JCR News Release - 日本格付研究所

16-D-0535
2016 年 9 月 23 日
株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。
株式会社かんぽ生命保険
【新規】
長期発行体格付
格付の見通し
保険金支払能力格付
格付の見通し
(証券コード:7181)
AA
安定的
AA
安定的
■格付事由
(1) 生命保険業および独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構から委託された簡易生命保険管理業務を
行う日本郵政グループの中核会社。郵政民営化法に基づき株式会社かんぽとして 06 年に設立され、07 年
に現商号に変更した。15 年 11 月には東証一部に株式を上場した。日本郵政は議決権の 89%を保有して
いるが、当社の経営状況や日本郵政と日本郵便が負っているユニバーサルサービス確保の責務の履行への
影響などを勘案しつつ、その全部をできる限り早期に処分することとされている。格付は、郵便局ネット
ワークに支えられた強固な事業基盤、安定的な収益力、リスク対比で厚みのある自己資本などを背景とし
た財務の健全性などを反映している。日本郵政による株式処分は時間をかなり要する可能性が否定できな
いものの、JCR では政府による財務支援のための法的なメカニズムが措置されていないことなどを踏まえ、
民間同業者と異なる特別な政府支援の可能性は低いとみている。
(2) 日本郵政および日本郵便との業務上のつながりはきわめて強固である。ユニバーサルサービス提供の責務
は郵政民営化法等において日本郵政および日本郵便に課されており、当社には課されていない。日本郵便
はユニバーサルサービスにかかる規定を遵守するため、当社と生命保険募集・契約維持管理業務委託契約
および保険窓口業務契約を締結して当社の保険代理業務を受託し、全国の郵便局において、当社の商品お
よびサービスを提供している。特に保険窓口業務契約は、期間の定めのない契約であり、特段の事情がな
い限り一方的に解除することはできない。また、日本郵便との間で、保険窓口業務契約を締結する旨の規
定が定款に存在し、当該契約を終了させる場合には定款変更が必要となる。このように、当社は日本郵便
との間で解除が困難な保険窓口業務契約を締結することで、日本郵便によるユニバーサルサービスの提供
にかかる関連保険会社としての地位を維持する契約上の義務を負っており、仮に株式処分が進展した場合
でも、当社と日本郵便の間には業務面におけるきわめて強い一体性が残ると JCR は考えている。
(3) 郵便局ネットワークを中心にシンプルでわかりやすい商品を提供するビジネスモデルは、民営化後も株式
上場後も変わっていない。郵便局の圧倒的なブランド力を背景に全国津々浦々に営業展開しており、保有
契約件数約 3,200 万件、被保険者数約 2,300 万人と、国民の 5 人にひとりが当社商品の被保険者となって
いる。郵便局チャネルを通じたすそ野の広い顧客基盤を背景に強みのある女性や中高年層を中心にさらに
深掘りを進めていく。商品ラインナップは他の生命保険会社に比べ少なく、養老保険など貯蓄性商品が比
較的多いうえ加入限度額が設定されていることもあり、1 件あたりの保険金額は小さい。民営化前の保険
契約(旧区分)の件数は、主力の養老保険などが順次満期を迎えていることなどにより減少傾向で推移し
ている。民営化後に契約した保険契約(新区分)の件数の積み上げは、金利環境もあり旧区分の減少ペー
スをカバーしきれず、全体の保有契約件数は長期にわたって減少傾向で推移している。加入年齢制限の引
き上げなどの商品改定や高齢者向けサービスの拡充に加え、郵便局チャネルの営業力強化により、新契約
の積み上げペースを旧区分の減少を打ち返せるレベルまで加速させ、全体の保有契約件数を底打ち・反転
させ、利益成長につなげていく方針である。
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http://www.jcr.co.jp
(4) 収益力は規模対比でやや低いものの、安定的に推移している。保有契約高の減少により、経常利益の大宗
を占める保険料等収入が減少傾向で推移している一方、旧区分の満期到来などに伴って責任準備金の戻入
が発生している。基礎利益をみると、ここ数年は 4,000 億円台後半から 5,000 億円台と他の大手生保並み
の水準を確保している。もともと危険差益が比較的厚く、平均予定利率の低下などにより利差益も確保し
ている。今後も危険差益を下支えに一定の基礎利益を確保することは可能とみられるが、金利低下がさら
に進んでいることから、貯蓄性商品が多い当社の収益への影響は比較的大きいと JCR はみている。商品
別の収益性の管理がより重要であり、医療特約の付加率を維持・向上させていくことなどが課題である。
また、経済価値ベースの企業価値を示すヨーロピアン・エンベディッド・バリュー(EEV)においては、
新契約価値など営業活動の成果に伴う EEV の増加額は積み上げられているものの、さらなる金利低下に
よる影響などを注視していく必要があると JCR はみている。
(5) 資産の安全性は比較的高い。有価証券は、大宗を公社債が占めており株式はほとんどない。保険契約の引
受けによって生じる負債に見合った運用資産を管理し、損益の安定を図る目的で資産と負債のバランスを
考慮してリスクコントロールを行う ALM 運用を行っている。円金利資産の割合が高く、負債のデュレー
ションが運用資産より長期であることから、資産と負債のデュレーションのミスマッチによる金利リスク
を抱えている。マイナス金利政策を受けて、資産運用の多様化・高度化を推進しており、今後、ハイブリ
ッド証券やインフラ投資など運用対象をさらに拡大していく方針である。ポートフォリオを短期間で大き
く変化させるものではないとみているが、今後のリスクテイクの動向を注視していく。
(6) 期間利益により内部留保が積み上げられており危険準備金も相応の厚みを有する。一定の金利リスクを抱
えているものの、資産と負債のデュレーションギャップを拡大させない方針を継続し、金利リスク量の抑
制に取り組んでいる。経済価値ベースでリスク量対比充実した資本基盤を確保している。ERM を導入し、
リスク管理を基軸とした収益や資本の一体的な管理態勢を構築しつつあり、統合リスク量は、リスク資本
の範囲内に十分収まっている。ESR は 16 年 3 月末 167%と比較的高く、ある程度のストレス下でも健全
性を安定的に維持できるとみられるが、マイナス金利の影響を踏まえると、足元の ESR は相当程度低下
していると JCR はみている。事業環境も変化するなか、ERM の態勢強化や経営への活用度合いが高まっ
ており、ERM のフレームワークについて、さらなる活用状況に注目していく。
(担当)宮尾 知浩・南澤 輝
■格付対象
発行体:株式会社かんぽ生命保険
【新規】
対象
長期発行体格付
保険金支払能力
格付
見通し
AA
AA
安定的
安定的
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http://www.jcr.co.jp
格付提供方針に基づくその他開示事項
1. 信用格付を付与した年月日:2016 年 9 月 16 日
2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:松村
主任格付アナリスト:宮尾 知浩
省三
3. 評価の前提・等級基準:
評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類
と記号の定義」
(2014 年 1 月 6 日)として掲載している。
4. 信用格付の付与にかかる方法の概要:
本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、
「コーポレート等の信用格付方法」
(2014 年 11 月 7 日)、
「生命保険」
(2013 年 7 月 1 日)
、「保険持株会社および傘
下子会社の格付け」
(2005 年 5 月 31 日)として掲載している。
5. 格付関係者:
(発行体・債務者等)
株式会社かんぽ生命保険
6. 本件信用格付の前提・意義・限界:
本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。
本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性
の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので
はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外
の事項は含まれない。
本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま
た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入
手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。
7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者:
・ 格付関係者が提供した監査済財務諸表
・ 格付関係者が提供した業績、経営方針などに関する資料および説明
8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要:
JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、
独立監査人による監査、発行体もしくは中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、
当該方針が求める要件を満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。
9. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また
はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、
的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また
は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、
金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因
のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ
って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも
のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として
発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ
を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■NRSRO 登録状況
JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ
スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。米国証券取引委員会規則 17g7(a)項に基づく開示の対象となる場合、当該開示は JCR のホームページの“Rating Information”(http://www.jcr.co.jp/english/top_cont/rat_info01.php)
に掲載されるニュースリリースに添付しています。
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部
TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026
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http://www.jcr.co.jp