平 成 28 年 9 月 27 日 成田国際空港株式会社 成田空港の更なる機能強化に当たっての 環境対策・地域共生策の基本的な考え方(案) 1 はじめに 昭和 53 年に開港した成田空港は、地域の多くの皆様のご理解とご協力をい ただきながら、着実に発着回数を増やし、日本の表玄関として国際拠点空港の 役割を担って参りました。 その一方で、内陸空港であることや、その建設をめぐる歴史的経緯により、 いわゆる成田空港問題が社会問題化するとともに、地域の生活環境にも大き な影響を与えてきました。 平成 3 年から成田空港問題シンポジウムが、平成 5 年から成田空港問題円 卓会議がそれぞれ開催され、弊社は、円卓会議の結論を最大限尊重してその実 現に努めるとともに、平成 10 年には、国とともに「地域と共生する空港づく り大綱」を策定し、 「空港づくりは地域づくり」を基本理念として、さまざま な環境対策・地域共生策に取り組んできたところです。 その後、成田空港を取り巻く環境変化の中、地域の皆様のご理解とご協力の 下、B滑走路の北伸(平成 21 年)、空港容量 30 万回合意(平成 22 年)などを 実現させていただき、その際に地域の皆様と合意した事項については、共生の 理念の下、真摯に対応させていただいてきているところです。 こうした中、概ね 2020 年代前半には、首都圏空港の航空需要が現在の計画 処理能力のほぼ限界に達する見込みとの航空需要予測が国から示され、首都 圏空港機能強化技術検討小委員会において首都圏空港の更なる機能強化の必 要性について提言されたことも踏まえ、平成 27 年 9 月より、第3滑走路の整 備、B滑走路の延伸、夜間飛行制限の緩和を内容とする成田空港の更なる機能 強化について、四者協議会で議論を行って参りました。 今後、本格的な少子高齢化社会を迎える我が国において、更なる経済成長を 遂げていくためには、経済発展著しいアジア諸国の成長を取り込んでいくこ とが必要不可欠であり、国においても訪日外国人の一層の増加がそのための 1 戦略の一つとして位置づけられています。このため、我が国の表玄関である成 田空港に期待される役割はますます大きくなるものと考えています。 他方、ライバルであるアジアの主要空港に目を向ければ、増大する航空需要 を取り込むための施設整備が急速に進行しており、成田空港は今後さらに厳 しい空港間競争に晒されることとなります。 このような状況を踏まえ、弊社といたしましても、今後とも増大し続ける首 都圏航空需要に適切に対応していくとともに、激化する空港間競争を勝ち抜 き、アジアの経済成長を取り込むことによって、我が国の経済成長や地域の振 興に貢献していくという使命を果たすためには、将来を見据えた更なる機能 強化が必要であると考えています。 しかしながら、このような機能強化を実現させていただいた場合、これまで 以上に騒音の影響が広範に及ぶとともに、特に夜間飛行制限の緩和について は、地域の皆様に大きなご負担をおかけしてしまうことになります。 これまで四者協議会や各種説明会において、騒音コンターや新たな環境対 策等について早期に示すよう強いご意見をいただいてきたところですが、こ うした皆様方のご意見にできる限りお応えして諸対策の充実に取り組むべく、 今般、環境対策・地域共生策の基本的な考え方についてとりまとめました。 弊社といたしましては、この基本的な考え方に沿って、環境対策・地域共生 策の充実を図り、これにより地域と空港との共生共栄を実現して参りたいと 考えています。 2 基本的な考え方 (1)総論 成田空港周辺地域においては、 「公共用飛行場周辺における航空機騒音によ る障害の防止等に関する法律」 (以下「騒防法」という。)及び「特定空港周辺 航空機騒音対策特別措置法」 (以下「騒特法」という。)に基づく各種対策に加 えて、周辺対策交付金(以下「交付金」という。)、公益財団法人成田空港周辺 地域共生財団等を活用したきめ細かな対策が実施されており、これまで空港 整備の進捗等に併せその充実も図って参りました。その一方で、地域の皆様か ら様々なご不満や改善に関するご要望もお伺いしており、今回の成田空港の 更なる機能強化に関する議論でも、昨年 11 月に開催された四者協議会におけ 2 る騒音関係団体の皆様の意見表明をはじめ、各種説明会など様々な場面にお いて、これまでの要望事項の履行が機能強化の前提である旨のご意見を頂戴 しているところです。 今回の機能強化に当たっては、地域の皆様の生活環境に大きな影響を与え ることに鑑み、対策のより一層の充実を図るとともに、地域の皆様のご要望や ご意見にしっかりと対応できるよう関係機関とともに真摯な検討を行って参 りました。 以下で、その基本的な考え方をお示しするとともに、今後、さらに地域の皆 様と議論を深めて参りたいと考えています。 (2)50 万回コンターに基づく対策範囲の拡大等について ①対策範囲の拡大について 弊社としては、新滑走路整備等により大きく空港の姿が変わることから、ま ずは、新たな騒音影響の拡大等に応じて、騒防法及び騒特法に基づく防音工事 や移転補償等の基本的な対策を速やかに実施することが重要と考えています。 その中で、騒音コンターは、今後、騒防法に基づく区域指定や、騒特法に基づ く都市計画決定の基本となるものです。 今回提示している騒音コンターは、夜間飛行制限の緩和※を加味した上で、 これまでのおおむね 10 年後の予測騒音コンターに比べより長期を見通した発 着回数 50 万回時の騒音影響を予測して作成したものです。これによって、よ り拡大された地域において、先行的に対策を推進することが可能となります。 今後、この騒音コンターに基づき、騒防法に基づく区域指定や騒特法に基づ く都市計画決定がなされるよう、関係機関と協議して参ります。 ※ 夜間飛行制限の緩和について 成長が期待される訪日外国人旅客に利便性の高いダイヤ設定を可能と するとともに、LCCの高頻度運航、航空貨物のネットワーク拡大等を可 能とするため、今回の機能強化策においては、カーフューについて、現在、 弾力的運用が適用された場合であっても午前 0 時から午前 6 時までを離 着陸禁止としているところ、これを改め、午前 1 時から午前 5 時までを 離着陸禁止(悪天候や安全上の理由等による緊急事態を除く。)とし、午 後 10 時台の便数制限や弾力的運用については廃止させていただくことを ご提案させていただきました。 なお、こうした措置に併せて、深夜早朝の防音対策として、一定区域内 3 の家屋の寝室に内窓を設置する工事を実施することを考えて参ります ((3)⑤参照)。 ②横風用滑走路の取扱いについて 従来の横風用滑走路については、今後これを必要とする運航が想定され ず、今回の騒音コンターでも、その騒音影響が生じないことから、現状の騒 防法上の騒音区域を如何にすべきかについて、今後、騒音区域見直しの際に 検討して参ります。 (3)地域の課題に対する対応の方向性について 以下、地域の皆様方から特に強いご要望をいただいている未解決の事項と して、 ・ 交付金の充実 ・ 落下物多発地域の移転対策 ・ 防音工事の施工内容の充実 ・ 線引きに係る集落分断の解消 の各課題についての対応の方向性をお示しするとともに、さらに、 ・ 夜間飛行制限の緩和に伴って必要となる深夜早朝対策 ・ 空港を活用した地域振興、まちづくりへの取組み についても弊社の考えを記載させていただきます。 ①交付金制度の充実 ア)交付総額の引上げ 交付金は、騒音対策事業や騒音下の公共事業等を使途に交付されています が、この充実について周辺市町から多くの要望をいただいています。 交付金の算定方式は、国土交通省告示において定められていますが、その算 定要素としては、国際線に係る平均最大離陸重量、年間着陸回数、騒音区域内 の世帯数が考慮されます。このうち、騒音区域内の世帯数は、騒音コンターに よってその範囲が定まってきますが、 (2)のとおり、今回の騒音コンターは、 これまでの騒音コンターよりも拡大され広範囲になっていることから、50 万 回に対応した世帯数分の交付金が交付されることとなります。 また、年間着陸回数については、これまでの実績値という考え方から、空港 容量に基づき算定するという考え方に改め、先行的に交付金を算定すること により充実を図ることができないか、今後、国と協議して参ります。 4 イ)交付金の「地域振興枠」及び使途の柔軟化 地域振興については、引き続き、県や成田空港圏自治体連絡協議会、空港周 辺市町が行う地域振興策に最大限の協力をして参りたいと考えています。ま た、弊社として、主体的に地域振興に貢献できる手法として、交付金をより一 層活用できないか、併せて検討を進めて参りたいと考えています。 具体的には、交付金の交付額について、空港周辺市町の間で大きな差が生じ ているとの指摘がありますが、これに対する対応として、一定の騒音区域に含 まれる市町に対し、その財政力等も勘案した上で毎年交付金のうちの一定額 を「地域振興枠」として優先交付できないか検討して参ります。この地域振興 枠については、従来よりも使途を柔軟化し、これまでは使途対象外であった教 育や医療、福祉などにも活用することができるなど、より使いやすいものとす ることで、空港周辺市町が行う様々なまちづくりの取組みを効果的に支援す ることができないか検討して参ります。 ②落下物多発地域の移転対策 「落下物多発地域の移転対策」については、 「新東京国際空港公団民営化に 関する覚書」や「容量拡大(30 万回)に係る確認書」においても要望事項と して掲げられており、また、今回の更なる機能強化に関する議論においても、 強くご要望いただいて参りました。 まずは、落下物については、その原因者である航空会社に第一義的責任があ ることから、その防止対策を国と協力して一層徹底して参りたいと考えてい ます。 また、落下物については、騒音とは異なり、落下範囲を予測し、客観的な基 準に基づき対策区域を設定することが困難であること等から、落下物を原因 とする移転補償を制度化することも大変困難な課題であり、これまでもこの ような趣旨の回答を行ってきたところです。 しかしながら、騒特法に基づく移転補償の対象となる区域については、 (2) のとおり従前以上に将来の増便を加味した騒音コンターを作成することで、 結果としてより広範な範囲の設定が可能となると考えています。 さらに、その他の落下物多発地域についても、地域共生策の充実や様々な課 題解決に向けた今後の議論と併せて、どのような対応を講じていくことが可 能か、引き続き関係機関とともに、真摯に協議して参ります。 5 ③防音工事の施工内容の改善(ペアガラス) 現在、ペアガラスについては、一定の遮音性能を有するものであれば、防音 工事において使用することは可能ですが、一部自己負担が生じることがあり、 これに対しては、限度額の範囲内であれば、自己負担なしに使用を認めてほし いとのご要望をいただいています。 ペアガラスについては、他空港で行われている防音工事においてもその使 用は原則として認められておらず、また、単板ガラスよりも高価であり、かつ、 その主な目的が結露の防止等にあることから、これまで標準仕様とはしてい なかったところですが、機能強化が地域の生活環境に与える影響や、ペアガラ スが汎用化されてきている事情を踏まえ、弊社が行う防音工事において標準 仕様に準ずる仕様として、市販防音サッシ及びペアガラス代金の合計額に対 して、特殊防音サッシ及び単板ガラス代金の合計額を超えない範囲内で助成 する方向で検討して参ります。 ④線引きに係る集落分断の解消 今後、新たな騒音コンターに基づく騒防法の区域指定や、騒特法の都市計画 決定、隣接区域の設定について、地域住民の皆様とも協議が開始されますが、 いずれも弊社が提示した騒音コンターが基となるため、弊社としても地域の 皆様のご意見に耳を傾け、関係機関と協議して参ります。 ⑤深夜早朝対策(寝室内窓設置) 今回の機能強化の方策の一つとして「夜間飛行制限の緩和」についてもご提 案させていただきました。 これは、夜間飛行制限の緩和は、我が国の経済成長に貢献するとともに、成 田空港の競争力強化につながるものであることから、今後成田空港が選ばれ る空港として生き残っていくためにも、大変重要な課題であるとして、ご提案 させていただいたものであり、ぜひとも実現をお願いしたい課題です。 一方で、夜間飛行制限が緩和されれば、これまで以上の深夜早朝に航空機が 運航されることとなり、より一層のご負担をおかけしてしまうことになりま す。 今回の騒音コンターについては、夜間飛行制限の緩和も加味した上で作成 したものでありますが、今回の夜間飛行制限の緩和はこれまでの取決めを超 える施策であることに鑑み、地域の皆様の安眠を確保するという観点から、そ の実施と併せ、騒特法上の航空機騒音防止地区内の家屋については、寝室の防 6 音効果をより一層高める工事を実施することができないか、関係機関ととも に協議して参ります。具体的には、既存の防音工事と併せることで 35~40db 程度の防音効果が見込まれる内窓を寝室に設置することについて、協議して 参ります。 ⑥空港を活用した地域振興、まちづくりへの取組み ア)地域振興の取組み 機能強化に伴う空港周辺地域の地域振興については、これまでも地域の皆 様から強くご要望いただいているところであり、空港の発展が地域の発展に つながることは大変重要な課題であると認識しています。 前述のとおり、地域振興については、引き続き、県や成田空港圏自治体連絡 協議会、空港周辺市町が行う地域振興策に最大限の協力をして参ります。特に、 弊社としては、空港周辺市町が行う様々なまちづくりの取組みをより効果的 に支援することができるよう、周辺対策交付金に「地域振興枠」 (再掲)を設 けることができないか検討して参ります。 イ)今後の地域交通のあり方等についての検討 機能強化によって新しい滑走路等が整備されることに伴い、既存の道路の 付け替えが必要になるなど、機能強化は空港周辺地域における地域交通にも 大きな影響を与えることが予想されます。今後、 「地域振興連絡協議会」にお いて、地域交通のあり方等について調査を実施する予定であり、これについて も、同協議会の一員としてしっかり取り組んで参ります。 3 おわりに 以上のとおり、更なる機能強化に伴う環境対策・地域共生策の基本的な考え 方について記載して参りましたが、これを実のあるものとし、真に共生共栄の 実現につなげるためには、地域の皆様のご理解が不可欠であると考えていま す。今後、この基本的な考え方について、地域の皆様にご説明させていただき、 議論を深めて参りたいと考えています。 7
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