CSリード挿入難渋症例の単施設経験

Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会 37
●一般演題
CS リード挿入難渋症例の単施設経験
埼玉医科大学国際医療センター心臓内科
はじめに
心臓再同期療法
(Cardiac Resynchronized
Therapy : CRT)
は,同期不全のある薬物治療抵
抗性重症心不全に対する有効な非薬物治療法で
ある。CR T の施行には,左室ペーシングを行う
ため冠静脈(Coronar y Sinus Vein:CS)
の側枝
に CS リードを挿入する必要があるが,CR T の
主要エビデンスである MEDIT CRT のサブ解析
によると,CS 側枝である Antero – lateral vein,
Lateral vein,Postro – lateral vein いずれの静脈
池
長
浅
西
田
瀬
野
村
礼
宇
重
史・加 藤 律 史・後 藤 貢 士
彦・志貴祐一郎・田中紗彩香
奏・森 仁・岩 永 史 郎
敬・松 本 万 夫
リード挿入困難症例を,二者択一の方法として
CSOS 挿入困難による右室内 2 点ペーシング,
外 科 的 に 留 置,Mid – Cardiac – Vein(MCV)
,
–
–
Grate Cardiac Vein(GCV)
もしくは CS 主幹
部内に留置した症例,または ICD のみへ変更し
た症例と定義した。当院で施行された 171 例の
CR T 患者のうち CS リード挿入困難症例は 13 例
であった。その臨床的特徴,原因を調査した。
また,二者択一の治療法ごとにレスポンダー率
を評価した。レスポンダーは少なくとも 6 ヵ月
内でも CRT の有効性に差はなく,Apex と non –
Apex では non – Apex において有効性に有意な
後以降に施行された心エコーにおいて左室拡張
改善を認めている 1)。そのことから,理想的な
CS リード挿入位置としては Antero – lateral から
上縮小するものと定義した。
Postero – lateral の間で Apex を避けることが重
2 結 果
要である。しかしながら,さまざまな理由で理
想的な位置への CS リード挿入に難渋する症例
を経験する。当研究目的は CS リード挿入困難
症例の原因,手術時間,二者択一の方法の有効
性などを調査することである 。
末期容積
(End Systolic Volume:ESV)が 15%以
CS リード挿入困難 13 例を表 1 に示す。平均
年齢は 70.8
9.7 歳,5 例(38%)が男性であった。
3例
(23%)が虚血性心筋症
(ICM),10 例
(77%)
が非虚血性心筋症
(NICM)で あ っ た。平 均
NYHA は 3.13。平均 EF は 24.5
6.6%であった。
9例
(69%)が左脚ブロックであり,平均 QRS 幅
1 対象と方法
研究期間は約 12 年間
(2001 年 4 月から 2013 年
12 月まで:43.5
36.5 ヵ月 ; 中央値 36.6 ヵ月)
。
埼玉医科大学国際医療センターおよび埼玉医科
大学病院で 171 例の CR T が施行された。研究方
法は単施設後ろ向き研究である。理想的な CS
は 163.2
31.2 ms であった。
次に,
CSリード挿入困難の原因を表2に示す。
CS リード挿入困難の原因のうち,解剖学的理
由は 4 例
(2.3%)
,左室閾値不良が 4 例(2.3%),
デバイス抜去後が 3 例
(1.7%),頻回な CS リー
ドの脱落が 2 例(1.2%)であった。難渋症例の手
Yoshifumi Ikeda, et al.:Single center experience of difficult case with CS lead implantation
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38 Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会
表 1 CS リード挿入難渋 13 症例の特徴
症例
年齢(歳)
性別
疾患
NYHA
EF
(%)
CLBBB 有無
QRS 幅(ms)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
81
f
78
68
66
67
80
53
59
78
76
58
80
77
m
m
f
f
f
m
f
m
f
f
m
f
Myocarditis
DCM
DCM
post MVR
ICM
DCM
ICM
DCM
ICM
DCM
Sarcoidosis
post MVR
DCM
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅲ
Ⅲ
33
27
33
22
21
38
21
17
23
19
20
26
18
148
194
121
148
121
166
168
162
138
197
165
160
233
70.8 9.7
38%(m)
46%(DCM)
3.13 0.4
24.5 6.6
有
有
無
有
有
有
有
有
有
右室ペース
無
無
有
69%
(CLBBB 率)
平均など
表 2 CS リード挿入難渋の原因
CS リード挿入
難渋の原因
パーセンテージ 平均手技時間
(症例数)
(分)
解剖学的理由
2.3%(4)
373 66.3
閾値不良
2.3%(4)
283 42.8
1.7%(3)
321 90.5
1.2%(2)
7.6%(13)
237 0.7
310 84.4
207.9 63.7
デバイス抜去後の
トラブル
頻回なリード脱落
総数
通常の植え込み
術時間は 310
84.4 分と,その他の症例の 207.9
63.7 分 に 比 べ 有 意 に 延 長 し て い た
(p <
0.001)
。解剖学的理由のうち CS 開口部の閉鎖例
163.2 31.2
表 3 解剖学的理由別症例数とリード抜去後
の解剖学的問題の症例数
解剖学的理由別
症例数
CS 開口部閉鎖
Thebesian 弁
左上大静脈遺残(PLSVC)
2
1
1
リード抜去後の解剖学的問題
症例数
CS 本幹の狭窄
1
CS 側枝の消失
2
的留置をした2例ともレスポンダーであったが,
姑息的手段を選択した 7 例のレスポンダー率は
43%と非常に低かった。
が 2 例,Thebesian 弁の存在により挿入困難例
が 1 例,PLSVC 症例が 1 例であった。リード抜
去 後 の 理 由 と し て は,CS 本 幹 の 狭 窄 が 1 例,
Lateral vein の消失が 2 例であった
(表 3)
。
3 考 察
Cur tis らが CS リード留置を試みた 809 例中
51 例(6.3%)が困難であったと報告している 2)。
二者択一の方法として選択した方法を表 4 に
彼らの報告によると,16 例
(1.9%)が CSOS 挿入
示す。二者択一の方法として,2 例に開胸にて
困難,11 例(1.3%)が閾値不良,11 例(1.3%)が
外科的に心外膜リードを挿入した。姑息的に
頻回なリード脱落が原因であった。当施設では
MCV,GCV もしくは CS 本管内に留置した症例
171 例中 13 例
(7.6%)であり,CS リード挿入困
が 7 例,RV 流失路および心尖部に留置し右心室
難の割合はほぼ同等であった。前述の論文と比
内 2 点ペーシングを行った症例が 2 例であった。
較し当院の研究では抜去後 3 例が含まれている
ICD のみで終了した症例が 2 例であった。外科
ことが特徴的であった。リード抜去はわが国で
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表 4 二者択一の方法とそれぞれのレスポンダー率および生存率
二者択一の方法
外科的留置
MCV もしくは GCV もしくは CS trunk 内
右室内 2 点ぺーシング
ICD のみ
外科的留置以外
総数
症例数
レスポンダー率
生存率
2
7
2
2
11
13
100%(2/2)
43%(3/7)
0%(0/2)
NA
※ICD 2 例は除外
33%(3/9)
45%(5/11) ※ICD 2 例は除外
100%(2/2)
71%(5/7)
0%(0/2)
50%(1/2)
64%(7/11)
61%(8/13)
図 1 リード抜去後に認められた CS 本幹狭窄
も増加してきており,CS リードの抜去後の症
例は今後増加していくことが考えられる。
印象的な症例を下記に示す。症例は 57 歳,女
性。2004 年 11 月,心室頻拍に対して ICD 植え込
み施行,低左心機能であり,拡張型心筋症と考
え ら れ て い た。そ の 後 低 左 心 機 能 が 進 行 し,
2011 年 2 月,CR TD にアップグレードされた。
2012 年 12 月,サルコイドーシスと診断されス
テロイド開始。2013年1月,
デバイス感染を発症,
デバイス抜去施行。2 週間後に再挿入となった。
ガイドワイヤー法にて CSOS アプローチを試
み,ワイヤー挿入可能であったが,ガイディン
グカテーテルの挿入が困難であった。そのため
CS 造影を行うと,CS リード抜去後 CSOS 手前
図 2 血管形成術
Inter vention 用バルーンを使用し静脈形成を
試みた
(図 2)が,やはりガイディング挿入不能
であった。ICD のみの植え込みとなったが,患
者は 4 ヵ月後に死亡した。
Lead 挿入困難な場合,選択として外科的留
置が有効であるが,CR T 症例は重症心不全であ
ることが多くリスクが高い。他の選択として姑
息的に GCV/MCV 内に留置をしたり,bifocal
RV pacing などが考慮されるが,有効性は明ら
かでなく,当院のデータでもレスポンダー率は
極めて低かった。さらに難渋症例では,手技時
間も延長し合併症のリスクも高い。早期に別の
選択肢を考慮する必要があるだろう。
に高度狭窄を確認した(図 1)
。
Therapeutic Research vol. 37 no. 6 2016
40 Symposium:第 47 回埼玉不整脈ペーシング研究会
文 献
1) Singh JP, Klein HU, Huang DT, Reek S, Kuniss M,
Quesada A, et al. Left ventricular lead position and
clinical outcome in the multicenter automatic defibrillator implantation trial – cardiac resynchronization therapy(MADIT – CRT)trial. Circulation 2011;
123:1159 – 66.
2) Cur tis AB, Worley SJ, Adamson PB, Chung ES,
Niazi I, Sher fesee L, et al. for the Biventricular
versus Right Ventricular Pacing in Heart Failure
Patients with Atrioventricular Block(BLOCK HF)
Trial Investigators. Biventricular Pacing for Atrioventricular Block and Systolic Dysfunction. N Engl
J Med 2013;368:1585 – 93.
(Therapeutic Research vol. 37 no. 6 2016. p.575 – 8 に掲載)
Therapeutic Research vol. 37 no. 6 2016