1.学校法人会計の概要 学校法人会計と企業会計は、活動目的が異なっているため、会計処理や作成する計算書の種類が異なります。 企業は、活動自体が営利を目的としており、計算書は企業の1年間の損益等の経営状態を見ることに視点がおかれていますが、 学校法人は、非営利組織であるため、基本的に損益という概念はありません。教育・研究活動が安定的に遂行されているかどう かということに視点がおかれます。 1.企業会計と学校法人会計の違い 企業会計と学校法人会計には、以下の特性があります。 企業会計 学校法人会計 活動目的 営利目的・利益追求 非営利・公共的・教育・研究活動 会計処理 企業会計原則 学校法人会計基準 基本財産 資本金(株主出資) 基本金(自己所有財産) 利益処分 あり(株主配当) なし(収支均衡) ①キャッシュフロー計算書 ①資金収支計算書 ②損益計算書 ②事業活動収支計算書(事業活動収支内訳表) ③貸借対照表 ③貸借対照表 計算書類 (資金収支内訳表・人件費支出内訳表・活動区分資金収支計算書) (固定資産明細表・借入金明細表・基本金明細表) 2.計算書類の種類と特徴 上表のように、企業会計でも学校会計でも主に3つの計算書類を作成します。それぞれ異なる視点(目的)で財務状況の成績 を確認するものという意味では類似しています。 ただし、企業と大学のそれぞれの活動目的に応じた特性が反映されており、特に「③貸借対照表」は同一名称ではありますが、 中身は異なります。ここに登場する「基本金」というしくみは、企業会計にはない学校法人ならではの制度です。 学校会計における3つの計算書類の特徴は以下の通りです。 … 平成 27(2015)年度 平成 28(2016)年度 平成 29(2017)年度 平成 30(2018)年度 … ①資金収支計算書 1年間(4/1~3/31)の現金(資金)の収支を報告する書類。 当該年度に借入金があった場合、この表では収入としてプラスとしてカウントされます。 当該年度に建物や設備への大きな支出があると、収入を上回る支出増になる場合もあります。 財務成績をみる表としては最も分かりやすい表ですが、単純で表面的であるとも言えます。 ②事業活動収支計算書 1年間(4/1~3/31)の価値の動きを報告する書類。 収入には、借入金など“負債になるもの”はカウントしません。 支出の中で、建物や施設などについては、現金は出ていくが、その後“長期にわたって使う”固定資産 という財産に替わったのだから損失ではないという考え方を反映します。 まず、こうした固定資産は「第1号基本金への組み入れる」という学校法人ならではの計算を行います。 また、こうした固定資産は“長期にわたって使う”間に価値が下がっていくので、「減価償却」という しくみで何年もかけて費用として計上する計算を行います。 長期的な観点で財務成績を確認できますが、実際の現金(資金)の動きをともなわない面があります。 ③貸借対照表 1年間の動きをまとめた①②書類に対し、 「貸借対照表」は、これまでの何十年という歴史の累積結果を、毎年 3/31 時点の成績として確認するものです。 土地・建物・現金預金といった資産や、借入金といった負債、学校の財政的基盤を表す基本金などについて、そ の時点の総額を確認できます。 東京都市大学単独のものはなく、学校法人五島育英会として計算されます。 1 1.学校法人会計の概要 3.学校法人の会計年度 企業における「会計年度」は、当該企業の事情にあわせて設定されますが、学校法人の場合は、私立学校法により、以下の通 り「会計年度は4/1~3/31」であることが定められています。 なお、予算が余ったからと言って次年度に繰り越すことはできません。毎年度ごとに予算編成と執行をリセットしますので注 意して下さい。 私立学校法 (会計年度) 第48条 学校法人の会計年度は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終るものとする。 4.学校法人財政の特性 学校法人財政には以下の特性があります。 ①資金源泉の公共性 ※会計検査院の検査の観点 学校法人の資金は、学納金がほとんどを占め、また、補助 これらの観点が、つまりは予算執行におけるポイントと言えます。 金(税金)や善意の寄付金によって成り立っています。 ①「正確性」…決算の表示が予算執行など財務の状況を正確に表現 そのため、効率的な使用計画と、無駄がなく公正な使 しているか。 用が求められ、執行内容については、公認会計士による ②「合規性」…会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理 チェック(例年5月に前年度の期末監査、11月に当年 されているか。 度の期中監査)を行い、年度末には「監査報告書」をま ③「経済性」…事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用 とめています。 で実施できているか。 また、補助金(税金)が投入されていることから、数 ④「効率性」…同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるい ※ 年ごとに会計検査院による実地検査 が行われます。こ は費用との対比で最大限の成果を得ているか。 こで不正な経理処理や不当な支出が認められると、重大 ⑤「有効性」…事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、初期の なペナルティが課せられることになります。 目的を達成しているか、また、効果を上げているか。 ②収入・支出要因の固定性 収入については、年度のはじめに学納金を主とするほぼすべての金額が固定的に予想されます。支出については、年度途 中に思い切った施策を行っても当年度の収入が激増する訳ではありません。収入はもとより、支出についても当初計画を自 由に変更することは実際上困難であり、 「緻密な予算計画」と「計画に基づく執行」が重要であると言えます。 5.学校法人会計における「基本金」 学校法人会計の特徴でもある「基本金」の概要は、以下の通りです。 学校法人会計基準 第29条 学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入の うちから組み入れた金額を基本金とする。 第30条 学校法人は次に掲げる金額に相当する金額を基本金に組み入れるものとする。 1 学校法人が設立当初に取得した固定資産で教育の用に供 第1号基本金 されるものの価額又は新たな学校の設置若しくは既設の 固定資産(土地・建物・機器備品・図書など)の取得価額を総計し 学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得 た金額。本法人は平成 27 年 3 月時点で約 900 億円(現金預金の金額 した固定資産の価額 ではないので注意) 。 2 学校法人が新たな学校の設置又は既設の学校の規模の拡 第2号基本金 大若しくは教育の充実向上のために将来取得する固定資 固定資産取得の将来計画のための資金で、本法人では平成 27 年 3 月 産の取得に充てる金銭その他の資産の額 時点で約 12 億円を計上。 3 基金として継続的に保持し、かつ、運用する金銭その他の 第3号基本金 資産の額 奨学金などの原資のための基金で、本法人では平成 27 年 3 月時点で 4 恒常的に保持すべき資金として別に文部科学大臣の定め 約 18 億円を計上。 る額 第4号基本金 約1カ月分の運転資金として、本法人では例年 12~13 億円を計上。 2 2.学校法人が作成する計算書類 1.資金収支計算書 「資金収支計算書」は1年間のお金(資金)の収支を報告する書類です。 ■用語解説■ 資金収支計算書ならではの科目 前受金収入 例えば、今年度 11 月の推薦入試で合格した受験生が、入学手続きとして「学生生徒等納付金(入学金・授業料など)」を、今年度 11 月に入 金したとします。 この場合、収入としては入金があった年度(=今年度)にカウントされますが、そのお金は翌年度の教育研究活動のためのものです。 このような収入を「前受金」として別枠に計上しておき、翌年度になってから正勘定科目の「学生生徒等納付金」に振り替えます。 資金収入調整勘定 そうすると、今年度の「学生生徒等納付金収入」の金額には、前年度に「前受金」として計上しておいたお金が含まれていることになります。 今年度になって「学生生徒等納付金収入」という正勘定科目に振り替えられているからです。 しかしそれでは、今年度に在籍する4学年分の「学生生徒等納付金収入」と、翌年度用に入金された新入生分の「前受金」の、計5学年分の 収入が計上されることになってしまいます。 前年度の「前受金」の分が「学生生徒等納付金収入」になった分は“消し込み”をして調整します。これが「資金収入調整勘定」という設定 であり、「△マイナス」でカウントします。 なお、この調整勘定では「前期末 前受金」の他、当該年度に末までに入金すべきものが何らかの理由で翌年度に入金される「期末 未収入金」 なども対象にしています。 2.事業活動収支計算書 「事業活動収支計算書」は1年間の価値の動きを報告する書類で、実際の現金(資金)の動きをともなわない面もあります。 ■用語解説■ 大学における主な収入 学生生徒等納付金 ――――代表的な内容 ――――――入学金・授業料・TAP参加費 主に「入学金」「授業料」など、大学にとってメインとなる収入です。 手数料 ―――――――――――入学検定料 主に「入学検定料」で、志願者数に連動しますが、近年は併願割引制度など多様なパターンがあります。 寄付金 ―――――――――――寄付金・受託研究(外部資金) 使用用途のない「一般寄付」と、先生の研究資金など使用目的を付した「特定寄付」があります。 経常費等補助金 ―――――――補助金(外部資金) 主に「私立大学等経常費補助金」ですが、近年は競争的配分が行われるようになっているため獲得戦略が必要になっています。 付随事業・収益事業収入 ―――受託研究資金(外部資金) この中には「受託事業収入」として、企業等から委託された研究の資金としての収入(受託研究資金)があります。 科研費は? ―――――――――科研費(外部資金) 「科研費」は、「資金収支計算書」にも「事業活動収支計算書」にもあらわれません。これは、科研費管理のための専用の銀行口座で「預り 金」として管理しているからです。 大学における主な支出 人件費 ――――代表的な内容 ―――――――――――給与・保険・退職金 専任教職員・非常勤教員の給与の他、雇用保険や退職金なども含みます。アルバイトやTAの人件費もここに計上されます。 教育研究経費 管理経費 ――経常的経費 よく「教研」 「管理」という通称で用いられていますが、消耗品・光熱水費・旅費交通費などに細分化された科目から構成されます。「教研」 にも「管理」にも類似した科目が登場しますが、「教育研究のために要する経費」と「それ以外の経費」で分けられます。なお、現在の補助金 行政では、「教育研究経費」に資するものを補助金対象としています。 3 2.学校法人が作成する計算書類 事業活動収支計算書ならではの科目 退職給与引当額 退職金の支払いに備えて積み立て計上するもので、その累積は「貸借対照表」の「負債」であらわされます。 減価償却額 「事業活動収支計算書」において、建物・施設・設備などは、現金は出ていくが、その後“長期にわたって使う”固定資産という財産に替わ ったのだから損失ではないという考え方をします。 しかし、こうした固定資産は“長期にわたって使う”間に価値が下がっていきます。 「減価償却」というしくみでは、例えば 10 年使用する固定資産なら、その取得価額を 10 年分に分割して、当該年度は 1/10 だけを費用とし て計上するという計算をします。 取得費用を耐用年数分に配分しているとも言えます。固定資産の評価が下がっていく分を毎年費用として計上するとも言えます。当該資産を 再取得した際にバランスが急に悪化しないための計算とも言えます。 実際のお金(現金)の動きがある訳ではなく、 「減価償却」という請求書が届く訳でもありません。固定資産の価値を当該年度の計算書に反 映するためのしくみなのです。 なお、過去に購入した固定資産の減価償却額も累積してカウントされてくるので、左表では「教育研究経費」のうち約 13 億円を占めるとい う大きな金額になっています。 施設・設備の計上は? 前項の「資金収支計算書」 「活動区分資金収支計算書」には、「施設関係支出」 「設備関係支出」という科目があり、建物・施設・設備等にか かったお金(現金)は、そこに計上されています。 一方で、上表「事業活動収支計算書」には、建物・施設・設備というキーワードが見当たりません。 これらは、購入後“長期にわたって使う”固定資産という財産に替わったのだから損失ではない→したがって支出にはカウントしない→ゆえ に支出項目に見当たらないのです。 一方、学校会計には「基本金」というしくみがありますが、4種類の基本金のうちの「第1号基本金」は、学校が取得した固定資産の総価額 を示します。上表で「基本金組入額合計」が 11 億 7244 万円計上されていますが、実はここに施設・設備にかかった費用が計上され、 「損失で はない=支出ではない」ことを「基本金に組み入れる=この表から△マイナスする」として反映しています。 3.貸借対照表 貸借対照表は、 「1年間の財務成績」ではなく、 「各年度3月31日時点におけるこれまでの累積記録」です。 ■用語解説■ 貸借対照表 貸借対照表とは、ある一定時点(期末)における資産の状況を対象表示することで、財政状態を明らかにするものです。 「貸借」というフレーズから、「貸す」 「借りる」といったイメージがありますが、まったく関係ありません。「貸借対照表」というのは簿記用 語だと割り切って下さい。一般的にバランスシート(B/S)と呼ばれることもあります。大学単体のものはなく、学校法人五島育英会全体と して作成されます。 左側(簿記用語で借方)は「学校法人がどのような形で資産を保有しているか」を、右側(貸方)は「その資産の調達方法」をあらわし、複 式簿記のしくみとして、左右は同じ金額になります。もっと簡単に言うなら、 「左側と右側は、その内訳をそれぞれ違う視点から記載したもの」 です。 資産の部 資産とは、学校法人が保有する物財や権利で、貨幣価値を持ち、学校法人の活動に有用なもののことです。 「固定資産」は土地・建物など換金せずにずっと使うもの、 「流動資産」は現金預金や有価証券などいつでも換金できるものです。 負債の部 負債とは、将来返済しなければならない債務や、将来支払うことが分かっている退職金引当金などのことです。簡単に説明すると、「本法人 の全財産のうち、負債分は、返済等によりなくなる予定がある」と言えます。 基本金の部 基本金とは、学校法人会計ならではの制度で、学校法人の財政的基盤を4つの側面からあらわしたものです。 「第1号基本金」は固定資産(土地・建物・機器備品・図書)などの取得価額を総計した金額で、実際のお金(資金)ではありません。 一方で、2~4号はお金(資金)であるとも言えます。 「第2号基本金」は固定資産取得の将来計画のための資金、 「第3号基本金」は奨学金 などの原資の基金、 「第4号基本金」は約1か月分の運転資金にあたるものです。 簡単に説明すると、平成 27 年度末の時点では「本法人の教育研究を支える財政的基盤は 974 億 8965 万円」 。そして、そのうち「土地・建物 の価値として 932 億 5336 万円」があり、 「将来の建物資金として 11 億 7200 万円」 「奨学金のために 18 億 4329 万円」を有し、 「常に保持してお く運転資金として 12 億 2100 万円」がある、と言えます。 4
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