平成28年9月21日 カレント・トピックス 独 立 行 政 法 人 石 油 天 然 ガス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 カナダ BC 州における石炭探査と First Nations 1 <石 炭 開 発 部 井上晴夫> JOGMEC は 、カ ナ ダ British Columbia 州( 以 下 、BC 州 )北 西 部 の 上 部 ジ ュ ラ 紀 ~ 下 部 白 亜 紀 の 地 層 が 分 布 す る Bowser Basin( 面 積:約 65,000km 2 )内 の 北 部 に 位 置 す る Groundhog 炭 田( 面 積:約 2,300km 2 )の 無 煙 炭 プ ロ ジ ェ ク ト Panorama North 地 域 に 関 し 、本 年 8 月 24 日 、ASX( オ ー ス ト ラ リ ア 証 券 取 引 所 )に 上 場 し て い る 石 炭 開 発 会 社 Atrum Coal NL と 石 炭 JV 契 約 を 締 結 し 、 現 在 、 Panorama North 地 域 における初年度探査を 9 月末から開始する準備を進めている。 ( 出 典 ) Atrum Coal 作 成 資 料 ( 一 部 修 正 ) 図1 Panorama North 案 件 位 置 図 BC 州 で 探 査・開 発 を 進 め る 場 合 、そ の 対 象 エ リ ア 周 辺 を 伝 統 的 活 動 領 域 と 主 張 す 1 本 稿 の First Nations に 関 す る 記 載 内 容 に つ い て 、 バ ン ク ー バ ー 事 務 所 よ り 多 々 ア ド バ イ ス を 頂 いた。但し、本稿内容に関する責任は筆者に帰する。 1 る “ First Nations” と 呼 ば れ る 先 住 民 族 グ ル ー プ の 権 利 や 利 益 を 損 な わ な い よ う な 形で実施することが重要である。本稿では、日本ではあまり馴染みのないカナダ及 び BC 州 に お け る First Nations、 探 査 活 動 に 係 る 許 認 可 及 び 探 査 活 動 を 進 め る 上 で の First Nations と の 協 議 プ ロ セ ス の 概 要 に つ い て 紹 介 す る 。 な お 、 本 稿 作 成 に あ た り 、 平 成 26 年 10 月 2 日 付 カ レ ン ト ・ ト ピ ッ ク ス 「 カ ナ ダ に お け る 先 住 権 原 に 関 す る 歴 史 的 判 決 と そ の 影 響 」及 び 平 成 27 年 度 海 外 炭 高 度 化 調 査等調査「ブリテッシュ・コロンビア州における石炭に係る投資環境調査」報告書 ( 平 成 27 年 10 月 ) に 含 ま れ る 先 住 民 関 連 情 報 等 を 参 照 ・ 引 用 し て お り 、 関 心 の あ る方は適宜、これらも参照いただきたい。 1 . BC 州 に お け る 探 査 権 及 び 探 査 活 動 に 必 要 な 許 認 可 ( 1 ) BC 州 に お け る 探 査 権 BC 州 で mineral を 対 象 と し た 調 査 は 、Mineral Tenure Act に 基 づ き 、Free Miner Certificate を 取 得 す る こ と に よ り 、 BC 州 政 府 所 有 地 ( Crown land) で 地 表 の 機 械 的 擾 乱 を 伴 わ な い 調 査 ( prospecting) を 行 う こ と が で き る 。 機 械 的 擾 乱 を 伴 わ な い 地表調査には、地質調査、手で持つ道具による岩石・水・土壌等の採取や河川堆積 物のサンプリング、爆薬を使用しない手によるトレンチング、空中物理探査等が含 まれる。 ま た 、Free Miner Certificate 保 有 者 が mineral を 対 象 と し て 、ボ ー リ ン グ 等 地 表 の 擾 乱 や 爆 薬 を 伴 う 探 査( exploration)を 行 う 場 合 、Mineral Tenure Act に 基 づ き 、 鉱 物 探 査 権 ( Mineral Claim) を 取 得 す る 必 要 が あ る 。 一 方 、 石 炭 の 鉱 業 権 に つ い て は 、 Mineral Tenure Act で は な く 、 Coal Act で 規 定 さ れ て お り 、 石 炭 に 係 る 調 査 及 び 探 査 を 実 施 す る に は 石 炭 探 査 権 ( Coal Licence) を 取 得 す る 必 要 が あ る 。 な お 、 Coal Lincence 申 請 が 州 政 府 に 受 理 さ れ れ ば 、 Coal Lincence 申 請 エ リ ア に て 地 表 の 擾 乱 を 伴 わ な い 調 査 は 実 施 可 能 で あ る 。ま た 、Coal Lincence 申 請 ・ 取 得 に は Free Miner Certificate は 不 要 で あ る 。 ( 2 ) Notice of Work( NoW) に つ い て Mineral Claim エ リ ア に て 、mineral を 対 象 と し て 、実 際 に 地 表 の 擾 乱 を 伴 う 探 査 を 行 う に は 、Mines Act に 基 づ き Mines Act Permit を 取 得 す る 必 要 が あ る 。本 Permit は 、BC 州 政 府 の on-line 申 請 窓 口( FrontCounterBC)を 通 し て NoW を 申 請 し 取 得 する。 Coal Licence エ リ ア に て 、 ボ ー リ ン グ 調 査 等 地 表 を 機 械 的 に 擾 乱 す る 探 査 を 実 施 す る 場 合 は 、mineral 探 査 の 場 合 と 同 様 、Mines Act に 基 づ き NoW を 申 請 し 、Mines Act Permit を 取 得 す る 必 要 が あ る 。 探 査 段 階 に あ る mineral 或 い は 石 炭 プ ロ ジ ェ ク ト に 関 す る ボ ー リ ン グ 調 査 等 の NoW 申 請 は 、通 常 、エ ネ ル ギ ー・鉱 山 省( Ministry of Energy and Mines)の Regional Office に て 審 査 さ れ る 。 NoW 申 請 を 受 け た Regional Office は 、 提 案 さ れ て い る 探 査 計 画 の 内 容 が First Nations の 他 、他 の 省 庁 、水 利 用 者 、共 同 体 グ ル ー プ 等 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 の あ る 場 合 、 First Nations と の 協 議 ( consultation) に 加 え 、 影 響 を 受 け る 可 能 性 の あ る 関 係 機 関 等 に 対 し て 照 会 ( referral) を 行 う 。 NoW 申 請 内 容 に 対 し て 、他 省 庁 や First Nations 等 の 関 係 者 か ら 提 出 さ れ る コ メ ン ト 、異 議 、追 加 2 提 出 さ れ た 情 報 等 を 審 査 の 上 、最 終 的 に 、当 該 Region を 管 轄 す る Chief Inspector of Mines が Permit を 付 与 す る か ど う か 、 ま た 修 復 保 証 金 ( reclamation security) に つ い て 判 断 を 行 う 。 通 常 の NoW 申 請 書 の 審 査 期 間 は 30 日 で あ る 。 NoW 申 請 で 認 め ら れ る Mines Act Permit 有 効 期 間 は 、 最 大 5 年 間 で あ る 。 な お 、 NoW 申 請 に 必 要 な 情 報 は 、 平 成 27 年 度 海 外 炭 高 度 化 調 査 等 調 査 「 ブ リ テ ッ シ ュ・コ ロ ン ビ ア 州 に お け る 石 炭 に 係 る 投 資 環 境 調 査 」報 告 書( 平 成 27 年 10 月 ) の p47 を 参 照 い た だ き た い 。 ( 3 ) 特 別 な 配 慮 を 要 す る 作 業 に 係 る Mines Act Permit Coal Licence 下 の 探 査 段 階 の 進 ん だ プ ロ ジ ェ ク ト で は 、 ア ク セ ス 道 路 建 設 が 必 要 と な る バ ル ク・サ ン プ リ ン グ( 原 炭 10 万 ト ン 以 下 )等 特 別 な 配 慮 を 要 す る 作 業 を 計 画 す る こ と も あ る 。 こ の よ う な 特 別 な 配 慮 を 要 す る 作 業 に 関 す る Mines Act Permit 取 得 の た め の NoW 申 請 に つ い て は 、 Mines Act 第 9 条 に 基 づ き 、 Regional Mine Development Review Committee (RMDRC)に 審 査 が 付 託 さ れ る 。 RMDRC 議 長 は BC 州 エ ネ ル ギ ー ・鉱 山 省 代 表 が 務 め 、そ の 他 RMDRC メ ン バ ー は 、通 常 、BC 州 政 府から環境省、森林・土地・天然資源管理省、輸送・インフラ省、先住民関係省、 地 方 政 府 、 連 邦 政 府 の 環 境 省 、 漁 業 ・ 海 洋 省 及 び 影 響 を 受 け る 可 能 性 の あ る First Nations 等 か ら な る 。 本 ケ ー ス の よ う な 特 別 な Mines Act Permit 申 請 の 場 合 、30 日 間 の 申 請 書 の 閲 覧 ・ 異 議 申 立 期 間 を 含 め 、 RMDRC は 審 査 期 間 60 日 以 内 に Chief Inspector of Mines に Permit 付 与 に 関 す る リ コ メ ン デ ー シ ョ ン( 付 与 リ コ メ ン デ ー シ ョ ン の 場 合 は 、付 帯 条 件 を 提 示 ) を 行 い 、 最 終 的 に 、 同 Chief Inspector が Permit 付 与 及 び 修 復 補 償 金 額について判断を行う。 な お 、 BC 州 Environmental Assessment Act に 基 づ き 、 Environmental Assessment( 環 境 評 価 : EA) Certificate の 取 得 が 必 要 な 石 炭 プ ロ ジ ェ ク ト の 基 準 は 、原 炭 或 い は 精 炭 の 年 間 生 産 量 が 25 万 ト ン 以 上 の 能 力 を 持 つ か ど う か で あ り 、探 査 段 階 の プ ロ ジ ェ ク ト に は EA 審 査 プ ロ セ ス は 不 要 で あ る 。 2 . カ ナ ダ の First Nations 2011 年 5 月 に 実 施 さ れ た 人 口 調 査 の 統 計 で は 、 カ ナ ダ 人 口 の 4.3%に あ た る 140 万人が自らを先住民族 2 ( aboriginal people) と し て 認 識 し て お り 、 う ち 約 61% の 85 万 人 強 が First Nations の グ ル ー プ 、 約 32% の 45 万 人 強 が Metis と 呼 ば れ る 先 住 民 と ヨ ー ロ ッ パ 系 住 民 と の 混 血 子 孫 の グ ル ー プ 、 4% 強 の 約 6 万 人 弱 が Nunavut 準 州 、Northwest 準 州 及 び Quebec 州 北 部 に 居 住 す る Inuit と 呼 ば れ る 先 住 民 族 グ ル ープである。 First Nations と 呼 ば れ る 先 住 民 族 は 、 か つ て は “ Indian( イ ン デ ィ ア ン )” と 呼 ば れ て い た が 、 1970 年 代 以 降 、 法 令 関 係 で 言 及 さ れ る 場 合 を 除 き 、 ”Indian”な る 呼 び 名 は 使 用 さ れ ず 、 ”First Nation”が 使 用 さ れ て い る 。 2 先 住 民 族 3 グ ル ー プ ( First Nations、 Metis 又 は Inuit) 外 に 、 2 つ の 先 住 民 グ ル ー プ に 属 す る 人 及 び 先 住 民 族 と し て 登 録 さ れ て い る も の の 2011 年 人 口 調 査 で は 自 身 を 先 住 民 族 と 報 告 し な か っ た 人 が 2% 強 存 在 す る 。 3 (1)カナダの先住民関連法 カナダ先住民族のステータスや権利を規定する連邦法としては、以下の法律があ る。 表1 カナダの先住民法 ( 出 典 ) 平 成 27 年 度 海 外 炭 高 度 化 調 査 等 調 査 「 ブ リ テ ッ シ ュ ・ コ ロ ン ビ ア 州 に お け る 石 炭 に 係 る 投 資 環 境 調 査 」 報 告 書 ( 平 成 27 年 10 月 ) カ ナ ダ 先 住 民 族 の 先 住 民 権 ( aboriginal rights 3 ) 及 び First Nations と の 間 で 締 結 さ れ た 条 約 に 基 づ く 権 利 ( treaty rights 4 ) は 、 1982 年 に 制 定 さ れ た 憲 法 第 35 条 で 保 証 さ れ て い る 。 ま た 、 1876 年 に 成 立 、 そ の 後 幾 度 も 改 正 ( 大 き な 改 正 は 20 回 以 上 ) さ れ て い る Indian Act は 、 各 種 の 先 住 民 族 の 保 護 や 税 務 上 の 優 遇 策 等 が 保 証 さ れ て い る 。 な お 、 Indian Act で は 、 先 住 民 族 の ス テ ー タ ス 、 土 地 、 資 源 、 教 育 等を含め、ほとんどの事項についてカナダ政府に支配権があることを明確にしてい る た め 、 一 部 の First Nations は Indian Act の 廃 棄 を 求 め て い る 。 ま た 、 Indian Act を 受 け 入 れ た 上 、 先 住 民 土 地 管 理 に 基 づ い て 自 ら の 土 地 管 理 規 則 に 基 づ き 土 地 管 理 を 行 っ て い る First Nations は 、 2016 年 1 月 現 在 、 カ ナ ダ 全 体 で 36 First Nations( う ち BC 州 内 の 20 First Nations)、 ま た 自 ら の 土 地 管 理 規 則 を 現 在 作 成 中 の 先 住 民 族 は カ ナ ダ 全 体 で 59 First Nations( う ち 、BC 州 内 の 28 First Nations) で 、 こ れ ら の First Nations が 先 住 民 土 地 管 理 法 適 用 対 象 と な っ て い る 。 ( 2 ) 歴 史 的 条 約 ( historic treaties) 18 世 紀 、 英 国 と 仏 国 は 北 米 大 陸 の 統 治 争 い を し て お り 、 両 国 は そ れ ぞ れ First Nations と 同 盟 関 係 を 構 築 し な が ら 統 治 を 進 め て い た 。 こ の 間 に 英 国 が 締 結 し た 条 約 と し て は 、 1725 年 か ら 1779 年 に か け て 、 現 在 の Brunswick 州 及 び Nova Scotia 州 の First Nations と 締 結 し た 一 連 の ”Peace and Friendship” Treaties が あ る 。 1760 年 代 初 め に は 英 国 が 北 米 大 陸 の 大 半 を 統 治 す る よ う に な り 、 1763 年 に は 、 英 国 王 室 が カ ナ ダ を 自 国 領 と す る Royal Proclamation を 宣 言 し 、先 住 民 居 留 地 を 設 け る と 共 に 、土 地 売 却 に 合 意 し た First Nations か ら 土 地 購 入 が で き る の は 英 国 王 室 のみで、英国王室以外の土地購入を全て違法とした。 3 aboriginal rights と は 、先 住 民 族 が 或 る 地 域 の 土 地 を 先 祖 代 々 長 期 に 亘 り 使 用 、占 有 し た 結 果 と し て 保 有 す る 権 利 で 、狩 猟 や 漁 獲 等 を 行 う 権 利 は そ の 一 例 。aboriginal rights は 、生 活 習 慣 、社 会 的慣習及び伝統により共同体毎に異なる。 4 treaty rights と は 、First Nations と 政 府 が 締 結 し た 条 約 に よ り 、First Nations に 認 め ら れ て いる権利のこと。 4 1763 年 の Royal Proclamation 以 降 1867 年 の カ ナ ダ 連 邦 政 府 成 立 ま で に 、幾 つ か の 歴 史 的 条 約 が 締 結 さ れ て お り 、 例 え ば 、 1764 年 か ら 1862 年 に か け て 、 英 国 王 室 ( 1841 年 以 降 は 英 国 植 民 地 の Province of Canada 政 府 ) と 現 オ ン タ リ オ 州 東 部 の First Nations と の 間 で Upper Canada Treaties、 ま た 1850 年 か ら 1854 年 に か け て バ ン ク ー バ ー 島 の 14 First Nations と の 間 の Vancouver Island Treaties( 又 は Douglas Treaties)が 含 ま れ る 。1763 年 以 降 の 条 約 で は 、First Nations は 対 象 エ リ ア内における居留地の保証、狩猟・漁業等の権利、年給等金銭の支払い、各種優遇 措置等を受けるのと引替えに、土地に対する権利を放棄している。 ( 出 典 ) 平 成 27 年 度 海 外 炭 高 度 化 調 査 等 調 査 「 ブ リ テ ッ シ ュ ・ コ ロ ン ビ ア 州 に お け る 石 炭 に 係 5 る 投 資 環 境 調 査 」 報 告 書 ( 平 成 27 年 10 月 ) 図2 歴史的条約の対象地域 1867 年 、 英 国 議 会 が 英 領 北 ア メ リ カ 法 ( 後 の 1867 年 憲 法 ) を 制 定 す る こ と に よ り 、 英 連 邦 下 の 自 治 領 カ ナ ダ 連 邦 政 府 が 成 立 し た 。 1871 年 か ら 1921 年 に か け て 、 カ ナ ダ 連 邦 政 府 は カ ナ ダ 西 部 及 び 北 部 の 農 業 、資 源 及 び 開 拓 地 の 開 発 を 進 め る た め 、 対 象 エ リ ア に 居 住 す る First Nations と 条 約 の 締 結 を 進 め た 。こ れ ら の 条 約 は 1~ 11 ま で の 番 号 が 付 け ら れ て い る た め 、 通 常 “ ナ ン バ ー 条 約 ”( ”Numbered Treaties”) と 呼 ば れ て お り( 図 2 参 照 )、Ontario 州 か ら 西 部 の BC 州 北 東 部 、北 部 の Northwest 準 州 、 Yukon 準 州 南 東 部 ま で の 広 大 な エ リ ア を カ バ ー し て い る 。 こ れ ら の ナ ン バ ー 条 約 に よ り 、First Nations は 土 地 に 関 す る 権 利 を カ ナ ダ 政 府 に 譲 渡 す る 代 り に 、カ ナダ連邦政府は居留地の保証、狩猟・漁業の権利、年給等金銭の支払い、弾薬、農 具、農耕用家畜、衣服等を提供すると共に、居留地での学校の設置や教師の派遣も 約 束 し た 。Treaty 6 で は 、First Nations の 各 共 同 体 へ の 薬 箱 の 提 供 を 約 束 し て い る 。 1923 年 か ら 1929 年 に か け て 、 歴 史 的 条 約 と し て は 最 後 と な る William Treaties が 、 カ ナ ダ 連 邦 政 府 と Ontario 州 南 東 部 の 7 First Nations と の 間 で 締 結 さ れ た 。 ( 3 ) 近 代 的 条 約 ( modern treaties) William Treaties が 締 結 さ れ た 1920 年 代 以 降 、 First Nations と の 間 で 条 約 は 締 結 さ れ な か っ た が 、 1973 年 に な り 、 近 代 的 条 約 と 呼 ば れ る Comprehensive Land Claim Agreement の 締 結 交 渉 が 開 始 さ れ る よ う に な っ た 。そ の 最 初 の 条 約 が 、1975 年 に カ ナ ダ 連 邦 政 府 、 Quebec 州 政 府 、 Cree First Nation 及 び Inuit グ ル ー プ 等 の 間 で 締 結 さ れ た James Bay and Northern Quebec Agreement で あ る 。 本 条 約 を 含 め 、1975 年 以 降 締 結 さ れ た 近 代 的 条 約 は 16( 図 3 参 照 )に 上 り 、う ち 7 条 約 に つ い て Yukon 準 州 、4 条 約 に つ い て Northwest 準 州 が 署 名 し て い る 。特 記 す べ き 事 項 と し て は 、1993 年 に カ ナ ダ 連 邦 政 府 、Northwest 準 州 及 び Nuvavut Inuit 間 で 締 結 さ れ た Nuvavut Land Claims Agreement に 基 づ き 、1999 年 に Northwest 準 州 か ら そ の 東 部 ・ 北 部 が 分 離 さ れ 、 新 た に Nuvavut 準 州 が 誕 生 し て い る 。 な お 、 Indian Act に 基 づ く バ ン ド ( Band 5 ) は バ ン ド 評 議 会 ( Band Council 6 ) の 管 轄 下 に あ る が 、近 代 的 条 約 を 締 結 し て い る First Nations は Indian Act の 適 用 を 受 け な い こ と か ら 、も は や Band や Band Council と は 無 縁 で 、独 自 の 統 治 機 構 と し て 自 治政府を設置している。 参考までに、近代的条約に含まれる内容は、土地・天然資源・水の所有権の利用 と管理、魚類・野生動物の捕獲、環境保護、経済発展、雇用、資本移転、資源開発 のロイヤルティ、自然公園・保全地域、社会的・文化的強化、自治等である。 5 Band と は 、Indian Act で 定 義 さ れ た 或 る 特 定 Indian グ ル ー プ の 居 留 地( reserve)を 単 位 と す る 組 織 。 Indian Act に 基 づ き 、 各 Band に は reserve が 指 定 さ れ て い る が 、 近 年 、 法 令 で 使 用 さ れ る 場 合 を 除 き 、 reserve な る 用 語 は 使 用 さ れ ず 、 通 常 、 共 同 体 ( community) と 呼 ば れ る 。 6 Band Council は 、 1 名 乃 至 複 数 の チ ー フ ( Chief) と 複 数 の 評 議 員 ( Councillor) か ら な る 。 6 ( 出 典 ) Land Claims Agreement Coalition HP よ り ( 一 部 追 加 修 正 ) 図3 近代的条約が締結されている地域 3 . BC 州 の First Nations カ ナ ダ 連 邦 政 府 先 住 民 ・ 北 方 省 ( INAC : Indigenous and Northern Affairs Canada) に よ れ ば 、 カ ナ ダ 全 体 で 617 の First Nations 共 同 体 が 存 在 し 、 州 別 で は BC 州 に 最 も 多 く の 共 同 体 が あ り 、 全 体 の 1/3 弱 に 相 当 す る 198 の First Nations 共 同 体 が 存 在 す る 。BC 州 で 自 ら を First Nations と 認 め て い る 人 々 は 15 万 5 千 人 強 、 Metis と 認 め て い る 人 々 は 6 万 9 千 人 強 で あ る 。 ( 1 ) BC 州 に お け る 歴 史 的 条 約 BC 州 に お い て 、First Nations と の 間 で 締 結 さ れ た 歴 史 的 条 約 は 2 つ の み で あ る 。 一 つ は 、 1850 年 か ら 1854 年 に か け て 、 バ ン ク ー バ ー 島 の 14 First Nations と 英 国 植 民 地 Colony of Vancouver Island が 締 結 し た Vancouver Island Treaties、 も う 一 つ は 1899 年 に BC 州 北 東 部 、 Alberta 州 北 部 、 Saskatchewan 州 北 西 部 及 び Northwest 準 州 南 部 の 39 First Nations と 英 国 Victoria 女 王 が 締 結 し た Treaty 8 で 、 BC 州 で は 8 First Nations が 署 名 し て い る 。 こ れ ら の 条 約 に 基 づ き 、 First Nations は 居 留 地 ( reserve) 維 持 、 狩 猟 権 等 の 伝 統 的 活 動 を 継 続 す る 権 利 を 確 保 す る代りに、カナダ政府側はそれらの土地に関する権利を取得している。 7 ( 2 ) BC 州 に お け る 最 初 の 近 代 的 条 約 ( BC 条 約 委 員 会 設 立 以 前 よ り 交 渉 ) BC 州 に お け る 最 初 の 近 代 的 条 約 は 、100 年 以 上 に 亘 る 交 渉 を 経 て 、1999 年 5 月 、 Nisga’s First Nation、BC 州 政 府 及 び カ ナ ダ 連 邦 政 府 の 3 者 間 で 締 結 さ れ た Nisga’s Final Agreement で 、本 条 約 は 2000 年 5 月 11 日 に 発 効 し た 。こ れ に よ り 、Nass River Valley の 2,019km 2 の 土 地 が Nisga’s 所 有 地 と し て 認 め ら れ ( 図 3 参 照 )、 カ ナ ダ 憲 法 の 枠 内 で Nisga’s 自 治 政 府 ( Nisga’s Lisims Government) が 認 め ら れ て い る 。 Nisga’s 自 治 政 府 は 、Nisga’s 所 有 地・資 産 の 管 理 、Nisga’s の 市 民 権 、言 語 、文 化 等 に関して自らの法律を定める権利を有している。 ( 3 ) BC 州 に お け る 条 約 締 結 プ ロ セ ス 1992 年 、建 設 的 な 関 係 構 築 を 目 的 と し て 開 催 さ れ 連 邦 政 府 、BC 州 政 府 及 び First Nations サ ミ ッ ト に て 、 条 約 締 結 を 促 進 す る た め の BC 条 約 委 員 会 ( BC Treaty Commission) の 設 立 が 合 意 さ れ た 。 BC 条 約 委 員 会 は 1992 年 9 月 に 設 立 さ れ 、 現 在 、本 委 員 会 の 主 導 の 下 、6 段 階 の プ ロ セ ス( 表 3 参 照 )を 踏 ま え た 条 約 締 結 を 目 指 す 交 渉 が 進 め ら れ て い る 。主 な 交 渉 内 容 は 、First Nations 自 治 政 府 管 理 体 制 及 び 財 務上の取決め、土地、水資源の管轄及び所有権、金銭による和解等である。 表3 BC 条 約 委 員 会 の 条 約 締 結 交 渉 段 階 First Nation数 交渉段階 内 容 第1段階 先住民族が条約委員会に交渉する意図がある旨のStatement of Intendt(SOT)を提出する。 第2段階 SOT受領後、 条約委員会は45日以内に最初のミーティングを招集する。このミーティングで は、連邦政府、州政府、先住民族の代表が交渉への準備が整っていることを確認し、情報交換 等を行う。 6 第3段階 フレームワーク合意書( 条約 の項目)に関する交渉を行い、条約に含むべき内容、予想され る第4段階のタイムフレームについて交渉する。 2 第4段階 本質的な交渉の 開始。フレームワーク合意書に基づき、土地、海。資源等対する先住民の権 利、政府の権限、法律関係、紛争解決とうについて交渉を進める。 41 第5段階 条約締結についての最終交渉 7 第6段階 条約署名 8 ( 出 典 ) 平 成 27 年 度 海 外 炭 高 度 化 調 査 等 調 査 「 ブ リ テ ッ シ ュ ・ コ ロ ン ビ ア 州 に お け る 石 炭 に 係 る 投 資 環 境 調 査 」 報 告 書 ( 平 成 27 年 10 月 )( 一 部 修 正 ) BC 条 約 委 員 会 の 主 導 の 下 で 、First Nations と の 条 約 締 結 交 渉 が 進 め ら れ た 結 果 、 2009 年 3 月 、本 条 約 委 員 会 下 で の 最 初 の 条 約 と な る Tsawwassen First Nation Final Agreement が Tsawwassen First Nation、 BC 州 政 府 及 び カ ナ ダ 連 邦 政 府 の 3 者 間 で 締 結 さ れ 、 2009 年 4 月 に 発 効 し て い る 。 Tsawwassen First Nation は 、 自 治 政 府 の 設 立 、 バ ン ク ー バ ー の 南 に 位 置 す る 724 ha の 土 地 所 有 、 約 10,000km 2 に 亘 る 陸 上 及 び Salish Sea で の 狩 猟 及 び 漁 業 を 行 う 権 利 の 保 有 等 が 確 認 さ れ て い る 。 な お 、2016 年 2 月 時 点 で 、BC 州 内 の First Nations の 半 分 強 に 相 当 す る 64 First Nations( 共 同 体 数 で は 104)が 条 約 を 締 結 又 は 条 約 締 結 交 渉 に 参 加 し て い る( 表 3 参 照 ) が 、 BC 条 約 委 員 会 の 下 で 条 約 署 名 に 至 っ て い る の は 下 記 の 8 First Nations に 過 ぎ な い ( 図 3 参 照 )。 8 ‐ Tsawwassen First Nation ‐ Maa-ulth First Nations( Huu-ay-aht、Ka:'yu:'k't'h/Che:k'tles7et'h'、Toquaht、 Uchucklesaht 及 び Ucluelet の 5 First Nations) ‐ Yale First Nation ‐ Tla’amin Nation 4 . BC 州 で 探 査 活 動 を 行 う 際 の First Nations と の 協 議 プ ロ セ ス BC 州 で First Nations と の 間 で 条 約 が 締 結 さ れ て い る の は 、 上 述 の よ う に 、 2 つ 歴 史 的 条 約 ( Vancouver Island Treaties 及 び Treaty 8) 及 び 8 First Nations と 間 で 締 結 さ れ た 5 つ の 近 代 的 条 約 の み で あ り 、BC 条 約 委 員 会 の 下 で 条 約 締 結 交 渉 が 進 め ら れ て い る も の の 、 現 状 、 BC 州 全 体 の 約 2/3 の 地 域 で First Nations と の 間 の 条 約 は 未 締 結 の ま ま で あ る 。 従 っ て 、 BC 州 内 で は 、 First Nations の 伝 統 的 活 動 領 域 に 係 る 土 地 権 原 ( Aboriginal title 7 ) に 関 す る 主 張 が 石 炭 の 探 査 ・ 開 発 に 対 し て ど のような影響を与えるのか不明瞭な部分が多く、プロジェクト提案者である民間企 業 が 資 源 探 査・開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 進 め る 際 は 、NoW 申 請 前 後 か ら 影 響 の 受 け る 可 能 性 の あ る First Nations に 対 し て 、 BC 州 政 府 の 定 め た 協 議 プ ロ セ ス に 従 っ て 、 関 与 ( engagement 8 ) 活 動 を 行 う 必 要 が あ る 。 ( 1 ) 協 議 ( consultation 9 ) 及 び 調 整 ( accommodation 10 ) 上 述 し た よ う に 、 First Nations の aboriginal rights 及 び treaty rights は 憲 法 で 保 証 さ れ て い る 。 民 間 企 業 が 石 炭 探 査 を 実 施 す る た め に 申 請 す る NoW に 関 し て 、 First Nations の 権 利 や 利 益 が 影 響 を 受 け る 可 能 性 の あ る 場 合 に は 、 BC 州 政 府 は 当 該 First Nations に 対 し て 十 分 な consultation を 行 い 、適 切 な accommodation を 行 う義務 11 を 負 っ て い る 。 一 方 、 First Nations も 州 政 府 の consultation に 対 し て 誠 意 を 以 っ て 対 応 す る 義 務 を 負 っ て い る 。 BC 州 政 府 に よ る consultation プ ロ セ ス を 通 し て 、First Nations は 提 案 プ ロ ジ ェ ク ト に 対 し て 、意 見 や 懸 念 事 項 を 表 明 す る こ とができる。 ( 2 ) 関 与 ( engagement) 州 政 府 が 責 任 を 負 う consultation を 補 完 す る こ と も 含 め 、プ ロ ジ ェ ク ト 提 案 者 は 、 プ ロ ジ ェ ク ト の 計 画 段 階 か ら 、影 響 を 受 け る 可 能 性 の あ る First Nations に 対 し て 早 期 の 情 報 共 有 活 動 を 含 め た engagement 活 動 を 開 始 す る こ と が 望 ま れ て い る 。 プ ロ 7 Aboriginal title と は 、 先 住 民 族 共 同 体 が 独 占 的 使 用 又 は 占 有 す る 土 地 に 対 す る 権 利 に 限 定 さ れ ず、狩猟や漁獲等を行っていた伝統的活動領域に対する権利も含む。 8 Engagement と は 、互 恵 関 係 を 構 築 す る 目 標 に 向 け 、プ ロ ジ ェ ク ト 情 報 を 共 有 し 、当 地 の 優 先 事 項 及 び 懸 念 事 項 へ の 理 解 と 対 応 を 行 う た め の 、長 期 に 亘 る 先 住 民 共 同 体 及 び 個 人 と の 会 合 プ ロ セ スのこと。 9 Consultation と は 、 先 住 民 共 同 体 の 権 利 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 の あ る 活 動 に 関 す る 政 府 の 検 討 又 は 決 定 内 容 に つ い て 、先 住 民 共 同 体 に 通 知 す る プ ロ セ ス の こ と で 、先 住 民 共 同 体 は 通 知 内 容 に つ い て 見 解 や 懸 念 事 項 を 表 明 す る 機 会 が 与 え ら れ て お り 、政 府 は そ れ ら を 十 分 か つ 公 平 に 考 慮 す る必要がある。 10 Accommodation と は 、 aboriginal rights 又 は title に 対 す る 侵 害 の 可 能 性 を 回 避 又 は 最 小 限 化 す ることを目的として、改善すること。 11 こ の 義 務 は 、 2004 年 11 月 18 日 、 カ ナ ダ 最 高 裁 が 下 し た Haida Nation v. BC and Weyerhaeuser 判 決 で 明 確 に さ れ た 。 9 ジ ェ ク ト 提 案 者 に よ る engagement の 実 施 が 、当 該 First Nations と の 良 好 な 関 係 構 築 に 寄 与 す る も の と し て 、 州 政 府 は 早 期 の engagement の 取 組 み を 奨 励 し て い る 。 ( 3 ) 4 段 階 別 consultation 及 び engagement の 内 容 州 政 府 は 、プ ロ ジ ェ ク ト 申 請 者 が First Nations に 対 し て ど の よ う な ア プ ロ ー チ を 検 討・実 施 す べ き か を 纏 め た 手 引 書 を 作 成 し て い る 。そ の 一 例 が“ British Columbia - Guide to Involving Proponents When Consulting First Nations 2014” で あ り 、 プ ロ ジ ェ ク ト 計 画 段 階 ・NoW 申 請 段 階 、関 与 段 階 、調 整 段 階 及 び 州 政 府 に よ る 決 定 段 階 の 4 段 階 に 分 け て 、First Nations に 対 し て 州 政 府 が 実 施 す る consultation 及 び プ ロ ジ ェ ク ト 申 請 者 が 実 施 す る engagement の 各 内 容 が 記 載 さ れ て い る 。 そ の 骨 子 が 同 手 引 書 の“ Appendix A: Consultation Phases”と し て 取 り 纏 め ら れ て お り 、表 4 に “ Appendix A” の 和 訳 を 示 し た 。 表4 First Nation と の 協 議 に お け る 州 政 府 と 申 請 者 の 役 割 州政府の役割 プロジェクト段階 申請者の役割 Phase 1: 準 備 ( 計 画 段 階 ) • 初期計画 • 関 係 す る First Nations の 特 定 を 支 援 し 、 • 関 係 す る First Nations を 特 定 取組み過程で重視すべき情報を提供す す る た め に 、Consultative Areas る。 Database を 調 査 す る 。 • 関 係 す る First Nations に 関 し 、 そ の 文 化 、歴 史 、経 済 、政 治 ・ 統治構造等の関連情報を入手 する。 • 計画 • 先住民族利益への悪影響を回避又は軽 減するための選択肢を模索するよう、 申請者に働きかける。 • 政 府 と First Nations 間 の 協 議 の 手 引 き となるプロセスを定めた協定(例:戦 略的関与協定或いは森林域収益分配協 定)がある場合、申請者に対し、協定 リストを入手できるウェブ・アドレス を確定する。この情報により、州政府 が協定に基づき実施する協議方法につ いて、申請者は理解することが可能と なる。 • 申請書提出 • First Nations へ の 関 与 活 動 を 行う意向を州政府職員に通知 する。 • プロジェクトの計画段階で First Nations に 通 知 及 び 参 加 を求める。 • プロジェクト地域における First Nations の 先 住 民 利 益 等 を調査し、計画を立てる。 • 先住民利益への影響に対処す るための軽減可能選択肢につ いて協議する。 • First Nations に 対 し 、申 請 書 提 出日等の重要事項を継続的に 通知する。 Phase 1: 準 備 ( 申 請 段 階 ) 1.First Nations の 特 定 2. 条 約 及 び プ ロ セ ス協定の特定 3. 入 手 可 能 な 情 報 の検討 4. 協 議 レ ベ ル の 検 討 5.First Nations へ の 関与者の決定 • 州の協議手続に関して、申請者に割振 • 協議手続の一部又は全てが申 る可能性のある事項を決定する。 請者に割振られることを受入 • 州から申請者に提供可能な事項: れるか否かの立場を州に表明 ・ First Nations の 特 定 に 必 要 な 支 援 する。 ・ 申 請 者 が First Nations へ の 関 与 活 動 を • ど の First Nations が 先 住 民 利 行う際の支援となり得る下記事項等: 益を有するのか、州に確認す ‐ Phase 1 で 入 手 可 能 な 情 報 か ら 得 た る。 First Nations の 先 住 民 利 益 に つ い て • 初 期 の 関 与 活 動 を 通 し て 得 た の非機密情報 先住民利益に関する情報を州 ‐提案された活動で影響を受ける可能 に提供する。 性のある先住民利益についての情報 及び回避又は軽減可能な方策 ‐ First Nations の 懸 念 事 項 に 応 え る た 10 プロジェクト段階 州政府の役割 申請者の役割 め、また協議記録情報とするために 取った措置を含め、関与活動と結果 についての文書作成に係る情報 ‐協議プロセスの終了を支援するた め、申請者から要求のある追加情報 ‐ First Nations が 表 明 し た 重 要 事 項 又 は懸念事項の要約を含めた協議プロ セスの状況 • 協議プロセスにおいて、申請者が参加 す る こ と が 適 切 な 場 合 、 そ の 旨 を First Nations に 通 知 す る 。 • First Nations が 申 請 者 /鉱 業 界 の 関 与 を 希 望 し な い 場 合 は 、 州 政 府 が First Nations と の 協 議 を 継 続 す る 。 Phase 2: 関 与 1. 情 報 提 供 と 意 見 を求める • 申請者単独又は政府代表者と 共 に First Nations と の 会 議 に 参加する。 • 申 請 者 自 身 の 会 議 に First Nations と 共 に 参 加 す る 。 • プロジェクトの活動計画、場 所(地図)、土地や資源への 影響可能性に関する情報を First Nations へ 提 供 す る 。 • プロジェクトにより影響を受 ける可能性のある先住民利 益 、先 住 民 利 益 に 及 ぼ す 影 響 、 その他の活動又は利用可能な 場所に関する情報の収集又は 話合いを行う。 • 先住民利益に対処するため、 軽減可能選択肢を話し合う。 2. First Nations へ の関与 • 申 請 者 と First Nations 間 の 関 与 活 動 に ついて継続的に情報提供を受け、必要 に応じて明確化と確認を行う。 • 申 請 者 は 、関 与 及 び そ の 試 み 、 確認できた先住民利益と懸念 事項、実行又は計画する軽減 措置について、全て文書化す ることが推奨される。 • 申請者は、先住民利益に与え る可能性のある影響に関する 懸念事項に対処することが推 奨される。軽減措置には、現 地活動跡の回避、最小化又は 変更、活動計画時期の変更、 環境モニタリング及びその他 軽減選択肢等が含まれる。 • First Nations か ら の 懸 念 事 項 及び情報要求に対処する。 3. 適 切 な レ ベ ル で の協議の完了 • 申請者の関与記録が不完全と思われる 場合、州職員は申請者に明確化を求め る。未解決の問題がある場合、申請者 の継続関与が適切かどうか又は州が未 解決事項を完結するのが適切かどうか 検討する。 • 州 は 申 請 者 の First Nations と の 関 与 記 録を検討し、その結果について確認す る。確認する結果には、影響を受ける 可能性のある先住民利益、その影響の 程 度 、及 び First Nations の 懸 念 事 項 に 対 • 下記を含む関与記録を州に提 出する。 ‐特別な先住民利益及び生じ る可能性のある影響の記述 ‐調整を目的として実施され た修正事項の記述 ‐ 連 絡 ロ グ 、通 信・会 議 の 記 録 、 連絡の試み等記録のコピー ‐関与活動及び結果の要旨 • First Nations に プ ロ ジ ェ ク ト に関する追加情報を提供、又 11 州政府の役割 プロジェクト段階 処するための回避又は軽減計画やその 他措置等が含まれる。 申請者の役割 は、必要に応じ、先住民利益 に関する情報を明確化する。 Phase 3: 調 整 1. 協議及び調整の 必要性の検討 • 州は、調整の必要性を評価する責任を 負う。 • 州 は 、追 加 情 報 又 は 調 整 が 必 要 な 場 合 、 申請者に通知する。 2. 調 整 オ プ シ ョ ン の特定 • 州 は 申 請 者 に 対 し 、 州 政 府 職 員 と First • 必 要 な 場 合 、 先 住 民 利 益 へ 与 Nations と 共 に 調 整 オ プ シ ョ ン に つ い て える可能性のある影響に対処 検討及び探索の要請を行うことができ するために、回避又は軽減措 る。 置を特定し、実行する。 3. 調 整 申 入 れ 及 び 合意達成の試み • 州 は 、 First Nations に 調 整 措 置 を 提 案 し、調整案に関して合意達成を図る責 任を負う。 Phase 4: 決 定 と フ ォ ロ ー ア ッ プ 1. 協 議 及 び 調 整 記 録の評価 • 協議の深さ及び協議プロセスの状況を 考慮し、州は申請者の関与記録を検討 し、政府の協議及び調整義務を果たす ため、必要な場合、どのような追加措 置が必要かを検討する。 • 州は、協議の進捗状況を申請者に継続 的に通知し、州が協議プロセスで取得 した関連情報を申請者と共有すること ができる。 2. First Nations に 決定を通知 • 州 政 府 は 、 申 請 書 に 対 す る 決 定 を First Nations 及 び 申 請 者 に 通 知 す る 。 3. 調 整 が 実 行 さ れ ることを確認 • 州政府は、調整の遵守及び履行につい て監督する。 • 必 要 な 場 合 、 申 請 者 /鉱 業 界 は 調整を実行する。 ( 出 典 ) British Columbia - Guide to Involving Proponents When Consulting First Nations 2014: Appendix A( 和 訳 ) 5 . Aboriginal title に 係 る 重 要 な カ ナ ダ 最 高 裁 判 決 Aboriginal title は 、探 査 段 階 の プ ロ ジ ェ ク ト に 対 し て も そ れ な り の 影 響 は あ る が 、 開 発 段 階 の プ ロ ジ ェ ク ト に は 非 常 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す 。こ の Aboriginal title に 関 して、近年、2 つの重要な判決がカナダ最高裁で下された。本判決内容については、 平 成 26 年 10 月 2 日 付 カ レ ン ト ・ ト ピ ッ ク ス 「 カ ナ ダ に お け る 先 住 権 原 に 関 す る 歴 史 的 判 決 と そ の 影 響 」に て 詳 細 に 報 告 さ れ て い る が 、参 考 ま で に 、2 つ の 判 決 で 明 確 にされたポイントを下記する。 ( 1 ) Tsilhqot’in Nation v. British Columbia 2014 SCC44( 判 決 : 2014 年 6 月 ) Aboriginal title は 絶 対 的 な も の で は な く 、Aboriginal title が 確 定 さ れ て い る 土 地 で、下記 2 つの条件のどちらかが満足されれば、プロジェクト開発を進めることが できる。 1) 州 政 府 が 先 住 民 族 の 同 意 を 得 る こ と 。 又 は 、 2) 州 政 府 が Aboriginal title 侵 害 の 正 当 化 を 立 証 で き る 場 合 。 Aboriginal title の 侵 害 を 正 当 化 す る た め に は 、 州 政 府 は 下 記 3 条 件 を 満 足 さ 12 せる必要がある。 ① 州 政 府 は 先 住 民 族 と consultation 及 び accommodation を 行 う 義 務 を 果 た していること。 ② Aboriginal title 侵 害 の た め 、 実 質 的 で や む を 得 な い 目 標 /公 共 目 的 ( 判 決 では、例として、鉱業活動が言及されている)があること。 ③ Aboriginal title の 侵 害 が 、州 政 府 の 先 住 民 族 に 対 す る 信 認 義 務( fiduciary duty) に 合 致 し て い る こ と 。 ( 2 ) Grassy Narrows First Nation v. Ontario 2014 SCC48( 判 決 : 2014 年 7 月 ) 先 住 民 族 の treaty rights に 関 す る 判 決 で 、 カ ナ ダ 最 高 裁 は 下 記 を 確 認 し た 。 1) 州 に 規 制 さ れ る 目 的( 鉱 業 活 動 や 森 林 活 動 等 )の た め 、州 は 条 約 に 基 づ き 先 住 民 に 与 え ら れ た 土 地 を 取 り 上 げ る こ と が で き る 。ま た 、こ の 場 合 、連 邦 政 府 に よ る 承 認 は 不 要 で あ る 。州 政 府 は 、条 約 で 認 め ら れ た 土 地 を 確 保 す る た め 、先 住 民 族 の treaty rights 行 使 に 与 え る 影 響 に つ い て 、 先 住 民 族 と consultation を行わなければならない。 2) Tsilhqot’in 判 決 と 同 様 、州 政 府 が 上 記 3 条 件 に つ い て treaty rights 侵 害 の 正 当 化 を 立 証 で き る 場 合 、 treaty rights を 侵 害 す る こ と が で き る 。 6.おわりに カ ナ ダ 、特 に BC 州 で は 、連 邦 政 府 及 び BC 州 政 府 と の 間 で 条 約 を 締 結 し て い な い First Nations が 多 く 、 BC 州 で 石 炭 探 査 ・ 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 推 進 す る 企 業 は 、 そ の 対 象 エ リ ア を 伝 統 的 活 動 領 域 と 主 張 す る First Nations に 対 し て 、consultation を 行う州政府と連携を取りつつ、できるだけ早い段階から自発的、主体的に engagement 活 動 を 実 施 す る こ と が 重 要 に な っ て き て い る 。 こ の よ う な 活 動 が First Nations と 良 好 な 関 係 を 構 築 ・ 維 持 す る こ と に 寄 与 し 、 プ ロ ジ ェ ク ト 成 否 の 大 き な 鍵になることは間違いない。 参 考 ま で に 、 BC 州 に お い て 、 First Nations に よ る 開 発 反 対 運 動 に よ り プ ロ ジ ェ ク ト の 開 発 が 頓 挫 し た 例 を 挙 げ て お き た い 。 Panorama North 案 件 の 北 西 約 60km に 位 置 す る Groundhog 炭 田 内 の 無 煙 炭 プ ロ ジ ェ ク ト Arctos Project( 旧 名 Mount Klappan Project)は 、Fortune Minerals Ltd( 以 下 、FM 社 )と 韓 国 POSCO が JV を 形 成 し て Environment Assessment Act に 基 づ き 、EA プ ロ セ ス を 進 め て い た と こ ろ 、プ ロ ジ ェ ク ト 開 発 対 象 エ リ ア の Klappan 地 域 を 伝 統 的 か つ 文 化 的 に も 重 要 な“ 神 聖 な る 源 流( Sacred Headwaters)”域 と 主 張 す る Tahltan First Nation が 開 発 反 対 運 動 を 進 め た 結 果 、 最 終 的 に 、 2015 年 5 月 、 FM 社 と POSCO は Arctos Project を BC Rail( BC 州 政 府 所 有 ) に 18.3 百 万 C$で 売 却 し 、 Arctos Project か ら 撤 退 し て いる。 Tahltan Nation は 、 そ の 伝 統 的 活 動 領 域 に お け る 資 源 開 発 に 全 て 反 対 し て い る 訳 で は な く 、 Imperial Metal Corporation が 2014 年 末 に 開 発 段 階 を 終 了 、 2015 年 7 月 よ り 銅 ・ 金 ・ 銀 を 生 産 し て い る Red Chris 鉱 山 の よ う に 、 開 発 に 同 意 し た プ ロ ジ ェ ク ト も あ る 。Arctos Project に 関 し て は 、FM 社 と POSCO の 撤 退 に 至 る 経 緯 を 含 め、別な機会に報告することとしたい。 13 なお、本稿は、主として探査段階のプロジェクトを対象としているため触れなか ったが、プロジェクトが探査段階から開発段階に移行する際は、開発当事者はプロ ジ ェ ク ト 開 発 対 象 エ リ ア を 伝 統 的 活 動 領 域 と 主 張 す る First Nations と の 間 で 、 開 発・操 業 段 階 に お い て First Nations に 対 し て 供 与 す る 各 種 便 益 を 含 む 合 意 内 容 を 記 し た 協 定 書 、 通 常 、“ Impact and Benefit Agreement( 以 下 、 IBA)” と 呼 ば れ る 契 約 の 締 結 が 求 め ら れ る 。法 律 上 は 、開 発 当 事 者 は IBA を 締 結 す る 義 務 は 無 い も の の 、 First Nations に 対 し て consultation 及 び accommodation を 行 う 義 務 を 負 う 州 政 府 は 、実 質 的 に 、IBA の 締 結 を 州 政 府 が 付 与 す る 鉱 山 許 可 の 必 要 条 件 と し て い る 。IBA に は 、 通 常 、 First Nations の 雇 用 、 鉱 山 収 益 の 分 配 、 環 境 及 び 神 聖 エ リ ア の 保 全 、 能 力 開 発 、ビ ジ ネ ス 機 会 の 提 供 等 が 含 ま れ る が 、近 年 、First Nations に よ る 鉱 山 権 益 取 得 を 含 む IBA も 出 現 し て い る 。 最 後 に 、BC 州 に お け る mineral の 探 査・開 発 業 界 を 代 表 す る 協 会 Association for Mineral Exploration British Columbia 12 ( AME BC) に は 、 Aboriginal Relations Committee が 設 け ら れ て お り 、Aboriginal people の 優 先 事 項 や 課 題 等 へ の 理 解 や 対 応 に 関 す る 会 員 へ の 支 援 、ま た Aboriginal people の 本 業 界 に 対 す る 理 解 を 促 進 す る 活 動 を 行 っ て い る 。 こ の Aboriginal Relations Committee が 中 心 と な り 作 成 し た 手 引 書 に ”Aboriginal Engagement Guidebook: Revised Edition - May 2015”が あ る 。 本 手 引 書 は 、 企 業 が 探 査 段 階 に お い て 実 施 す る engagement 活 動 に 関 し て 、 推 奨 さ れ る 効 果 的 な 方 法 、 探 査 段 階 で First Nations と Exploration Agreement の 締 結 交 渉 を 行 う 場 合 の 推 奨 さ れ る 方 法 等 に 関 す る 内 容 が 盛 り 込 ま れ て お り 、 今 後 BC 州 で 石炭探査の実施を検討する企業にとって大変参考になるものであり、記しておきた い。本稿では、この手引書を参照しつつ適宜引用させていただいた。 お こ と わ り:本 レ ポ ー ト の 内 容 は 、必 ず し も 独 立 行 政 法 人 石 油 天 然 ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 と し て の 見 解 を 示 す も の で は あ り ま せ ん 。正 確 な 情 報 を お 届 け す る よ う 最 大 限 の 努 力 を 行 っ て は お り ま す が 、本 レ ポ ー ト の 内 容 に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 及 び レ ポ ー ト 執 筆 者 は 何 ら の 責 め を 負 い か ね ま す 。な お 、本 資 料 の 図 表 類 等 を 引 用 等 す る 場 合 に は 、独 立 行 政 法 人 石 油 天 然 ガ ス・金 属 鉱 物 資 源 機 構 資 料 か ら の 引 用 で あ る 旨 を 明 示 し て く だ さ い ま す ようお願い申し上げます。 Association for Mineral Exploration British Columbia は 1812 年 に 設 立 さ れ 、 BC 州 を 主 と す る mineral の 探 査 、開 発 を 促 進 す る 業 界 団 体 。地 球 科 学 者 、探 査 ・開 発 技 術 者 等 の 個 人 会 員 は 4,000 名 以 上 、企 業 会 員 は 300 社 以 上 で 、業 界 の 健 全 な 発 展 及 び 会 員 の 探 査 活 動 を 支 援 す る た め 、 政 府 へ の 政 策 提 言 、 aboriginal people と の 連 携 、 一 般 へ の 啓 発 活 動 等 を 実 施 し て い る 。 12 14
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