2. ベイズ推定脳Perfusion

第 20 回
CT サミット報告
●エキスパートによる新たな技術の展開─その 2
2.ベイズ推定脳 Perfusion
堤 高志 東芝メディカルシステムズ(株)医用システム研究開発センター臨床アプリ研究開発部グループ
頭部疾患における CT-perfusion はシン
長所としては計算が容易で短時間で
(以下,AIF)の time density curve(以
グルスライス CT の時代から行われていた
解析可能な点があるが,一方でアルゴリ
下,TDC)と,各組織(厳密には毛細
が,マルチスライス CT の時代になり広く
ズム的に静脈への造影剤の流出を想定
血管)の TDC から逆行列を演算し伝達
普及してきている。
していないため,造影剤注入レートを上
関数を算出することで,動脈から組織へ
アルゴリズムの面でも比較的単純な
げてボーラス性を高める必要があった。
どのように造影剤が伝達しているかを推
maximum slope 法(以下,MS 法)から,
結果的に,ルートの確保が難しい患者で
測するというものである(図 2)。この過
造影剤注入レートがある程度低くても解
は検査が困難であるなどの欠点があった。
程で伝達関数の幅からMTT(秒)
,各組
析可能な deconvolution 法などの変遷が
その後,東芝メディカルシステムズでは,
織のarea under curve(以下,AUC)よ
“Box-MTF”というアルゴリズムを開発
りCBV(脳血液量:mL/ 100 g)が求め
一方,わが国では,灌流画像に関する
した。これは伝達関数を,平均通過時
られ,さらにこの 2 つの値より central
さまざまな標準化を行う動きも起こり,
間(以下,MTT)をパラメータとする矩
volume principle を用いて CBF(脳血
CT・MR 灌流画像実践ガイドライン合同
形の関数とし,これを成立させる MTT
流量:mL/ 100 g/min)が求められる。
策 定 委 員 会(A S I S T - J a p a n:A c u t e
を収束演算するものであった。
併せて,伝達関数のピークまでの時間
StrokeImagingStandardizationGroup-
また,その後は deconvolution 法が一
である Tmax(秒)や各組織 TDC のピー
Japan)により,解析アルゴリズムや表示
般的となってきた。その中でも,特異値
クまでの時間である TTP(秒)を求める
あった。
用の lookup table(以下,LUT)に関して
解析を用いた SVD 法が広く用いられて
ことができるソフトウエアも存在する。
推奨が行われ,各ベンダーもこれに沿っ
いる。この基本概念は,動脈に ROI を
解析の一例として,SVD 法の一つで
た開発を行ってきた。そして,近年ベイ
置いて求める arterial input function
ある“SVD +”
(東芝メディカルシステ
ズ推定を応用した新しい解析アルゴリズ
ムが開発され臨床評価が始まっていると
ころである。
ここでは,基本的な情報としてこれまで
MS法
Maximum Slope法
のアルゴリズムの変遷と,主に singular
valuedecomposition 法(以下,SVD 法)
Box-MTF法
の解析の基礎,ASIST-Japan による標準
化の概要,現在のアルゴリズムの課題につ
Deconvolution(SVD)法
Box-MTF法
いて述べ,それを踏まえた上でベイズ推定
perfusion アルゴリズムの特徴を論文的に
convolutionの式 Ci (t ) = C a (t )
説明することとする。
アルゴリズムの変遷と
解析の基礎
頭部疾患における CT-perfusion は,
シングルスライス CT の時代から行われ
てきた。また,アルゴリズムの面では当
初 MS 法が用いられていた(図 1)。
〈0913-8919/16/¥300/ 論文 /JCOPY〉
t
h(t ) = C a (t ) h(t
0
)d
解析手法
伝達関数
のモデル
トレーサー
ディレイの影響
Maximum Slope
なし
なし
静脈への造影剤の流出を無視
そのため短時間での造影が必要。
BOX-MTF 法
矩形
あり
h(t)を MTT をパラメータとする矩形関数とし,
上式を成立させる MTT を収束演算で算出。
conventional
なし
あり
delay に影響しない
方法(bSVD など)
なし
なし
SVD 法
概 要
上式をスキャン間隔時間で離散化した行列式に
変換し,代数の手法(SVD 法)で h(t)を算出する。
図 1 CT-perfusion のアルゴリズムの変遷
INNERVISION (31・10) 2016 35