質疑応答 2016年7月 薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年7月) 【医薬品一般】 Q:抗血小板薬としてのアスピリンは、なぜ低用量なのか?至適用量はどのくらいか?(薬局) A:アスピリンは、用量の多少によって血小板凝集の抑制と促進の相反する作用が現れ、アスピリ ン・ジレンマという。抗血小板薬として低用量が適している理由は以下のとおり。 ①アスピリンはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、血小板では血小板凝集促 進および血管収縮作用を有するトロンボキサンA2(TXA2 )の生成を抑制し、血小板凝集 抑制作用を発揮する。一方、血管内皮細胞では、血小板凝集抑制および血管拡張作用を有す るプロスタグランジンI2(PGI2 )の生成を抑制し、血液凝固作用を発揮する。 血小板には核がないためCOXは再合成されず、アスピリンによる血小板凝集抑制作用は不 可逆的となり、作用は血小板の寿命(7~10日)の間持続する。一方、血管内皮細胞には核 がありCOXが再合成されるため、血液凝固作用は可逆的となり、このCOXの再合成はア スピリンの投与量が少ないほど早く回復する。 ②アスピリンは血管内皮細胞のCOXよりも血小板のCOXに対して高い親和性をもつため、 低用量では血小板のCOXのみを阻害してTXA2 の生成を抑制し血小板凝集抑制作用を示 すが、高用量になると血管内皮細胞のCOXも阻害されるため、PGI2 の生成が抑制されて 血小板凝集促進作用が発現する。 (至適用量) 抗血小板薬としての至適用量は明確ではない。抗血小板療法のランダム化比較試験のメタ解 析の結果では、アスピリンの高用量群(500~1,500mg)、中等量群(160~325mg)、低用量 群(75~150mg)の間で、脳卒中や心筋梗塞、血管死などの心血管イベントの低減効果に有 意差はなかった。至適用量は75~150mg/日と推奨されている。また、ガイドラインでは、 325mg/日が上限とされているものが多い。 Q:口腔乾燥症の漢方治療は?(歯科医師) A:口腔乾燥症の病名処方が可能な漢方製剤には、白虎加人参湯、滋陰降火湯がある。その他の漢 方製剤は、合併症や随伴症状を考慮して処方される。薬剤性口腔乾燥症には、白虎加人参湯を 第一選択とする。舌に歯痕があり、唾液粘性が亢進している場合には、浮腫傾向にあると考え られることから五苓散が効果的である。舌が正常よりも赤く、血液の濃縮や脱水が考えられる 場合や舌表面が乾燥して痰がからむ咳をする場合などでは、麦門冬湯や滋陰降火湯の適応とな る。貧血傾向で、粘膜が弱く、溝状舌などの場合には、十全大補湯も効果がある。 Q:吸入ステロイド使用後、うがいがすぐにできない場合はどうしたらよいか?(薬局) A:残留ステロイドによる口腔・咽頭カンジダ等の局所的副作用防止のため、吸入後すぐにうがい を行うのが良いが、すぐにうがいができない場合、次の対策がある。 ①食前に吸入する ②飲み物等で口をゆすいで飲み込む ③唾液で口の中を洗うようにして3回ぐらいティッシュペーパ等で拭い取る Q:伝染性軟属腫(水いぼ)治療の40%硝酸銀ペースト法とは?(薬局) A:伝染性軟属腫(水いぼ)は幼少児に多くみられ、治療はピンセットでつまんで取る摘除法が基 本だが、痛みや出血の苦痛を伴う。40%硝酸銀ペースト法は苦痛を伴わない治療法である。 (40%硝酸銀ペーストの調製法) 硝酸銀粒4gに蒸留水6mLを加えて40%硝酸銀液とする(水道水で溶解すると塩化銀を生じ 白濁するので不可)。 40%硝酸銀液0.2mLに小麦粉0.05g(耳かき1杯程度)を混ぜ撹拌する(竹串で行う。金属 棒は腐食されるので不可)。瞬時に半透明ペースト状になる。 (処置法) 先を鋭く削って細くした竹串の先端に直接ペーストをつけ、水いぼの頂点に1回のみ塗付 し、完全に乾燥させる。処置後は直ちに黒色痂皮化が進み、約2週間で脱落する。 【安全性情報】 Q:タール便とは、どのような便か?(薬局) A:タール便は、黒いねっとりとした悪臭を放つ黒色便で、コールタールに似ているためタール便 という。食道、胃から上行結腸までで、50~100mL以上の大量出血が起こり、蠕動運動によっ て肛門まで送られる間に、血液中のヘモグロビンが胃液や腸内細菌の作用を受けて酸化し、塩 酸ヘマチンやヘマトポルフィリンに変化して黒褐色となる。さらに、腸内で発生する硫化水素 により硫化ヘモグロビンを生じてタール便となる。タール便は、上部消化管出血を起こす食道 炎、食道静脈瘤破裂、胃・十二指腸潰瘍、胃癌などでみられる。また、ビスホスホネート製剤、 カリウム剤、NSAIDs等の薬の副作用による消化管出血でも起こる。タンニン酸アルブミン、 ビスマス製剤、鉄剤などでは、成分が酸化または硫化して黒色便となるが、タール便と異なり 悪臭はない。 Q:タケキャブ TM は、ヘリコバクター・ピロリの除菌判定の 13C-尿素呼気試験前に中止しなくて よいか?(薬局) A:プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、抗ヘリコバクター・ピロリ活性やヘリコバクター・ピロ リウレアーゼ阻害活性を有し、 13C-尿素呼気試験の判定が偽陰性になる可能性があるため、 除菌判定はPPI投与終了後4週以降の時点で実施することが望ましい。タケキャブ TM(ボノ プラザンフマル酸塩)は、抗ヘリコバクター・ピロリ活性やヘリコバクター・ピロリウレアー ゼ阻害活性は示さないため、 13C-尿素呼気試験による除菌判定の結果には、理論上影響がな いと考えられる。しかし、実際影響がないとするデータが集積されていないため、他の PPI と同様に除菌判定前は中止する(武田薬品より)。 Q:沈降炭酸カルシウムが甲状腺機能低下症の患者に禁忌の理由は?(薬局) A:甲状腺から分泌されるホルモンの1つに、ペプチドホルモンのカルシトニンがある。カルシト ニンの作用は、①血中カルシウム低下作用を有し、カルシウム代謝を調節、②腎に直接作用し て尿中へのカルシウム排泄を促進、③破骨細胞では骨吸収を抑制し、骨カルシウム含有量を保 持である。甲状腺機能低下症の患者は、これらのカルシトニンの作用が低下するため、高カル シウム血症になりやすくなり、禁忌となっている。 Q:ケトプロフェン外用剤による光線過敏症予防には、どの日焼け止めを使用してもよいか ? (薬局) A:紫外線吸収剤として日焼け止めに含有されているオキシベンゾン、オクトクリレンは、ケトプ ロフェンと交叉感作性を有し、光線過敏症発症の報告があるので、これらの成分を含まない日 焼け止めを使用する。 【その他】 Q:甲状腺機能低下症の患者の食事療法は?(薬局) A:薬物治療で血中ホルモン値が正常範囲になれば症状は改善され、特別な栄養食事療法は必要な い。ただし、ヨードの過剰摂取によって甲状腺機能低下症が起こることがあるので、昆布やわ かめ等の海藻類、いわしやさば等の魚介類、昆布だしなど、ヨードの多い食品の過剰摂取には 注意する。
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