ベストプラクティスガイド ANSYSとハイパフォーマンス コンピューティングで加速する イノベーション コンピューター支援エンジニアリングのベストプラクティス ベストプラクティスガイド P2 コンピューター支援設計の現状 エンジニアはスピードを必要としてお り、最適な製品設計を短時間で市場に投 入できるソフトウェアを利用したいと考 えています。 ジェットエンジン内の空気の流れ、回路基板でのコンポーネント間の熱伝導、電子機器の電力効 率、あるいは多様で複雑なシナリオの検証においては、現実社会における製品の設計の動作を理 解できなければ、より良い製品を設計し、イノベーションを加速させ、安全性を確保することは できません。 また、短い製品開発サイクルの競争が激化する環境では、どの企業でも、エンジニアがプロトタ イプや設計案をテストする時間は限られています。このような状況から、コンピューター支援シ ミュレーションとモデリングは、新製品を市場に投入する上での重要な要素となりました。 コンピューター支援エンジニアリング (CAE) ソフトウェアによって製品の市場投入は加速しま すが、前提として、さまざまなCAEアプリケーションやワークロードをサポートするデータセン ターインフラストラクチャが必要になります。テクノロジーが不適切で、古いワークステーショ ンやサーバーを使い続けていたり、処理能力やスケーラビリティが不十分であったりすると、パ フォーマンスが低下して、新しい設計を市場に投入する上でのボトルネックとなり、競争力が低 下します。 「HPCによって、イノベーションが一気に 加速する」1 これらのニーズを解決するために、多くの企業がハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) インフラストラクチャに注目し、CAEの要件を満足するのに必要な処理能力を実現した いと考えるようになりました。Council on Competitiveness (米国競争力評議会) は最近、次の ような調査結果を発表しています。 • 「HPCはR&Dの費用対効果の高いツールである」と考えている企業は72パーセント • 「コンピューター支援モデルのパフォーマンス向上なしには競争力を維持できない」と考えて いる企業は76パーセント • 「HPCは自社のビジネスが抱く今後の方向性を決定する重要な要素である」と考えている企業 は86パーセント2 1 『 The Vital Importance of High-Performance Computing to U.S. Competitiveness (ハイパフォー マンスコンピューティングにおける米国の競争力に とっての重要性 ) 』、 Stephen J. Ezell 氏と Robert D. Atkinson氏の共著、Information Technology & Innovation Foundation (米国情報技術イノベーショ ン財団)、2016年4月 2 Council on Competitiveness ( 米国競争力評議会 ) の「 Solve 」レポート、 2014 年 10 月、『 The Vital Importance of High-Performance Computing to U.S. Competitiveness ( ハイパフォーマンスコン ピューティングにおける米国の競争力にとっての重 要性)』、Stephen J. Ezell氏とRobert D. Atkinson 氏の共著、Information Technology & Innovation Foundation ( 米国情報技術イノベーション財団 ) 、 2016年4月の記載内容 データセンターのモダナイゼーション、特に、ハイパフォーマンスコンピューティングの活用 は、新製品の設計や作成に不可欠になりました。HPCの可能性を十分に理解するには、CAEソ フトウェアが製品の設計方法にどのような変化をもたらしたのかを理解しておく必要がありま す。 ベストプラクティスガイド P3 コンピューター支援エンジニアリング CAE アプリケーションを使用すれば、基 本的にはエンジニアが設計/構築すること なく、新製品のアイデアをテストできま す。 現実社会には、流体力学、熱効率、構造的完全性、電磁放射といった複数の物理的な力が存在 し、どれもが、製造/工業プロセスのパフォーマンスに影響します。 CAEアプリケーションは、これらの実世界の現象をモデル化しようとするものです。CAEの一般 的な用途では、エンジニアが、設計の幾何学的あるいは物理的な特性や、一定の負荷や制約があ る環境をモデル化します。シミュレーションは、基礎となる物理学の数学的表現を適用すること で実行され、その結果がエンジニアによって検証されます。 プロトタイプを作成したり現実世界で観察したりするには大きすぎたり、早すぎたり、遅すぎた り、小さすぎたり、費用が莫大になったりする場合は、プロセスや物理的なシステムのモデル化 にコンピューターを利用することが 大きなメリットとなります。 CARは、工学分野を含む次のような広い範囲で利用されています。 • 構造分析: 部品や組み立ての応力解析 • 流体分析: 計算流体力学 (CFD) を使用した熱や液体の流れ • マルチボディダイナミクス (MBD): 負荷の運動学解析や計算 • 騒音/振動/ハーシュネス (NVH) • マルチフィジックス分析: 複数の分析技術の組み合わせ CARを利用することで、エンジニアが新しいアイデアをバーチャルにテストでき、高価なプロト タイプが不要になるため、製品開発が加速します。風洞や液体タンクの代わりにコンピューター シミュレーションを利用して設計案をテストできるため、最適ではない設計案を早い段階で候補 から外して、市場での成功率が最も高いと思われる設計案だけにエンジニアが集中できるように なります。 CAEソリューションは、次のような多くの産業で採用されています。 • 航空宇宙/防衛 • 自動車製造 • 離散型生産 (電子部品設計者、重機メーカー、航空機メーカー、およびその他の個別製品の製 造会社) • 耐久消費財メーカー • 製品設計の検証/シミュレーションを手掛ける組織 • プロセスシミュレーションを手掛ける組織 (プラント設計) ベストプラクティスガイド P4 インフラストラクチャの課題 CAE ソリューションでは通常、数学的に 定義されたモデルの大規模システムのシ ミュレーションが実行されます。一般的 には、モデルが大きいほど、シミュレー ションの精度が高くなり、実世界の製品 性能を正確に表すようになります。数学 的な計算に必要なコンピュートリソース は、モデルのサイズに指数的に比例しま す ( たとえば、モデルのサイズが 2 倍にな ると、処理に必要なコンピュートリソー スは4倍になります)。 概念から現実化までの段階をモデル化してシミュレーションすることで、高速かつ効率的な情報 ベースの開発プロセスが実現します。しかしながら、 CAEを導入しているほとんどの企業でこ れらのツールが十分に活用されていないのが現状です。その最大の理由となっているのが、コン ピュートパフォーマンスです。 CAEソフトウェアは従来、デスクトップワークステーションに展開されていました。この方法 は、小規模や比較的単純なシミュレーションを実行するエンジニアやアナリストにとっては便利 ですが、実行できる規模や範囲が限定されます。 また、データ中心のワークフロー、マルチフィジックスのシミュレーション、CADの前段階のシ ミュレーションといったCAEソフトウェアの (設計プロセスのフロントエンドでの解析とシミュ レーションを使用する) 新しいトレンドによって、エンジニアやアナリストが高品質の設計を短 時間で作成できるようになりましたが、これらの機能を活用できる十分な処理能力があることが 前提です。 データセンターインフラストラクチャのプロバイダーは、このようなニーズに対応するために、 CAEソフトウェアのニーズに合わせて構成したハイパーコンバージドサーバーソリューションを 提供しています。この方法には、パフォーマンスの向上というメリットがありますが、解決すべ き課題もあります。多くの産業で製品設計の86パーセントを中小規模企業 (SME) が担っててお り、主として大企業のサプライヤーという位置付けです3。これらの組織の強みは、ITではなく エンジニアリングであり、複雑なスケールアウト型クラスタリングサーバーソリューションの管 理に必要なITスキルが不足しており、そのことがソリューションの有効活用の妨げになっていま す。 3 『Top 20 Facts about Manufacturing (製造に関する 20の事実)』、National Association of Manufacturers (全米製造業者協会)、2016年 ベストプラクティスガイド P5 CAEシミュレーションに必要とされる処理能力が大きくなると、次のような問題に直面します。 シミュレーションを数多く実行でき、モデ ルの精度が高くなれば、競争力の高い製品 を開発できるようになります。 • 大規模あるいは複雑なシミュレーションの所要時間が長くなることで、製品設計サイクルの効 率が低下する • 同時実行可能なシミュレーションモデルの数が限定されることで、生産性が低下する • ハードウェアの制約によって、作業が遅れる • ワークステーションとハードウェアスタックが連携していないために、リソースを有効活用で きない 多くのエンジニアやアナリストがエンジニアリングアプリケーションのパフォーマンス低下を仕 方がないこととして受け入れ、単一システムであることでパフォーマンス、メモリ、ストレージ が制限されて分析の応答時間が長くなったり、分析の規模が限定されたりする現状に甘んじてい ます。そのような状況に甘んじる必要はありません。 ANSYS や新世代のHPC 製品といったクラス最高のソフトウェアを組み合わせて活用すること で、これらの問題を解決できる、制約のない環境を手頃な価格で実現できます。 ANSYS ANSYS は、仮想プロトタイピングのリー ダーとして、エンジニアが少ない時間で多 くのシミュレーションを実行できるように するソリューションを提供しています。 ANSYSは、CAEソリューションのリーディングプロバイダーとして、エンジニアリング解析の すべての分野を対象とする包括的なソフトウェアスイートを提供しています。ANSYSのソフト ウェアには、高度なモデル化ツールと堅牢なソルバーが提供されているため、高速かつ精度の高 い結果を取得でき、ほぼすべての範囲のエンジニアリングアプリケーションに対応します。ま た、ANSYSのソルバーは、最新のマルチコアプロセッサーで圧倒的なパフォーマンスとパラレ ルスケーリングを達成するように最適化されています。 ANSYS ソリューションを利用することで、エンジニアは、電子 / 機械 / 内蔵ソフトウェアコン ポーネントで構成される複雑な製品やシステムの完全な仮想プロトタイプを作成し、実環境に存 在するすべての物理現象を組み込むことができます。これまでの事例から、ANSYSを使用する ことで設計サイクルの時間が40パーセントも短縮されることがわかっています4。 ANSYSのCAEソフトウェアによって、企業は、製品開発のコストと時間を削減し、製品の機能 と品質を改善し、設計の不備による製品保証と法的責任のリスクを軽減できます。 4 Eicher Tractors社のケーススタディ、ANSYS、 2016年2月 ベストプラクティスガイド P6 ハイパフォーマンスコンピューティング HPE Apollo 2000 システムは、効率的 でコスト効率の高いハイパフォーマンス コンピューティングによって、最も要求 の厳しい CAR ワークロードにも対応しま す。 ハイパフォーマンスコンピューティングのメリットを十分に活用するには、データセンターイン フラストラクチャに対する正しいアプローチが必要です。HPCは、かつては中堅中小規模企業に はほとんど手の届かない特殊なソリューションだと考えられていましたが、手頃な価格の業界標 準x86テクノロジーの利用によって、CAEソリューション最適化の重要な要素となりました。 HPCによって、CAEが新たな次元へと進化を遂げ、これまで以上に大規模で複雑なモデルを処 理できるようになったのです。Information Technology & Innovation Foundation (ITIF、米国 情報技術およびイノベーション財団) が最近発表した報告には、HPCについて次のように説明さ れています。「HPCによって高度なモデル化、シミュレーション、およびデータ分析が可能に なり、それが、製造プロセスで発生する課題や意思決定を支援し、プロセスや設計を最適化し、 パフォーマンスや障害を予測し、プロトタイプやテストを加速 (あるいは、解消) することにつ ながる。ハイパフォーマンスコンピューティングは、ほぼすべての製造会社において、イノベー ション、新製品の設計と開発、および製品のテストと検証に不可欠な重要な要素となった。HPC は、コスト削減と新たな収益の確保の両方に貢献している」5 一例をあげると、あるジェットエンジンの製造会社は、HPCを活用して複雑なシミュレーション を実行できるようになったことで、タービンの動きの新たな特性をシミュレーションし、燃料効 率の面で競争力の高いエンジンの開発に成功しました。同社は、燃料消費を1パーセント削減す るたびに、その製品のユーザー全体で年間2億米ドルが削減されると推定しています6。 HPCクラスターの導入においては、基本となる処理ブロックの有効利用と効率化を推進し、サー バー、ストレージ、およびネットワーキングのサイロを解消して、優れたパフォーマンスを低コ ストで達成することに集中的に取り組みます。最近のIDCの調査によれば、HPC投資額1ドルあ たりの平均売り上げ増は673米ドルで、利益額は44米ドルです7。 5、6 7 『 The Vital Importance of High-Performance Computing to U.S. Competitiveness ( ハイパ フォーマンスコンピューティングにおける米国 の競争力にとっての重要性 ) 』、 Stephen J. Ezell 氏と Robert D. Atkinson 氏の共著、 Information Technology & Innovation Foundation (米国情報 技術イノベーション財団)、2016年4月 『Update on the ROI with HPC (HPCによるROIに 関する最新情報) 』、 IDC 、 2015 年 8 月、 HPCwire で の記述 『Around the HPC World in 81 Slides (81 枚のスライドにまとめた HPC 最新情報の年次報告 書)』、IDC、2016年 HPCシステムの処理能力とメモリサイズの拡大とストレージアクセスの高速化によって、エン ジニアは、大規模で複雑な問題に取り組めるようになります。HPCソリューションの選定にあ たっては、さまざまなワークロードの要件を満足し、ニーズに合わせて段階的に拡張できる、モ ジュール方式のx86設計を検討します。 ベストプラクティスガイド P7 ハイパフォーマンスコンピューティングのベストプラクティス ANSYS とハイパフォーマンスコンピューティングインフラストラクチャを活用して CASE ソ リューションを構築するためのベストプラクティスは、次のとおりです。 HPE Apollo 2000 システムを使用する と、1台のサーバーから開始し、お客様の ビジネス要件に合わせた方法で段階的に クラスターを拡張できます。 HPE Insight クラスター管理ユーティリ ティの革新的で直感的な 3D インタラク ティブインターフェイスを使用して、各 シミュレーションのパフォーマンスを監 視できます。 クラスターへのスケールアウト クラスターへのスケールアウトによって、複雑なモデルの実行時間が大幅に短縮され、エンジニ アリングが効率化されます。クラスターは、実験計画 (DOE) や複合領域設計最適化 (MDO) に 特に適しています。クラスターは、従来の伝統的なワークステーションよりも格段に少ないコス トで優れたパフォーマンスと柔軟性を実現します。 クラスター管理の簡素化 シミュレーションのエンジニアがクラスタリングテクノロジーを習得しなくてすむようにするに は、展開、構成、運用が容易なクラスターを選択する必要があります。また、プロビジョニン グ、管理、および監視の機能がシンプルで使いやすい単一インターフェイスに統合された、拡張 性の高いクラスター管理ソリューションを提供しているハードウェアベンダーを選択することも 重要です。 ワークロードの最適化 CAEワークロードをHPCプラットフォームで最適化するには、グラフィック中心のタスクや16 コア未満で実行できるソルバーのジョブをワークステーションで処理し、大規模シミュレーショ ンをデータセンターで 実行するようにします。 ヒューレット・パッカード エンタープラ イズは、 ANSYS と密接に協力し、 HPE システムでのアプリケーションのベンチ マークを実施して、最適なパフォーマン スを実現するための推奨構成 (SRA) を開 発しています。 HPE のマネージドサービスパートナーが 提供するフルサービスのクラスター管理 を利用することで、 CAE ワークロードを HPC クラスターへと迅速に移行でき、お 客様の担当者が面倒な作業を実行する必 要はありません。 リファレンスアーキテクチャーの使用 構成を一から作成する必要はありません。リファレンスアーキテクチャーを活用することで、自 社のニーズに最適な規模のストレージと処理リソースを選択できます。 「ホワイトボックス」ベンダーの落とし穴 「ホワイトボックス」(ODM: Original Design Manufacture) ソリューションは、購入費用は安 価ですが、長期的な運用・管理費用が増大する可能性があります。十分に検討することなくホ ワイトボックスベンダーを採用するのは、賢明ではありません。ベンダーが特定のアーキテク チャーやフォームファクターへの長期的な対応を約束していて、問題が発生したり、拡張が必要 になったりした場合にサポートを提供してくれることを確認します。 プロフェッショナルサービスとマネージドサービスの活用 HPCベンダーの選定にあたっては、社内または外部のパートナーネットワークのどちらであって も、統合支援からターンキーの展開や管理までのサービスをニーズに合わせて提供してくれるベ ンダーを探す必要があります。真のターンキーソリューションを必要とするのであれば、マネー ジドサービスのオプションを検討しましょう。 メリット 自社のCAEワークロードに最適なハードウェアとソフトウェアのソリューションには、ビジネス 成果につながる4つの大きなメリットがあります。 • 市場投入時間の短縮: 実行時間が短縮されて、開発サイクルが短くなる • 生産性の向上: 複数のシミュレーションを同時に実行できるため、エンジニアリングの生産性 が向上する8 • 製品品質の向上: 実行できるモデルやシミュレーションの数が増え、大規模で複雑なものも実 行できる • TCOの削減: ソフトウェアライセンスが最適化され、サポートの複雑さが軽減され、リソース の有効活用が可能になる 8 HPE Apollo 2000システムでANSYS Fluentを実行 する場合、最大4倍の数のシミュレーションを実行可 能。ANSYS Fluentベンチマークの幾何平均を使用し てHP (現ヒューレット・パッカード エンタープライ ズ) が2015月5月にテストを実施。 ベストプラクティスガイド ハイパフォーマンスコンピューティングインフラストラクチャの追加やアップグレードに投資す ることで、設計、製造、保証、および企業責任のコストを大幅に節約できるだけでなく、競争力 のある製品の開発、顧客満足度の向上、売り上げの増加といった効果も期待できます。 ANSYSコンピューティングの活用 ANSYソフトウェアとHPE Apollo 2000ハイパフォーマンスコンピューティングの組み合わせに よって、エンジニアは、概念から検証までの製品開発サイクルを改善し、安全で優れた製品をこ れまで以上に短期間で市場に投入できるようになります。 ハイパフォーマンスCAEを始める方法と、HPE ApolloシステムおよびANSYSシミュレーショ ンソリューションの詳細については、こちらをご覧ください。 詳細情報 hpe.com/info/ansys メールニュース配信登録 © Copyright 2016 Hewlett Packard Enterprise Development LP. 本書の内容は、将来予告なく変更されることがあります。ヒューレット・ パッカード エンタープライズ製品およびサービスに対する保証については、当該製品およびサービスの保証規定書に記載されています。 本書のいかなる内容も、新たな保証を追加するものではありません。本書の内容につきましては万全を期しておりますが、本書中の技術的 あるいは校正上の誤り、省略に対しては責任を負いかねますのでご了承ください。 4AA6-6870JPN、2016年8月
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