立ってるんだ
!?
たらこっちの心臓がもたない。
ライダーに方針を伝えると少し不満げな顔をするが絶対に譲らない。また倒れられ
旨のメールが届いた。やっぱり凛は頼りになる。
そして﹁すぐに3日目には治るならそのまま大人しくしておいた方が良いわ﹂という
てきた。私が知りたい。
凛にメールでこのことを伝えると﹁アンタのサーヴァントどうなってるの ﹂と返っ
そ、そうなのか。
リーナにも行けます﹂
﹁いえ、放っておけば3日目くらいには全快します。普段と比べると少しアレですが、ア
じゃあどっちにしろ魔力供給は必要だって事か。
てますが﹂
﹁鎧の効果ですよ。兄のと違って私の鎧は回復特化なんです。それでもダメージは残っ
!?
87
と二人でカレーパンをも
とにかく横になってくれとライダーの体をぐいぐい押すと、諦めたのか大人しく横に
なってくれる。
ふむ⋮⋮ライダーは押しに弱いと。
﹁今何か余計なことを覚えませんでしたか﹂
いえ、なにも。
その後で魔力が足りないのなら補充すればいいのでは
そもそと食べた。
麻婆も進めけど、珍しく全力で拒否された。
?
どうして
?
﹁随分と満足そうですね﹂
とても優しかった。
そう言って彼││いや、彼女は私の手を取る。その目は、初めて会った時と変わらず、
﹁サーヴァントがマスターを1人にするわけがないでしょう﹂
││スラクシャ
拍子抜けしたような、しかし興味深げに辺りを見渡す、私のサーヴァント。
﹁案外、普通ですね﹂
︻聖杯の中︼
EXTRA 守護の英霊ルート
88
勿論。トワイスの野望は絶った。聖杯戦争はもう起こらないし、凛だって地上で生き
ていける。これ以上ないくらい、満足だ。
﹂だろう。
?
任せる。
貴女と﹁彼女﹂は同じでも別人です﹂
ありがとう。でも、スラクシャが私の立場だったらしないでしょう
﹁私は貴女に生きてほしい。地上の﹁彼女﹂ではなく、貴女に﹂
うん。﹁彼女﹂がどんな願いを持っても納得できる。
﹁後悔しないのですか
?
﹁⋮⋮はあ﹂
なんでそこで溜息
なんだ、なんなんだ
?
﹁まったく、何で最弱のマスターである貴女を守ろうと思えたのか分かりましたよ﹂
!?
だから﹁彼女﹂も大丈夫だ。
た。あなたは、座から出ることが出来た。
願いに貴賎はない。死にたくない、という私の願いでスラクシャに会うことが出来
?
││いいんだ。私は﹁彼女﹂の再現データにしか過ぎない。そういうのは地上の私に
スラクシャの言いたいことは分かる。﹁今すぐにでもそうしないのか
﹁聖杯に望めば、貴女は地上で生きていけるのに。凛と共に歩む事もできたでしょう﹂
89
問い詰めるがスラクシャは答えない。ただ笑って、優しい目私を見るだけだった。
少しずつ、意識が薄れていく。いつの間にか目の前がどこまで続くかわからない暗闇
に包まれていく。
﹁おやすみなさい、私の最初のマスター。またいつか││﹂
EXTRA 守護の英霊ルート
90
レイシフトに失敗し、漂着した場所は無人島
カルデアには連絡が取れず、頼りになるのは共に辿り着いたサーヴァントたちだけ
衣食住の保証がない、いつ連絡が取れるかもわからない危険な状況
││否
目の前に広がる青い海、白い砂浜 これらを目の前にして遊ばないなん
てそんな選択しあるか
!!
!
!
∼スカサハ師匠が一瞬でやってくれました∼
それぞれ水着に││ついでにクラスも││着替えてはしゃぐ女性サーヴァントたち
!?
しかし
!
!
!?
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴びにはご用心
91
いか
近日発売予定
※人理焼却の進み具合によって遅れることもあります
カルデアサマーメモリー∼癒しのホワイトビーチ∼
!!
無人島を開拓しつつ、脱出を目指しつつ、さあ、この光輝く海へと飛び込もうじゃな
!
!
﹂
目を覚ましましたか
﹁││なんだって
﹁あ、先輩
﹂
!?
?
﹂
その川の中でじっと、まるで戦場にいるかのように水面を見つめる、守護の英雄││。
らされてキラキラ光る川。
ぼんやりする頭で周りを見渡すと、木々のすき間からこぼれる太陽の光と、それに照
視界に入ったのは、ほっとした顔でオレを覗き込む可愛い後輩。
!
?
とアルジュナの言葉に首を傾げると気まずそうに目を逸らすインドの大英雄
?
?
た。何故かボロボロだけど。
﹂
﹁カルナ、アルジュナ⋮⋮。まって。これどういう状況
え
﹁覚えていないんですか、マスター
2。
?
ましょう﹂
﹁あ、マスター。起きましたか。ちょうどよかった。魚も大量に取れたので一緒に食べ
×
﹂
突然後ろから聞こえてきた声に、驚いて振り向けば川に入っている英霊の兄と弟がい
﹁うわっ﹂
﹁む。目を覚ましたのか、マスター﹂
﹁⋮⋮え、なんで
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴びにはご用心
92
ぷらすもう1人。
﹁ごめん、マシュ。説明してくれるかな
﹁はい、先輩。実は││﹂
はできない。
﹂
ただ、サーヴァントが大勢いる中、余り長湯をしては迷惑だろうとゆっくりすること
別に開拓で作った風呂に文句があるわけではない。
し出したのだ。
カルナの﹁沐浴がしたい﹂という呟きを拾ったスラクシャが、ならできる場所をと探
そんな2人がわざわざ海ではなく、川に来た目的は沐浴だった。
むしろ、生前に食料を確保するためにあちこち走り回ってた分、慣れている方だった。
も多く、この兄妹も例外ではなかった。
無人島に飛ばされサバイバル生活を強制されている状況だが、割と馴染んでいる英雄
﹁そうだな﹂
﹁あ、カルナ。ここなら沐浴できそうです﹂
?
93
沐 浴 が 趣 味 の 兄 に は 物 足 り な い の で は
と 思 っ た 矢 先 に カ ル ナ の 発 言。ス ラ ク
いい場所を見つけたと道筋を覚え、カルナの手を引いてきたのがここだ。
付く事が無いよう上流の方へと進み、見つけたのがこの場所である。
クー・フーリンから川があることを聞いていたため森へ入り、さらになるべく人目に
シャは動くのに1秒のためらいもなかった。
?
﹂
?
﹁恥じらうもなにも⋮⋮。生前も一緒に入ってましたよ
ほら、性別誤魔化さないと
﹁おっけー。とりあえずスラクシャは恥じらいを覚えよう﹂
た。
兄の言葉を正しく理解する妹は﹁では、お言葉に甘えて﹂と一緒に沐浴することにし
で汗を流していくといい﹂といったところだ。
今の言葉を詳しく訳すと﹁オレのために川を探して汗もかいただろう。ついでにここ
念のために言っておくが、カルナは純粋に好意で言っている。
﹁へ
﹁一緒に入るぞ﹂
﹁では、ごゆっくり。私は、誰か人が来ないか見張っておきます﹂
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴びにはご用心
94
?
いけなかったですし﹂
﹂
﹁分かりました﹂
﹁
﹁で、アルジュナはなんで
﹂
?
それ以上はオレの精神上よくない。最初は男だと思ってたけど、改めて知らされる
﹁わかった。それ以上言わなくていい﹂
来るともわからない川で沐浴をしている││﹂
﹁マスター。想像してみてください。兄妹とはいえ男女が、服を脱いで、こんないつ誰が
﹁は
﹁誤解です﹂
ため息を吐いた。
チラリ、とマシュがアルジュナに目を向ける。その様子に観念したかのように弓兵は
?
!?
﹁それが││﹂
﹂
﹁マシュ。カルデアに戻ったらスラクシャを女子ライダー部屋に移すよ﹂
﹁いまでもたまにですが、一緒に寝ますもんね﹂
﹁うーん、そういわれると⋮⋮﹂
95
と、スラクシャは確かに女の子だ。そして俺は健全な男子。良くない、これは非常によ
くない。清姫に焼かれる。
﹁でも、せめて事情くらいは聞いてもいいだろう﹂
﹁⋮⋮腰を引き寄せ、抱き着くような体勢でいてもですか﹂
﹁なるほど⋮⋮。でもなんでスラクシャは無傷で、2人はボロボロなの
﹁それは私のせいです、マスター﹂
ないといけないし。
﹂
なんだか起きてから質問ばかりだなあ。でも、ここまでやり合うなら本気で編成考え
?
魔力を持って行って貧血でも起こしたと。
気絶したのは、多分、流れ弾てきなのにでも当たったか、インドの大英雄が遠慮なく
入ったところでたまたま来たオレとマシュが巻き込まれたと。
画のラブシーンのようなツーショットを目撃してプッチーンとキれ、そのまま戦闘に
つまり兄妹とはいえ、嫌いな兄と慕っている姉が沐浴をして、しかも傍から見たら映
﹁スラクシャが滑りかけたのでな。咄嗟に支えたのだが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮カルナ﹂
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴びにはご用心
96
﹁スラクシャが
﹂
?
育ち盛りの子供2人にはキツそうだ。
確かに、昔のインドの生活水準はよくわからないけど、余り裕福ではなさそうだし。
足りませんでしたから﹂
﹁はい。幼少期は養父たちが用意してくれるもの以外に、自分たちでも何とかしないと
﹁慣れてるんだ﹂
﹁慣れてますので﹂
﹁ありがとう。でもよくこんなに捕まえたね﹂
昼時ですし﹂
﹁マスター。お詫びにはなりませんが、魚を獲りましたので焼いて食べましょう。丁度
い。
そしてオレの気絶した理由は流れ弾だけど、このだるさは魔力不足による貧血らし
ルジュナもボロボロなわけだ。
解放しちゃったのかー。どっちでやったのかはわからないけど、どうりでカルナもア
﹁すいません。つい、宝具を﹂
んです。でも、私達が来て先輩が流れ弾で気絶してしまったのを見て、その⋮⋮﹂
﹁ええとですね、スラクシャさんは最初、ポカンとしながらお2人の戦闘を見ていらした
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﹁安心しろマスター。スラクシャの食料を調達する技量は、宝具と言っても差し支えな
いほどだ。兄であるオレよりも先に飛び出す姿はまるで猟犬の様だった﹂
﹁女性に向かって猟犬はないだろう。これだから貴様は⋮⋮デリカシーをしらんのか﹂
﹁兄上より先にいっぱい獲って置かないと、兄上が持っていたら他の人に強請られた時
に何の見返りもなくあっさり渡しちゃうじゃないですか﹂
言いたかったことを全部言ってくれた。宝具レベルの食料調達能力って。そういえ
ばカルデアから持ってきた食料とかがあったとはいえ、あの人数の食料が数日持つのは
おかしい。あのアルトリアだっているんだし。
もしかして
?
﹂
?
﹁スラクシャさんはどちらとも仲が良いのに⋮⋮﹂
の手で叩き落された。
あ、スラクシャが頭抱えた。あ、アルジュナが慰めるみたいに頭撫でた。あ、カルナ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁そうだな⋮⋮。もしや、その動物の主食かもしれん。置いていくだろう﹂
うにそれを見ていたらどうします
﹁カルナ⋮⋮。⋮⋮因みに、もし食料を持っているときに腹を空かせた動物が、物欲しそ
﹁次からはオレも呼べ。お前と一緒に過ごしたのだ、多少なりとも役に立つ﹂
カルデアサマーメモリー 第X節 水浴びにはご用心
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﹁初めてあの2人を召喚した時はクッションになると思ったんだけどね﹂
いや、なってはいるんだけど。別のところに於いては悪化しているというかなんとい
うか。
﹁⋮⋮とりあえず、お腹すいたなあ﹂
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