2つの指標から、振り出しに戻ったブラジル経済

リサーチ TODAY
2016 年 9 月 29 日
2つの指標から、振り出しに戻ったブラジル経済
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
現在、ブラジル景気には回復の兆しが広がりつつあるが、景気が持続的な回復軌道に乗るためには金
融緩和による後押しが不可欠で、ブラジル中銀は利下げに向けた地ならしを開始した。中銀は、利下げの
条件の一つとして財政再建の浸透を重視する。しかし、テルメ政権が目指す財政再建には、議会審議の紆
余曲折が予想され、これが利下げを遅らせるリスク要因だ。今回のリオ五輪の経済効果は限定的であり、州
財政の悪化が連邦政府の財政再建を遅らせる一因になっている。2009年にリオ五輪を誘致することが決
定したが、7年が経過し、ブラジル経済は結局振り出しに戻ったような状況にある。みずほ総合研究所は、リ
オ五輪を巡るブラジル経済・政治に関するリポートを発表している1。次の2指標からブラジルの経済が五輪
開催を決定した2009年の振り出しに戻ったことを示す。第1は、GDP成長率等の経済のファンダメンタルズ
である。下記の図表はブラジルの実質GDP・投資・消費を示すが、2009年を100とするといずれも2013年頃
のピークまでは大幅に上昇したが、2014年以降急に低下し、足元では110程度と元に戻る勢いだ。深刻な
後退局面からの落ち込みの勢いについては和らぐ兆しが見え始めたが、経済は振り出しに戻ったようなも
のだ。
■図表:ブラジルの実質GDP・投資・消費の推移
160
(2009/1-3月期=100)
150
140
130
120
110
実質GDP
100
個人消費
90
総固定資本形成
80
09
2009
10
11
12
13
14
15
16
(年)
(資料)ブラジル地理統計院
また、ブラジルへの入国者数の推移(次ページの図表)を見ても、五輪開催が経済をけん引したとは言
えまい。確かに、今年の五輪開催でリオへの外国人観光客は増加したが、その数は2014年にブラジルの
12都市で開催されたサッカーW杯(6月12日~7月13日)には及ばないとみられる。今年7~9月期の経済
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2016 年 9 月 29 日
指標の好転は、五輪による特需がけん引したというよりも、資源価格や金融市場の安定に伴う景気回復が
中心であり、五輪開催の影響は限定的であろう。
■図表:ブラジルの入国者数の推移
700
(万人)
(%)
643
入国者数
600
前年比(右目盛)
20
15
10
500
5
400
0
300
-5
-10
200
-15
100
-20
0
2002
2004
2006
2008
2010
2012
(年)
2014
-25
(資料)ブラジル観光省
第2は国際的ステイタスだ。2009年に五輪招致に成功した際、ルラ大統領(当時)は「ブラジルはファース
ト・クラスの仲間入りをする」と宣言し、ガバナンスの改善と成長ブームを予言した。しかし、ブラジルは今年、
大統領の弾劾と、1931年の世界大恐慌以来の2年連続マイナス成長という未曾有の政治・経済危機のさな
かに大会を迎えた。下記の図表はブラジルのGDPランキングと一人当たりGDPの推移を示すが、名目GDP
規模でみた世界ランキングは、2009年の8位から2011年に6位に浮上した後、2015年には9位に低下し、
国際的ステイタスも振り出しに戻っている。一人当たりGDPも、2015年には8,651ドルと2009年の水準に逆
戻りだ。ルラ大統領の「ファースト・クラス」の夢は振り出しに戻っている状況だ。不安視された五輪は大きな
波乱もなく終わったが、招致時の夢とは遠い、ブラジルが振り出しに戻った背景には政治の混乱があった。
日本も2020年に五輪を控え、このブラジルの政治の不安定さを他山の石とする必要がある。
■図表:ブラジルのGDPランキングと一人当たりGDPの推移
14,000
(ドル)
(位)
1
一人当たりGDP
12,000
3
GDPランキング(右目盛)
10,000
5
6
7
8,000
8
7
7
7
7
9
6,000
10
11
4,000
10
11
13
2,000
9
10
9
11
13
13
14
0
2000
02
04
06
08
10
12
14
15
(年)
(注)GDP ランキングは IMF 集計対象国中(2015 年 190 カ国)の名目 GDP(ドル金額)の順位。
(資料)ブラジル中央銀行、IMF よりみずほ総合研究所作成
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西川珠子 「回復の兆しが広がるブラジル経済」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 9 月 15 日)
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