公会計改革の可視化から見える化への進化

新・地方自治ニュース 2016 No.11 (2016 年9月 10 日)
公会計改革の可視化から見える化への進化
公会計改革による地方自治体の財政情報の質的改善が進んでいる。一方で、住民の地方財政、財政
情報さらには公会計への関心が改善しているかは極めて疑問といえる。財政は「数字に凝縮された住
民の運命」ともいわれる中で、住民の運命への関心は改善していない。こうした実態の原因は、公会
計改革の成果、地方財政情報の可視化は進んでも、見える化が進んでいないことにある。見える化と
は何か。可視化が公会計、地方財政に関心のある人に適切な情報を提供することであるのに対して、
見える化とは、関心のない人の目に公会計情報を晒し、理解ではなく意識・認識してもらうことにあ
る。公会計、地方財政への理解を関心のない人にいきなり求めるのではなく、まず少しでも意識・認
識してもらうプロセスを情報提供することへの工夫である。例えば、HP でも目に晒すことから始め
る必要がある。
地方自治体の財政情報の質的転換の取組みとして、2000 年代に入り本格化した公会計改革がある。
公会計改革は、政策議論に企業会計の視点を組み込んだ新たな財務情報を形成し、既存政策に対する
気づきたる異化効果を生み出し、資源配分の構図の新たな視点を形成するものである。
2014 年4月、総務省の「今後の地方公会計の推進に関する研究会」が報告書を取りまとめている。
それに基づいて総務省から全国の地方自治体に対し、「従来、多くの地方自治体がいわゆる総務省改
訂モデルという簡便な方法で財務書類の取りまとめを行ってきたが、2015 年度から 2017 年度までの
3年間ですべての地方自治体に統一的な基準による財務書類作成を要請する。なお、2015 年度1月
頃までにマニュアルの整備を行い、統一的な基準による財務書類作成に関わる初期コストについては
今後も検討していく」という公会計改革に対する通知が提示された。
2015 年1月、上記マニュアルと同時に「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」と
題する通知が提示されている。従来の総務省改訂モデルは、既存の財務データを組み替えるだけで作
成できるため地方自治体にとって導入しやすかった一方、固定資産台帳の整備などを必要とせず、現
金主義会計の問題点を補うという本来の目的も十分に果たせないという課題を抱えていた。新たなマ
ニュアルは、会計処理方法として複式簿記と発生主義を基本的に採用し、データ入力の段階から複式
簿記化することでフロー情報とストック情報を連動させている。また、ICT を活用した固定資産台帳
等を整備し、ストックマネジメント等を可能にする会計の制度体系を意図していることから、公会計
制度に関わる一連の改革が大きな進化を遂げるステップとなっている。地方自治体の多面的な財務分
析の導入に向け、地方自治体の行政担当部局での努力が続いている。
1980 年代以降は、「NPM(New Public Management)」の理論を国・地方自治体の統治体系として
重視する流れが強まった。しかし、2000 年頃から新自由主義による市場メカニズム重視の流れがも
たらしたコスト主義の過熱やセーフティネットの劣化等様々なデメリットが指摘された。それを克服
しつつ市場だけでなく住民参加等民主的手続きを組み込む中で、国や地方自治体の政策や公共サービ
スを形成し展開することを基本とする流れが生じている。NPS(New Public Service)では住民、地縁
団体たる自治会、NPO 組織など多様な主体が異なる価値観の下で参加し、市場だけでなく民主的な
決定を展開することを基本とする。そして、NPM 段階から進んだ民間化とその後の官民パートナー
シップに関して、市場原理ではなく民主主義の視点から住民への奉仕者としての視野を重視し、事業
モデルを形成しようとする NPG(New Public Governance)として表現されている。
NPS は以上の課題を克服するために、スリム化・効率化を最優先とするのではなく、民主的な政
策決定を重視し、公共サービスのあり方を役割と責任を分担しつつ議論するものである。こうした
NPS を一歩進め、国や地方自治体が住民等とネットワークを形成し、公共サービスだけでなく財政
等も含めた広範な意思決定を行うことを重視するガバナンス議論が NPG の類型である。民主的政策
決定を重視し、住民参加等官民協働のネットワークの機能によって、集団的繋がりのなかで決定等が
行われるパートナーシップの仕組みといえる。こうした仕組みを充実させていくためにも、公会計改
革の見える化が不可欠である。
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