【76】脳梗塞を契機に心エコー図検査にて左室心尖部血栓を指摘し経過を

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脳梗塞を契機に心エコー図検査にて左室心尖部血栓を指摘し経過を追えた一症例
◎大屋 佳央理 1)、佐藤 由季 1)、福田 生恵 1)、小村 綾 1)、佐々 智子 1)、竹内 保統 1)、永田 栄二 1)
独立行政法人 国立病院機構 熊本医療センター 1)
【はじめに】脳梗塞は発症原因として血栓性,
実施し,血栓の縮小から消失までの経過を追
塞栓性,血行力学性によるものが知られてお
うことができた.また,リハビリも順調に進
り,塞栓性で代表とされるものは心原性脳塞
み,脳梗塞の症状も改善傾向となったため第
栓症である.今回,脳梗塞を契機に心エコー
29 病日目に自宅退院となった.
図検査にて左室心尖部血栓を指摘し,経過を
【考察】心エコー図検査にて心内血栓を指摘
追えた一症例を経験したので報告する.
しえたことにより,脳梗塞の原因は心原性の
【症例】50 歳代男性.主訴:右上肢脱力.現
血栓によるものと推測された.本患者におけ
病歴:特発性血小板減少性紫斑病(以下 ITP)と
る脳梗塞の原因究明として,ホルター心電図,
診断されており,当院血液内科にて加療中で
頸動脈エコー検査が実施されたが,有意所見
あった.今回,右上肢の脱力を自覚したため
は得られなかった.心エコー図検査にて前壁
当院を受診し,頭部 CT にて脳梗塞と診断され
中隔の壁運動低下を指摘していたため,後日
たため同日,神経内科病棟に入院となった.
冠動脈 CT が施行された.その結果より左前下
血液検査所見:WBC 17,900 /μl,PLT
行枝に完全閉塞を認めており,心筋梗塞の診
1.9×104
断であった.既往歴に ITP があるため,抗リ
/μl,RBC
493×104
/μl,Hb 13.9
g/dl,Ht 42.6 %,LD 334 IU/l,AST 37
ン脂質抗体症候群などの凝固系異常の精査も
IU/l,CRP 0.07 mg/dl,トロポニン定量
実施されたが,有意所見は得られなかった.
0.148 ng/ml,PT-INR 1.01 ,APTT 23.9
従って,本症例において想定される病態は,
sec, D ダイマー 11.16 μg/ml.12 誘導心電
脳梗塞発症の数日前に心筋梗塞を発症し,前
図検査:洞調律.V1~V3 誘導で R 波の減高を
壁中隔心尖部の壁運動低下部位に形成された
認めた.心エコー図検査:前壁中隔は心尖部
心内血栓に起因した心原性脳梗塞と考えられ
で高度壁運動低下を認め,同部位に可動性を
た.
伴う 14.3×18.1mm 大の血栓を認めた.ホルタ
文献では高齢者における脳血管障害急性期の
ー心電図検査:有意所見は認めなかった.
12~13%に急性心筋梗塞が認められると言われ
【臨床経過】第 4 病日目に施行した心エコー
ている.また,急性心筋梗塞の 3%に発症 4 週
図検査にて前壁中隔の高度壁運動低下と同部
以内で脳塞栓症を併発するとも報告されてい
位に可動性を有する壁在血栓が認められたた
る.ITP に心筋梗塞および脳梗塞を合併した報
め,脳梗塞の原因として疑われた.また,経
告は少なく,貴重な症例と考えられた.
過観察目的にて施行された頭部 CT 検査では出
【結語】今回,心内血栓を指摘し,消失する
血性の脳梗塞が疑われた.そこで,治療の優
まで観察しえたことは,心エコー図検査が診
先順位としてまず,ステロイドパルス療法に
断から経過観察までを反復して行える重要な
て血小板数を増やすことにより,出血性脳梗
モダリティであるということを再認識できた.
塞の治療を試み,更なる進展がない事を確認
した後,ヘパリン投与による抗凝固療法が開
始された.その間,心エコー図検査を複数回
連絡先:096-353-6501(内線 3313)