〔平成 28 年 行政法〕模擬再現答案(作成者:資格スクエア講師 加藤喬

〔平成 28 年 行政法〕模擬再現答案(作成者:資格スクエア講師 加藤喬)
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設問 1
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1 . X1 ら の 原 告 適 格
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(1)9 条 1 項の「法律上の利益を有する者」には、当該処分
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を定める行政法規が個々人の個別的利益として保護する利
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益を、当該処分により侵害され又は必然的に侵害されるお
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それのある者も含まれ、処分の名宛人でない者については
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9 条 2 項の諸要素を考慮して判断する。
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( 2 )ま ず 、建 築 基 準 法 は 、
「良好な住居の環境を害するおそれ
が な い こ と 」 と い う 例 外 許 可 の 実 体 要 件 ( 48 条 1 項 但 書 )
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及び公開による利害関係者の意見聴取という手続要件(同
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条 14 項 本 文 ) を 通 じ て 、 第 一 種 低 層 住 居 専 用 地 域 の 良 好
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な居住環境を保護する趣旨である。
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次に、都市計画法は、上記地域の良好な居住環境を保護
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する趣旨でもある(9 条)から、建築基準法と趣旨・目的
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を共通にする「関係法令」に当たる。そして、都市計画法
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は、上記地域の良好な居住環境を特に保護するために建ぺ
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い 率 等 の 限 度 を 定 め て い る( 8 条 3 項 2 号 ロ )。こ の こ と に 、
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上記地域内の建築物に係る自動車の騒音等による被害が建
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築物と住居が近接するにつれて増大するものであることも
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勘案すれば、建築基準法は、建築確認を受けた建築物に係
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る自動車の騒音等により著しい被害を受けることが想定さ
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れる範囲に居住する者について、良好な住居環境を個々人
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の個別的利益としても保護する趣旨であるといえる。
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なお、交通事故により生命・身体の安全を害されないと
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いう利益は、例外許可の根拠規定では保護されていないか
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ら、原告適格を根拠づけるものとはならない。
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( 3 ) 本 件 自 動 車 車 庫 は 、 収 容 台 数 130 台 ・ 床 面 積 1500 ㎡ と
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比 較 的 大 型 で あ る 。し か も 、本 件 ス ー パ ー 銭 湯 は 、午 前 10
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時 か ら 午 後 12 時 ま で 年 中 無 休 で 営 業 し 、 土 日 休 日 の 1 日
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当 た り の 来 客 予 定 人 数 が 約 1 5 0 0 人・来 場 自 動 車 数 が 約 5 5 0
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台である。それゆえ、本件自動車車庫では、昼夜間断なく
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相当数の自動車が出入りすることが予想される。
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よ っ て 、 本 件 自 動 車 車 庫 か ら 直 線 距 離 で 6m し か 離 れ て
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い な い 建 物 に 居 住 し て い る X1 ら は 、 自 動 車 の 騒 音 ・ ラ イ
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トグレア・排気ガスにより著しい被害を受けることが想定
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される範囲に居住する者といえ、原告適格が認められる。
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2 . X2 ら の 原 告 適 格
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内部基準にすぎない要綱も、それが法令の合理的な解釈を
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前提として発出されているものである限り、立法者意思を探
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求する際の手掛かりになるもの参考にすることができる。
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そ し て 、要 綱 第 7 ( 1 ) ア が 敷 地 か ら 概 ね 5 0 m の 範 囲 内 の 土 地
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建物の所有者に特に配慮して公聴会の案内書の送付を要求し
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て い る こ と に 鑑 み れ ば 、本 件 敷 地 か ら 4 5 m 離 れ た 道 路 沿 い の
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建 物 に 居 住 す る X2 ら も 、 自 動 車 の 騒 音 ・ 排 気 ガ ス に よ り 著
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しい被害を受けることが想定される範囲に居住する者である
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というべきである。よって、原告適格が認められる。
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設問2
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1.手続上の瑕疵
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( 1 ) 例 外 許 可 の 手 続 要 件 で あ る 建 築 審 査 会 の 同 意 ( 48 条 14
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項 本 文 ) に 係 る 議 決 に 除 斥 事 由 ( 82 条 ) の あ る B が 加 わ
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っている。建築審議会の同意決議ひいては例外許可の内容
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の 適 正 を 担 保 す る と い う 82 条 の 趣 旨 に 鑑 み 、 同 条 違 反 の
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手続的瑕疵は、それが行政庁の例外許可の判断を左右する
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可能性がある場合に例外許可の違法事由になると解する。
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( 2 )確 か に 、出 席委 員 7 名 の う ち 5 名 の 委 員 が 賛成 して い る
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か ら 、 B を 議 事 か ら 除 斥 し て も 4/6 の 賛 成 に よ り 本 件 同 意
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が成立し得る。しかし、会議体では一人の意見が全体を動
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か し 結 果 を 支 配 し 得 る か ら 、B が 除 斥 さ れ れ ば B の 意 見 に
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影響されて賛成した者の賛否が変わり本件同意が成立せず、
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ひいて例外許可がされなかったという可能性もある。
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よ っ て 、上 記 手 続 上 の 瑕 疵 は 例 外 許 可 の 違 法 事 由 と な る 。
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2 . 裁 量 権 の 逸 脱 ・ 濫 用 ( 行 政 事 件 訴 訟 法 30 条 )
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( 1 ) ま ず 、 建 築 基 準 法 48 条 1 項 但 書 が 例 外 許 可 の 実 体 要 件
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について抽象的に定めている趣旨は、周辺住民の利害調整
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を要する例外許可について特定行政庁の専門的・政策的判
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断を尊重することにある。したがって、例外許可の実体要
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件について特定行政庁の要件裁量が認められる。
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(2)次に、本件要綱別紙の許可基準は良好な居住環境の保護
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を目的とした建築基準法の趣旨・目的に沿う合理的な裁量
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基準であるから、特定行政庁には例外許可の実体要件の判
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断において許可基準を考慮する裁量が認められる。
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本 件 自 動 車 車 庫 の 床 面 積 合 計 1500 ㎡ ・ 1 層 2 段 構 造 ゆ
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え に 許 可 基 準 1 ( 1 ) イ に 適 合 し な い 上 、1 ( 4 ) 及 び 2・ 3 に も 適
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合しないから、本件例外許可は裁量基準を逸脱している。
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(3)そして、本件要綱は外部効果を有しない内部基準たる行
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政 規 則 で あ る が 、 外 部 規 範 で あ る 平 等 原 則 ( 憲 法 14 条 )
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を媒介として国民に対する関係でも行政庁を拘束する場合
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があると解する。本件では、本件要綱を適用しないことを
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正当化する特段の事情がないから、本件確認は、平等原則
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を媒介として裁量権の逸脱濫用により違法となる。
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3.よって、本件例外許可は違法である。
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設問3
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1 . 確 か に 、 違 法 性 の 承 継 は 、 出 訴 期 間 ( 行 訴 法 14 条 ) の 不
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可争力に対する例外であるから、原則として認められない。
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しかし、最高裁は、①先行処分が、後行処分と同一目的のた
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めに一体的に行われ、②後行処分と結合して初めてその効果
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を発揮するものであり、③先行処分の段階ではこれを争おう
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とする者に十分な手続的保障が与えられていないことを理由
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に、安全認定の違法性の建築確認への承継を肯定している。
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①ないし③を満たす場合には、不可争力による法的安定の要
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請を上回るだけの処分相互の密接性及び違法主張の機会保障
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の要請があるからであると考えられる。
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2 (1) 確 か に 、 例 外 許 可 と 建 築 確 認 と は 過 去 ・ 現 在 に お い て そ
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の 判 断 機 関 が 異 な る ( 4 8 条 1 4 項 但 書 、 6 条 の 2 第 1 項 )。
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しかし、違法性の承継が法的安定と権利救済の調整問題で
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あることからすれば、③の手続的観点にも重きを置くべき
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であるから、実体的観点に基づく①について厳格に捉えて
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判断機関の同一性を必須の要素であると解すべきではない。
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そして、例外許可は、良好な居住環境の保護という本件確
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認と同一の目的に向けて、本件確認の前提行為として行わ
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れるものであるから、①が認められるというべきである。
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(2) ま た 、 例 外 許 可 は 、 建 築 確 認 申 請 手 続 に お い て 建 築 基 準
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関 係 規 定 ( 6 条 の 2 第 1 項 ) の 一 つ で あ る 48 条 1 項 本 文
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の建築制限を解除する処分であるから、建築確認と結合し
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て初めてその効果を発揮するものといえ、②も満たす。
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(3) そ し て 、 例 外 許 可 で は 申 請 者 以 外 の 者 へ の 通 知 が 制 度 上
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予定されていないが、公聴会の開催・事前公告が義務であ
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る ( 48 条 14 項 ・ 15 項 ) こ と か ら も 、 X ら は 遅 く と も 6 月
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末 日 ま で 本 件 例 外 許 可 が さ れ た こ と を 知 っ て い た 。し か し 、
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X ら は 、Y 1 市 の 担 当 職 員 か ら 例 外 許 可 の 違 法 は 建 築 確 認 の
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取消訴訟の中で主張すれば足りる旨の説明を受けており、
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代理人弁護士に委任していなかったことも踏まえると、X
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らが上記説明を鵜呑みにして本件確認まで争訟を提起しな
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か っ た こ と が 不 合 理 と は い え な い 。そ れ ゆ え 、③ も 満 た す 。
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よ っ て 、本 件 訴 訟 2 の 中 で 例 外 許 可 の 違 法 を 主 張 で き る 。
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設問4
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第一種低層住居専用地域には、例外許可がない限り、別表第
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二 (い )項 に 掲 げ る 建 築 物 以 外 の 建 築 物 を 建 築 す る こ と が で き な
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い ( 建 築 基 準 法 4 8 条 1 項 本 文 )。
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1 . ま ず 、 別 表 第 二 (い )各 号 所 定 の 建 築 物 の 公 共 性 及 び 同 項 7
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号の「公衆浴場」から風営法の個室付浴場が除外されている
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ことから、同項 7 号の「公衆浴場」とは、住民の日常生活に
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おいて保健衛生上必要な公衆浴場のみを意味すると解する。
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住 宅 の 浴 室 保 有 率 が 95.5%に ま で 達 し て い る 現 在 で は 、 保
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健衛生上は旧来の銭湯があれば十分である。そして、本件ス
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ーパー銭湯は、複数種の風呂があるほかマッサージコーナ
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ー・飲食コーナーもあり、娯楽施設の要素が大きく、公共性
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という点において旧来の銭湯と実態が大きく異なるから、日
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常 生 活 に お い て 保 健 衛 生 上 必 要 な 銭 湯 と は い え ず 、「 公 衆 浴
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場 」( 同 項 7 号 ) に 当 た ら な い 。
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2.次に、本件スーパー銭湯に備えられた飲食コーナー及び厨
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房 施 設 は 、そ の 床 面 積 の 合 計( 50 ㎡ )が 本 件 ス ー パ ー 銭 湯 の
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延 べ 床 面 積 約 1490 ㎡ の 約 3.3%に す ぎ な い か ら 、本 件 ス ー パ
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ー銭湯の一部として「公衆浴場」に含まれるとも思える。
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しかし、飲食のための飲食コーナー・厨房施設は、住宅の
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浴室非保有を補うための銭湯とその性質を大きく異にするか
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ら 、銭 湯 の 一 部 と し て「 公 衆 浴 場 」に 含 め る こ と は で き な い 。
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3 .よ っ て 、本 件 確 認 は 4 8 条 1 項 本 文 に 適 合 せ ず 違 法 で あ る 。
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