「小売」ファストファッションが牽引

2016/9/28
東京都新宿区本塩町 22-8
TEL: 03-5919-9341(直通)
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画:アパレル関連企業の経営実態調査
「小売」ファストファッションが牽引
~大手アパレル不振で「卸」は減収~
はじめに
急 激 に 進 ん だ 円 安 が ピ ー ク を 迎 え た の が 2015 年 5 月 。 そ の 後 、 年 末 か ら 2016 年 に
か け て 1 ド ル = 100 円 程 度 ま で 円 高 が 進 ん だ も の の 、 ア パ レ ル 関 連 企 業 の 2015 年 度 決
算に大きな影響を及ぼしたのは間違いない。海外生産の多いアパレル関連企業の倒産
動 向 を 見 て も 、 2016 年 は 8 月 ま で に 205 件 が 発 生 、 前 年 同 期 比 6.8% の 増 加 と な っ て
おり、厳しい経営状況が続いている。
帝 国 デ ー タ バ ン ク は 、 2013 年 度 ~ 2015 年 度 の ア パ レ ル 関 連 企 業 の 業 績 ・ 財 務 ( ※ )
について、調査・分析した。
※
「 男 子 服 卸 」「 婦 人 ・ 子 供 服 卸 」「 下 着 類 卸 」「 男 子 服 小 売 」「 婦 人 ・ 子 供 服 小 売 」 を 主 業 と す る
企 業 の う ち 、2013 年 度 ~ 2015 年 度 の 年 売 上 高 が 比 較 可 能 な 1 万 6,658 社 を 対 象 に 実 施( か ば ん
や 靴 、 ア ク セ サ リ ー な ど の 服 飾 雑 貨 を 扱 う 業 者 は 含 ま な い )。
調査結果(概要)
1.
2015 年 度 の ア パ レ ル 関 連 企 業 の 年 売 上 高 の 合 計 は 、前 年 度 比 3.5% 増 の 11 兆 2934
億 3300 万 円 と な っ た 。 業 態 別 で は 「 小 売 」 が 8.0% 増 、「 卸 」 は 1.3% 減 と な っ た
2.
売 上 高 が 50 億 円 以 上 の 企 業 の 2015 年 度 の 赤 字 企 業 の 割 合 は 20.4% と な っ た 。 不
採算店舗の撤退に伴う特損計上などの影響で、
「 小 売 」の 方 が 赤 字 企 業 の 割 合 が 高
くなった
3.
2015 年 度 の 棚 卸 資 産 回 転 期 間 の 平 均 は 1.89 ヵ 月 で 、長 期 化 傾 向 に あ る 。特 に「 卸 」
は、売上が減少するなかで「小売」よりも長期化しており、不良在庫の増加が懸
念される
4.
2015 年 度 の 売 上 高 経 常 利 益 率 の 平 均 は 1.64%で 、前 年 度 比 で 0.42 ポ イ ン ト 悪 化 し
た 。「 卸 」「 小 売 」 と も に 小 規 模 業 者 ほ ど 利 益 率 が 低 く な っ て い る
©TEIKOKU DATABANK,LTD.
1
2016/9/28
特別企画:アパレル関連企業の経営実態調査
1.売上高分析
~大手総合アパレル苦戦で「卸」減収~
ア パ レ ル 関 連 企 業 1 万 6,658 社 の 2015 年 度 の 年 売 上 高 合 計 は 、11 兆 2,934 億 3,300
万 円 で 、 前 年 度 比 3.5% 増 加 し た 。
業 態 別 に 見 る と 、「 小 売 」 が 6 兆 1,205 億 3,700 万 円 と 前 年 度 比 8.0% 増 加 し た の に
対 し て 、「 卸 」が 5 兆 1,728 億 9,600 万 円 と 前 年 度 比 1.3% 減 少 し た 。「 卸 」に 含 ま れ る 、
百貨店などを主力販売先に持つ大手総合アパレルが軒並み減収となっており、その影
響 か ら 、「 卸 」全 体 で も 減 収 と な っ て い る 。そ の 一 方 で 、ユ ニ ク ロ や し ま む ら な ど の フ
ァ ス ト フ ァ ッ シ ョ ン や ユ ナ イ テ ッ ド ア ロ ー ズ な ど の セ レ ク ト シ ョ ッ プ が 堅 調 な「 小 売 」
では伸びが大きかった。
売上高合計推移
(単位:百万円)
2013年度
2014年度
卸
5,180,168
小 売 5,574,034
合 計 10,754,202
5,241,697
5,667,915
10,909,612
2.損益状況分析
前年度比
増減率(%)
1.2
1.7
1.4
2015年度
前年度比
増減率(%)
5,172,896
6,120,537
11,293,433
▲ 1.3
8.0
3.5
~「小売」大手で赤字の割合高く~
2015 年 度 の 売 上 高 が 50 億 円 以 上 で 、 過 去 3 期 分 の 利 益 が 比 較 可 能 な 226 社 の 当 期
純 損 益 の 状 況 は 、黒 字 企 業 が 180 社( 構 成 比 79.6%)に 対 し て 、赤 字 企 業 は 46 社( 同
20.4%) と な っ た 。
業 態 別 に 見 る と 、「 小 売 」で 2014 年 度 以 降 赤 字 企 業 の 割 合 が 2 割 台 で 推 移 し て お り 、
「卸」に比べて高くなっている。円安や中国の人件費高騰によるコスト増、暖冬に伴
うセール販売の増加などが本業の利益を押し下げたケースのほか、特に「小売」大手
では、不採算店舗の撤退に伴う特別損失の計上により、当期純損失を余儀なくされる
ケースが目立つ。
損益状況推移
(単位:社)
2013年度
卸
黒 字
赤 字
黒 字
小 売 赤 字
黒 字
合 計 赤 字
©TEIKOKU DATABANK,LTD.
101
18
119
91
16
107
192
34
226
構成比(%)
84.9
15.1
100.0
85.0
15.0
100.0
85.0
15.0
100.0
2014年度
96
23
119
78
29
107
174
52
226
構成比(%)
80.7
19.3
100.0
72.9
27.1
100.0
77.0
23.0
100.0
2015年度
101
18
119
79
28
107
180
46
226
構成比(%)
84.9
15.1
100.0
73.8
26.2
100.0
79.6
20.4
100.0
2
2016/9/28
特別企画:アパレル関連企業の経営実態調査
~「四国」など 5 地域で減収に~
3.地域別分析
1 万 6,658 社 を 地 域 別 に 分 析 す る と 、 2015 年 度 は 9 地 域 中 5 地 域 で 減 収 と な っ た 。
落 ち 込 み が 最 も 大 き か っ た の は 「 四 国 」 で 前 年 度 比 3.1% の 減 少 。 以 下 「 中 部 」( 前 年
度 比 1.9% 減 )、「 北 陸 」( 同 1.3% 減 ) と い う 結 果 に な っ た 。
一 方 で「 関 東 」は 前 年 度 比 6.8% 増 と 売 上 高 の 伸 び が 目 立 っ た 。こ の ほ か 、「 北 海 道 」
「 中 国 」「 九 州 」 で 増 収 と な っ た 。
(単位:百万円)
社 数
2013年度
2014年度
前年度比
増減率(%)
北海道
676
東 北 1,078
関 東 4,829
北 陸
956
中 部 2,358
近 畿 3,085
中 国 1,245
四 国
729
九 州 1,702
合 計 16,658
121,650
196,721
5,762,315
147,555
1,021,237
2,441,044
662,797
83,621
317,262
10,754,202
120,416
189,219
5,894,174
153,335
998,517
2,477,309
672,844
87,569
316,229
10,909,612
▲ 1.0
▲ 3.8
2.3
3.9
▲ 2.2
1.5
1.5
4.7
▲ 0.3
1.4
4. 棚卸資産回転期間分析
2015年度
前年度比
増減率(%)
121,394
188,350
6,296,596
151,291
979,899
2,454,716
696,967
84,858
319,362
11,293,433
0.8
▲ 0.5
6.8
▲ 1.3
▲ 1.9
▲ 0.9
3.6
▲ 3.1
1.0
3.5
~「卸」で不良在庫の増加懸念~
過 去 3 期 分 の 棚 卸 資 産 回 転 期 間 の 比 較 が 可 能 な 701 社 の 2015 年 度 の 棚 卸 資 産 回 転
期 間 の 平 均 は 1.89 カ 月 で 、 前 年 度 比 で 0.10 カ 月 長 く な っ た 。「 卸 」「 小 売 」 と も に 長
期 化 傾 向 に あ る 。「 小 売 」で は 、売 上 高 も 伸 び て い る こ と か ら 、そ れ に 伴 い 在 庫 も 増 加
したものと考えられる。
しかし、
「 卸 」に 関 し て は 、売 上 高 が 減 少 し
ているにもかかわらず棚卸資産回転期間が延
びていることから、不良在庫が増加している
可能性がある。つまり、売れ行きが鈍った結
果在庫が増加したも
平均棚卸資産回転期間推移 (単位:月)
2013年度 2014年度 2015年度
卸
1.67
1.79
1.91
小 売
1.70
1.78
1.82
合 計
1.68
1.79
1.89
決算比較可能701社の売上高合計推移
ので、暖冬の影響で
2013年度
2014年度
前年度比
増減率(%)
2,184,750
2,818,140
5,002,890
2,179,864
2,811,993
4,991,857
▲ 0.2
▲ 0.2
▲ 0.2
重衣料の在庫が増え
ている可能性を指摘
する見方もある。
©TEIKOKU DATABANK,LTD.
卸
小 売
合 計
(単位:百万円)
2015年度
2,119,728
3,137,546
5,257,274
前年度比
増減率(%)
▲ 2.8
11.6
5.3
3
2016/9/28
特別企画:アパレル関連企業の経営実態調査
5. 売上高経常利益率分析
~円安によるコスト増で利益率悪化~
過 去 3 期 分 の 売 上 高 経 常 利 益 率 の 比 較 が 可 能 な 701 社 の 2015 年 度 の 売 上 高 経 常 利
益 率 の 平 均 は 1.64% で 、「 卸 」「 小 売 」 と も に 2013 年 度 に 比 べ て 1 ポ イ ン ト 前 後 悪 化
した。
ま た 、2015 年 度 の 売 上 高 経 常 利 益 率 を 年 商 規 模 別 に み る と 、年 商 規 模 が 小 さ い ほ ど
利 益 率 が 低 く 、 特 に 「 10 億 円 未 満 」 の 「 小 売 」 で は マ イ ナ ス と な っ て い る 。 円 安 や 中
国における人件費高騰の影響からコストが増えたほか、暖冬に伴うセール販売の増加
が利益を圧迫。総じて利益率が低下するなかで、特に価格交渉力のない中小業者ほど
価格転嫁が難しく、コスト増加の影響を受けやすいといえる。
平均売上高経常利益率推移 (単位:%)
2013年度 2014年度 2015年度
卸
2.53
2.08
1.66
小 売
2.75
2.01
1.57
合 計
2.59
2.06
1.64
6. 今後の見通し
年商別売上高経常利益率 (単位:%)
10億円未満
0.59
卸 10億円~50億円未満
1.95
50億円以上
4.59
10億円未満
▲ 0.30
小 売 10億円~50億円未満
2.50
50億円以上
4.09
10億円未満
0.34
合 計 10億円~50億円未満
2.06
50億円以上
4.37
~消費低迷、倒産増加で厳しい環境続く~
ア パ レ ル 関 連 企 業 の 2015 年 度 決 算 は 、円 高 や 暖 冬 の 影 響 が 色 濃 く 表 れ た 厳 し い 内 容
と な っ た 。 円 安 が ピ ー ク を 迎 え た の は 2015 年 5 月 で 、 1 ド ル =124 円 。 し か し 、 昨 年
末以降は円高に振れており、円安が決算に与える悪影響は一巡したといっていい。そ
の一方で、昨年末以降に進んだ円高から多額のデリバティブ評価損の計上を余儀なく
されるケースも見られ、不安定な環境が続いている。
加えて、依然として盛り上がりに欠ける個人消費など、アパレル関連企業を取り巻
く経営環境は厳しい状態が続いている。インターネット通販など新たな流通チャネル
が市場規模を拡大するなか、百貨店やショッピングセンターを主な得意先とする既存
の総合アパレルメーカーの業績悪化も目立つ。アパレル関連企業の倒産が引き続き増
加 傾 向 に あ る こ と か ら も 、2016 年 度 に つ い て も 厳 し い 業 績 を 強 い ら れ る 可 能 性 が 高 い 。
©TEIKOKU DATABANK,LTD.
4
2016/9/28
特別企画:アパレル関連企業の経営実態調査
【参考】 アパレル関連企業の倒産件数推移
(件)
350
307
292
300
302
284
250
205
200
150
100
50
0
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
(1~8月)
【内容に関する問い合わせ先】
(株)帝国データバンク
TEL 03-5919-9341
東京支社情報部
担当:山口 亮
FAX 03-5919-9348
当レポートの著作権は(株)帝国データバンクに帰属します。
当 レ ポ ー ト は プ レ ス リ リ ー ス 用 資 料 と し て 作 成 し て お り ま す 。報 道 目 的 以 外 の 利 用 に つ き ま し て
は、著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。
©TEIKOKU DATABANK,LTD.
5